踊るセラピー(9)|恋愛ドクターの遺産第4話

「やっぱり、ここから先は、自分で考えないといけないんだろうなぁ・・・」ゆり子はつぶやいた。

・・・

それから数週間、ゆり子は苦しんでいた。何に苦しんでいたかというと、自分の感覚を幸雄に理解できるように表現する方法について、である。
そもそも、ゆり子は、多くの人がそうであるように、自分の感覚を言葉にすることをそれほど努力してきていない。だから結局、相手に対する命令みたいになってしまうのだ。
たとえば、ある日、ふたりで食事をする約束があったとする。デートという言葉を使いたくないのは、長いこと、二人の食事が楽しくなかったからだ・・・出会った当初を除いては。それで、約束の時間に、幸雄が仕事で来られないことになった。まあこのぐらいなら、社会人として時々あることだし、がっかりはするが、この程度でいちいち腹を立てたりするゆり子ではない。ところでゆり子は先のことを色々考えて、気を回して、という行動を、女性の平均ぐらいには、する方だ。当然、そのレストランのことも調べてみるし、店の雰囲気に合った服装のことも考えておくし、どんな会話をするのか想像もするし、そして、料理の内容が事前に分かるなら、料理の話題についても、下調べをすることがある。
そして、これは実際にあった話なのだが、幸雄が突然、レストランを代えると言ってきたのだった。少し遅れてしまうので、コース料理が慌ただしく出てきてしまう、ということで、時間に余裕が取れる別のお店に代えると、当日に、言ってきたのだった。幸雄の言うには、「より良い店にしたんだから、問題ないじゃないか。」ということなのだが。肩すかしを食ったゆり子の気持ちは、何とか伝えようとしたのだが、結局話は平行線で、全く伝わらなかった。
その時にゆり子が言ったのは、「急に代えないでよ。」「せっかくそのお店にしたのに。」といった言葉。幸雄は「おまえ別にキャンセル料払ったわけでもないし、意味が分からない。」「遠回しに俺が遅れたことを責めてるのか?」という反応。
たとえばそんなとき、合理的に考えている幸雄と、気持ちの準備をして臨んでいて、その気持ちが肩すかしを食って、もっと高いレストランになるとしても、残念だったり、ため息が出るような気持ちを感じているゆり子の、感覚の違いを伝える言葉は、あるのだろうか。
ゆり子が悩んでいるのは、そういうことだ。本当に難問だ。本当に答えはあるのだろうか。

ここ数日、同じこと、つまり自分の感覚は幸雄さんには感覚が違いすぎて伝わらないのではないか、ということで悩んでいたゆり子は、ふとあることに気づいた。
(私の気持ちを、分かってもらえるかどうか、ということばかりで、悩んでいたなぁ。では私は、幸雄さんの気持ちをちゃんと分かっているのだろうか・・・)そう、あのレストランの一件で、確かにゆり子ががっかりする対応をした幸雄に、一般的な意味で言えば問題はあるだろう。女性の気持ちを分からな過ぎなのだ。でも、ゆり子なこんなことも考えていた。私の方から見て「意味分からない」「なんでそういうことするの?」とは、確かに感じたが、では、一体なぜ、お店を代えることがいいと思ったのだろう。私とは違うどんな感覚で、その選択肢が一番いいと思ったのだろう。逆にゆり子には、その幸雄の感覚が、まったく分からなかった。

(私も、幸雄さんのこと、ちゃんと分かってないんだなぁ・・・)ゆり子はそんなことを漠然と考えていた。

(第4話 終)

(つづく)

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