解決志向の考え方の基本に、問題に目を向けるのではなく、「うまく行ったことに目を向ける」というものがあります。これは、世の中にはまだ浸透していないようです。
先日、読売新聞のコラム「人生案内」で子供を叩いてしまう母親からの相談が取り上げられていました。そのお母さんは、叩かないようにカレンダーに子供を叩いてしまった回数を記録しているけれどうまく行かないという話でした。
このアドバイスは、我々カウンセラーでも、つい油断するとしてしまいがちです。特に、「認知行動療法」では、自分の行動を観察することをしますから、問題行動をしてしまった回数を記録したりするんですね。すると、「私はこんなにダメな行動をしているんだ」という気分になり、ますますストレスが高じて問題行動が悪化することがあります。
私が用いているセラピーの手法、解決志向ブリーフセラピーでも行動課題といって、こういう「自分の行動を観察する」課題を出すことがあります。でも、回数なんて記録したらますます気が滅入るだけじゃないかと、私は思っていますので、私が自己観察の課題を出すときには、
「その行動をやってしまった日は×
やりそうだったけど、やらなかった日は△
やりそうにもなかった日は○
と、日記につけてください。
そして、○の日に何があったかをよく思い出して記録しましょう。
もしかすると、○の日の前の日の行動に意味があるかもしれません。」
というふうに課題を出します。
まず、回数を記録すると、子供を叩いてしまう話なら、叩くことに意識が向いてしまいます。だから、なるべく記録をつけるところは単純化します。回数なんていらない(特に、問題行動を数えるのはナンセンスだと思っています)、ダメだった日は×。記録したらあまりそのことは考えない。これでいいでしょう。
そして、○だった日に何があるのかをよく探します。ここが大事なんです。うまく行ったところに意識を向けて、うまく行ったときの自分の行動パターンをよく知ることが役立つのです。
なぜダメだったかを探って、原因を取り除いたらうまく行くはず、という考え方はある意味完璧主義的な考え方です。問題が起きたということは、悪者がいる。
でも実際には、原因を特定できない問題も多いですし、ほうっておいたらうまく行かないことも多いですから、むしろ、何をどう努力したらうまく行くのかを知ることが解決の役に立つのです。
だから、「何をしたときにうまく行ったのかを探る」ことに徹底的に意識を向けます。
自傷癖やアトピーが解決志向の行動課題(自分を観察して○×△をつける)によって大きく改善した事例があります。
問題を見るより、問題が起きなかったときのこと、うまく行ったときのことを考えることが、解決の役に立つのです。