なつをの夏の物語(23)|恋愛ドクターの遺産第10話

ノートにはまだ続きがあって、まだ丁寧な字でびっしりと何かが書かれている。ここまで心に響く内容だったので、ゆり子はこのノートを最後まで読むことにした。

・・・

「先生、実際にやってみて、できました!」なつをが嬉しそうに報告した。
今日はカウンセリングではないが、なつをは先生に、特別に会う機会をもらって、報告している。場所もドクターのいつものオフィスではなくて、落ち着いたカフェだ。湯水ちゃんもいる。ただ、仕事ではないのでとてもリラックスした表情だ。
「そう、それは良かった。1回目からできたのですか?」ドクターは、仕事ではないときも、論理的だ。
「いえ・・・1回目はダメでした。なんか、恥ずかしくなってしまって。」なつをはそう言いながら恥ずかしそうにしている。
「そう・・・じゃあ、何回目までチャレンジしてみたんですか?」ドクターは、ニコニコしながら聞いている。そもそも、できた、という報告なのだから、何回目であってもいいのだ。最終的には「できた」という報告になることが、もう分かっているのだから。
「3回目です。」なつをが、まだ少し恥ずかしそうに答えている。
「そう、じゃあ、3回目まで頑張ったんですね。」
「・・・そうですね。」
実はドクターとなつをは、前回のセッションの最後に出された行動課題をやってみた結果について話しているのだ。その時に設定した行動課題は、「彼の手を握ろうとする」というものだった。既にお互いに、人間的にはある程度信頼し合っているところまで関係ができていて、ただ、二人とも遠慮がちで、そこから「恋愛」という意味での進展がない。そういう状況であったので、ドクターが提案したのが「機を見て彼の手を握る」というものだったのだ。
但し、「手を握る」という課題だと、不成功に終わる可能性がそれなりにある。タイミングが悪い、踏ん切りがつかない、などなど、様々な要因によって。そうすると、何度か試みる際に「ああダメだった」という失敗体験を繰り返してしまうことになる。人は失敗体験を繰り返し、ネガティブな感情が積もった出来事を無意識に避けるようになる。手を握ろうとする→できなかった→少し重い気持ちで手を握ろうとする→できなかった→もう少し重い気持ちで、頑張って手を握ろうとする→できなかった→そろそろ、挑戦するのが嫌になったり怖くなったりする→やめてしまう、まあこんな風にマイナス感情は徐々に人の行動力を奪っていくものだ。そこで、ドクターが提案していたのは「手を握る」ではなく「手を握ろうとする」という行動課題だ。心理学をよく知らない人にとっては、どっちでも同じように感じるかも知れない。しかし、ドクターによればこの両社は「大きく違う」のだ。
頭の中で起きている事まで含めて、先ほどの感情の降り積もりを表現すると、こんな感じだ。手を握ろうと考える→この時点で課題成功→ただ、やっぱり実際に握って恋愛を進展させたいので行動を起こそうとする→(たとえば)恥ずかしくてできなかった→前回課題は成功しているので、次も軽い気持ちで手を握ろうと考える→この時点で課題成功→実際に握ってみようとする→タイミングが合わなくてできなかった・・・以下繰り返しになるが、ネガティブな感情の蓄積が少ないので、心が折れにくく、継続して取り組みやすいのだ。
「本当に、たったの3回で手を握れたんですか?」今度は、ドクターは、オフィスにいるときと口調が違った。なんだか、興味本位に訊いているような雰囲気だ。「ひょっとして、デートの3回目、とかそういう感じ?」
「えと・・・あ、はい。そうですね。」なつをは修正した。
「ああなるほどね・・・でも、1回のデートの中で、何回かタイミングを図ったりしたでしょ?」
なつをは「はっ」とした表情になり、しばらく目線を上の方に泳がせていたが、やがて答えた。「えと、あの、あ、はい。そうですね。あのあと、初めてのデートの時には、そういえば4、5回、手を握ろうと頑張ってみました。1回もできなかったんですけど。」
「まあ、課題は『握ってみようとする』でしたから、あのあと最初のデートから4、5回も課題に成功した、てことになるわけですね。」ドクターはニコニコしながらコメントした。
「はい。そうなんです!」なつをはここで一段と声が大きくなった。「これが『手を握る』という課題だったら、初回で4、5回失敗して、次の回に、彼とデートに出かけること自体が、怖くなっていたかも知れません。でも、課題は成功したんだ、と思うと、彼に会いたかったこともあって、次回会う約束を自然にしていました。」
「いいですね。大事なポイントをよく理解されています。4、5回の小さな成功体験を積み重ねたか、4、5回の小さな失敗体験を積み重ねたかは、そのあと、自発的に行動できるかどうか、ということに対して、バカにできないほどの差を生み出します。なつをさんは、このことを実体験から学んだわけですね。」ドクターは、今日は仕事ではないのだが、説明となると、オンの時も、オフの時も調子が変わらない。

(つづく)

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なつをの夏の物語(22)|恋愛ドクターの遺産第10話

あのときゆり子が感じた息苦しさは、いま、ドクターの、上質な質問を体験したあとだからよく分かる。幸雄の質問はなぜ苦しかったのか。それは、答えてよい答えの幅が狭いのだ。「幸雄が気に入る答え」という、きわめて狭い選択肢の中から、ゆり子が自分の答えを見つけなければならないのだ。当然、ゆり子にとって適切な選択肢がない場合も多い。だから、とても答えにくく、答える場合にもひどく神経を使う。
ふとゆり子は思った。自分も、つい感情的になったときは相手に選択肢を与えないような質問をしているかもしれない、あるいは、そこまでじゃなくても、答えてよい選択肢がきわめて狭い質問をしているかもしれない、と。おじいちゃんの、あの、相手に全幅の信頼を置き、相手が本当はどんな想いを持っているのか、純粋で誠実な関心を寄せる、あのような素晴らしく上質な質問は、多分できていないだろうと思った。
さらに一方、幸雄についてもこう思った。分かっていてやっているのか、無自覚にやっているのかは知らないけれど、とにかく質問を使って相手を自分に都合の良い方向に操作しようとしている。そのような意図、方向を持った質問を繰り出してくることがこれまで多かった、と。仕事をする上ではそのようなコミュニケーションの傾向は、トラブルを生む原因ともなるが、一方、成果を挙げたり、さまざまな意向を持っている人をひとつの方向に束ねていくときにはプラスに働くことも、きっと多いだろう。ただ、夫婦関係がこじれかけたときには、あんな質問しかできないのでは、あとは破たんへの道を歩むしかない。

「質問する、って、自分の『あり方』がすべからく反映されてしまうものなのだなぁ・・・」ゆり子はつぶやいた。
この日はもう夜も遅くなっていたので、ノートの続きを読むことも、ノートから学んだことについて考えることもおしまいにして、ゆり子は眠りに就いた。

・・・

翌日、ゆり子はまた、ひとりの時間に、「恋愛ドクターの遺産」ノートの昨日開いた部分を読み返していた。
そして、ひとり考えていた。「やっぱり、恋愛ドクターに質問されたいなぁ。おじいちゃん、まだ生きていてくれていたらよかったのに。あと、なつをさんにも会えたらいいのに・・・」
そして、父親に電話をした。「お父さん。あのね、あのノート、とても役に立ってるよ。でも、ノートを読むだけではなくて、実際におじいちゃんのカウンセリングを受けてみたくなったの。でももう亡くなってるし・・・あの・・・もし、なつをさんがまだお仕事をなさっているなら、一度お会いしたいなぁ。」
「ああ、なつをさんね。数年前まで現役でカウンセラーをされていたと聞いていますよ。でも最近引退されたようです。ただ、なつをさんの専門分野は恋愛や夫婦関係ではなかったように記憶していたけどなぁ・・・」父親は答えた。結構よく知っているようで、続いてこう言った。「なつをさんが主催しているカウンセリングオフィスは今も継続していて、あとを継いだカウンセラーたちが、今も相談を受けているはずだから・・・ちょっと連絡を取ってみるよ。」
「お父さん、ありがとう。」

その後、ゆり子は父親に、ドクター(つまり祖父)の質問がとても素晴らしいと思ったこと、それを理解したら、夫である幸雄の質問が途端に「詰問」に感じられて、とても狭い範囲でしか答えられない息苦しさを、ようやく自覚したことなどを話した。
ゆり子が「残念だけれど、離婚の方向で進むことになるのかなぁ。」と、ぼそっとつぶやいたら、
父が言った。「ゆり子はここまで一生懸命考えたのだから、どんな結論を出したとしても、お父さんはゆり子の決めたことを応援するよ。」
「ありがとう。お父さん。」

ノートにはまだ続きがあって、まだ丁寧な字でびっしりと何かが書かれている。ここまで心に響く内容だったので、ゆり子はこのノートを最後まで読むことにした。

(つづく)

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なつをの夏の物語(21)|恋愛ドクターの遺産第10話

第七幕 なつをの勇気

ゆり子はノートを閉じた。実はまだこのノートには続きがあるのだが、今日は夜も遅いので、一旦閉じて寝ることにしたのだった。ノートを閉じてから、ゆり子は考えていた。おじいちゃんが生きていてくれたらよかったのに、と。自分も、恋愛ドクターに相談してみたかったな、と。
「全幅の信頼を置いて、質問をしてくれる。そんな体験、してみたいなぁ。」ゆり子はつぶやいた。そもそも、こうしてノートを読むようになったきっかけは、夫婦の信頼関係に疑問を持ったからだった。そして、いよいよ今回のノートを読んで自分の持っていた夫婦関係への疑問の、核心部分を理解した。それは、夫の幸雄がゆり子に投げてくる質問にあった。
ドクターはなつをに対して、全幅の信頼を置いて質問を投げていた。あのような質問を投げられたなら、私は・・・ゆり子は考えていた。気持ちは開き、自由になり、素直に、いま自分が感じていることを、恥ずかしい気持ちも含めて表現できる、そう思った。
でも、夫の幸雄はいつも違っていた。幸雄は、仕事はかなりできるタイプで、職場では、親友と呼べる相手はいないのかもしれないが、成果を挙げていて、一定の信頼を勝ち得ていたようだし、成果に応じた出世もしていた。仕事術の一環として学んだのか、「指示命令ばかりではなく質問をすることが大事」と時折得意げに主張していた。つまり幸雄も、質問は大事と考えていて、質問のスキルに長けていると、自分では考えていたようだった。
しかし、恋愛ドクターA(ゆり子の祖父だ)の質問を目の当たりにして(といってもノートの中だが)、改めて思い出してみると、相手に全幅の信頼を置いて、相手にどんな答えをしても良いという完全なる自由を与える、そんな質問からはほど遠かったように思う。
以前、幸雄とゆり子はこんな会話をしている。

こんな風に。

この日の話し合いは、それぞれが離婚に向けて動きたいのか、それとも、修復に向けて動きたいのか、そんな、これからの「基本方針」について話す、ということになっていた。この「基本方針」という言葉は幸雄が言った言葉だ。
「で、おまえは、どうしたいの?」早速「基本方針」の確認をしてくる幸雄。しかし、会社の事業計画じゃあるまいし、こんな突き放した言い方をされて、まともな答えが言えるわけがない。
(あぁ、やっぱり今まで通り。そもそも「話し合い」のやり方自体が、関係を悪くしている気がする)ゆり子はそう思ったが、それを言ったらさらにこじれそうで言えなかった。
「私は、もっと、通じ合って、安心できる関係ができたらな、って思うんだけど。」
「オレに、何をしろ、と言っているのか、ハッキリ言ってくれ。」
(はぁ・・・またこの展開・・・)ゆり子はさらに暗い気分になってきた。
「あのね、私の気持ちを分かってもらえない、といつも感じていて、それをあなたは、自分は悪くないみたいに言うから、ますます言えなくなって・・・」
「あのさあ、オレの質問に対して、ちゃんと答えてないよね? 『何をしてほしいか』の質問の答えは、『何々をしてほしい』でしょうが。おまえこそ、オレの話をちゃんと分かっていないんじゃないか? こっちのセリフだよ。『分かってもらえない』てのは。」
「あのね、そういうことじゃなくて・・・」
幸雄がイライラしているように、ゆり子には見えた。そして、それ以上何も言えなくなってしまった。
結局その日の「話し合い」は、幸雄の「お前は結局離婚したいのか?」という質問責めに対して、ゆり子がかろうじて「結論を保留する」ことで終わった。
帰りの電車の中で、精神的な疲労なのか、ゆり子は、全身が震えて止まらなかった。

あのときゆり子が感じた息苦しさは、いま、ドクターの、上質な質問を体験したあとだからよく分かる。幸雄の質問はなぜ苦しかったのか。それは、答えてよい答えの幅が狭いのだ。「幸雄が気に入る答え」という、きわめて狭い選択肢の中から、ゆり子が自分の答えを見つけなければならないのだ。当然、ゆり子にとって適切な選択肢がない場合も多い。だから、とても答えにくく、答える場合にもひどく神経を使う。

(つづく)

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なつをの夏の物語(20)|恋愛ドクターの遺産第10話

「・・・そうなんですね?」なつをも、やってみようとするだけで、実際に行動しないという課題に、本当に意味があるのか、半信半疑だ。
「ええ、実際やってみたら分かりますよ。実は、心の中で『やってみようとする』ことで、少しだけ変化が起きています。」ドクターは自信たっぷりにそう言った。
しばらく沈黙があって、そのあと、なつをが口を開いた。「あの・・・なんとなく思ったんですけど、やってみようと思うだけで心の中では色々考えます。もし手を握ったらそのあとどうなるのか、とか、どんな風にきっかけを作ったらいいのかとか。そうやってイメージトレーニングをすることになるので、『意味がある』のでしょうか?」
「それもあります。なつをさん、中々勘がいいですね。まあ大きくは間違ってないです。結局色々想像することで、心の中で変化が起きていくんですよ。」ドクターは穏やかな笑みを浮かべながら答えた。このあと、なつをはドクターの助手になっていくわけだが、この時点で既に、ドクターはなつをの自己観察能力の高さ、セラピーに関する勘の良さを高く評価していたようだった。もちろんこの時点では助手にしようと考えていたわけではなく、あくまで優秀なクライアントとして認めていた、ということだったのだが。
ドクターは話を続けている。「イメージトレーニングというのは、外側から見て見える『行動』のトレーニングのことを指すことが多いのですが、行動に対する心理的抵抗を取り払う、解消するという意味では、必ずしも行動のトレーニングばかりが大事だ、というわけでもないのです。」
「と、言いますと・・・他にも大事なことがあるということでしょうか。」相変わらずなつをの質問は的を射ている。
「そうです。なつをさんは勘がいいので、そろそろなんとなく気づいているかも知れません。先ほど『やってみようとする』話をしたときに、何か心の中で変化が起きませんでしたか?」ドクターは説明するかわりに質問をした。実はいい質問をするというのは、相手を信頼しているからこそできる行為だ。ドクターの質問は、基本的に相手に「何を答えてもよい権利」を与えている。自分の側の都合を一旦脇に置き、相手に何でも答えてよい、と委ねることは、相手に対する全幅の信頼がないとできないことだ。これがない状態で質問をすると、どうしても「この答えは言ってよいが、実は言ってはいけない答えがある」というような、地雷質問とも言うべき、重たい質問になる。地雷質問という言葉はドクターが使っている用語だが、言ってはいけない地雷のような答えが埋まっている質問のことだ。世の中の多くの人は、無自覚に地雷質問をしてしまい、相手との関係を壊していることが、多々ある。以前ドクターは「質問を相手に投げる際は、相手がどんな答えをしても受け止める覚悟があるのか、自問してから投げるべき」と言っていたことがある。他人にそうアドバイスするだけでなく、ドクター自身も自らその「理想的な質問」を実践している。つまりドクターの質問は、なつをに対する全幅の信頼に基づいていて、きっとなつをが答える答えが、正解であろうという、潔く委ねる姿勢に貫かれているのだ。
「はい。先生。」人は信頼されると良い答えができるものだが、なつをはその信頼に応えるように、素直に答え始めた。「始め、想像したとき、すごく恥ずかしい気持ちになりました。とても居心地が悪いというか。」そう言いながらなつをはもじもじした様子を見せた。
「なつをさん、もじもじしてますね。居心地が悪いと、体を動かしたくなるものなんですが・・・」ドクターはなつをの様子を積極的に肯定するのでもなく、からかったり否定したりするのでもなく、ただ、真っ直ぐ受け止めながら話を続けている。
「はい、先生。居心地が悪いと体を動かしたくなります・・・でもこうやってもじもじすると、少し居心地の悪い感じ、恥ずかしい感じが和らぐ気がします。」なつをは目線を始め右上に、その後、右下に移してそう答えた。
「そう、そこなんです。なつをさん。実は、一番大事なところは、既になつをさんが言葉にしてくれた、そこにあります。イメージすることは、大事なことの一部ではありますが、それだけでは十分ではありません。イメージしたときに感じる色々な感情、恥ずかしさや居心地の悪さなどをしっかり感じること。感じることで、実際には行動を起こしていなくても、感情が軽くなっていきます。これがとても大事です。そして、体を動かすこと・・・いまはもじもじしていましたが・・・そうすることで、居心地の悪い感情が消えて行くのを加速することができます。」
「そうなんですね!」なつをが嬉しそうな声を上げた。「確かに、やってみてから、少し気持ちが軽くなったように思います。こうして少しずつでも変化が起これば、近いうちに行動を起こせそうな気がします。」
ドクターは何も言わず、穏やかな笑みを浮かべてうなずいていた。
しばらく沈黙があったが、やがてなつをが口を開いた。「先生、勇気を出す、というのは、無理して進むという意味ではないのですね。この方法なら私、『勇気を出す』ことができそうです。」
「そうですね。この、一番大事なポイントを理解して下さったので、いま私はなつをさんに対して、とても安心しています。きっと、自ら可能性を切り開いていけるだろうと感じています。」

(つづく)

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なつをの夏の物語(19)|恋愛ドクターの遺産第10話

「ええ。まず、なぜ恥ずかしくなってしまうか、というところなのですが、無意識に、相手に全てをさらけ出して絆を作っていきたいと思っているからですよね?」
なつをは質問されてしばらく考えていた。今まで考えたこともないことを聞かれると、急には返答できないものだ。しばらく間があって、答えた。「そう・・・かもしれません。確かに、友達に『手、握ってみればいいじゃん』って言われたとき、彼との関係を想像して、その先のことにすごく期待したんです。彼と、お互いに分かり合って、分かち合って、素の自分で居られるような、素敵な関係でいたい。そんなことを想像しました。でも、実際に彼の前に出たら、すごく戸惑ってしまって、全然手が動きませんでした。」
かわいい孫を見守るような優しい目になって、ドクターが言った。「彼と、お互いに素の自分を出し合って絆を築く。そんなイメージを持てるぐらいまで、なつをさんの男女関係のイメージは良くなっているんですよ。まずは、それが大事な進歩です。そして、その先の展開が素敵なものであればあるほど、緊張したり怖くなったりするものです。これも、自然な反応です。」
「そうなんですね!いいことなのに怖いなんておかしいな、と思って相談に来たのですが。」なつをは驚いて少し早口になった。
「意外ではないですよ。人間の普通の反応です。いきなり想像もしていなかった幸せが降りかかってきた場合、実は怖くなったりするものなのです。」ドクターは落ち着き払ってそう言った。
「でも・・・どうしたら・・・」
「そう、そこなんですよ。問題はない、でも、前に進めてもいない。じゃあ、どうしたらいい?そこですよね。」
「はい。」
「頑張りましょう。」
「へっ?」
さきほどの頑張りましょう、へっ、のやりとりが再度繰り返された。しばらくして、なつをが何かに気づいたような、はっとした表情を見せた。
「先生、勇気を出して、頑張って進んでみよう、という話なのですか?」
「はい、正解です。」
そう言われてなつをは、脱力した表情でドクターを見た。
「まあ、」ドクターは続けた。「勇気を出してやってみよう、という方針は基本で、もちろん大事なのですが、ちょっとしたコツがあります。」
「お願いします。」
「ポイントは、『やる』のではなく『やってみようとする』というところにあります。」
「やるのと、やってみようとするのは、違うのですか?」
「そう、ちがいます。たとえば、『彼の手を握る』という課題を作ったとします。ある日、やろうとして、できなかった。がっかりしますね。次の機会でも、やろうとして、できなかった。そろそろ『無理です』とか言いそうじゃないですかね?」
「そうですね。そうなりそうな気がします。」
「一方、『彼の手を握ってみようとする』という課題ですが、これも、もしうまく行ったら実際に握ってみるわけですから、そこは大きく差がないのですが、まあ、ある日、やろうとして、できなかったとしますね。がっかりするかもしれません。でも、考えてみて下さい。『彼の手を握ってみようとする』という課題は、実際に握れなくても、心の中でチャレンジしようとした時点で、課題成功なのです。実際にできなくても、成功、ではある。大成功ではないかも知れないけど。」
「あ、なるほど。」
「そうしたら、次の機会でも、また、握ってみようとするわけです。実際に行動は起こせないかも知れない。でも、少なくとも心の中でチャレンジしようとした。また、課題成功です。さあ、三回目、どうでしょう。まだチャレンジする気持ちは湧いてきますかね?」
「そうですね。握ってみようとするところまでなら、まだ何回もやれそうです。」
「ね?だいぶ、心が折れるまでの期間が違うんですよ。」
「なるほど・・・」
ここで、湯水ちゃんが口を挟んだ。「先生、確かに、チャレンジの回数は増やせますけど、それで、前に進むのでしょうか。単に、手を握ることを想像して、そこでやめる、ということを繰り返しているだけになってしまわないかと・・・」
「確かに、そう心配したくなる気持ちは分かります。」ドクターも、湯水ちゃんの懸念がよく分かるようで、深く数回うなずきながらそう言った。「とは言え、実は十分意味があるのです。」
「・・・そうなんですね?」なつをも、やってみようとするだけで、実際に行動しないという課題に、本当に意味があるのか、半信半疑だ。
「ええ、実際やってみたら分かりますよ。実は、心の中で『やってみようとする』ことで、少しだけ変化が起きています。

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なつをの夏の物語(18)|恋愛ドクターの遺産第10話

「・・・なるほど。怪我が治ったあと、体の動きを取り戻すためのリハビリが必要、みたいなことですか?」
「まあそんな風に考えても、大体良いと思います。そして、恋愛の場合、結構大事なポイントがあって、幼少期の安全の欲求や、所属の欲求が十分に満たされて、子供としての愛を十分受け取ったと感じて初めて、大人の恋愛・・・つまり性的な関係も含めた男女関係を受け入れられるようになるのです。」
「あ、なるほど、そうなんですね。とても納得です。」
「あの、先生。」湯水ちゃんがここで割って入ってきた。「私の場合も、幼少期の安全の欲求が十分に満たされていなかった時期がありましたよね?でも、むしろ辛い恋愛にどっぷりはまる、みたいな感じだったんですけど。それに、なつをさんも、失礼ながら」ここまで言って湯水ちゃんはなつをにぺこっと一礼した。「以前先生に相談に見えたときは、かなりのオレサマとつき合ったりと、むしろ恋愛にどっぷりだったのでは?」
「まあここは、説明の仕方が難しいところですが、どっぷりはまっている恋愛というのは、真の愛情から相手と関係を築いているわけではないと思いますよ。安全の欲求が満たされていなくて、必死でしがみつく相手を探していたりするものですから。」
「そうですよね。」なつをは納得しているようだ。
「でも、そのときも、好き、って気持ち自体は、ありますよ。それは愛情ではないんですか?」湯水ちゃんは納得していないようだ。
ふう。ドクターは軽くため息をついてから言った。「クライアントのなつをさんの方が、よっぽど落ち着いていますね。湯水ちゃん、あとでじっくり説明してあげますから。落ち着いて下さい。」
「あ、すみません。」湯水ちゃんは今度は先生にぺこりと頭を下げた。
「くすっ」なつをは思わず笑った。
「とは言え、」ドクターは構わず続けた。「いまの湯水ちゃんの指摘も、いい学びになると思いますので、軽く説明したいと思います。」
「お願いします。」なつをと湯水ちゃんが同時に言った。
「まず、恋愛感情そのものは、人間も動物ですから、ある種の発情反応みたいなもので、喜びの脳内回路が反応するわけです。こうしたスイッチが入りやすいかどうかは、性ホルモンのレベルなど、体質によって決まっていると言えます。特に10代後半から20代前半は、こうした性のスイッチが入りやすい状態にあります。だから、小さなきっかけで誰かを好きになってしまうわけです。これを『恋してる状態』と今は呼ぶことにします。」
「なるほど。恋してる状態ですね。」
「それで、誰かと愛情を交換し、絆を結ぶというのは、自分を率直にさらけ出し、同じように素の自分を出してくれた相手を受け入れる、ということなのですが、これができていなくても、『恋してる状態』になることはできるものなのです。」
「それでは、長続きしないような気がします。」なつをが言った。
「その通りです。実際、『恋してる』けれど『愛情関係は結べていない』カップルは多いです。当然、恋愛感情が冷める3年ぐらいを目処に、関係が難しくなってしまいます。」
「どうしたらいいんですか?」なつをが質問した。
「うーん。迷える全てのカップルをどうやったら救えるか、という問題は、私には難しすぎて分かりません。ですが、なつをさんの場合、既に光が見えていると思います。」
「そうなんですか?」
「ええ。まず、なぜ恥ずかしくなってしまうか、というところなのですが、無意識に、相手に全てをさらけ出して絆を作っていきたいと思っているからですよね?」
なつをは質問されてしばらく考えていた。今まで考えたこともないことを聞かれると、急には返答できないものだ。しばらく間があって、答えた。「そう・・・かもしれません。確かに、友達に『手、握ってみればいいじゃん』って言われたとき、彼との関係を想像して、その先のことにすごく期待したんです。彼と、お互いに分かり合って、分かち合って、素の自分で居られるような、素敵な関係でいたい。そんなことを想像しました。でも、実際に彼の前に出たら、すごく戸惑ってしまって、全然手が動きませんでした。」

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なつをの夏の物語(17)|恋愛ドクターの遺産第10話

第六幕 最後は勇気

ドクターとなつをのセッションは続いている。(2年前のセッションの話は終わり、現在のセッション。といってももちろんノートの中の「現在」だ)
「そういえば、彼のお名前を伺っていませんでした。差し支えなければ。」ドクターが改まった調子で聞いた。
「はい。彼はユウジ、と言います。悠々の悠に、仁という字を書いて、悠仁。」
「なるほど。悠仁さんね。お名前の印象は、穏やかそうな感じですね。」
「あ、はい。実際穏やかな人だと思います。」
「いかにも、進展しなそうな感じですね。」少し苦笑しながら、ドクターが言った。
「あの・・・そうなんですか?」なつをは心配そうだ。
「先生!そんな直球! ごめんなさいねなつをさん。」慌てて湯水ちゃんがフォローした。
「いえ・・・いいんです。実際そう感じていましたから。」なつをは淡々と受け止めた。
一般的に、周りが勝手に心配することは多いものだが、当事者は覚悟が決まっていて落ち着いている、ということはよくあるものだ。なつをは、以前もドクターの元におとずれ、相談をした経験があることもあってか、多少のことでは動じない落ち着きを持っている。

「それで、なつをさん。彼とは例えば、中華料理屋さんに行っても、お互いに出方をうかがい合ってしまって注文を決めるのにも時間がかかる、そんな関係、そんな状態なのでしたね?」
「はい。本当に、気を遣い合ったり、出方をうかがい合ってしまって、なかなか決められないんですよね。」
「頑張りましょう。」
「へっ?」
ドクターの言葉に、なつをは変な声を上げてしまった。大体、何を意図して言った言葉なのか分からない。
「先生、ちゃんと説明してあげましょうよ。私も分からないですから。」湯水ちゃんが割って入った。
「あ、すみません。つい先走って結論だけ言ってしまうことがあるもので・・・今から説明しますね。」ドクターは苦笑しながらそう言った。
「お願いします。」
「あの、以前に来て下さったときは、トラウマを扱ったり、色々深い部分のテーマを解決する部分をメインにしましたよね?」
「はい。そうでした。」
「それで、今のなつをさんの印象を言うと、そういう深い部分の癒しは、大体終わっているのではないか、ということなんです。」
「そうなんですか?」
「ええ。それでも、恥ずかしいとか、色々な感情があって、彼に対して積極的になりきれていない。」
「・・・はい。そうです。」
「まあそれは、ようやく、そういう段階まで来た、ということだと考えています。」
「ようやくそういう段階・・・ですか?」
「ええ。」ここでドクターはホワイトボードの前に移動して、板書しながら説明を始めた。「トラウマがあると、そこに関係した心の部分というのは、成長が止まってしまいます。しかし、成長が止まったかどうかは、あまり意識されません。なぜなら、成長云々よりも、トラウマ反応・・・たとえば男性が怖いとか、緊張感を感じるとか、そういう強い反応・・・の方をより強く自覚することになるからです。以前のなつをさんはそういう状態でした。」
「そうだったと思います。」
「トラウマが解消すると、では、問題は全て解決するか、というと、実はトラウマを受けた時点からの成長が遅れていたりするので、成長を追いつかせる、という別のテーマが残るわけです。」
「・・・なるほど。怪我が治ったあと、体の動きを取り戻すためのリハビリが必要、みたいなことですか?」
「まあそんな風に考えても、大体良いと思います。そして、恋愛の場合、結構大事なポイントがあって、幼少期の安全の欲求や、所属の欲求が十分に満たされて、子供としての愛を十分受け取ったと感じて初めて、大人の恋愛・・・つまり性的な関係も含めた男女関係を受け入れられるようになるのです。」
「あ、なるほど、そうなんですね。とても納得です。」

(つづく)

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なつをの夏の物語(16)|恋愛ドクターの遺産第10話

「いまやってみたのが、その三点セットです。私から意外な方針を提示された。これが体験。そのあと、色々頭の中で考えた。そして感情が出てきた。今回の場合不安や落ち着かない感じでしたね。」
「はい。」
「こういうことを、日頃から自覚するようにすると、自分のことがよく分かるようになります。そして、自分で自分のことが分かっていると、他人に説明するのが上手になります。そして、うまく説明できると、他人も、結構話を聞いてくれるものなんです。」
「それがね、引き寄せのコツなんだって。」湯水ちゃんが楽しそうに言った。
なつをは、まだ不安そうだ。
「まあ、急に他人に上手く説明するところまでやらなくて大丈夫です。まずは、『体験した出来事』『自分の考えや解釈』そして『出てきた感情』の三点セットを意識して過ごすようにしてみてください。」
「慣れないうちは、紙に書いてみるのもいいよ。私はそうやって練習したから。」湯水ちゃんが補足した。
先輩がいるのは頼もしい。なつをは見習おうかな、と考えた。「はい。初めはそうやって見たいと思います。」

こうして、2年前のセッションは終わった。
その後、なつをは、自分の気持ちを表現することを大事にして過ごすようになり、以前よりも「好き」「嫌い」を表明するように行動を変えた。
そのことで、長らく付き合いのあった友達の何人かは「あんた最近ワガママになったね」と去って行きそうになり、焦って引き留めそうになった。そのときにドクターから「人間関係のデトックス」が起こるということを思い出したのだった。そうかこれが、話に聞いていた人間関係のデトックスか。なつをは他人事のようにそう捉えていた。ドクターからの助言・・・というより予言・・・を予め受けていたので、なつをはパニックになることもなく、自分の元から友達・・・いや、友達と思い込んでいた他人・・・が去って行くのを、落ち着いて見送ることができたのだった。

人間関係のデトックスが済んだあとは、空いたスペースに、また新しい人間関係が入ってくる、とドクターからは聞いていたのだが、そうなるまでは少し時間がかかった。半年ぐらいして徐々に新しい友達もでき、新たな人間関係を築いていった。

そんなある日、古くからの男友達から飲み会のお誘いがあり、行ってみることにしたのだった。その飲み会の席で話が合う男性と出会い、連絡先交換から現在の比較的親しい関係にまで至ったのは、既にドクターに語ったとおりだ。但し、どことなく彼との距離があって縮まらず、そこがこれからの課題なのだが。

なお、その飲み会を企画してくれた男性に、なつをがあとから聞いた話だが、以前のなつをはどことなく警戒心が強くて自分を開かないように見えていたとのこと。それは、頑なに見えるとか、人を寄せ付けない感じというのとは違っていて、相手に従うし、上手く合わせるけれど、本心からそうしたいと思ってしているのか、そこが分からない。つまり本心が見えない、というような感じだったそうだ。それで、あまり飲み会のメンバーには誘わなかったのだが、久しぶりに会ったときにずいぶん自分を開くようになったと感じて、今ならいい出会いが作れるかも知れないし、カップル成立となったら相手の男性もきっと幸せだろうと思って、初めて飲み会に誘ったのだそうだ。そんなことまで考えて飲み会のメンバーを集めている彼もなかなかのやり手(?)だと思うが、彼の思惑通り、その飲み会でいい相手を引き寄せたなつをも、「分かりやすい」キャラだ。

そして、そんな経緯でいわゆる「友達以上恋人未満」ぐらいの距離まで接近したなつをだったが、どうにもそこから進まず、戸惑っている。そして、取り返しが付かないことになる前に(というのは少し心配性が過ぎるのだが)相談に来たのであった。

(つづく)

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なつをの夏の物語(15)|恋愛ドクターの遺産第10話

「理論的には、あとで先生に解説してほしいんだけど、私の実体験をお話ししますね。私の場合、男性の話を色々聞いてあげることをしていたら、自分の話ばかりしたい男性が集まってしまったの。本当は私も、自分の話をしたいのに、男性との関係では、なぜか、聞き役ばかりになってしまって。それがとてもストレスで。でも何でそうなってしまうのか全然分からなかった。男って所詮そんなものかな、ってずっと思ってたんだけど、恋愛がうまく行っている友達の話とか聞くと、彼氏が話を聞いてくれるって言うし、なんで私だけこうなってしまうんだろうって。それで、私も以前、先生に相談したんだけど、そこで言われたのがさっきの話なのね。話を聞いてほしいのに、まず自分が相手の話を聞く、という関わり方をすると、こと男女関係においては、オレの話をしたい、という男性が寄ってきてしまうわけ。」
「えーっ」なつをは力なくそう言った。
「それで、私も、先生に教わって、やり方を変えたんだけど、話を聞いてほしいときは、まず、自分で自分の心の声をしっかり聴くんだよね。本当はどう考えているのか、本当はどんな気持ちなのか。そして、それを勇気を出して相手に伝える。そういうコミュニケーションを続けていると、段々に、私の話をちゃんと聞いてくれる人が周りに増えていったの。」
「そうなんだ・・・」
「なつをさん、今は急に受け入れられないかも知れないけど、きっと大丈夫。私も変われたから。結果的に、人間関係も良くなったし。」
「あの・・・」なつをが不安そうに言った。やはり、自分のこれまでのパターンを変えることは、勇気が必要なのだろう。「私が自分の気持ちを話すようになったら、いま、私の周りにいる人たちも、私の話を聞いてくれるように変わる・・・って、ちょっと信じられないのですが。」
「あのね・・・」湯水ちゃんが言いかけたとき、ドクターが割って入った。
「では、ここからは、私が説明したいと思います。」
「先生、お願いします。」湯水ちゃんは、お役御免で、ちょっとほっとした様子だ。
「実は、なつをさんが行動を変えても、相手が変わってくれるとは限りません。残念ながら。」
「えっ?そうなんですか?でもさっき・・・」
「ええ、さきほど、周りとの関係が変わっていくという話をしたばかりですよね。そこは、ちょっとからくりがあるんですよね。実は、相手が『変わる』場合ばかりではなくて、相手が『代わる』つまり、今までいた人たちが離れていって、新しい行動を身につけたなつをさんにふさわしい、別の人たちが、周りに集まってくる、ということが起こる場合も多いのです。」
なつをはちょっとびっくりして、言葉が出ない。
「これを、人間関係のデトックスと呼んでいます。」
「あの・・・一応、お話は分かりました。具体的には、何をしたら良いのでしょうか。」
「そうですね。具体的には、自分が『何を見て・体験して』、『何を考えて』、『何を感じた』のか、その三点セットを、まず自分で日頃から自覚するようにすることです。自分の内側をちゃんと見て、自分を理解する、ということですね。そして、できれば、その三点セットを、できる範囲で、他人にも話すようにすることですね。何を見て、どう考えて、どんな気持ちになったのか、の三点セットですよ。」
「なるほど・・・」なつをは急に言われて、まだ、完全にはのみ込めていないようだ。
「では、一度ここで、練習してみましょう。」
「あ、はい。お願いします。」
「今の話自体を、例にとってやってみましょうか。」
「・・・はい。」
「さきほど、私は、行動を変えても、相手が変わってくれるとは限らない、という話をしました。そして、相手が変わるかわりに、居なくなる、つまり『代わる』こともあり得るという話をしましたね。」
「はい。」
「それを聞いた、というのが、『体験』になります。」
「えっ? あ、はい。」
「その体験をして、何を考えましたか?」
「ええと・・・あ、今、まあまあ親しくしているA子とかB子とか、確かに自分の話ばかりする子なんですけど、私が自分の話をするようになったら、どんな反応をするんだろう、聞いてくれるのかな、それとも、去って行くのかな、とか・・・」
「なるほど、そんな風に、色々なことを考えたわけですね。」
「はい。」
「そして、その時に、どんな気持ちになりましたか?」
ドクターの質問から少し間があって、ゆっくりとなつをは口を開いた。「なんか、不安というか、落ち着かない感じです。」
「なるほど、不安というか落ち着かない感じ。」
「はい。」
「はい、よくできました。」ドクターはニコニコしている。
「・・・はい。」
「いまやってみたのが、その三点セットです。私から意外な方針を提示された。これが体験。そのあと、色々頭の中で考えた。そして感情が出てきた。今回の場合不安や落ち着かない感じでしたね。」
「はい。」

(つづく)

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なつをの夏の物語(14)|恋愛ドクターの遺産第10話

「さて、なつをさん。」
「はい。」
「このイメージの世界の中で、現実の世界では、今まで無かったことや、今まで自分でやっていなかったことを探してみて下さい。何かありますか?」

「あの・・・」イメージしているときに言葉が次々と出てきたのとは対照的に、口ごもりながらなつをは答えた。「彼が私の、何の役にも立たない話をにこにこして楽しそうに聞いてくれているのが新鮮でした。私も、何の疑問も持たずに、自分の話をしていました。それも、今までの人間関係ではなかったことです。」

一呼吸置いて、ドクターが言った。「なるほど。」少し間があって、続けた。「なつをさんのことを大切に思っている人は、なつをさんの話が、自分の役に立つかどうか、といったことに関係なく、話を聞きたいと思うものですよ。」
「そう・・・なんですね。」なつをはまだ半信半疑といった様子だ。
「なつをさんは、自分が大事に思う人の話を聞きたいと思いますか?」湯水ちゃんが言葉を挟んだ。
「ええ・・・はい。聞きたいと思います。」
「ちょうど、それと立場を逆にして考えてみたらいいと思います。」
なつをは、少し考えている様子だったが、やがて、はっと気がついたように言った。「あっ、そうですね。私、何か相手の役に立つことを、常に言わなければいけないと思っていました。」
ドクターは、にこにこしながら「そんなこと、ないんですよね。ただ、大切な相手が、何を考えているのか、何に興味があるのか、どんな気持ちなのか、知りたいだけなんですよ。それが、親密さ、というものです。」そう言った。
「なんか・・・肩の力が抜けました。」なつをが言った。実際に肩の力がふっと抜けたように見えた。

「さて。」話がまとまってきたところで、椅子に座り直しながらドクターが促した。「では、理想の一日の中ではやっていて、現実の世界ではやっていなくて、でも、やればできそうなことを、実際にやってみるという課題を出したいと思います。」
「はい。」
「先ほどの、『何の役にも立たない話を楽しそうに聞いてくれている』というところを上手く使いたいと思うのですが・・・」ドクターが言いかけたとき、なつをが割って入ってきた。
「あの、では、相手の話を、にこにこしてきいてあげるというのはどうでしょう?それならできそうです。」
ドクターは、少しにやりと笑って言った。「いや、残念ながら、それはあまり良い行動課題ではありません。もちろん、相手の話を聞いてあげるというのは、とても良い習慣だと思いますし、大事にしてほしいことでもあります。でも、なつをさんがほしいのは、自分の話を聞いてもらうこと、なんですよね?」
「えっ?相手の話を聞いてあげることは、自分の話も聞いてもらえることにつながらないんですか?」
ドクターは、またにやりと笑った。湯水ちゃんも同時ににやりと笑ったように見えた。それに気づいたのか、ドクターは湯水ちゃんに説明を任せるようだ。「湯水ちゃん、では、なつをさんに説明してあげてください。」
「はい、先生。」そう言って、なつをの方に向き直ってから、湯水ちゃんは話し始めた。「あのね。私も昔、そう考えていたの。実際、女友達の間では、そうやって話を聞いてあげること自体が、『私も話を聞いてほしいんだけど』というサインになっているようなところもあるし、それで上手く行くことが多いんですよね。でも、恋愛となると、全然上手くいかなくて。」
「えっ?どうしてですか?」なつをはそのギブ・アンド・テイクのルールが通用しないということが納得できない様子だ。
「理論的には、あとで先生に解説してほしいんだけど、私の実体験をお話ししますね。私の場合、男性の話を色々聞いてあげることをしていたら、自分の話ばかりしたい男性が集まってしまったの。本当は私も、自分の話をしたいのに、男性との関係では、なぜか、聞き役ばかりになってしまって。それがとてもストレスで。でも何でそうなってしまうのか全然分からなかった。男って所詮そんなものかな、ってずっと思ってたんだけど、恋愛がうまく行っている友達の話とか聞くと、彼氏が話を聞いてくれるって言うし、なんで私だけこうなってしまうんだろうって。それで、私も以前、先生に相談したんだけど、そこで言われたのがさっきの話なのね。話を聞いてほしいのに、まず自分が相手の話を聞く、という関わり方をすると、こと男女関係においては、オレの話をしたい、という男性が寄ってきてしまうわけ。」
「えーっ」なつをは力なくそう言った。

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