性癖を直す(3)|恋愛ドクターの遺産第2話

そろそろ今日も、まいくんが来る時間だ。

・・・

「こんにちは、先生。」
「まいくん、こんにちは。」

お互い穏やかに挨拶をして席に着いた。

「まいくん、今日はまいくんの『フェチ』・・・つまり現在夫婦問題の中心課題になっているそれですが・・・それについてお話をしたいと考えているんですが・・・」
「はい。私もそうして頂きたいと思います。」
「ですが、その前にひとつ、確認したいことがあるんです。」
「何でも聞いてください。」
「それは、もしまいくんが、女性の鎖骨にあるほくろに興奮するのでしたら、奥さまの鎖骨にもほくろがある、ということなんでしょうか? だとしたら、なぜ奥さまのほくろには反応しなくなったのか。逆に、ほくろがない、ということでしたら、じゃあどうして、奥さまのことを好きになったのか、という疑問が湧いてくるわけです。」

なつをはちょっと赤面してしまった。いきなり生々しい会話が始まった。ほくろに興奮するかどうかの話だ。なんだか、自分の鎖骨も見られているような気がして恥ずかしくなってしまった。もちろん白衣を来ているし、その下にも色々着込んで隠れているので、実際には見られるはずがないのだが。

「実は先生、妻の鎖骨には、結婚前にはほくろがあったんです。でも、いつの間にか薄くなっていって、今ではほとんど見えません。その頃からですね。他の女性を求めたくなってしまったのは。」
「なるほど。まいくんが魅力を感じていた「ほくろ」を、奥さまは、かつては持っていた。でも、次第に消えてしまった。なかなか悩ましい展開ですね。」
「そうなんですよ。自分でも、こんな風になるなんて、想像もしていませんでした。」
「奥さまは、まいくんがほくろフェチであることをご存知なのですか?」
「はい、知っています。知っているからこそ、自分のほくろが消えてしまったことに責任感を感じてもいるようで・・・でも、ほくろなんて頑張っても濃くできるものでもありませんし、責任を感じる必要はないのですが・・・」
「そうですね。でも、現実問題、ほくろがないと、まいくんが自分に・・・この表現が適切か分かりませんが・・・『女』を感じてくれない。その事実は、重くのしかかっているわけですよね。」
「はい。お互い辛いけれど、どう解決していいのか分からないんです。」

なつをがここで割って入った。
「つけぼくろをしてもダメなんですか?」
ドクターとまいくんが同時になつをの方を見た。


「あ、いや、なんとなく思いついたものですから・・・」少し狼狽した様子で、なつをは言った。
「そうですね。それはやってみたんですよ。」まいくんが答えた。
「ただ、最初のうちは、少しはよかったんですが、次第に・・・なんと言いますか・・・ほくろと付けぼくろを見分ける目が肥えてくると言うんでしょうか・・・こんな「ほくろの目利き」みたいな能力、肥えなくて全然結構なんですけど・・・」そういいながらまいくんは苦笑した。

あ、これは、あとで先生に怒られるパターンだとなつをは思った。以前も言われたことがある。「問題を聞いて、パッと最初に思いつくような解決策は、クライアントは大抵すでに試し済みなんです。だから、そのような浅いアドバイスをするようでは、プロとして信用されないのです。」あーあ、またこのことで怒られる・・・口にチャックできないのが自分の欠点だ、となつをは思った。

「そうですか。やっぱりつけぼくろ、やってみますよね、まず。」
「はい。やってみました。」
「それで解決するなら、相談には来ないですよね?」
「はい。仰るとおりです。」

やっぱり、こんな問題解決不可能だ。なつをはそう思い始めた。でも先生を見ると、全くそんなことは思っていないようだった。

「ではようやく、今日の一番の本題に入りたいのですが。」
「はい、お願いします。」
「問題が、一見解決不可能に見えるときは、私はまず、そもそも何が起きているのか、よくよく観察することにしています。今日はそのプロセスに、少々お付き合い頂きたいんです。」
「はい、お願いします。」

「まいくんが、鎖骨のほくろに興奮するときの感覚を、できるだけ詳しく、言葉にしてみてほしいんです。」

(つづく)

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