呪い(1)|恋愛ドクターの遺産第9話

第一幕 のろいってなぁに?

今日は幼稚園がお休みで、娘のさくらと二人で家に居る。さくらはおとなしい子で、そういう意味では手がかからなくて助かっている。ときどき色々ママにアピールしてきたり、質問してきたりするが、ひとり遊びも上手に出来る。
「ママ、のろいってなぁに?」突然さくらに訊かれた。
「え?のろい? 何がのろいの?」
「えーとねー。カイ君のおうちで、女の人ののろいで、ママがおふとんの中で動けなくなっちゃったんだって。」
どうやら、さくらは、幼稚園のお友達・・・カイ君はゆり子と仲の良い香澄の家の子だ・・・が話していた「呪い」のことを一生懸命伝えようとしていたらしい。しかもお布団の中で動けなくなったというのは、金縛りのことのようだ。つまり、翻訳すると、香澄が呪いのために金縛りに遭った、という話なのだろうか。香澄はあまり呪いなどを信じるタイプではないようだったが、そういう信念とは関係なく金縛りになることもあるらしいので・・・ちょっと心配になった。

「ねーねー、のろいってなぁに?」さくらは気になって仕方ないらしい。さて、どう答えたものか・・・
「あのね、昔の人は、誰かをものすごく嫌ったり、死んでほしい、って思ったりすると、その相手が病気になったり、本当に死んじゃったりする、って信じてたんだよ。」
「えー、そうなの?」
「ママは信じてないけどね。」
「でも、カイ君が、ママがのろいで、おふとんの中で動けなくなった、って言ってた。」
「うーん、(香澄がねぇ・・・)どうなんだろう・・・今度会ったときに聞いてみるね。」
「うん・・・あのさ、さくらものろいでおふとんから動けなくなる?」さくらが心配そうに訊いた。
「大丈夫。大丈夫よ。さくらは皆と仲良しだもの。さくらのことを呪うお友達はいないよ。だから、大丈夫。それに、もし、おふとんの中で動けなくなったら、ママが治してあげる。」
「ほんとに?」さくらの目が急にキラキラしてきた。子供は分かりやすい。
「うん。ほんとだよ。だから、さくらは大丈夫。いつも通りご飯をちゃんと食べて、よく寝て。」
「トイレと歯磨きもね!」
そう、呪いとは何の関係もないが、すでにさくらの頭の中ではきちんと生活することが大事、という話になっているようだ。
「そうそう、トイレと歯磨きもしっかりして。」
「うん、分かった。」

 

その数日後、また例の面々でランチをすることになった。
香澄、順子、ゆり子の三人だ。最近この三人に合流することの多い結菜は、今日は来ていない。話題は当然、香澄が金縛りに遭ったかどうか、という話になった。
「いや、カイの奴が変なこと広めたもんだから、皆から『金縛りに遭ったの?』って訊かれて大変よ、もう。」香澄は苦笑しながら言った。
「え!?じゃあ、アレはデマなの?」私はつい声が大きくなってしまった。
「いやいや、デマじゃなくてね、実際に金縛りに遭ったのは、私の姉なの。彼女、ちょっと霊的なことを信じていて・・・まあちょっと面倒くさいんだけど・・・実際彼女に呪いをかけた知人がいたらしいのね。」
「呪いなんて本当にあるの?」順子が冷静に訊いた。
「いや、本当かどうかは、私もよく分からないよ。でもね、とにかく呪いをかけるほど恨みか何かを持っているらしいのね。姉にそういう知人がいるのは事実。そして、その人は呪いとか金縛りとか信じている人。姉もそうなんだけど。」
「なるほど・・・話がなんとなく見えてきた・・・」と順子。
「そう、つまりね、姉を恨んでいる知人が、たぶん、呪いの儀式か何かを実際に行って、それをしたよ、ということを、わざわざ姉に伝えてきたわけ。髪の毛だとか、儀式に使った鳥の羽だとか、気持ち悪いものが送られてきたらしいし。」
「えー、やだーそういう人ー。」順子と私は同時に声を上げてしまった。
「そのことがあってしばらくして、姉が金縛りに遭った、というわけ。」
「ああなあるほど。まあそれだけ精神的なストレスを受ければね・・・」私はついうっかり口を滑らせてストレス説を言ってしまった。
その瞬間、香澄の表情が曇った。「いや、まあ、そうなんだけど。私もそうだろうって姉に言ったんだけど、彼女、かなり激怒して『呪いをかけられたことがないからそんなこと言えるんだ!』って。もう面倒くさいから、うちでは呪い、ってことにしてるんだ。」
「ああなるほど。そういうことか。それでカイ君が・・・」そう言いかけたところに、香澄がかぶせてきた。
「そうなのよ。大人同士の話を聞きかじって、色々誤解して、それを幼稚園で話して回った、というのが、事の顛末なわけ。」
「あーなるほどねー。少し安心した。私、香澄が金縛りに遭ったのかと思って・・・呪いと関係なく、そうなることもあるらしいし・・・少し心配してたんだ・・・」
「ゆり子、ありがとね。心配してくれて。でも、私じゃないから。」ちょっと苦笑い気味の表情で、香澄がそう言った。

 

ランチは、そんな感じの会話で、ほどなくして解散になり、ゆり子は帰宅した。幼稚園が終わるまでにはまだ少し時間がある。
(まさか、今ノートを抜き出したら、ドクターが呪いに立ち向かう巻が出てくるなんて都合のいいことはないよね・・・)

そう思いながら、ゆり子は段ボールに無造作に突っ込んであるノートの中から、一冊を抜き出して開いてみた。そして思わず小さく「あっ」と声を上げてしまった。なぜなら、そこには確かに「呪い」の文字が書かれていたからである。

(つづく)

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