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シングルを卒業(7)|恋愛ドクターの遺産第5話

「安全の感覚が育ってくると、『アレが好き』『これが嫌い』『アレはやりたい』『コレはやりたくない』といった、自分本来の好き嫌いの感情が自由に出るようになってきます。」ドクターは先ほど書いた「安全の感覚を・・・」の方に①と番号を振り、その下に「②好き嫌いの感情に敏感になる」と書き、矢印で①→②とつないだ。
「へええ、そうなんですか?」
「今はまだ、自分の中にある、とくに『好き』『やりたい』の気持ちの方は、なかなか感じられないのではないかと思うのですが、」
「はい、4D(ロックバンド)の音楽以外は、なかなか『好き』や『楽しい』を感じられないです。あと、人に嫌なことを言われても、その場ではよく分からず、あとになって嫌味を言われたと気づいたりして激しく腹が立つことがあります。友達からは『鈍いねアンタ』と言われたこともあります。」
「そうですね。そういう、自分の好き嫌いに敏感になっていくこと。」これが次のステップでの課題になります。
「ああ、そうなんですね。でも、そうなると私、結構他人に対して怒ってしまうと思うんです。」
「そうですね。人は、自分が安全でないと感じているときは、他人に対して怒ったりできないものですからね。結構ため込んでいるかもしれません。」
「はい。ためていると思います。」
「この、ためている怒りをしっかり吐き出して整理していくのも、好き嫌いに敏感になっていくステップでは、必須です。」そう言いながらドクターは②の下に「ネガティブな感情(怒りなど)を吐き出し、整理することも大事」と書いた。
「ゆるすとかではなく、怒りを吐き出すことが大事なのですか?」
「おそらく。」
気が重い、という表情をしているみさおに対して、ドクターは言葉を足した。
「まあ、その時が来たらきっと、怒りを出したら楽に、スッキリすると思いますよ。それに、むしろ『怒りを出したい』って思うようになっていると思いますよ。今は想像できなくても、変化のタイミングが来たときは、自分の衝動も変化するものですから。」
「そうなんですか?」
「ええ。だから、あまり先のことを考えすぎないことが大事です。今日帰ってからやってもらう課題の目的は『安全の感覚を育てていくこと』なのですよ。」
「そうでした。」

そうなのだ。ここが先生のすごいところだと思う。なつをは思った。先生は相談者に対してかなり先のこと・・・たとえば半年先とか一年以上先とか・・・まで計画を提示することがよくある。「相談者にとっては、先の計画は知りたいところでもあり、しかし本当に出来るのだろうかと不安になるところでもあるのです。」以前先生は言っていた。実際その通りだと思う。以前、少し自慢も込めてだったと思うが、「並のカウンセラーの場合、ここで、目先の行動課題だけ提示してお茶を濁すことが多いわけです。」と言っていた。ちなみに逆はないそうだ。相談者を不安にさせてでも未来の計画をバッチリ提示するというカウンセラーはお客が寄りつかなくなるから廃業につながるらしい。本当に「解決する」という信念に従えば客離れのリスクと直面し、お客さんの安心を優先すれば、目先のことだけ言うカウンセラーになってしまう。商売として成り立たせながら、大事な仕事を行っていく。もうそれだけでかなり難しいことなのだと、なつをはその時思ったのだった。
ただ、先生はそれほど難しそうな顔をしていなかった。「そのために、図で書くんです。」と楽しそうに語っていた。「いま問題で行き詰まっている人ほど、目の前の人、たとえばカウンセラーに『今言われたこと』に囚われてしまう傾向があります。つまり一年先の計画をこちらは話しているつもりでも、聞いている方は『今すぐその課題をしなくてはいけないのか。自分にはとてもできない』と暗い気持ちになってしまう、ということです。」どうすればいいんですか、と聞いたなつをに先生は「だから、図にして、いま全体の中のどこを話しているのか目で見て分かるように説明することが大事なのです」と答えた。
なつをはその時、こんなことも質問したのだった。「そもそもだいぶ先の計画を、なぜ言う必要があるのですか?」先生の答えはこうだった。「なぜって、それは、相談者を否定しないためですよ。たとえば、彼氏ができないという相談にいらっしゃったとします。こちらとしてはたとえば『運命の相手メソッド』とか、直接出会いにアプローチする方法論は持っているわけですが、話を聞いていくと、どうも今はまだ、この人は、それにチャレンジするには心が十分回復していない、と感じたとします。たとえば目先の解決策として、話を聞いてもらい、フォーカシングをして自分の心を回復させる取り組みが、今は大事、ということを提案することは、必要としても、そういうとき、なつを君なら、始めにクライアントが望んでいた『いい出会いを作るにはどうしたらいいか』という相談内容は、どうするのですか? それは今のあなたには無理だからやめたほうがいい、って言いますか? それとも、完全にその話題はタブーにして話さないことにする?」そうなのだ、クライアントが自ら求めているからこそ、それは今はやらない方がいい、このような手順でそこまでたどり着きましょう、という全体計画を言う必要があるのだった。
このようなジレンマの中、先生が試行錯誤の末、編み出したのが「図解すれば、いま不安な相談者も、意外と冷静に未来の計画を聞くことができる」という法則なのだった。これは心理学の教科書や心理カウンセリングの講座ではほぼ教えてもらえない現場の知恵だ。

なつをの気が散って、先生との過去の会話を回想している間に、セッションは進んでいた。

「そして、自分の好き嫌いに対して敏感になってきたら、もう一度今日行った『運命の相手メソッド』を実践していきましょう。」
「先は長いですね。」
「確かに、長いですね。だから、全体像は一度ざっと把握したら、あとは、目の前の課題に集中すること。これが継続するコツです。」
「・・・はい。分かりました。」

(つづく)

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シングルを卒業(6)|恋愛ドクターの遺産第5話

ここまで色々質問をしてきたドクターが、ここでハッキリと意見を述べ始めた。
「ええと、みさおさん。」
「はい。」
「少し、残念なお知らせをしなければいけません。」
「恋人、できなさそうな人、てことですよね?実際そうですから、覚悟は出来ています。」
「まあ、広く捉えれば、そういうことになりますが、もう少し細かく見てポイントをお伝えしようと思っています。」
「あ、失礼しました。お願いします。」
「ここで、『優しい人』を具体的にどんな人か言葉を足してもらったら『暴言を吐かない人』『暴力を振るわない人』『大声を出さない人』と、ネガティブな項目の否定形が並びました。」
「あ、そうですよね。」
「これを、我々は『卒業ポイント』と呼んでいます。こういうネガティブなイメージは卒業すべき、という意味を込めて、そう呼んでいます。」
「友達にも言われました。ポジティブに考えることが大事だ、って。」
「ポジティブに考える、といういわゆるポジティブシンキングは、お勧めしません。」
「え、そうなんですか?」
「ちょっと説明が難しいのですが、ポジティブシンキングというのはポジティブな方に『意識』を向ける、というような取り組みのことです。しかし、恋愛が絡むときは『表層意識』ではなく『潜在意識』がどちらを向いているかが大事になります。」
「潜在意識、ですか。」
「平たく言えば、『男性をイメージしてください』とだけ言われたときに、温かい感覚と共に男性を想像するのか、それとも何か冷たい印象や、怖い印象と共に想像してしまうのか。どちらの印象が自動的に出てきやすいのか、というような部分です。」
「あ、私はネガティブな方ですね。怖いイメージが出てきます。」
「そう、その、自動的に想像するイメージこそが『潜在意識』レベルで、みさおさんが持っている男性のイメージです。」
「先生、私のこの、ネガティブな男性イメージが、これまでずっと、恋人が出来なかった原因、ということですか?」
「ええ。その原因だけ、かどうかはまだ分かりませんが、かなり重要な要因になっていることは、間違いないと思います。」
「こうなってしまったのは、父親の影響だと思うのですが、それって治せるんでしょうか?」
「えぇ、治せますよ。」

相変わらず、問題解決力には自信がある受け答えだ。なつをはこういうときの先生の、軽く「できますよ」と言ってしまうときの口調が好きだ。重いテーマなのだが、軽く言われる事でかえって希望が湧いてくる。

「どうやって・・・」
「まあ、どうやって取り組むかは、あとでじっくり考えたいのですが、もう少し質問させてください。」
「あ、はい、すみません。」
「『尊敬できる人』を詳しく説明してもらったときに出た項目も、『人をバカにしたり見下したりしない人』という『何々でない人』になっていますが、これもお父様みたいな人は嫌だ、という感じなのですか?」
「はい。父は人のことをバカにした発言が多い人で、いつも私や母、あと、弟もいるのですが、家族のことを見下した発言が多かったです。だから、つき合うならそういう人だけは絶対に嫌だ、と思っているんです。」
「なるほどね。お父様は約束をよく破る人だったんですか?」
「はい。その場の気分だけで約束をして、結局守ってくれないことが、しょっちゅうありました。どこどこに連れて行ってくれる、と約束しては、結局なんだかんだ言って行かなかったり、買ってくれる約束をしたものも、買ってもらえなかったことの方が多かったです。そのくせ、次は本当に買ってくれるの?みたいに言うと起こるので、嘘でも喜ばなければならないのが、いつも辛かったです。」
「なるほどね。嘘が嫌なのに、自分の気持ちには嘘をつかなければならない。これは苦しいですね。」

そう言われたとき、みさおの両目からは、大粒の涙がぽろぽろっとこぼれた。

「五分ぐらい休憩を入れましょう」ドクターが提案した。「なつを君、すみませんが、お茶を淹れてくれますか?」

お茶を淹れたあと、なつをは考えていた。このまま「運命の相手メソッド」を実践していっても、ネガティブな影響を受けすぎていて、まだ十分癒されていないみさおさんは、理想のパートナーを見つける行動にまで進むのは難しいだろう。先生もきっと、そう考えているに違いないけれど、どこでそのような提案をするのだろう、そして、先生は一体、どんな解決策を提示するのだろうか。

なつをがふと先生の方を見ると、先生はただ、お茶を味わっているだけで、ぼうっとしていて何も考えていないように見えた。

・・・

「そろそろ、再開しましょうか。」ドクターが提案した。
「はい、お願いします。」

「さて、少し提案があるのですが。」
「はい。」
「先ほどまでのワークで、卒業ポイントがとても多いことが分かりました。」
「はい、私にもよく分かりました。」
「休憩前にはあまり話しませんでしたが、ほかにも『私のひとり時間を大切にしてくれる人』という項目があります。これは、ひとりの方が安全、と感じている人がよく出す項目なのです。」
「確かに、そうですね。同じ部屋に男性と一緒にいたら、いつも邪魔される、というような感覚があります。」
「そうですよね。その感覚を潜在意識が持っているうちは、恋人を作る取り組みがうまく行かないと思います。」
「・・・先生、ハッキリおっしゃいますね。」
「ええ、私は事実はハッキリ言うべきだと思っていますので。」
「その感覚を潜在意識が持っているうちは、ということは、その感覚を潜在意識が持たなくなったら・・・」
「そう、持たなくなったら・・・つまり、卒業できたら、その時は、理想のパートナーを見つける行動を起こす時だ、という意味です。」
「どうやったら、卒業できるのでしょうか。」

「そうですね。そろそろ、今必要な取り組みについて話し、決めていきましょうか。」
「はい、お願いします。」
「まず、現状の分析ですが、みさおさんは、自分がこの世界で『安全ではない』と感じていらっしゃる。」
「はい、とても不安です。」
「自分の中に、安全の感覚を育てていくことを、最優先課題として取り組みましょう。」
「はい・・・どうすればよいのでしょうか?」
「具体的な方法の前に、ちょっと取り組みの全体像を説明させてください。」
「あ、はい、お願いします。」
「まずは、安全の感覚を心の中に育てる。」ドクターはホワイトボードに板書しながら説明していく。
「はい。」
「安全の感覚が育ってくると、『アレが好き』『これが嫌い』『アレはやりたい』『コレはやりたくない』といった、自分本来の好き嫌いの感情が自由に出るようになってきます。」ドクターは先ほど書いた「安全の感覚を・・・」の方に①と番号を振り、その下に「②好き嫌いの感情に敏感になる」と書き、矢印で①→②とつないだ。
「へええ、そうなんですか?」

(つづく)

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シングルを卒業(5)|恋愛ドクターの遺産第5話

第三幕 卒業ポイント

「失礼いたします。」
「どうぞ。」

三十代半ばらしい女性が入ってきた。笑顔を作っているがどこかぎこちない印象に見える。緊張しているのかも、となつをは思った。

「おかけになって下さい。」
「はい、ありがとうございます。」
「本日は、ご相談いただき、ありがとうございます。」
「あ、いえ、こちらこそ、こんな悩みの相談で良かったのかどうか・・・」

先生は、相手が緊張しているときは、本当に形式通り、決まり切った始まり方をする。着席を勧め、相手と一緒に座る。これは「ミラーリング」というのだそうで、相手と動作を合わせることで少しでも親近感がわくように、という配慮だそうだ。そのあと、必ず丁寧に、今日来てくれたことへのお礼を言う。いつも、私に対して使う言葉遣いとは全く違う、ともすれば丁寧すぎて嫌味になるのではないかと心配になるほど、丁寧に話す。以前質問したら「とても緊張している相手には、そのぐらいで丁度いいのですよ。」と言っていた。

「えぇと」ドクターが手元の紙を見ながら話し始めた。「みさおさん、でよろしいんですね。」
「はい。」
「このセッションの中では、私は、みさおさん、って呼ばせて頂いて大丈夫ですか?」
「はい。私は、先生、Aさん、えぇと、なんとお呼びしたらよろしいのでしょう?」
「先生でも、Aさんでも、なんでもいいですよ。」
「じゃあ、先生と呼ばせていただきます。」
「はい、お願いします。」

セッションが始まった、今日のセッションは、理想のパートナーを明確にするワークから入るようだ。これは先生の十八番で、このワークをしていると、その人がどんな恋愛パターンをしているのかかなりハッキリ分かるのだそうだ。それも、ワークをしている受け答えとなどの生の様子を見なくても、ワークをした後の記録用紙をちらっと見ただけで、かなり分かるのだそうだ。先生は、以前自信満々にそう言っていた。実際・・・今日は個人セッションだが・・・このワークを中心としたワークショップを開いたとき、先生から席の遠い受講生が書いた用紙を先生がチラッと見て、こういう恋愛が多くないですか?と言い当てていたのを見たことがある。あのときは確か「立派な人だと思ってつき合ったけど、仕事が忙しくてかまってもらえなくて寂しいというパターンありませんか」って聞いていた気がする。とにかく、いきなり恋愛パターンまで当てられたその女性はかなりびっくりしていたし、その後先生の分かりやすい解説の効果もあって、その日の講座では、みんな、真剣に取り組んでいた。今日もそんな「神業」が見られるのか、ワクワクしてきた。

ドクターは白紙の紙の上の方に【私は「彼」に何を求めているのか?】と書いた。

「みさおさんは、この質問、【私は「彼」に何を求めているのか?】と聞かれたら、どんな答えが頭に浮かびますか?」

いよいよ始まった。ベストパートナーを見つける・・・「運命の相手メソッド」と先生は呼んでいるのだが・・・この技法は、かならず今の質問から始まるのだ。シンプルなのに本質を引き出す、極めて有効な質問だ。

「えぇと・・・『優しさ』かな。」
「なるほど・・・優しさ・・・と。」
ドクターは付箋紙に「優しさ」と書いて、紙に貼っている。

「それから、『尊敬できる人』ですね。」
「『尊敬できる人』と。」

こんな風に、しばらくはみさおが答え、その答えをドクターがふせんに書いて紙に貼っていく、という作業が続いた。10項目ぐらいが紙に貼られて、しだいに紙がピンク色のふせんで賑やかになってきた頃、ドクターが一旦流れを止めた。

「なるほど・・・『優しさ』『尊敬できる人』『一緒にふつうのデートができる』『私のひとり時間を大切にしてほしい』『話を聞いてくれる人』『仕事ができる人』『家族を養えるだけの収入』『お金に汚くない人』・・・あとこの『ディバインダンス・アンド・デッドリーデスのライブに一緒にいってくれる人』これは、みさおさんが好きなバンドか何かですか?」
「はい。ロックバンドです。英語でDが続くので『4D』と略して呼ばれるんですが、年に何回もライブに行っているんで、一緒に来てくれる人がいいです。」※架空のバンドです。

ドクターは少し考え込んだ風の表情になって、少し黙っていた。そして、おもむろに質問をした。
「この『優しさ』というのは、もう少し具体的に言うと、どんなことですか?」
「ええと・・・私を安心させてくれる人」です。
「なるほど。私を安心させてくれる人、ね。実はそれでは、相手の説明になっていないんですね。安心感を感じたのは私。で、その私は、どんな相手が目の前にいたら安心するのでしょうか?このワークでは、そこをしっかり言語化することが大事なのです。」
「ええと・・・安心させてくれる人は・・・ええと・・・あの、暴言を吐かない人が良いです。」
「なるほど。暴言を吐かない人。確かに、暴言を吐く人が目の前にいたら、安心できませんからね。」

なつをは、先生の表情が少し曇ったのを見逃さなかった。先生はいま、きっと「卒業ポイントが多そうだなぁ」と感じているに違いない。以前このテーマのワークショップを開催したときに、先生が解説していた。相手に求めるものをリストアップしていくのがこのワークの基本なのだが、その日のワークショップでは「暴力を振るわない人」「暴言を吐かない人」「大声を出さない人」などのネガティブな項目の否定形、「何々しない人」のオンパレードになった受講生がいた。
それに対して先生は、「このように、何々しない人、という否定形でネガティブな項目の否定形ばかり出てくる人は、無意識レベルで、この世界は危険なところで、安全がないと感じています。だから必死でそれを否定しようとして、このような項目が出てくるのです。」と明快な解説をしていた。このようなネガティブな項目のことを先生は「卒業ポイント」と呼んでいる。
なつをが思い出しているうちに、実際のセッションでも、やはり卒業ポイントの列挙が始まった。

「ほかには?」ドクターが尋ねた。
「暴力を振るう人はいやです。」
「なるほど。それはそうですよね。」
「あと、大声を出す人も苦手です。」
「なるほど。『大声を出さない人』と。」ドクターは受け答えをしっかりしながらも、ふせんに項目を手際よく書いている。
「では次に、『尊敬できる人』についても具体的にお聞きします。尊敬できる人と結婚したい、というのは、ある意味当然なのですが、みさおさんは、どんな相手なら『尊敬できる』と感じるのでしょうか?」
「ええと・・・人をバカにしたり、見下したりしない人、ですね。」
「なるほど。人をバカにしたり、見下したりしない人。ほかにも大事な要素はありますか?」
「あと、約束を守る人。」
「なるほど。約束を守る人、と。」
「あ、あと、嘘をつかない人。」
「あぁ、そうですね。嘘をつかない人。嘘つく人は嫌ですよね。」
「はい。そう思います。」

いつもながら見事だ、なつをはそう思い、感心しながら先生のセッションを見ていた。先生は大事なポイントはきちんと書き留めたり、ふせんに書いて似た項目をグループ分けして整理しながら話をきいていく。しかし、だからといって、もしもこのセッションを録音したとしたら、不自然な沈黙などの間は、ほとんどない。話を聞いて受け答えする方の脳味噌と、話の中身を整理していく方の脳味噌、両方を同時に使えるのだろう。すでに、先生が整理している紙の上は、ずいぶん分かりやすくまとまってきている。

ここまで色々質問をしてきたドクターが、ここでハッキリと意見を述べ始めた。
「ええと、みさおさん。」
「はい。」
「少し、残念なお知らせをしなければいけません。」

(つづく)

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シングルを卒業(4)|恋愛ドクターの遺産第5話

しばらくたって、なつをが淹れたお茶を飲みながら、なつをとドクターの恋愛談義はまだ続いていた。
「あの、私、恋人が出来ないのが三年ぐらい続いているんですけど、どうしてなんですかね?」
「なるほど。なつを君、恋人が出来ない理由を知りたい、と。」
「えぇ。」
「解決したいということですか?」
「そりゃ、もちろん。」
「前の恋人と、何かあったんですか?」
「えぇと・・・別に・・・いや、もちろん、お互いに気持ちがすれ違うようになって別れたわけですけど、暴力を振るわれたとか、浮気をされたとか、そういうことは特になかったんですよね。」
「なつを君は、お別れした後、ちゃんと心の中で『お葬式』をしましたか?」
「はい?」
「いや、だから、彼と別れたことを、しっかり悲しむという儀式をしましたか、という意味です。」
「えっ?・・・そう言われてみると、友達からも『意外と平気そうだね』って言われてましたし、確かに、そんなに泣いたりとか、しなかった気もします。」
「その彼との別れの後、恋愛に対してアクセルを踏まなくなった、そういうことはありますか?」
「ありますね。それまでは・・・というか彼と出会う前は、と言った方が正確ですけど・・・かなり積極的に・・・えぇと、大学時代だったので、コンパとか、出会いのある場に出て行っていました。彼と別れた後は、断ることが多くなった気がします。」
「そう聞くと、お別れがちゃんと済んでいない、という要因は、あるかもしれませんよ。」
「お別れが済んでいない・・・?」
「そう、人は、別れたら心が傷つくものです。その傷を癒すためには、やはり悲しんで涙を流す、そのような儀式が必要なんです。それをせず、気持ちにフタをしたまま先に進もうとすると、傷つきそうな出来事が起こらない方へ、起こらない方へと、守りの行動ばかりしてしまうようになります。」
「・・・あたってるかも。」
「もうひとつ、気になるポイントがあります。」
「はい。」
「そもそも、その彼とは、相性が合っていたのか、という問題です。」
「えっと・・・どう答えたらいいんでしょう?」
「まあ別に、なつを君のカウンセリングをしているわけではないので、答えなくてもいいですし、どう答えてもいいですよ。」
「あぁそうでした。でも、確かに、彼は私のことをよく見ていてくれて、私の変化にすごく気づいてくれる人だったんですが、一方で自分で決めて自分で進むことが出来ない人で、最後の頃はそれが嫌になって、でも言っても変わらないしケンカっぽくなったり険悪な雰囲気になったりするので、あまり言わなくなって、でも結局何だかがまん大会みたいになって、結局別れてしまいました。」
「なるほどね・・・最初のうちは魅力に見えていた、彼の『顔色をうかがう能力』が、あとで、嫌な面としてなつを君の目に映るようになっていった、と。そういうわけですか。」
「なんか、そう聞くと、私がワガママな人間みたいですね。」
「そうですか。そもそも、そういうものじゃないですかね。人間とは。」
なつをは、先生は本当にドライだなぁ、と今日も思った。ドクターは今はカウンセラーをしているが、元々理系の大学を出たそうだ。人間が嫌いというわけでもないし、人の温かさを信じているところもある。でも、何か、ヒューマニズムというか、そういうものをあまり信じていないというか、冷めている。愛情であっても、「所詮、脳内ホルモンの働きと、快楽を司る神経細胞の興奮だろう」と割り切っているところがある。
「なんか、自分にがっかりするじゃないですか、そう言われると。」
「そうですかね? 自分のことを分かってほしい、気にかけてほしい、かまって欲しい、という欲求が自分にある、と自分で気づいていて、さらに、相手に、自分のことは自分で決める程度の自立を求めているんだなぁ、と自分で気づいていれば、それで問題ないと思いますよ。」
なつをは、ドクターの持論を突き付けられて、返す言葉が何も見つからなかった。その通りなのだ。ドクターの持論は、相手に何かを求めるのは自然なこと。それ自体は悪ではない。ただ、無自覚にやっているとトラブルが起こる、というものだった。
たとえば、先ほど話題に上がっていた、なつをの過去の恋愛の話なら、こうなる。
なつをは元々、彼にかまってもらいたい、自分のことを見ていてほしい、その想いが強かったから、それを満たしてくれる彼を選んだのだ。但し、些かバランスを欠いていて、本当は自立していることも、相手に求めていたのだが、そちらの思いは「自分でも気づかず」に、交際を始めたのだった。そして、始めに強かった方の「かまってほしい」は交際の中で満たされ、気づかなかった方の「自立していてほしい」が頭をもたげてきた、と、こういうことだ。
ドクターの持論は常にこうだ。自分自身を知ることがまず大事。そして、極端な不満など、バランスを崩す要因は気づいて恋愛前に対処して、バランスの取れた自分であろうとすること。それが出来ていない状態でパートナーを選ぶから、自分に合わない相手を「好き」と思ってしまうのだ、と。

どうやらいよいよ、今日のクライアント、みさおさんがやって来たようだ。

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シングルを卒業(3)|恋愛ドクターの遺産第5話

「ところで、彼女の『恋人がいない期間』はどのぐらいですか?」
「えぇと、相談申込の時に頂いた情報によると、これまでの人生で一回も恋人ができたことがないそうです。」
「そうですか。これは結構骨が折れる話になるかもしれませんね。」
「えっ? そうなんですね。」
「そうです。美人問題では、三十何年も恋人が出来ない、という問題にはならないですね。せいぜい社会人になってから、ぐらいでしょうか。それでも長いかな。えぇと、みさおさん、でしたっけ・・・逆に彼女の場合、人生で一度も恋人が出来ていないわけですから、おそらくは、何らかの生育歴的なテーマではないでしょうか。」
「恋人がいない期間の長さで、分かるんですか?」
「えぇ、そうですよ。」
「どうして分かるんですか?」
「まあ、いま答えたからといって、なつを君が今すぐ判定できるようになるわけではないと思いますが、考え方として大事なので、覚えておいて下さい。私は、問題の根っこにどんなものがあるかを記憶する際に、その根っこがどのぐらい『重たい』原因なのかも覚えるようにしています。」
「重たい原因、ですか・・・」
「病気にたとえて考えると分かりやすいですね。たとえば、下痢の原因には色々なものがあります。お腹が冷えた、というものから、食中毒、そして、赤痢に感染した、というようなものまで。」
「はい。」
「なつを君が昨日、下痢をしたとします。そして今日はけろっと治ったとしますね。そういうときに『私は赤痢かしら』と考えるでしょうか。」
「いえ、それは考えないと思います。」なつをは、クスッと笑いながら答えた。
「ではなぜ、考えないのですか?」ドクターは、あくまで真面目な質問をしているのだ。
「えぇと・・・それは・・・大げさすぎると思うからです。」
「大げさすぎる・・・」
「はい。赤痢だったら、もっと症状が深刻に出るんじゃないでしょうか。」
「そう!そこなんです!」ドクターは話す声に力が入った。「いいですか、何かの原因と結果を本で読んで勉強した場合、欠けてしまいがちなのは、原因の『重さ』に関する感覚・見識です。」
「はい・・・」
「赤痢がもし原因だとしたら、かなり深刻な症状が出るはずだ、となつを君は考えたわけです。」
「そうですね。」
「しかし、自分の症状は、そこまでじゃなかった。」
「えぇ。」
「したがって、赤痢という線は、除外しても良さそうだと考えた、そういうことですね?」
「そうですね。ハッキリと意識はしていなかったですけど、そういうことになりますね。」
「その逆も言えます。もし、何日も下痢が続くようなら、お腹が冷えただけかな、とは考えないはずです。症状に対して、想定する原因が軽すぎるわけです。」
「そうですね。何かの食中毒とか・・・発症した場所が外国であれば赤痢のような感染症も考えますね。」
「そして、すぐに医者に行こうとするはずです。」
「そうですね。」
「同じ『下痢』という言葉でも、その程度・深刻度には幅があるわけです。そして、症状が深刻である場合、原因もそれに対応した強力なものがあるはず、と考える必要があります。」
「なるほど。」
「心理や恋愛に関する原因と結果も、同じように学ぶ必要があります。インナーチャイルド的な課題が原因で・・・たとえば人間不信で子供の頃から対人恐怖もある、という原因などですが・・・これは比較的『重い』方に入りますが・・・その場合、たとえば、恋人が今までの人生で一回も出来なかった、という症状と、深刻度で考えると釣り合います。一方、ここ3年、恋人が出来ない、という症状に対してインナーチャイルド課題を原因推定したとすると、今度は、症状に対して、原因が重すぎるわけです。」
「なるほど。確かにそう言われてみたら分かりました。」

・・・

しばらくたって、なつをが淹れたお茶を飲みながら、なつをとドクターの恋愛談義はまだ続いていた。
「あの、私、恋人が出来ないのが三年ぐらい続いているんですけど、どうしてなんですかね?」
「なるほど。なつを君、恋人が出来ない理由を知りたい、と。」
「えぇ。」
「解決したいということですか?」
「そりゃ、もちろん。」
「前の恋人と、何かあったんですか?」
「えぇと・・・別に・・・いや、もちろん、お互いに気持ちがすれ違うようになって別れたわけですけど、暴力を振るわれたとか、浮気をされたとか、そういうことは特になかったんですよね。」
「なつを君は、お別れした後、ちゃんと心の中で『お葬式』をしましたか?」

シングルを卒業(2)|恋愛ドクターの遺産第5話

第二幕 恋愛哲学

ゆり子は「恋愛ドクターの遺産(レガシー)」ノートを開いた。このノート、元々はゆり子の祖父の手記である。ノートは父から受け継いだのだが、今は受け継いだまま、段ボール一杯に入っている。いつも、悩んだときはそのうちの一冊を「えいやっ」と抜いて、開くのだった。このやり方も、父から受け継いだ。すると、今悩んでいることと、不思議なぐらい符合する内容が書いてあるのだった。
今回選び出したノートは、他のノートよりいくぶん厚いようだった。「まあいっか。流れに任せるのがこのノートの使い方だったっけ。」ゆり子はつぶやいて、早速ノートを読み始めた。
・・・

「先生、やっぱり頭の悪い女性は嫌いだ、ということなんですか?」なつをが恋愛ドクターに、食ってかかるような調子で質問をしている。もうありふれた日常だ。
「まあ、良い悪いは置いておいて、私は自分が色々考えたことを話して、それが通じるような相手でないと、一緒にいてもがっかりの連続になってしまう。だから、私にとっては知的な女性である、という要素は、はずせないものなんです。」
「なるほどねー、才色兼備な人が良いってことですねー。」なつをはメモを取っている。
「なつを君、そこのメモは必要なんですか?」
「もちろん、大事です。」
「べつになつを君が、私とつき合うわけではないのだから、私の好みを把握しても役に立たないと思いますが。」
「うーん。うまく言えないけど、大事なんです。」

いま、二人は、恋愛談義の真っ最中だ。といっても、議論というよりは、なつをが一方的に恋愛ドクターA(ゆり子の祖父)に、恋愛哲学・・・というよりもっと実用的なもの・・・即ち、長続きするパートナーシップの秘訣を聞いているところだ。なつをの質問責めに対して、ドクターが堂々と持論を展開する、という、おなじみの光景だ。

「先生は、奥さまのどこが気に入って結婚されたんですか?」
「・・・いきなり直球ですね。いろいろありますよ。・・・でも、一番は自己肯定感があって・・・これはつまり、本人が自分を好き、っていう感覚をしっかり持っているということですが・・・基本的にポジティブ、というところだと思いますね。そういう人は、一緒にいて安心感がありますから。」
「なるほど。」
「そこはメモを取っても良いところだと思いますよ。」
「あっ」なつをは慌ててメモを取った。「でも、自己肯定感があってポジティブだったら、誰でも良い、というわけではないと思うんですよね。外見とか、趣味が合うとか、そういう面は関係ないんですか?」
「あぁ、関係あると思いますよ。外見は、人それぞれ好みがあるから、一般化するのは難しいですが、女性は概して、外見に凝り過ぎだとは思います。最新のファッション雑誌に載っているような微妙なニュアンスの差が分かる男性はあまりいません。それこそ10年前のファッション雑誌に載っているような、ちょっと古い、というかトラディショナル、というんでしょうかね、そのぐらいの外見をした方が、男性には通じることが多いと思うんですよね。」
「先生もそうですか?」
「私は、そうですね。ファッションには割と疎い方なので。」
「外見はあまり凝らない方がいい、と。」メモを取りながらなつをはつぶやいた。
「なつを君は、もう少し凝っても大丈夫だと思います。」少しニヤッと笑ったような表情を浮かべながら、ドクターが言った。
「えっ!? あぁ確かに、私、あんまり化粧っ気ないですしね。」なつをはそう言いながら少し頬が赤くなった。そして、ドクターが何か言おうとするのを遮るように質問をかぶせた。「先生、奥さまはわりと可愛らしい雰囲気の方ですが、美人系と可愛い系では可愛い方が好みなんですか?」
やれやれ、といった表情でドクターが答えた。「それを知っても、なつを君の恋愛には役立たないと思いますが・・・どちらの顔立ちのタイプともつき合ったことはあります。基本的に、内面的には気持ちが明るく、見た目的には健康的な美しさがあることは大事かな、とは思いますが、美人系か可愛い系かと言われると・・・そんなに好みに偏りはないですよ。」今度はドクターがみさおの次の質問を封じるかのように、持論をさらに話し始めた。
「基本的に、自分が好き、自分は可愛い、って思っていたら、そのセルフイメージにふさわしくあろうとするものです。無理はせず、自然な感じで可愛らしくするし、必要に応じてお化粧やファッションを活用するはず。逆に、今の自分が嫌い、自信がない、可愛くない、というセルフイメージがあると、自分を塗りつぶして消すためのお化粧をしてしまったり、自分を隠すための服を着てしまったりすると思います。」
「あ、なるほど。分かります。」
「お化粧をするのがいい、しないのがいい、という話ではなくて、自分は可愛いから、その可愛い自分にふさわしい外見で出かけよう、と思うのか、自分は可愛くないから、素の自分を塗りつぶしたり、隠したりして、別の外見を作ろうとしているのか、その違いは大きいと思いますよ。」
「あぁ、なるほど、だから、先生の話の最初に、自己肯定感の話をされたんですね。」
「そういうことです。同じようなメイクやファッションをしていたとしても、自分はこれでいい、という前提を持っているのか、自分はそのままでは全然ダメ、という前提を持っているのかで、違いが出てくると思いますよ。まあ、若い男性などは、最初は外見に騙されますけどね。」
「騙される・・・?」
「そうですね。内面は、確かににじみ出るものですが、ただ、内面的には自己否定が強くても、美しくメイクをしていれば、それを見抜けない男性もいる、ということですね。ちょっと言葉が悪かったかな。」
「先生、私と話していると時々、相談者さんには言わない毒舌、言われますよね?」
「まあそれは、時と場合をわきまえた発言をしている、ということで。」ニヤニヤしながらドクターが言った。

会話はこのあと、少し毒のある雑談の応酬になったが、ほどなくして、なつをが口調を真面目に戻して、言った。
「先生、今日の相談者さんは、みさおさん36歳、恋人が出来ない悩みだそうです。」
「そうですか。」
「そういえば先日、美人なので恋人が出来ない、という方がいらっしゃいましたが、また同じようなお悩みなんでしょうかねぇ・・・」
「それは分かりません。恋人が出来ないという悩みの原因は、本当に千差万別なので、よくよく話を聞いてみるまでは、勝手な判断は禁物です。」
「はい、そうでした。」
「ところで、彼女の『恋人がいない期間』はどのぐらいですか?」
「えぇと、相談申込の時に頂いた情報によると、これまでの人生で一回も恋人ができたことがないそうです。」
「そうですか。これは結構骨が折れる話になるかもしれませんね。」
「えっ? そうなんですね。」

(つづく)

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シングルを卒業(1)|恋愛ドクターの遺産第5話

第一幕 相談

「そんなの昔から、『亭主元気で留守がいい』って言うじゃない。それでいいのよ。大丈夫だって。」香澄が言った。
香澄はゆり子の友達だ。よくランチをしたり、お茶をしたりする仲である。今日は喫茶店に入り、おしゃべりをしているうちに、現在の夫婦仲の悩みを、ゆり子はつい話してしまったのだった。そして、香澄の回答が、それだ。
「そうかなぁ、私はそこまで割り切れないけど。」ゆり子が応えた。
「いつまでも愛が長続きする、って、かなり無理があると思うよ。一緒に住んだら相手に幻滅することもたくさん出てくるし、それを受け入れていかないと、結婚生活は続かないと思う。結婚って結局、がまんの連続だよ。」香澄の持論は強固で、一歩も引く様子はない。
「まあね・・・」ゆり子は、この話題、出さない方が良かったかな、とちらっと思ったが、今さらそれを悔やんでも仕方ない。覆水盆に返らず。もうこの話題を出したことを取り消すことは出来ない。そして「そうかもね・・・」と、お茶を濁した。
ここでこの話題は終わりになる、そう思ってゆり子が安心しかけたとき、「私は違うと思う。」毅然と言い放ったのは順子(よりこ)だ。「私は、相手の話をちゃんと聞くことが大事だと思う。信頼関係があれば、仲良し状態は続くよ。」
この一言が、火に油を注ぐ格好になった。香澄は一段と声のトーンが高くなって、順子に質問を投げた。「順子はさぁ、だんなさんに不満とかないわけ? 相手の話を聞く、って言うけど、順子が話を聞くの?それとも、だんなさんが順子の話を聞くの?」
「えぇと、両方かな。私も話を聞くように心がけてるし、彼も話を聞いてくれるから。不満、というか、その時その時で、相手に言いたいことはあるけど、それはちゃんとお互い伝えているし、確かにお互い欠点はあると思うけど、そんなに気にならないのよね。」
「それって、単に順子が我慢してるのと同じじゃないの?」香澄はあくまで持論に固執している。
「違うと思うけど・・・我慢って言うのは、受け入れていないのを、受け入れたフリするって言うか、不満を溜めたままフタをするっていうか、そういうことでしょ?」
「え!?何? 私が不満を溜めたままフタしているって言いたいわけ?」
「だって、『我慢』しているんでしょう?」
険悪なムードが漂い始めて、ゆり子はこの話題をこの場で出したことを心底後悔した。(あぁ、こんな話になるんだったら、言うんじゃなかった・・・)
「私、そろそろさくらのお迎えだから、行かなくちゃ。」ゆり子はこの場にいるのがあまりに辛くて、本当はあと30分ぐらいは大丈夫だったのだが、そう言って席を立った。

・・・

買い物、お迎え、夕飯、などなど、日々の雑用(ルーティーン)を終えて、ひとりになった。忙しいときは忘れていられたが、全て終わって、夜一人ぼうっとしていると、つい考えてしまう。果たして自分は、夫の幸雄を本当に「受け入れて」いたのだろうか、と。それとも単に「不満を溜めているがフタをしていた」に過ぎなかったのだろうか。もちろん、関係がこじれて、今は一緒にいるのが辛いから、別居しているわけで、今は受け入れているとは言えない。でも、結婚生活を普通に続けていたときも、いや、もっとさかのぼって、交際していたときであっても、本当に彼のことを「受け入れて」いたのだろうか。それとも単に「不満を持っていたが、別れるのが怖くて、フタをしていた」だけなのだろうか。
昼間の香澄と順子の議論は、確かに居心地が悪かったが、今振り返って考えてみると、香澄の持論にも一理あると、ゆり子は思った。香澄はいつも正直で率直だ。「言ってはいけない」というタブーが嫌いで、みんなが遠慮して言わないようなことも、堂々と言う。まあ、どちらかというと、思ったことを我慢できず言ってしまう性格とも言えるのだが。
不満を溜めてしまい、どこかでそれが、修復不可能なレベルに達して、別居や離婚に至る。そうならないために、香澄は「留守がいい」つまり、距離を取ることで壊滅しないようにコントロールしているのだろう。そのやり方を「後ろ向き」と批判する資格は自分にはない、とゆり子は思った。まだ同居している香澄のところと、すでに修復不可能になりかけている自分たち夫婦を比較して、そう考えてしまう。
順子のところは、お互い、話を聞き合うことができていて、きっと、不満をため込まずにいられるのだろう。話をすることが、いいガス抜きになっていることも大事な要因だろうし、順子が「それがうまく行く秘訣」と言うのも嘘ではないと思うけれど、そもそも、二人が一緒にいるときに、いつも楽しそうに見える。元々相性が良いのかもしれないな、と思わずにはいられない。今まであまり考えたことはなかったが、こうして改めて考えてみると、相性がいい相手と結婚することのメリットは計り知れない、と思った。
「相性ってあるのかなぁ。」ゆり子はひとりつぶやいた。「相性ってなんだろう?」

(つづく)

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婚難(9)|恋愛ドクターの遺産第3話

第五幕

セッションが終わって、なつをはひとりで、セッションを振り返っていた。
(先生は、かおりさんと、あっという間に打ち解けていた。先生がかおりさんに無理して合わせたという感じはなかった。私は少し無理して合わせていたのに・・・)なつをは、そんな風に振り返っていた。

そして、以前先生が言っていた「他人のコックピットに座る」という話を思い出していた。かおりさんはきっと、先生が自分の立場に立って一緒に考えてくれているという安心感を感じていたに違いない。その大事な秘訣が、他人のコックピットに座る、ということなのだ。

以前のセッションで、こんなことがあった。
その相談者は、変わった性癖の持ち主だったので、なぜそこにそれほど執着するのか、自分の感覚を基準に考えたら、なつをにはまったく分からなかった。しかし、先生は、その相談者に寄り添い、相談者の感覚を少しずつ理解していった。

セッションが終わったあと、なつをは先生に質問した。
「そんなものに執着しても、男女関係が面倒になるだけですよね? なぜ、そんなにこだわるのでしょうか?」
「なつを君、君は、自分の感覚を基準に相談者を見ていませんか?」

「えっ?」なつをは、何を言われているのか、よく分からなかった。「先生、私は彼の立場に立って見て、そして、自分だったらどう考えるか、想像してみたのですが、それではダメだということでしょうか?」

「では少し、基本から説明しましょう。」先生はそう言って、基本から教えてくれたのだった。「まず、彼の立場に立たずに、『奥さんがいるのに、そこに興奮するからと言って、別の女性に手を出したらダメでしょう。』なんて言うようでは、これは、カウンセラーとして完全にアウト。これでは、相談者はお金を払って、自分のことを全く分かってくれない人に話をしに来てしまった、こんなところに来るんじゃなかった、と思って、もう、セッションの信頼関係はおしまいです。」
「それは分かります。」
「次の段階として、彼の立場に立ってみる、というのがあります。私も、このポジションから話をすることは、よくあります。だから、彼の立場に立ってみて『私だったら、そこに執着しても、男女関係が面倒になるだけ、と感じました。』と発言してみるのは、これは、カウンセリングとして、アリだと思います。」
「なるほど。先ほどの私の意見は、アリなんですね?」

先生は少し天井を見るように目を動かして、それからこう言った。「但し、その場合、あくまで『私は』という言葉を入れて、私の感じ方、私の価値観で言えば、ということを明確にすることが前提です。なつを君がもし、私は、という言葉を入れずに『そこに執着しても、男女関係が面倒になるだけですよね。』と言えば、それは、一般論として、という意味になります。相談者よりも偉いカウンセラーの私が、世界を代表してものを言います、というニュアンスになる危険性があるのです。」
「そうなんですか?」
「それはそうでしょう。だって、ご本人だって、どこか、その性癖を恥じていらっしゃったりして、そこに傷口に塩を塗られるように否定されたら、どう思うのか、想像すれば分かるじゃないですか。」
「あぁ、そうか。そうですね。」でも私は、まだ釈然としないものを感じていた。
それを察したのか、先生は、続けて次のことを言った。
「もしここに、繊細なA子さんと、剛胆なB男君が居たとします。ふたりは道を歩いていました。目の前に、ちょっと気持ち悪い何かの動物の死骸があったとします。それはちょうどA子さんの真ん前にありました。で、A子さんは『ぎゃっ』といって飛び退くわけです。」
「・・・はあ、なるほど。」
「それに対して、B男君が、『A子さんの立場に立って』『自分のことのように』想像してみたとします。B男君、ちょっと頑張りました。」
「はい。」
「しかし、B男君は、A子さんほど敏感でも繊細でもないので、そんなに驚かないわけです。『あ、ちょっとびっくりするよね。』ぐらいの感じでしょうか。」
「そうでしょうね。」
「では、これで、B男君は、A子さんの体験を理解したことになるでしょうか?」
「あぁ、A子さんの身に起きた『出来事』は理解したことになると思います。」
「そうですね。A子さんの身に起きた、外側の出来事は、理解しました。でも、A子さんの内側で起きた反応、ものすごくびっくりした感情の動きなどは、B男さんは体験していないことになります。」
「それは、仕方ないことなんじゃないですか?」
「もちろん、その相手に、完全になることは無理ですから、仕方ないと言えば仕方ないことです。でも、『立場に立つ』だけでは、不十分だということは、分かりますか?」
「・・・分かります。でも、では、どうやって・・・」
「それが、私が言っている『相手のコックピットに座る』想像をする、ということなのです。相手がどんなところで反応し、どんなことを喜び、どんなことに恐怖し、何を不満に思うのか。そういうことを色々聞いていくうちに、ある程度までは、相手の感情的な反応まで、想像することが可能になります。」
「そんなものですか・・・」
「たとえば、剛胆なB男君も、あるとき、自動車を運転していて『あわや大惨事』という場面に遭遇して肝を冷やした経験があった、とします。さすがのB男君も、ちょっと怖かったわけです。」
「・・・はい・・・?」
「そういう経験を思い出してみて、『あぁ、A子さんは、動物の死骸を見ただけでも、自分が事故のニアミスを経験したときぐらいの衝撃を受けるのかもしれないな。』と想像することは、できるはずです。自分より何倍も感情の振れ幅が大きいと想定すればいいわけですから。」
「あぁ!なるほど!じゃあ、私の場合、剛胆な人の『コックピットに座る』場合、自分より何分の一しか、感情が振れないと想像してみればいいわけですね?」
「そういうこと。」

そう、先生は、こんな風に、相手の内面で起きている事も含めて、できるだけ理解するように努めることが大事、ということをいつも教えてくれた。
そしてそれを「他人のコックピットに座る」と表現していた。
それをなぜか、私なつをは思い出していた。きっと、私にとって、感じ方や考え方がずいぶん違うと感じる、かおりさんのセッションを理解するに当たって、「かおりさんのコックピットに座る」想像が必要だったからだろう。ほんと、カウンセリングは脳味噌フル回転だなあ、なつをはいつもながら、そう思った。

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婚難(3)|恋愛ドクターの遺産第3話

第三幕

「失礼します。」そういってドクターが入ってきた。髪は短めにさっぱりとまとめているが、それほどおしゃれではない。白衣を着て、眼鏡を掛けている。眼鏡は縁の細いおしゃれな眼鏡だ。

「遅れてしまって申し訳ない。どうしても外せない用事がありまして。先に色々質問をしてもらってたんです。」ドクターが言った。
「いえ。なつをさんと楽しくお話しさせて頂きました。」かおりが答えた。
ドクターはなつをの方を見た。
「いえ、ふつうに質問票にある質問をしていただけです。わたしのとちりキャラが面白かったみたいで・・・」少し焦りながらなつをは言った。
「そうですか。楽しんで頂けたようでなによりです。」少しニヤニヤしながら、ドクターはかおりに向かってそう言った。

そして、急に真剣な顔になって、ドクターはなつをの記録した質問票を手に取った。「なるほど。」

「美人なのはいつからですか?」
「へっ?」
「あぁ、唐突な質問、失礼しました。でもこれは、まじめな質問です。おそらく、顔立ちからして、子供の頃から整った顔をしていらっしゃったのだと思うのですが。」
「・・・はい。わりと『綺麗だ』とか『美人だ』と言われることは多かったと思います。私自身は親しみやすい『可愛らしい』顔に生まれたかったのですが。」
ドクターは、分かる分かる、といった風に、ゆっくりと何度かうなずいた。
「なるほど。やはり子供の頃からですか。」やはり美人顔がいつからなのか、それは気になるらしい。

「先生、それ、彼女の問題と何か関係あるんですか?」
「ありますよ。おそらく。まだ聞きたいことがあるので、なつを君は少し静かにしてもらえますか?」
「すいません。」

ドクターは再びかおりの方を向くと、質問を続けた。
「えぇと、肩書きというか職業が『司法書士』さんだと言うことですが・・・」
「はい、以前からお世話になっていた経営コンサルタントの方のオフィスで、会社設立の登記などの法律業務を担当させて頂いています。」
「なるほど。ちなみに資格を取られたのはいつ頃ですか?」
「ちょうど7年前ぐらいです。」そう言ってかおりはハッとした表情になった。
「7年前は、色々ありました。彼と別れたのもその頃でしたし、資格試験で大変だったのも、その頃でした。」
「色々大変だったんですね。そして、7年前というのは、何か重要な転換点にはなっていたようですね。」
「はい、そう思います。」
「なかなか彼氏ができない理由。まずひとつは見つかりました。」
「はい。それは何でしょうか?」
「かおりさんが美人だからです。」

「えっ?」
「えっ?」
なつをとかおりが同時に声を上げた。

なぜ、美人だと彼氏ができないのだろう。不細工だと出来ない、というのなら、失礼な話ではあるが、話は分かる。なつをは思った。でも、いま、先生は明確に「美人だから」と言った。それにかおりさんは実際に美人だ。それが彼氏ができない理由とは・・・先生は時々私に理解できないことを言うが、今回もそうだ。

(つづく)

珠帆美汐さんの写真集を制作しています。

珠帆美汐さんの家に来て、写真撮影を行いました(5/9)。
キレイな庭ですね。一番いい時期だそうです。

生と性、美、傷、死までをテーマとして扱った写真集を作る予定なんです。
なんと、写真集の編集者&カメラマンを私がやるなんてね。
でも、既にいいカットが何カットも撮れているので、以外と自分、ヤルじゃん、って思ってます。

今の時点で、見せていいヤツだけそっと公開。
あー、もっとスゴイやつあるんだけどなー。でも全部ネタバレしたら面白くないですからねー。
早く見せたくてウズウズしちゃいます。

エゾエンゴサクの花です。IMG_58410001

背景にたまちゃんのおうちが見えています。IMG_58290001

美しいです♪ IMG_57630001

エゾエンゴサクがいっぱい咲いてました。 IMG_56370001

庭木・・・と言うには生えすぎ。林みたいですね(笑)IMG_57170001

ではまた!