霞の向こうの神セッション(1)|恋愛ドクターの遺産第7話

第一幕 変化と覚悟

「要するに、覚悟の問題よねー。」香澄が言った。
今日はゆり子と、順子(よりこ)、そして香澄の三人でランチをしながら話をしている。以前に、ゆり子はついつい自分の悩みを話してしまって、結果、順子と香澄が互いの持論を闘わせる展開になってしまったことを少し後悔したのだったが、一度話してしまったことは消せない。今日は、ゆり子から結婚生活の悩みを話していないのに、いつの間にかその話題になってしまった。
実はゆり子は、離婚したあと仕事はどうするか、子供は預けるのか、など、現実問題の細々したことに頭を悩ませていた。ハローワークにも足を運び、一人娘のさくらを保育園に預けられるかどうか、役所にも聞きに行ったりと、まだ具体的な一歩は踏み出していないものの、少しずつ情報収集を始めていた。それを察したのか、香澄が「最近どうしてるの?離婚に向けて準備してるの?」という形で、話題を振ってきたのだった。
実際、色々調べて、合理的に考えれば、何とかなりそうかな、という気もしているのだが、なかなか一歩が踏み出せない。やはり、不安が先に立つのだ。率直にそんな話をしているうちに、覚悟の問題だ、という話になった、というわけだ。

「覚悟の問題かー。」ゆり子が言った。
「まあ、そういう面はあるよね。」順子も同意した。
つまり、どんな解決策を選ぶか、であるとか、相手とどんなコミュニケーションを取るか、といった側面はあるとしても、結局は、どれだけ腹をくくって、覚悟を決めて前に進むか。そこが決め手になるのではないか。そういう話だ。気の強い香澄がまずその意見を言ったが、比較的穏やかな順子も同意する形になった。
「そういうことなのかなー。私、なかなか覚悟、決められないなー。」
「まあ、自分のペースでやって行けばいいじゃない。」順子が言った。
「私は、早いほうがいいと思うけど。」香澄が言った。

そんな会話があったあと、ランチ会はお開きになった。三人ともそれぞれ、自分の生活に戻っていった。
(まあ、こうして、話を聞いてもらえる相手がいるだけありがたいとは思うけれど・・・)ゆり子はそんなことを考えていた。
家に帰ってくれば、いつものルーティーンワークが待っている。さくら(娘)の幼稚園のお迎えに、ごはんの支度、お風呂、などなど・・・そんな事をしているうちに夜になってしまった。そして、今日もまた、恋愛ドクターの遺産(レガシー)ノートを開いてみるのだった。ノートは相変わらず段ボールに無造作に突っ込んである。父親から受け継いだ状態のままだ。その無造作なノートの束の中から、ゆり子は無造作に一冊を抜き出し、開いてみた。このやり方も、父親から受け継いだ方法だ。(ランダムに一冊抜き出して読むと、そこになぜか必ず、いま必要なヒントが書いてある、と父親は言った。)
・・・
「先生、『治療前変化を問う』ってどういうことですか?」なつをが質問した。
「ああ、『治療前変化』ね。それは、カウンセリングに申し込むときに、大体、どんなテーマで相談をしたいのか、どんな状況なのか、予め提出してもらうことも、よくあるのですが、実際にカウンセリングが始まるときに、申込時点での問題を、前提にしてはいけない、ということです。」
「どうして、申込の時の問題を、前提にしてはいけないのですか?」
「もちろん、参考にはしますよ。ただ、人は、日々、変化して行くものです。」
「ああ、なるほど。」
「特に、カウンセリングというのは、もう、ここから本腰入れて、人生変えるぞ、みたいな覚悟を決めて申し込んだりすることがありますから、そうすると、申し込んだこと自体が変化のきっかけです。そのようなわけで、色々変化が起きるわけです。」
「ああ、それ、分かります。」
「それに、カウンセラーの先生に、いったいどんなことを訊かれるのだろう? などと想像して、その想像上の問いに、自分で答えてみたりして、つまり自分の中で自問自答していくわけですね、そんな事をしているうちに、悩みが色々解消していったりすることも、あるわけです。」
「そんなこと、あるんですか?」
「ええ、ありますよ。そんなに、珍しい事じゃありませんよ。」
「そうなんですね・・・」
「要するに、覚悟の問題、ということかもしれませんね。」
「覚悟の問題、ですか・・・」
「なつを君だって、以前、私のところに相談に来てくれたことがあったでしょう?」
「はい、懐かしいですね。」ちょっと照れた表情になって、なつをは言った。
「そのときに、こんなことを言っていませんでしたか? ・・・確かあれは、そうそう、私に相談を申し込んだあと、今まで迷っていた、転職に向けての行動がなぜか進むようになった、と。」
「そんなこと、ありましたね。」
「そう、相談を申し込んだことで、勇気が出て、転職のための、何でしたっけ、ヘッドハンティングだか職業紹介だかの会社に登録したり、独立開業も視野に入れて色々本を買ったり、何か行動を起こし始めた、という話でしたよね?」
「そうでした。先生のところに相談を申し込んだら急に元気が出て、色々行動して・・・」
「私のところに相談に来たときには、九割方決心が決まっていた感じでしたよね?」
「そうでしたね。おかげで、そのあとの問題解決は早かったなー。」
「ほんとびっくりしましたよ。」
私と先生は、わはは、と大声で笑った。
「なつを君、そういうのを、治療前変化、というのです。」

(つづく)

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