シングルを卒業(4)|恋愛ドクターの遺産第5話

しばらくたって、なつをが淹れたお茶を飲みながら、なつをとドクターの恋愛談義はまだ続いていた。
「あの、私、恋人が出来ないのが三年ぐらい続いているんですけど、どうしてなんですかね?」
「なるほど。なつを君、恋人が出来ない理由を知りたい、と。」
「えぇ。」
「解決したいということですか?」
「そりゃ、もちろん。」
「前の恋人と、何かあったんですか?」
「えぇと・・・別に・・・いや、もちろん、お互いに気持ちがすれ違うようになって別れたわけですけど、暴力を振るわれたとか、浮気をされたとか、そういうことは特になかったんですよね。」
「なつを君は、お別れした後、ちゃんと心の中で『お葬式』をしましたか?」
「はい?」
「いや、だから、彼と別れたことを、しっかり悲しむという儀式をしましたか、という意味です。」
「えっ?・・・そう言われてみると、友達からも『意外と平気そうだね』って言われてましたし、確かに、そんなに泣いたりとか、しなかった気もします。」
「その彼との別れの後、恋愛に対してアクセルを踏まなくなった、そういうことはありますか?」
「ありますね。それまでは・・・というか彼と出会う前は、と言った方が正確ですけど・・・かなり積極的に・・・えぇと、大学時代だったので、コンパとか、出会いのある場に出て行っていました。彼と別れた後は、断ることが多くなった気がします。」
「そう聞くと、お別れがちゃんと済んでいない、という要因は、あるかもしれませんよ。」
「お別れが済んでいない・・・?」
「そう、人は、別れたら心が傷つくものです。その傷を癒すためには、やはり悲しんで涙を流す、そのような儀式が必要なんです。それをせず、気持ちにフタをしたまま先に進もうとすると、傷つきそうな出来事が起こらない方へ、起こらない方へと、守りの行動ばかりしてしまうようになります。」
「・・・あたってるかも。」
「もうひとつ、気になるポイントがあります。」
「はい。」
「そもそも、その彼とは、相性が合っていたのか、という問題です。」
「えっと・・・どう答えたらいいんでしょう?」
「まあ別に、なつを君のカウンセリングをしているわけではないので、答えなくてもいいですし、どう答えてもいいですよ。」
「あぁそうでした。でも、確かに、彼は私のことをよく見ていてくれて、私の変化にすごく気づいてくれる人だったんですが、一方で自分で決めて自分で進むことが出来ない人で、最後の頃はそれが嫌になって、でも言っても変わらないしケンカっぽくなったり険悪な雰囲気になったりするので、あまり言わなくなって、でも結局何だかがまん大会みたいになって、結局別れてしまいました。」
「なるほどね・・・最初のうちは魅力に見えていた、彼の『顔色をうかがう能力』が、あとで、嫌な面としてなつを君の目に映るようになっていった、と。そういうわけですか。」
「なんか、そう聞くと、私がワガママな人間みたいですね。」
「そうですか。そもそも、そういうものじゃないですかね。人間とは。」
なつをは、先生は本当にドライだなぁ、と今日も思った。ドクターは今はカウンセラーをしているが、元々理系の大学を出たそうだ。人間が嫌いというわけでもないし、人の温かさを信じているところもある。でも、何か、ヒューマニズムというか、そういうものをあまり信じていないというか、冷めている。愛情であっても、「所詮、脳内ホルモンの働きと、快楽を司る神経細胞の興奮だろう」と割り切っているところがある。
「なんか、自分にがっかりするじゃないですか、そう言われると。」
「そうですかね? 自分のことを分かってほしい、気にかけてほしい、かまって欲しい、という欲求が自分にある、と自分で気づいていて、さらに、相手に、自分のことは自分で決める程度の自立を求めているんだなぁ、と自分で気づいていれば、それで問題ないと思いますよ。」
なつをは、ドクターの持論を突き付けられて、返す言葉が何も見つからなかった。その通りなのだ。ドクターの持論は、相手に何かを求めるのは自然なこと。それ自体は悪ではない。ただ、無自覚にやっているとトラブルが起こる、というものだった。
たとえば、先ほど話題に上がっていた、なつをの過去の恋愛の話なら、こうなる。
なつをは元々、彼にかまってもらいたい、自分のことを見ていてほしい、その想いが強かったから、それを満たしてくれる彼を選んだのだ。但し、些かバランスを欠いていて、本当は自立していることも、相手に求めていたのだが、そちらの思いは「自分でも気づかず」に、交際を始めたのだった。そして、始めに強かった方の「かまってほしい」は交際の中で満たされ、気づかなかった方の「自立していてほしい」が頭をもたげてきた、と、こういうことだ。
ドクターの持論は常にこうだ。自分自身を知ることがまず大事。そして、極端な不満など、バランスを崩す要因は気づいて恋愛前に対処して、バランスの取れた自分であろうとすること。それが出来ていない状態でパートナーを選ぶから、自分に合わない相手を「好き」と思ってしまうのだ、と。

どうやらいよいよ、今日のクライアント、みさおさんがやって来たようだ。

(つづく)

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