呪い(14)|恋愛ドクターの遺産第9話

「ええと・・・呪いが原因とのことですから、あくまで対症療法になりますが、頭が痛くなったとき、頭痛薬をお飲みになったことはありますか?」
模擬セッションが再びスタートした。
「はい。呪いに襲われた後、どうしても辛くて頭痛薬を飲んだことはあります。なんとなく頭がぼうっとする感じがして、少しは痛みが軽くなる気がしたのですが、治ったとは言えないような感じでした。量を増やしたりするのも怖かったので、何度か飲んでみた後、やめて、それ以後は呪いを解く方法を探したり、そういうことをしてくれる先生を探したりしていました。」
「もうひとつ教えてほしいのですが。」さきほど地雷を踏んだからか、慎重な調子でなつをが質問した。
「はい。」
「おばさまの家に行ったとき、呪いの症状が強く出たり、あまり出なかったり、などの違いはありましたか?」
「はい。伯母の家に居るときからあの渦巻きに襲われることもあれば、そういうことはなくて、全て終わって家のベッドに横になったときに呪いがやってくることもありました。」
なつをは焦った。うまく質問できない。本当は、何が原因でその違いが生まれるのですか、と訊きたいのだ。だが、それが分からないから相談に来ているのであって、分からないことを訊いても何にもならない。
と、ここでてっちゃんが助け船を出した。「おばさまの家に行く日に、こういうことがあると、呪いの症状が強く出る、あるいは、こういうことがあると症状が弱い、など、呪いに影響しそうな要因で、何か気づいたことはありますか?」
そう、そう言いたかったのだ。なつをは思った。すらすらと言葉が出て来ない自分がもどかしい。
「あの・・・役に立つか分かりませんが、伯母の機嫌が悪いときの方が、あとで呪いの症状が強く出るように思います。ただ、不機嫌な伯母に会っても、帰宅後小さい渦が見えて、軽い頭痛だけだったこともありましたし、ハッキリとは分かりません。」
「呪いが強く出るときは、お母様に頼まれたお使いの内容が大変、とか、そういうことはありますか? あとそれと、お使いに行くときの気分と、呪いが出てくるときの気分を教えて下さい。」ナタリーが質問した。ナタリーはロジカルと言うより感覚派だ。
「ええと・・・母にお使いを頼まれたときの気分は、なんか、重い感じ。胸の辺りがずーんと重たい感じです。重いときの方が呪いの症状は強く出るような気もしますが、大抵いつも重いので、正直よく分かりません。呪いが出てくるときには、この重い感じは、なくなってる気がします。あ、でも、伯母の家に近づいて、呪いの前兆みたいなのを感じるときには、あります。この胸の重い感じは。」

こんな風にして、しばらく湯水ちゃん扮するのりこ役に対して、三人のセラピストが次々質問をする展開になった。ある程度質問が出尽くしたところで、ドクターが次の指示を出した。

「では、そうですね。そろそろ原因を考えるのに十分な情報が出たと思いますので、ここで三人で相談して、何が原因だと思うか、それをまとめて下さい。」

クライアント役をするのは神経を使う。あまりに意地悪をして真実を隠してしまうと模擬セッションが迷走してしまうし、逆に答えをばーっとぶちまけてしまうほどのバカ正直さでは、学びにならない。不注意から余計なことを言ってしまっても、ケーススタディーを台無しにしてしまう危険性があるし、かと言ってあまりに神経質になると、その緊張が前面に出てしまって、セラピストがクライアントの感情を読み取る部分に、かなりの悪影響が出る。
お役目が終わって、ほっとした表情の湯水ちゃん。一息ついているドクター。
そして、これから難題に取り組もうとしている、重苦しい空気のセラピスト担当の三人、と明らかに明暗が分かれた。

「私ね、やっぱり頭痛だと思うの。」ナタリーが言った。「私もストレスで頭痛が出ることがあるし、彼女相当のストレス下におかれているでしょう?頭痛ぐらい出ると思うのよね。」
「でも、頭痛薬はあまり効かなかったみたいですけど。」なつをが言った。
「そうなんだよね・・・僕も始めは偏頭痛とか、そういう生理的なものかな、と思ったけど。ストレスから頭痛が出てもおかしくはないと思うから。でも頭痛薬、効かなかったんだよね。」と、てっちゃん。
「でも、あの『呪いの症状』と言っていた、紫色の渦は、何なんでしょうかね?幻覚が見えたとか?幻覚なら、統合失調症があるとか、何か説明が必要ですよね?」なつをの表情は固い。
「統合失調症で、頭痛持ち、か。大変よね、彼女。」ナタリーはどんなときも脱力系の話し方だ。
「ちょっと待って、そう決めつけてはいけないんじゃないの?」てっちゃんが諫めた。

迷走気味の議論を見て、ドクターが割って入った。「ええと、ある症状が発生している場合、あるいは複数の症状が同時期に発生している場合、その根本原因は、まずは一個と考える、というのが問題解決の基本です。」

(つづく)

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