霞の向こうの神セッション(3)|恋愛ドクターの遺産第7話

「ママ、ママ!」娘のさくらが起きてきた。
恋愛ドクターの遺産ノートを読んでいたゆり子は、ノートを一旦閉じて、さくらの方を向いた。
「さくら、どうしたの?」
「ママ、眠れないの。」
「そっか・・・目を閉じてたら、眠れるよ。大丈夫。」
そうしたら、さくらは目に涙をためて、言った。「怖い夢みたの。」そしてゆり子にしがみついてきた。
さくらを抱きしめて、背中をトントンしながら、ゆり子は言った。「さくら、大丈夫だよ。大丈夫。ママがいるからね。大丈夫。」
「うん。」
それから、1時間ほど、不安になったさくらに添い寝をして、寝付くまで一緒にいた。ゆり子も一緒にうとうとしてしまった。でも、ノートの続きが気になって目が覚めた。さくらが寝ていることを確認してから、ゆり子はまた、ノートを開いて続きを読み始めた。

ノートを読み始めてすぐに、ゆり子は混乱した。どうも、詳細がハッキリしないのだ。世界がぼんやりしているようだ。ぼんやりしている世界の中で、明確に意識をしているものがたったひとつだけある、そんな感じだ。

いつもの、恋愛ドクターの遺産の世界とは、何かが違う。その違和感は何なのか・・・ゆり子は始め、そんな違和感を感じていた。しかしいつの間にか、いつものように、次第にこの世界に引き込まれていった。

第二幕 霞の向こうの神がかり的セッション
「・・・ですか?」
「はい。」
声がよく聞こえない。目の前にいるはずのカウンセラーの姿も、なんだか霞がかかったようにぼんやりとしていて、ハッキリ見えない。しかし、私(ユミコ)には、何が起きたのか明確に分かっていた。そう、間違えるわけがない。明確に、分かっているのだ。
誰に何を訊かれたのか。それは、恋愛ドクターが私に、コウジ(彼氏だ)のことは好きですかと訊いたのだ。もちろん、つき合っているのだから好きだ。だから「はい。」と答えた。でも、そんな単純にイエス・ノーで表せるほど簡単な気持ちでもない。だから恋愛ドクターに相談しているのだ。
時間がとてもゆっくり進んでいる感覚がある。
ずいぶん間があって、ドクターが次の質問を発した。
「ということは、好きではあるけれど、同時に、つらいということですね。」
「はい。」
ドクターは、私がまだ答えていない質問の答えを、まるですでに知っているかのように、その答えを踏まえて、次の質問を投げかけてくる。テレパシーとも言えるような、そんな状況を、私は全く不思議とも思わず、むしろ当たり前と感じていて、セッションは進んでいく。
時間の流れは、相変わらずゆっくり、いや、むしろ時間の流れという概念がない、と言った方がいいかもしれない。また、しばらく間があって、ドクターが次の質問を発した。
「もっと、頼りがいのある人とつき合えば良かった、ということですね?」ドクターはまた、まだ私が答えていないことをすでに前提として、先回りして質問してくる。
「はい。」私はまた、当然のように、受け入れ、答えている。
少し間があって、ドクターが立ち上がった。「こちらに、彼と別れた後の世界があります。見て下さい。」ドクターが自身の左腕を開いて、手のひらで示しながらそう言うと、そちらに、私が暮らしている町が現れた。町は馴染みの町だが、細かく言えば、その街区は、少し馴染みのないエリアだった。見覚えはあるが、日頃通勤路にもしていないし、商店街というわけでもない、あまり行ったことのない住宅街だった。空は青く、人影はやや少なめでまばら、といった感じだ。「どんな感じがしますか?」ドクターが訊いた。
「清々しい感じです。でも、ちょっと寂しいかもしれません。」
「今度はこちらに、彼と続けたとしたら、という選択の先の世界があります。見て下さい。」今度は右腕(私から向かって左だ)を開いて、同様に示しながら言った。今度は私が生活している現在の部屋の中の様子が見えた。いつも使っているテレビ、壁には彼と写っている写真が額に入っていて、彼にプレゼントされて以来大事にしているクマのぬいぐるみなども見える、私の「居場所」という感じの場所だ。「どんな感じがしますか?」
「慣れ親しんだ、暖かい世界です。でも、なんだか閉塞感があります。ここにいるとイライラします。」

「では、どちらを選びますか?」
「えっ?」そんなに急に迫られても選べない。私が黙っていると、先ほどより大きな声で、エコーがかかったような響きでまた質問された。
「では、どちらを選びますか?」
「え、選べっていっても、そんな、急に・・・」
「では、どちらを選びますか!」ついに大音量で聞こえてきた。
「やめて!」と叫びそうになった瞬間に、ドクターの顔がコウジ(彼氏だ)に変わっているのが見えた。
「ねえ、どっちを選ぶの?ボクを選んでくれるの?」コウジが言った。
「ちょっと待ってよ、こないだも言ったよね。あなたはいい人だけど、頼りないと感じてしまって、これからも一緒に暮らすとか、結婚とか、かなり迷ってる、って。今のままじゃ、絶対に前には進めないから。」私はキッパリ言った。ドクターの顔がコウジに変わるとか、普通じゃありえないことが起きているのに、全く驚かなかったし、むしろそうなってくれることを望んでいた、いや、準備していた気さえする。だからコウジの顔が現れた瞬間に、今まで言いたかったことがすらすらと出てきたのだ。
キッパリ言ったところで、コウジの顔は消えた。そしていつの間にか、また目の前には白衣姿のドクターが座っていた。
「結論が出たようですね。」静かな声で、ドクターが言った。
「えっ? ああ、そうですね。」そうは言ったものの、まだ踏ん切りはつかないと感じていた。

(つづく)

この物語はまぐまぐから配信の無料メールマガジン「女と男の心のヘルスー癒しの心理学」で(少し)先行して配信しています。また独自配信(無料)の「ココヘル+」では物語の裏側、心理学的側面を解説しています。合わせて御覧頂くと、より理解が深まります。登録はいずれもこちらのページから行えます。(無料メルマガですので、すでにお支払いになっている、インターネット接続料金・通信料以外の料金は一切かかりません。)

女と男の心のヘルス(ココヘル)
心のコンサルタント|恋愛セラピスト あづまやすしの
個人セッション: http://bit.ly/2b8aThM
セミナー:    http://bit.ly/nvKmNj
メールマガジン: http://bit.ly/mtvxYW
自習型教材:   http://bit.ly/lZp3b0

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。