正しいだけでは解決しない(5)|恋愛ドクターの遺産第6話

しばらくして、ドクターが質問した。「ところで、社長さんのどんなところが好きなんですか?」
有紀は、少しもじもじするような素振りを見せながら、答えた。「ええと、答えになっているか分からないんですけど、私のことを好きでいてくれること、ですかね。」
「なるほど、有紀さんのことを好きでいてくれる・・・意地悪な質問かもしれませんが、曲がりなりにも恋愛関係になった場合、基本的に、有紀さんのことを好きでいてくれるんじゃないですかね、相手の男性は。まあ少なくとも最初のうちは。」
「ええと・・・」ここで有紀が言葉に詰まった。
「彼は、有紀さんといるとき『有紀さんのことが好きだ』という気持ちがにじみ出ていて、それが分かりやすい人なんですか?」ドクターが助け船を出した。
「あ、そう、そうなんです! 彼はちょっと子どもっぽいというか、『好き』って気持ちも素直にストレートに出してきてくれるので、一緒にいるととても安心するというか、嬉しいんです。」
「素直で一途な感じなんですね。」
「そうなんです。でも、一途じゃなかった・・・」
「そうですね、一緒にいると『一途な感じ』がするけれど、実はそうじゃない。」
「先生、そんなことってあるんですか?」声のトーンが少し高く、声も大きくなって、有紀が質問した。
「ええ、よくありますよ。」声のトーンも大きさも全く変えずに、ドクターが答えた。
「そうなんですね。」
「こういうパターンの浮気をする男性の心理を想像してみたことがあるんですが、たぶん、こんな感じなのだと思います。彼が有紀さんと一緒にいるときは、彼は確かに有紀さんのことだけを見ているんです。有紀さんが世界の全てなんです。」
「そう!そんな感じがするので、安心していたんです。」
「ところが、出張先で、現地妻さんのところに行くと、きっと彼は、その女性のことで頭がいっぱい、彼女が世界の全てになっているんだと思います。」
このコメントを聞いて、有紀はハッとした。そうなのだ。確かに彼は「キミが全て」的な発言をする。言っている雰囲気から、それが嘘だとはとても思えなかった。もし嘘発見器を取り付けたとしても、本気で言っている、という判定になるだろう(そんなことが可能ならば、だけれども)。
「普通の男性は、『キミが全て』と言いたくても、明日の仕事が、とか、今月のお小遣い足りないなぁ、とか、色々気を配ることがあるわけです。意識を『キミ』だけに集中しきれない。こういう感覚の人が、もしも、二股を掛けたとしたら、両方の女性のことが気になるはずです。」
「ああ、なるほど・・・私はそっちの感覚の方が理解できます。」
「ですよね。でも、彼の場合は、本当に、今ここ、目の前にあることが全て、という感覚なのだと思います。有紀さんと居るときは、有紀さんのことが全て、でも、別の女性のところに行くと、その瞬間は、その人のことが全て、という。」
「ある意味、純粋ですよね。」
「そうですね。ある意味、純粋で、一途で、真っ直ぐだと思います。」
「私は、彼の、そういうところに惹かれたのかも。」
「なるほどね。二人で過ごしている、その瞬間のことだけ言えば、彼みたいなキャラクターは、魅力的ですからね。」
「先生、もうひとつあるんです。」
「はい?」
「彼のどんなところが好きか、って質問されましたよね?」
「ああ、はいはい。」
「その続きですけど、彼は、恋愛関係ではこんな風に困ったことになってしまう人なんですが、仕事では本当に頼りになるし、職場でのいじめとか、お局様がのさばるとか、そういうことが起きないように、うまく全体をまとめていく力、リーダーシップって言うんですかね、それをすごく持っている人なんです。」
「なるほどね。彼の仕切っている職場にいると、ルール通りきちんとやっていれば、それなりにきちんと仕事が回っていく・・・あ、もちろん仕事なんで、難しい仕事や骨の折れる仕事はあるとしても、理不尽な問題が起こることはない、という意味ですが・・・そんな風に、安心感があるわけですね。」
「そうなんです。なんか、彼が重しになってくれて、みんなちゃんと真面目に、しっかり仕事しよう、という方向に向けるんです。」
「なるほど。いい社長さんだ。」
「そうなんです!そっちの面では、本当にいい社長なんです。」
「職場の、いいお父さん、みたいな感じですね。」

なつをはこの瞬間「あ、先生、カマかけたな」と思った。不倫をする女性は、父親からの愛情が足りなくて、それを無意識に補おうとしている。以前先生はそう語っていた。さりげなく父親と結びつけてみる気なのだ。

「あの先生・・・私、父が家で大声で暴言を吐く人で、今でも大声を出す人が苦手なんですが・・・お父さんみたい、という感覚が分からないんです。少なくとも私の父とは真逆だと思います。」
「なるほどね。理想的なお父さん、みたいだ、という意味で言ったんですけどね。」
「あっ」と小さくつぶやいて、有紀はしばらく考えていた。そして、言った。「そういう意味では、そうかもしれません。あんなお父さんがいたらいいですね。」
「自分の我を通して、場を乱す人ではなくて、むしろ、いい意味で重しになって、みんなが真面目で前向きな方に向くような、そんな存在。そして、有紀さんのことを無邪気に『好き』って思ってくれる。」
「そう、そんなお父さん、最高ですね! ・・・あ、私、彼に理想のお父さんを求めていたのかもしれません。」
「そうですね。一般的に、不倫の場合、このパターンは、よくあるのです。」
「そうなんですね! じゃあ私、ちゃんとお別れしなくちゃ、いけませんよね?」
「ええと、まあ、最終的にはそういうことになるんですが・・・」

そう、ここで先生は、私なつをが驚くような、衝撃の方針を言ったのだ。

「有紀さんは、社長さんからの愛情を、意識してもっと受け取った方がいいと思います。」

(つづく)

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