月別アーカイブ: 2017年4月

正しいだけでは解決しない(1)|恋愛ドクターの遺産第6話

第一幕 不倫を肯定するなんてダメ!

「はぁ。私がこんな風に夫婦関係、うまく行かないのは、自分のせいでもあるのかなぁ・・・」ゆり子はうつむきながら、力なくつぶやいた。

ゆり子は悩んでいた。先日読んでいた本に「夫婦は合わせ鏡」とか「自分の周りに起きることは自分の心の反映」とか、自分原因説のような話ばかりが書いてあったのだ。以前もそのような本を読むことはあったが、夫婦仲がこじれる前は、正直どこか他人事のように読んでいた。しかし、実際に夫婦関係がこじれてきてから読むと、自分が周りから責められたり、こっそり後ろ指を指されたりしているような気がして、冷静に読めなくなってしまった。
偏った自分原因説の本全般が、現在苦手なゆり子だが、そのような本の中でも自分が原因だという話が、特に強調されている本を読んでしまったのだった。それで、ずいぶん気が滅入っている。
本を読んだせいだ、と、その本のせいにしたいところなのだが、書かれていた内容が、うすうす、自分の責任かもしれない、と感じているポイントだったので、まともにダメージを受けてしまったのだった。

そんなことを悩んでいるうちに、娘のさくらを迎えに行く時間が来てしまった。「今これを考えても仕方ない」そうつぶやいて、ゆり子は幼稚園に向かった。こんな風に夫婦関係で悩んでいるときに、子どもが問題を起こさないのは幸いだった。幼稚園でも友達とうまくやっているようだし、特に病気をするわけでもないし、ゆり子に悩む時間をくれているさくらが、心底ありがたいと思った。
とは言え、子どもを家に連れて返って来てからは、日常業務が始まる。着替えさせて、食事の支度をし、お風呂に入れて・・・とやっているうちに時間が過ぎていく。
ようやくさくらを寝かしつけて、ゆり子は今日も、恋愛ドクターの遺産ノートを開いてみることにした。
・・・

「先生、そんなアドバイスでいいんですか? 『彼の愛を意識してもっと受け取りましょう。』なんて、なんだか、問題を助長しているように感じます。」助手のなつをが恋愛ドクターAに食ってかかっている。おなじみの光景だ。

実はさきほど、ひとつのセッションが終わったのだが、その中でドクターが「彼(不倫相手)からの愛をもっと受け取りましょう。」というアドバイスをしたのが、なつをには気に入らなかったようだ。
今回のクライアントは有紀(29)。社長秘書をしているが、その社長と不倫関係にある。毎日、奥さまにバレるのではないかと不安になるが、社長は「そんなの始めから承知済みのはずだし、お互い五分五分の合意で始めた恋愛でしょう」ぐらいの認識で、もちろん冷たくされるわけではないが、積極的には取り合ってくれない。それに今度、どうやら、出張の多いこの社長、各地に現地妻的な愛人が数人いるらしいことが分かったのだった。
それで、相談に来たのだった。

ドクターと助手の議論はまだ続いている。
「なつを君、私も最終的に彼女が不倫をやめることには賛成です。そのままの関係を続けていても、きっと幸せではないでしょうから。ただ、『やめた方がいい』とか『家族のことを考えろ』といったアドバイスはすでに彼女の頭の中にもあるでしょうし、実際に友人などからも言われた、という話が、セッションの中で出ましたよね?」
「そうですけど・・・」
「つまり、この問題は、彼女自身、自分がやっていることは正しくないし、できれば自分自身でもやめたいと考えているけれど、やめられなくなってしまって、困っている、という問題なのです。そこに、すでに言われたことがあるような説教をしても、ただ彼女を追い詰めるだけになってしまって、よい効果はないのです。」
「それは分かりますけど・・・」なつをは不満そうにお茶菓子を口に入れた。

「なつを君、以前も言いましたが、我々プロカウンセラーは、友達が最初に思いつくようなアドバイスを口にしているようでは仕事にならないのです。なぜなら、そんなことは百も承知のはずだからです。それで解決しないから、相談に来ているのです。」
「それは、分かってますけど・・・」
「では折角なので、実例に即して、なつを君にも考えてもらいましょう。なつを君なら、彼女に対して、どんな解決策、どんな方針を提示しますか?」
「えっ?」

そうなのだ。カウンセラーは評論家ではいられない。その日のセッションの中で、何かひとつでも、現実が前に進むための提案をしなければならないのだった。(そういうことをしない、ただ受け身のカウンセラーもいるが、先生の価値観では、そういう仕事の仕方は「職業倫理に反する」のだ)
私は焦った。先生の質問を受けて、いざ自分がどういう方針を立てるのか考えてみると、思考停止してしまう。

(つづく)

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シングルを卒業(16)|恋愛ドクターの遺産第5話

でも、幸雄の動機はあくまで「合理的に行動すること」であって、「ゆり子という特別な存在に対して、いつも味方であること」ではないのだった。

たとえば、結婚してすぐの頃、こんなことがあった。当時はまだ、二人とも働いていて、ゆり子も事務職だったが、忙しく働く毎日だった。仕事の内容は資料作りなど得意な内容がメインで、好きだったのだが、職場の空気を乱す同僚Fがいて、どうにもその人が苦手だった。
それまではなんとか、うまく受け流しながらやってきていたのだったが、いよいよ、一緒のグループに入って仕事をすることになり、逃げられなくなってしまった。
Fを知らない人にその息苦しさを説明するのは、とても難しい。実際、Fの微妙な嫌がらせを全く意に介しない人もいる。だから、Fだけの一方的な問題というよりは、微妙な嫌がらせをするFと、それを敏感に感じ取る側との、合わせ技、相性の問題で起こるといった方が、客観的に見たら適切なのだろう。
Fの行動は、たとえば、こんな感じなのだ。ゆり子がコピー機を使いそうな気配を見せると、先回りしてコピー機を使う。Fはゆっくりコピーを取ったり、やり直したりして、待っているゆり子をイライラさせる。しかしその行動を単独で見たら、オフィスにおいて問題ありな行動とは言えない。ときどきは「ゆずってやろうか?」的なオファーがあることもあった。自分で先回りしておいてお恵みを与える、的な腹立たしい親切である。同僚も、同じような「嫌がらせ」をされていて、その場合の対応はふたつに分かれていた。心の中で「しょーもないやつだ」と思いながら「ああ、どうもありがとう。」と気持ちよく言って、実を取る現実主義の人と、ギロッとにらみつけたり、怒った声を出したりして不快感をあらわにしつつ「結構です」と断る、人間性重視の人。ゆり子はこの対応についてもどっちつかずだった。
まあそんなことが繰り返されていて、そのことを幸雄にこぼしたときのことだった。今となっては予想できる返答だったが、幸雄の答えはこうだった。基本、自分なら前者のような対応をする。わざわざ感情的なゲームを仕掛けてきているFにつき合っているほどヒマではない。しかし、実害も、業務の効率が下がるなど、わずかとは言え出ている。この行動が目に余ると思うなら、彼が嫌がらせを仕掛けている人数をざっと調べ(正確な調査はしていないが、毎日目にしている感じからすると大体7、8人だった)、ひとりあたりに仕掛けている嫌がらせの種類と頻度をざっと調べ、結果的に1人あたり平均してどのぐらい事務作業が遅滞するのかを見積もり、最後に人数を掛ければ、職場として潜在的にロスが生じている分が、金額で見積もることが出来る。時給をかけ算することを忘れずに。だいたいひとり一日多くて10分程度。平均すると5分程度邪魔されているような感じだったので、計算しやすいように時給2400円として、8人分で3200円。20日の出勤として毎月64000円の損失になっている、と、ここまでゆり子に聞き取って幸雄が見積もったのだが・・・これを上司に突き付け、それでも解決しないなら会社のコンプライアンス委員などに上申し、きちんと物事を動かす、そう動くべきだ。
まあ、幸雄らしいと言えば幸雄らしいが、そういう解決策を提示してきて、どっちつかずになっているのはおかしい、と言われた。ゆり子は「責められた」と感じた。
実は後日談で、そのFは、やはり職場の空気を乱し、業務効率を下げたという、ほぼ幸雄が主張していたような理由で、肩たたきに遭い、結局職場を去っていた。だから、幸雄の言うような行動を取った人が他に誰かいたということになるし、幸雄の言っていることは、やはりここでも、職場全体の秩序を保ち、効率よく働くという目的に照らして言えば、正しかったことになる。
しかし、しかしなのだ。この動機が、どうしても、ゆり子は受け入れられないのだった。

「私だけの味方でいてくれる、それって幻想なのかなぁ。」ゆり子はつぶやいた。

あづまやすしの心理セラピー&人間関係コンサルティング講座

こんにちは。あづまです。

今日は、
「あづまやすしの心理セラピー&人間関係コンサルティング講座」のご案内です。
(略してセラ☆コン)

どんな講座を受講するか、これって、結構悩むところかもしれないな、と思うわけですが、私の基準は結構明確で、本気で作ってそうな講座に行く。これです。

安い講座に行っても、高い講座に行っても、自分の時間という一番貴重な資源は、結局投資するわけですよ。だったら、その貴重な時間を、最も有意義な使い方したいじゃないですか。
で、高ければいい、ってものでもないので、だから、本気で作ってそうな講座に行く。まあ単純な判定基準ですね。

さて、この記事は宣伝なわけですが、私が一番力を入れて作っている講座が、
「あづまやすしの心理セラピー&人間関係コンサルティング講座」
略して「セラ☆コン」です。

パートA、BS、Cの3パートに別れていまして、

心のエネルギー補給がパートA。
・他人の心ないひと言で傷つき、どーんと気分が落ちやすい
・日頃から鬱々とすることが多く、気分が晴れない
・インナーチャイルド的なテーマを持っている気がするが、
暗いセラピーは嫌だ。明るく解決したい。
→といった方には、パートAの受講をオススメします。

潜在意識レベルの変容を目指すのがパートBS。
別名「引き寄せ改善パート」
・変な人がよく寄ってくる
・本などにある通り行動しているのに恋人が出来ない
・職場ではよく損な役回りが回ってくる
・私を感情のゴミ箱にする知人が結構多い
→といった、行動を整えているのに解決しない問題を改善したい方には、
パートA受講後、パートBSまで受講することをお勧めします。

問題について、真っ直ぐ見る力、きちんと本当の原因を見極める力を養うのがパートC
・心理学は色々学んだけれど、何がどこに当てはまるのか分かるようになりたい。
・本に書いてあることやウェブサイトに書いてあることを鵜呑みにするのではなく、
自分の頭で考えて、使えるようになりたい。
・現在、何から取り組んだらよいか分からない悩みがあるので、この機会に、
問題解決のスキルも高めたい。(あづまによるコンサルティングの実演もある
ので、デモセッションの中で、解決するかもしれません!)
・知識よりも、それを活かす「知恵」を持った人間になりたい
→といった望みをお持ちの方は、パートA受講後、パートCの受講を、
お勧めいたします。

パートBS、パートCは、パートAの修了が受講条件です。
(BSとCはどちらを先に受講しても問題ありません)

詳しい説明は、こちらのページから。

http://www.556health.com/sp/r_therapist_ws/

シングルを卒業(15)|恋愛ドクターの遺産第5話

第七幕 私にとって相性とは

ゆり子はノートを閉じた。
そもそも、順子(よりこ)のところは夫婦仲がよく、ケンカもしないがお互いの意見を聞き合うことが出来ていて、一方香澄のところは、仲の良さはちょっと微妙だが、お互いケンカしてでも意見を言い合うことが大事、ぶつかり合うことこそが夫婦の証と信じている。そんな友達とのランチのひとときに、自分の夫婦の現状をぽろっと話してしまったことから、夫婦とはどうあるべきかの議論になったのだった。あの日のランチでは、香澄と順子の意見は延々平行線のまま、あまり嬉しくない雰囲気になってしまった。ゆり子はそれに疲れて、友達に相談するのをやめて「恋愛ドクターの遺産」ノートを開くことにしたのだった。

「はぁ。」ノートを閉じた今、やはりため息が出た。自分は本当に「相性」についてきちんと考えた上で結婚相手を選んだのだろうか。いや、考えるまでもない。その答えはNOだった。幸雄とは共通の趣味もないし、あまり味覚も合うとは言えない。ではなぜ好きになったのか。思い返してみると、大学時代に仲間から攻撃されそうになっていたゆり子を、冷静で客観的な物の見方で幸雄が守ってくれたのがきっかけだった。
集団ヒステリーと呼ぶのだと後で知った。確証はないが、状況証拠とみんなの思い込みで誰かを犯人に仕立て上げてしまうような集団心理のことだ。実際、ゆり子にとってはぬれぎぬだったのだが、自分の主張を言えば言うほど焦っている感じが出てしまって、どうにもならなかった。何日も悔しくて涙を流したのだった。それを「確証もないのに彼女を犯人にして、もし違ったらお前ら責任取れるのか?」そう言ってかばってくれたのが幸雄だった。
当時、誰も味方をしてくれない中、唯一この人だけは味方でいてくれるんだ、そう感じて本当にほっとした。今こうして思い出してもまだ涙が出る。

ただ、ゆり子は幸雄について少し捉え違いをしていたところもあった。結婚生活を続けてきて徐々に分かってきたことは、そのとき幸雄は本当に文字通り「確証がない」と言ったのだろう、ということだ。結果的にはゆり子の味方をすることにはなったが、ゆり子の味方をするという動機でそうしたわけではなく、純粋に合理的に考えて「確証がない」と判断しただけだった。
その一件に関して言えば、幸雄の合理的な行動は、他のメンバーを集団ヒステリーから冷静な状態に引き戻す役割を果たしたし、結果的にゆり子の味方をした格好にもなった。幸雄の行動は、その時本当に必要な行動だったと、今でもゆり子は思っているし、今でも感謝している。ゆり子はその後数ヶ月気分が落ち込む日々が続いたのだが、不幸中の幸いと言えた。幸雄の援護がなければ、もっと傷つくことになっただろうし、もしかしたら何年も引きずることになったかもしれない。

幸雄と、同じサークルの仲間、という関係だけで終わっていれば「結果オーライ」と考えることも出来たと思う。実際、ゆり子の親友(サークルは違っていたが)は、今でもそう解釈しているようだ。しかし、行動がOKなら全てOK、とは単純に行かないのが人間関係の難しいところだと、今では、ゆり子はそう思っている。動機の違いは、その後交際、結婚へと進んだ生活の中で、ゆり子に、期待通りではない現実を突き付ける結果につながった。幸雄にとって、ゆり子の味方をすることは一番の動機ではないのだ。だから、合理的に考えてゆり子が間違っていると幸雄が考えるときには、ゆり子に対しても容赦がない。もちろん、多くの経験の中には、あのときと同じように幸雄が結果的にゆり子の味方をしてくれた出来事もあった。でも、幸雄の動機はあくまで「合理的に行動すること」であって、「ゆり子という特別な存在に対して、いつも味方であること」ではないのだった。

(つづく)

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シングルを卒業(14)下|恋愛ドクターの遺産第5話

セッションが終わったあと、なつをは課題設定したときのことを振り返っていた。今回は先生の采配も見事だったが、課題設定がスムーズに行った。これは大事なことだ。
実は、多くの人は自分の現在の状態を肯定できていないのだ。今の等身大の自分を肯定できていないから、「そのレベルであるべき」自分を基準に考える。別の言葉で言うと「自分の現状に見栄を張って」自分を見るのだ。たとえば、学校の勉強を考えればよく分かる。みんなは数学で因数分解がそれなりにできるようになった。自分はからっきしダメだ。そんなとき、因数分解の基礎の基礎から練習する本を買ってきて学ぶのは勇気がいる。みんなの平均ぐらいに合わせた本を買ってしまう。もっと悪いパターンだと、一発大逆転を狙って上級向けの本を買ってしまうことさえあるだろう。でもそれでは、かえってうまく行かないのだ。
たとえ劣等感を抱くようなレベルの自分であろうとも、たとえみんなから置いて行かれてビリの自分であろうとも、今現在の自分を肯定し、それを認めて、そこをスタート地点として、ちょっと背伸びをする課題に取り組む。これが成長のコツなのだ。多くの人は、自分に見栄を張りすぎている。思えば私なつを自身もそうだった。大学受験では第一志望は落ちている。ここのカウンセリングルームで働く際、先生から直接面接をしてもらって、その関係でその後も色々勉強のことを話す機会に恵まれた。
先生は小さい頃から勉強が出来たらしい。だからかえって、劣等感とは無縁の生き方をしていて、自分が苦手な教科は自分の出来る範囲に絞って勉強していたらしい。高校生でそこまで考えていたのは、さすがとしか言いようがないが・・・結局その結果として、苦手だった教科もそれなりに伸びたそうだ。そんな会話をしていた際、先生に言われたのは「なつを君、キミは今の自分自身ではなく、理想の自分しか見ていない。そのやり方だと返って失敗を招きますよ。」ということだった。厳しいひと言で、言われたときはショックであったが、今となっては、愛のある言葉だったと、感謝の気持ちが湧いてくる。
ここのカウンセリングルームでも、多くの「無理をしている」「背伸びどころかジャンプしても届かない課題に取り組みすぎて疲れ切っている」相談者をたくさん見てきた。そして、彼らに対して、先生は淡々と現状を客観的に見て、そして、今の現状から失敗なく踏み出せる小さな一歩を的確に提案する。他人だから客観的になれる部分もあるかもしれないが、高校生の頃の先生の勉強のエピソードを聞く限り、先生は自分を客観的に見る能力が非常に高いと思う。
無意味に自己卑下もしないし、逆に自分の能力に見栄も張らない。真っ直ぐに見ている。本当に素晴らしい客観視のお手本だ。でも、身近にいいお手本があるにもかかわらず、いつも自分のこととなると難しいなぁ。なつをはそう思った。

先生のお気に入りの質問は「スケーリングクエスチョン」と言う。つい先ほどみさおさんに対して使っていた。「どん底を0点、何もかもよくなった状態を100点としたとき、今何点ですか?」と聞くのだ。
次に、「何が『ある』からその点なのですか?」と尋ねる。そうやって加点法で考えるクセをつけてもらうという意図もありつつ・・・今日一番大事だったのは最後だ。「あと10点上がったら何がどうなっていると思いますか?」と聞くのだ。それで、小さな一歩を踏み出して、現状が少し変化したときの未来が想像できる。
人は、問題の渦中にいるとき、何もかもよくなった後の未來など現在とかけ離れすぎていて想像できないのだ。少なくとも私はそうだ。いや、中には創造力が豊かな人もいて、一度も体験したことがなく、かつ、現状の辛い状態からかけ離れているのに、幸せな未来が創造できて、いつかそれを実現させてしまうような、イメージ力の強い人もいるらしい。先生はそう言っていたが、なつをは自分も含めて、そのような人にはまだ会ったことがない。
だから、何もかもよくなった未來を想像させることを無理して一生懸命やるよりも、現状から一歩だけ進んで、ちょっとだけよくなった未来を想像してもらう方がスムーズに出来るのだ。
但し、想像したことはすぐに実現してしまう訳なので、このタイプの「近い未来」を想像するセッションを行う場合は、繰り返し繰り返し、少し進んだらまた未来をイメージし、また少し進んだら・・・とやっていくことが大事になる。カウンセラーの側も、根気強さが求められるのだ。
色々面倒ではあるし、効果も短期的に見たら地味だ。しかし、コツコツ積み上げていく結果を甘く見てはいけない。長い目で見ると、こうやって積み上げたことは、大きな違いとなってゆく。そうやって人生が大きく好転したクライアントを、なつをは何人も見てきた。きっと、みさおさんも、異性の友達を作るという課題で一歩踏み出したら、そこからまた、次の一歩を考えて、と、着実な歩みを進めていくことだろう。

「なつを君、そろそろ帰りますよ。」ドクターの呼ぶ声がした。
「あ、はーい。私も帰ります。」

今日はオフィスを最後に出るのが二人同時だった。最寄り駅まで雑談をして、そこで別々の方面の電車に乗って別れた。

(つづく)

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シングルを卒業(14)上|恋愛ドクターの遺産第5話

「ではみさおさん、みさおさんもステキだと思う男性から告白されてOKした。これを100点としましょう。彼氏ができるところからほど遠い、最も遠いところにいるのを0点としますね。いま、何点ぐらいのところにいますか?」
しばらく考えて、みさおはゆっくりと答えた。「そうですね。20点ぐらいだと思います。」
「なるほど。20点。それは、何があるから20点なのでしょうか。」
「何があるから・・・そうですね。先生のところに通って、だいぶ、世界に対する緊張感がなくなりましたし、ずいぶん楽になって、希望も出てきたことですね。でも、あんまり男友達もいないし、まだまだ先が長い、の20点です。」
「なるほど、分かりやすい説明ありがとうございます。では、その20点が、30点に上がったとします。今と何がどんな風に違っていたら、30点だと思いますか?複数回答可能です。」ドクターは最後の複数回答、のところだけ、少しおどけた調子で笑いながら言った。
「そうですね。男性の友達が出来たら、ですかね。」
「なるほど・・・」ドクターは少し考え込んだ様子になった。そしてゆっくりと質問をした。「男性の友達が出来たら、本当に30点ですか?」
「あ、いや、そうですよね。そこまで行ったら50点ぐらいかもしれません。」
「ですよね。ちょっと先走ったかな? では改めて、『30点』になったとしたら、どんな状態なのでしょうか。」ドクターは「30点」のところを強調して言った。
「ええと、親しい友達、というほどでなくても、たとえば、何かのサークルとか習い事で、男性とも一緒に食事に行ったり、連絡先を交換したり出来たら、30点ぐらいかな・・・」
「それは、今から『よしやるぞ』って思ったら、できそうなことですか?」ドクターは真顔でそう聞いた。
改めて質問されて、みさおはしばらく考え込んでいた。おそらく、実際にやれるかどうか頭の中でシミュレーションしてみているのだろう。そして、ようやく口を開いた。「いや、ちょっとハードルが高いかもしれません。」
少し暗い顔になって、みさおは言った。「すみません、先生。私、行動できないんですよね。だからダメなのかなぁ・・・」
「いま出来ることを課題として設定すれば良いんですよ。ただそれだけです。」ドクターは淡々と言った。
「いま出来ること・・・」
「たとえば、そうやって男性と知り合うチャンスがあるサークルの候補をみっつ見つけてみる、とか、今の職場で、今まで断っていた飲み会(ですよね?)に一時間だけでもいいから参加してみる、とか、最初の一歩は、本当に小さくて、簡単な課題を設定するのがコツなんですよ。」
「なるほど!あ、そういえば、先日4D(みさおが好きなロックバンドの略称だ)好きの集まりで、飲み会に誘われて、まだ返事をしていませんでした。いつもは、そういう会には参加しないですぐに帰ってしまっていました。今度参加してみようかな・・・」
「それは、やろうとしたら、できそうなことですか?」
しばらく想像してみて、みさおは笑顔になって答えた。「はい。そこなら知っている女性もいますし、男性の方も何回か顔を見ている人ばかりなので、今なら参加できそうな気がします。」
「お!いいですね。そうです。そうやって、今の自分に無理なく出来る背伸びをする。これが、物事をうまく行かせるコツなんです。」

ここで、助手のなつをが割って入った。「みさおさん、いま、うまく課題設定できましたよね。」
「はい。」
「いま、みさおさんがうまく課題設定できたのは、一旦課題を作ったあと、出来そうかどうか想像してみて、無理そうなら、少し課題を小さくして再設定する、ということをやったからです。」なつをは優しい調子でそう言った。
「ああ、なるほど。今までは、自分には無理な課題を設定して、いざやってみて、その場に行って『無理・・・』となって落ち込んで帰ってくる、みたいなことが多かった気がします。」
「課題設定がうまく出来た、今の感覚をしっかり覚えておいて下さいね!ここ、大事なところなんで!」今度は力強く、なつをは言った。

ドクターは「そうそう」とでも言いたげに、ゆっくりうなずいていた。
「では、今日はこの辺にしましょうか。いい課題も設定できたことですし。」
「はい、ありがとうございます。やってみます!」

(つづく)

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