正しいだけでは解決しない(7)|恋愛ドクターの遺産第6話

ノックの音がして、今日の相談者が入ってきた。妙子(たえこ)さん36歳。彼氏が36年間できない、ということでの相談申込だった。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
互いに挨拶をして、ドクターも妙子も着席した。

「ええと。」話し始めたのはドクターの方だ。「恋人ができない。今まで一度もつき合ったことがない、とのことでしたが。」
「はい。そうなんです。」
「恋人が出来たらいいな、という方向性でいいんですか?」ドクターが質問した。
少し間があって、妙子は、先ほどよりも小さな声で「・・・はい。」と答えた。

「・・・なるほど。」ドクターも少し間をとって、それから話し始めた。「恋人を作るには、まずは、出会いを作らないといけないわけですが、いま、適齢期の男性と、月当たり、何人ぐらい知り合うチャンスがありますか?」
「ほとんどありません。」妙子は間髪入れず答えた。
「そうですか。それは困りましたね。」
妙子は無言で、かすかにうなずいたようだった。

(先生、本当はこの人がまだ、交際相手を求める段階まで、心の準備が出来ていないことを見抜いているはず・・・)なつをは思った。この展開、以前にも経験がある。先生は、相手の受け答えを一旦は、真に受けて話をする。心の中では「いま交際相手を見つけるのは無理そうだ」と思っても、「なるほど、恋人がほしいのですね。」と応じるのだ。そこには、確固たる信念があるのだと以前言っていた。「相談者の望みに向かって最短距離の提案をまず投げかけてみて、それが出来なさそうなら、なぜ出来ないのか一緒に考えればよい。」とは先生の談。「普通に考えるとこれがベストの道だよ、出来そうですか?無理そうですか?」ということを、まず問いかけてみて、やれトラウマだ、やれインナーチャイルドの課題だ、といったことは、行動出来ないことがハッキリしてから掘り起こせばよい、と。
本人が納得して、内面を掘り下げて解決しようと決意することと、周りから言われて、納得していないが渋々取り組み始めるのでは、その後の取り組みにどれだけ本腰を入れるか、違いが出てくる、と、先生は考えているらしい。確かにそうかもしれない。

私なつをがこんなことを考えている間に、セッションは、(実はペースが遅く、大して進んでいなかったが)少しずつは、進んでいた。いまは、先生が、出会いを作るとしたらどんな手段があるのか、それを妙子さんと一緒にアイデア出ししているところだ。

「友達の紹介で出会い、その人と結婚した、という人は、比較的多いようですよ。どなたか、そういうのが得意な知り合いの方は、いらっしゃいませんか?」
「ええと。分かりません。」妙子は悪びれる様子もなく、かといって、真剣に考えている様子もなく、淡々と、感情のこもっていない声でそう答えた。
「そうですか。分からない。なるほど。」ドクターは、相変わらず、いつもの調子で受け答えをしている。「何か、いまからやってみたいと思う習い事や趣味などはありますか? あ、いますでにやっていることも、もしありましたら、教えて下さい。」
「新しくやってみたいことは、あまりないです。」

私なつをは、ちょっとこのやりとりを聞いていて、段々イライラしてきた。だいたい、恋人が出来ない、という相談をしに来ているのに、全然真剣さが感じられない。やる気あるの!ほんと、真剣に考えないなら、帰ればいいじゃない!自分の人生でしょ? でもこれは、先生のセッションだ。私は助手。勝手に引っかき回してはいけない。でももしこれが、私がメインの担当だったら、説教しているかもしれない、そう思った。

「あと、ときどき、○○のライブには行きます。」○○はアイドルグループの名前だ。
「へぇ、それは、いわゆる・・・」
「そうです。いわゆるアイドルの追っかけをやっています。友達にも、いい歳してそんなことしてるから、いつまでも結婚できない、って言われました。」
「なるほどね。まあそれは、原因ではないですけどね、おそらく。」
「そうなんですか?」
「まあ、結婚して、だんなさんのこととか、子どものこととか、リアルな人間関係、家族のことなどで毎日心を砕いて生活している女性から見たら、心のエネルギーの使い方がズレているように見えるのでしょう。ただ、そのことと、追っかけをやめたら結婚できる、みたいな結論にジャンプすることは、イコールではないので、注意が必要ですね。」

「先生、私はどうしたらいいのでしょうか。」
「どうしたら、いいんでしょうね。」相変わらず、淡々とした調子で、ドクターは受け答えをしている。「そもそも、どこに向かいたいのかが、分からないと、どうしたらいいのかも、分からないですよね? 大阪に行きたい、と分かっていれば、新幹線なのか夜行バスなのか東海道線なのか、マイカーなのか、手段について考えられます。でも、どこに行きたいのかが分からないなら、手段も分からないです。」

「はぁ。」相変わらず、気のない返事だ。
「さて、そろそろ、最初から気になっていたことを質問しますね。実は、私の目には、妙子さんは結婚したくないんじゃないか、そんな風に見えるんですよ。あるいは、結婚に向かおうとすると、とても重たい気持ちや嫌な気持ちを感じて、強烈なブレーキがかかる、みたいな感じかな。そんな印象を受けているんですよね。」

(つづく)

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