月別アーカイブ: 2017年6月

脱オレサマを目指す女子(1)|恋愛ドクターの遺産第8話

第一幕 他人事とは思えない

結菜(ゆいな)はゆり子のママ友のひとりだ。娘のさくらの同級生なので最近少し親しくなった。他のママたちより少し若いこともあって、仲間うちでは「ゆいちゃん」と呼ばれている。以前から親しかった順子・香澄と、ゆいちゃんとゆり子の4人で今日はお茶会をしている。その席上、ゆいちゃんの口からダンナがオレサマで困っているという話が出た。

「この前はね、『今日は遅くなるから』と言って仕事に出かけて、それで、急に『今から帰るから』って言って帰ってきたのね。うち、職場から帰宅するのが15分ぐらいなので、ごはんの支度も間に合わなくて・・・『なんだ、メシも用意してないのか!』って怒られたの。」

「えーっ、ひどい・・・」順子が言った。

「私なら『アンタ何様だ』って怒鳴り返すけどね。」香澄は相変わらず強気だ。

「それは・・・つらいよね。」ゆり子は、自分の家の状況とついつい重ねて考えてしまい、なんだか他人事だとは思えなくなってきた。しかも、自分も解決できていないのだ。アドバイスしようにも、何も言うことがない。

ゆいちゃんは、さらに続けている。「この前は、休日に家族で出かけることになってて、その計画をパパに任せていたら、当日まで何も準備していなくて、『えーっどうするの?』って言ったら『うるさい!お前だって何もしてないくせに』って言われて・・・」

「わーひどい」と順子。

「うちだったら、そんなこと言わせないけどね。大体やるって言っておいてやらないってのは絶対許さないね。土下座ものだね。」香澄は武闘派なのだ。

「ゆいちゃんは、だんなさんとどうしたいの?」ゆり子は訊いた。

「うーん・・・色々つらいんだけど、子供はパパになついてるし、仕事はちゃんとしてくれてるし、別れたいわけじゃない・・・のかな・・・」結菜は答えた。

「まあ、ゆいちゃんの人生だから構わないけど、別れた方がスッキリするかもよ。私なら離婚かな。」香澄が言った。香澄はこういうところ、キッパリしている。

「あの・・・香澄さんは、どうして割り切って考えられるんですか・・・?」結菜が訊いた。

「そりゃあさ、別れるとなったら、私だって色々な想いはあるよ。一緒にいい時を過ごした思い出もあるから寂しかったり悲しかったりするし、別れたら文句ももう言えなくなるか、って考えると、もうちょっと言いたいことを言い切ってから別れるか、なんてことも考えるけど・・・大抵そう思うとうちの人、帰ってこなくなるんだよね。」

「えー、香澄、怖いよそれ・・・」順子が言った。

「あはは。冗談冗談、でも、うちは、だんなも、言いたいことは言ってくるから、お互い様。わだかまりは残さないようにしよう、って二人で言ってるの。それでも腹が立つこともあるし、言うべき事を言うのと、相手を罵倒したり侮辱するのは違うから、そこはわきまえて・・・るのかな・・・一応・・・」香澄は照れ笑いした。そして、続けた。

「それで、もしも、私が我慢して相手に合わせたとするでしょ?そうしたら、まあ分かりやすく言えば、不幸になるわけ。だんなさんは、私というひとりの人間を不幸にすることに、加担していることになるじゃない?それって、だんなさんを悪人にすることでしょ?我慢するってのは、そういうことだと思うんだよね。一見、その場を取り繕うことって、相手に合わせたように見えるかもしれないけど、少しよく考えてみたら、相手に『妻を不幸にするだんな』という役割を押しつけることでもある、そう思うんだよね。だから私は、言うべきことはちゃんと言って、その時ぶつかり合ったとしても、ちゃんと解決することが大事だと思ってる。その結果、もしかしたら離婚になるかもしれないし、壊れかけたときの別れの判断も早まるかもしれないけど、それはそれで仕方ないし、長引かせる方が恨みも増えるから、さっさと決まった方がいいんじゃないかなぁ。」

一瞬、全員が沈黙した。香澄は単に強気だからだんなさんに放言しているわけではなかったのだ。香澄の「我慢することは、相手に『妻を不幸にするだんな』という役割を押しつけること」という哲学には、一同、息を呑んだのだった。

「あー、柄にもない哲学語っちゃったよー。」香澄が沈黙を破って照れ笑いした。

この日のお茶会は、このあと、話題を変えて少し続いたあと、幼稚園のお迎え時間が近づいてきてお開きになった。

「はぁ・・・私、ゆいちゃんのこと、色々言う資格はないなぁ・・・だってうちも、オレサマっぽいだんなさんなのに、どうしていいか分からなくて、一歩が踏み出せずにいるんだから・・・」みんなと別れてから、ゆり子はひとりつぶやいた。

(つづく)

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霞の向こうの神セッション(14)|恋愛ドクターの遺産第7話

「では、彼の中の『感情を大切にして決める』という個性ですが、これをユミコさんが自分の中に根付かせるための行動課題を最後に決めましょう。」
「はい、お願いします。」
「いくつかやり方があるのですが、一番シンプルなのは、彼がどんな風に考えていたか、それを見習うという方式ですね。」
「見習う・・・と言いますと・・・?」
「ユミコさんが、彼と出会う前に使っていた思考パターンと、彼がよく使う思考パターンは、もちろん、違っているわけです。彼がよく使っている思考パターンを、必要に応じて呼び出せると、問題は一番スッキリ解決するんですが。」
「呼び出す・・・ですか・・・?」
「たとえば、彼がよく使っているひとりごとなんてありますか?」
「感情を大切にして決めるときに、ということですよね?」
「もちろんそうです。」
「あ、そう言えば彼はよく『そのまんまでいいんだよ。』って言ってました。『まん〜ま』にアクセントがあって『そのまん〜までいいんだよ。』という感じで。」
「『そのまん〜〜〜〜までいいんだよ』ですか!」ドクターはわざと「まんま」の「ん」をかなり長く伸ばして発音した。その言い方が面白くて、カウンセリングルームは笑いに包まれた。

「だから、これを利用して、何か判断に迷ったりしたときには『そのまん〜まで決めてみようかな』とか『そのまん〜まの自分だったら、どっちを選ぶかな?』とか、そんな風に使ってみて、彼が使っていた考え方を、自分の中に取り込んでみましょう。

「はい、これならできそうな気がします。」

「そして、こうして、彼に期待してきた要素を、自分の中にしっかり根付かせていく取り組みが進んで、気持ちの上で自信が付いてきたら、きっと、ああもう離れても大丈夫かな、と踏ん切りが付くと思いますよ。」
「はい、そうなりたいです。」

「では、今日はここまでとしたいと思います。ありがとうございました。」
「先生、ありがとうございました。」

 

第六幕

ゆり子はノートを閉じた。
今回のノートは、夢の中の話が展開していて、なんとも言えない不思議世界だった。ゆり子自身もいま夢から醒めたような気持ちがしていた。
「夢の中のセッションで問題が解決していくことがあるのかぁ・・・心の底には、本当はどうしたいのか、その気持ちが始めからあるのかもしれないなぁ・・・」ゆり子はつぶやいた。
そして、理想人間と感情人間の話。ゆり子夫婦は、明らかに夫が理想人間で感情を軽視する傾向、ゆり子が感情人間で、夫の堅苦しい価値観の話などが苦手なタイプだ。
「相手に期待していた要素を自分に根付かせる・・・夫の堅苦しい価値観・・・そんな風に一面的な見方をしてはいけない、とドクターに注意されそうだが・・・を自分に根付かせる・・・」なんだか、あまり乗り気のしない方針だと思えた。

「覚悟を決めるといっても、どっちに向かって覚悟を決めるのか、そこが定まらないと、決めようがないのかもしれない・・・」ゆり子は、自分自身に、何かを決めるときの軸がないことを、改めて痛感していた。

(第七話 おわり)

(つづく)

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霞の向こうの神セッション(13)|恋愛ドクターの遺産第7話

「彼は、おおらかで、小さなことにもキリキリしてしまっていたユミコさんを優しく包んでくれたんですね。」
「はい、当時、そう感じていました。」
「そのおかげで、ユミコさん自身も、少し自分をゆるめることが出来るようになった・・・のですか? あ、勝手に推測してしまいましたが。」
「え、あ、はい。その通りです。彼がいてくれるおかげで、何でもきちんとやり過ぎず、『まいっか』みたいな心を持てるようになったと思います。」
「彼のおかげで、自分をゆるめることを覚えた。これは、実は必要な成長の段階なので・・・」
「そうなんですか?」ユミコはちょっと驚いたような調子で言った。
「ええ。そうです。」相変わらずドクターは、いつも通りの調子で応えている。「子供時代から、学童期まで、とにかく、もっと、もっと、と毎日、毎週、毎月、毎年、以前よりも成長した自分を作っていきます。まあこれは、人間として必然的なことです。でもどこかで、成長のアクセルをゆるめるときが来るのです。そのタイミングが来ているのに若い頃と同じようにずっとアクセルを踏み続けると、おかしくなってしまうんですね。」
「私、おかしくなりかけてました。」
「そのときに、ゆるめてもいい、ゆっくりしてもいい、『もっともっと』と頑張らなくてもいい、と、自分をゆるめることができるというのが、逆説的ですが、この段階での成長なのです。」
「なるほど・・・成長期とは違うのですね。」
「そうなんです。そういう意味で、ユミコさんの場合、彼と出会ったことが、いい成長のきっかけになったのだな、という風に、私には見えました。」
「ああなるほど。そう考えると、私と彼の出会いも、意味があった気がします・・・でも・・・」ユミコはまだ少しばかり腑に落ちないといった表情をしている。
「でも・・・?」
「彼が、同じように成長の段階を踏んで、自分をゆるめることが出来るようになった、とは思えません。」
「ははは。なるほど。なかなか厳しいですね。」
「あ、すいません。」
「いやいや、男性を甘やかさない女性、歓迎ですよ。そうあるべきです。」
ユミコは少し照れた様子で黙っていた。

ふう、と一息ついて、ドクターが口を開いた。「そうですね。確かに彼が、今のまま、もっとゆるんでしまったら、社会生活を送る上で必要な能力が足りないまま、『まいっか』『これでいっか』となってしまいそうですね。」
「そうなんです。それって、そのままではダメですよね?」ユミコは少し不安そうな調子で訊いた。
「ここは、なかなか難しいところです。上から目線で『いい』『ダメ』と判断するような権利は誰にもないと思うんですが、実際、生活を共に送ることを考えると、ちょっと無理、という相手はいると思います。こちらに十分なゆとりがあれば、彼のゆっくりペースの成長につき合ってあげることも可能かもしれませんが、仕事もあるし、子供も欲しい、その中で自分自身の楽しみも必要だし、将来に向けての学びも必要だし、貯蓄も・・・と考えていくと、『あなたとはムリです』という結論を出すことも、立派な決断だと思いますよ。」

「そうですよね・・・」ユミコは納得しているようだったが、それでも何か、まだ少し引っかかるものがあるようだ。

「ところで、今私が考えた用語ですが『理想人間』と『感情人間』という考え方を、ちょっと持ってみませんか?」
「『理想人間』と『感情人間』ですか?」ドクターがヘンな表現をしたので、ユミコはちょっとクスッと笑った。
「ええ。何かを決めるときに、自分の感情・・・まあ簡単に言えば『快』『不快』で決めるのが感情人間。それに対して『筋が通っている』『価値観に合う』『道徳的』『そうあるべき』といった、理想を掲げて、それに沿っているかどうかで決めるのが『理想人間』です。」
「あっなるほど。彼は感情人間、私は理想人間の方だと思います。」
「そうですよね。そして、お互いに、自分の持っていない要素ですから、相手に惹かれるわけです。」
「ああなるほど。そうかもしれません。私、自分の感情をあまり感じていなかったから、感情豊かな彼に惹かれたのかもしれません。」
「そうですね。そして、お別れするときのポイントですが・・・」
「はい!ぜひお願いします。」
「相手に期待していた要素を、ある程度、自分のものとして身につけることが大事です。このように、自分が持っていない要素を相手に求めて始まった恋愛の場合、相手の持っている要素を自分のものに出来たとき、依存や執着をせずに、相手との関係を終わらせることが出来ます。」
「はーーーー・・・・」ユミコは、わかったーという顔をして、しばらく「はー」と言い続けた。そして、続けた。「そっか、それで私は、彼と離れることに、何だか抵抗があったんですね。まだ、自分ひとりで、感情を大切にしたり、理想ばかり追求せずに自分の気持ちベースで『まいっか』と判断したりする自信が、ないんだと思います。」
「だから、イライラしながらも、彼をそばに置いておこうとしてしまう、と。」
「そうです。」
「それなら、彼がいなくても、自分の中に、感情を大切にして物事を判断する基準というか、人格というかが育ってくれば、彼を手放しても大丈夫、という気持ちになれると思いますよ。」
「そうなんですね!まだ実感はないですけど、その方向でやってみたいです。」

「あの・・・横から口を挟んですみません。」私なつをはどうしても気になることがあって、つい口を挟んでしまった。「確か、夢の中のセッションでは、彼氏さんとは別れる方向で考えているけれど、何か踏ん切りが付かなくて、その理由が、完全に別居するまで居候させてもらうのが気が引けるとか、そんな感じでしたよね?」余計なことを言って先生に突っ込まれるかとドキドキしながら先生の方を見たら、先生は納得した様子でうなずいていた。

「ああ、なつを君、良いポイントですね。いつそのことを訊こうかと考えていました。そう、確か、夢の中では、彼氏とは別れるけれど、何ヶ月か住まわせてもらうことに対して、良心がとがめる的な動機だったんですよ。こうして話していてたどり着いた動機と違っているので、どっちが本当なんでしょうね、という話をしたいと思っていました。」
「ああ・・・なるほど・・・両方ある気がします。ただ、自分の中に『感情人間』の要素が少なくて、彼を失うと、それを失ってしまうことが抵抗があったんだな、という、今先生が話して下さった原因の方が大きいと思います。」

「そういうことですか。なるほど、納得です。」ドクターはそう言ってなつをの方をちらっと見た。
「あ、はい。私も納得しました。話の筋は通っているし、これで進めていいと思います。」先生に意見を言うのはいつも緊張する。
先生も今回は納得したようで、私の言葉をうなずいて聴いてくれた。

(つづく)

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霞の向こうの神セッション(12)|恋愛ドクターの遺産第7話

ドクターは、一旦ゆっくり深呼吸して、それから言葉を発した。
「こういうとき、大事なことは、心の内にどんな動機があるか、それを真っ直ぐに見つめることなんです。」
「はい、お願いします。」
「ユミコさんは、今となってはイライラさせられる彼とつき合うことを選んだわけです。ということは、彼の何かに魅力を感じていた、ということになりますよね? それは何でしょうか?」
「あっ・・・そうですよね。そう、そうなんですよ。出会った頃は、彼のおおらかなところがとても魅力的に感じて・・・私、その頃もアレしなきゃコレしなきゃとテンパっていて、その時に彼が優しく見守ってくれるような気がして、すごく気持ちが楽になったんです。」
「そうですか・・・それは素敵な出会いでしたね。」
「はい・・・でも、ずっとつき合っていくうちに、おおらかと言うより、あまり何も考えていなくて、イイカゲンだと感じるようになってしまいました。」
「なるほど・・・これはよくあるパターンなんですが、彼がイイカゲンだと、色々細かいことを考える役回りが全部こっち側に回ってくる、ということが起きるんですが・・・」
「そう!そうなんです! 二人で出かけるときとか、何かを計画するときとか、全然考えてくれないから、結局直前になって私に負担が回ってくるんです!」今日一番の通る声で、ユミコが力説した。
「なるほどね・・・もしそこで、彼に任せっきりにしてみたら、どうなるんですか?」ドクターはあまり調子を変えず、質問した。
「実は、一度やってみたことがあるんですが、結局計画がズルズルと後回しになっていったりして、あまり楽しくなかったです。」

「そうですか・・・すでにやってみたんですね。では、再度やってみる必要はない気がします。」
「はい・・・。」
「あ、いや、試しに、きちんとした役目を降りてみる、という行動課題をやってみることは、結構あるんですね。それをきっかけに相手が何か考え始めたり、行動を始めたりすれば、もう少し様子見をしながら相手の成長を見守るという方針もアリなのですが、すでに一度やってみてダメだった場合、やり方を工夫するとしても、もう一度やってみて有効である可能性は低いんですよね。」
「私もそう思います。」

「そうするとね、悲しいけれど、今の彼とはお別れする方向で準備していくことになると思うんですよね。」
「やっぱりそうですよね・・・」ユミコの目にうっすら涙が浮かんだ。
「今まで、良い思い出もたくさんくれた彼ですしね。」
「・・・はい。」そう言った瞬間、両目から涙がぽろっとこぼれた。
「今日は、彼から、どんなものを受け取ってきたか、それを話す時間にしましょう。」
「えっ!?」

(出た!先生の十八番だ)私なつをは思った。別れ話の時は、彼の良かったところはどこか、そんな話をすることが先生はとても多い。以前どうしてそういう話をするのか訊いてみたことがある。先生の回答はこうだ。「なつを君、人は何か、今自分の中に足りないものを求めて、誰かに憧れたり惹かれたりするものです。長続きしていく場合は、その、求めた要素が生涯にわたって必要なものだった場合。別れに至る場合は、求めた要素が、かなり欠けていたインナーチャイルド的な課題に関するものだったりして、満たされたら必要なくなってきた場合です。」はあ、とのみ込めずにいた私に先生はさらにこう言った。「たとえば、子供時代に構ってもらえなくて寂しかった女性が、とにかくマメに構ってくれる彼を選んだとしますね。ところが、『構って欲しい』という思いが満たされたら、大抵、女性にマメな男性は・・・まあ同じ調子で何股もかけているプレイボーイの場合もありますが、ここではそうではない、という設定でお話しすると・・・自分の軸がそんなに無いんですね。ここ一番というときに、軸を示してくれない。『君の好きなようにしていいよ』なんて言うわけです。決断する責任が自分・・・つまり女性の側に100%のしかかってくるわけですね。始めは優しいと思ったけれど、長くつき合っていくと疲れる相手だった、と、こうなるわけです。長所だと思ったところが、一番嫌なところになってしまう、というような。」
相変わらず、ぐうの音も出ない論理展開だった・・・そんなことを思い出しているうちに、セッションが進んでいた。

「彼は、おおらかで、小さなことにもキリキリしてしまっていたユミコさんを優しく包んでくれたんですね。」
「はい、当時、そう感じていました。」
「そのおかげで、ユミコさん自身も、少し自分をゆるめることが出来るようになった・・・のですか? あ、勝手に推測してしまいましたが。」
「え、あ、はい。その通りです。彼がいてくれるおかげで、何でもきちんとやり過ぎず、『まいっか』みたいな心を持てるようになったと思います。」

(つづく)

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霞の向こうの神セッション(11)|恋愛ドクターの遺産第7話

第五幕 「理想人間」対「感情人間」

 

「こんにちは、先生。」
「こんにちは、ユミコさん。」

今日はユミコのセッションの日だ。前回はGパンに洗いざらしのシャツ、といったラフな格好で来たユミコだったが、今回はどういうわけか、黒いスーツに身を包んでやってきた。
(今は午前中だ。時間から言って、午後に仕事があるのだろうか。)私なつをはそんなことを考えていた。

ドクターとユミコの二人が着席して、始めに言葉を発したのはドクターの方だった。
「ええと・・・ユミコさん。今日は、前回と雰囲気が違う、というか、服装が全然違うんですね。スーツ姿もお似合いですよ。」
(やっぱり。先生も服装のことを言った)私なつをはそう思った。
「ありがとうございます。よく『似合う』って言っていただけるんですけど、実は以前は、こういう格好があまり好きではなかったんです。でも、前回のセッションで、あの黒い『膜』を扱って頂いてから、どことなく息苦しい感じがなくなって、それで、今日はこの格好で行ってみよう、って思ったんです。」
「なるほどそうですか。お仕事があるとか、そういうわけではないんですね?」
「はい。今日はお仕事はありません。」
「そういう理由で、わざわざ着てきて下さったんですね。それはそれは、ありがとうございます。」
「いえ・・・私も着たかったので。」

今日も、先生の直感は冴えている。以前先生は、第一印象で感じたことは、何かとても大事な要素を含んでいることがあるから、軽く扱ってはいけない、そんなことを言っていた。確かに先生のセッションを見ていると、クライアントの言葉にまだ出てきていないが、先生が印象として感じたことなどを投げてみて、それがきっかけになって話が先に進むことが結構ある。今日もそうだ。前回とかなり雰囲気が違う服装になっていた、そのことを先生が挨拶でさらっと言ったことで、一気に話が進んだ。始まってからまだ1、2分といったところだ。こんな短時間で、前回のセッションの効果を聞き出し終わっている。相変わらずテンポが良い。

「ところで、前回扱った『膜』が黒い色をしていたことと、苦手だったスーツが黒い色をしていることは、何か関係がありそうな気がしたのですが・・・」ドクターが質問した。
「あ、はい。私もそう思いました。以前は、このスーツを着ていると、とにかくきちんとしていなければいけない、という気持ちが強くて、よく同僚にも『ユミコはきちんとしてる』って言われてましたし、自分でも時々、そこまでやらなくてもいいのに、って思うことが結構ありました。」
「なるほどね。それが、今は、何か違う感覚なのですか?」
「はい。会社にはこんな感じの服装で行っているんですが、以前より『ほどほど』でいいか、という、妥協・・・というか現実的な判断がうまくできるようになりました。」
「そうですか。それは、確かに、前回のセッションからの効果、という感じがしますね。」
「はい!本当に楽になりました。」ユミコは笑顔で答えた。笑顔になると本当に可愛らしい。

「さて今回は、少し、人間関係に関する話をしていきたいと思います。」
「はい、お願いします。」
「そもそも、ユミコさんのご相談は、彼氏さんとギクシャクするということから始まったわけですよね・・・いや、始まってないか。そういうお申し込みを頂いて、その後夢の中のセッションのお話をして下さって、それで、私との実際のセッションではいきなり夢のワークから入りましたよね。だから、そもそものお悩みについてお話しするのは、今日が始めて、ということになるわけですね。」
「そうですね!」ユミコは嬉しそうに答えた。
「かなりのイレギュラーな展開ですけどね。」
「そうなんですね。」

「それで、彼氏さんとは、いまどういう感じなんですか?」
「あの・・・実は、少し自分でも、どうして彼にイライラするのか、分かってきた気がするんですけど・・・それをお話ししても・・・」
「お、自己分析ですね。ええ、そういう話は大好きです。あ、いや、とても有用だと思いますので、ぜひ、その話をお願いします。」
「あの・・・彼は、私から見ると、いい加減で、適当で、ゆるい、というか、きちんと詰めるべきときに、手を抜くところがダメだと思ってきました。」
「なるほどなるほど。」
「でも、先日のセッションで、私の基準が、厳しすぎるのかもしれない、と思うようになりました。」
「あぁなるほど、だから彼の『いい加減』なところが、余計イラつくと、そういうわけですね?」
「はい。」
「確かに、人は一般的に、自分に許可していないことを、相手にも許可しない、そういう傾向があります。」
「はい、よく分かります。」
「ユミコさんが、ご自身に、適当に妥協するとか、現実的な判断で、理想をちょっと手放すとか、そういうことを許可していないから、彼氏さんにイライラしてしまう。そういう側面は、確かにあると思いますよ。」
「はい、前回のセッションで、気づきました。」

「ただ・・・」ここまでテンポよく話して来たが、ここでドクターは話し方がゆっくりになった。慎重に言葉を選んでいるような様子で、目線を上に向けて、何かを言いたげに口を開いたり、そこからまた小さなため息(のようになつをには見えた)をついたりして、ようやく次の言葉を発した。「このまま、ユミコさんが、完璧主義を捨てれば、彼との問題がスッキリ解決する、ということになるかどうかは、分からないと思います。もっと言うと、ユミコさんが自分の考えを変えても、問題が完全には解決しない気がする、ということです。」
「はい!そう、そうなんです!」ユミコの表情がぱぁっと明るくなった。「良かった!先生には分かってもらえそうで! そうなんです。冷静に考えてみたけれど、やっぱり彼のいい加減なところは、受け入れられないような気がしています。」
「そうですね。そう単純な話ではないと、私も思います。そして、だからといって、バッサリ切り捨てて別れる、というのも、なんとなく違うと感じていらっしゃるのでは?」
「はい、そうなんです。」

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霞の向こうの神セッション(10)|恋愛ドクターの遺産第7話

ドクターとなつを、そしてユミコの3人は、トイレの前まで移動した。オフィスではあるが小さなオフィスなので、家庭用のトイレのようなトイレだ。壁紙は実はなつをの趣味で淡い黄色。生花は管理が大変なので花の絵が置いてある。ドクターは椅子をひとつ持ってきた。トイレのドアを開けると、ユミコが中に入ろうとした。

「いや、始めはユミコさんは入らないでOKです。」

「あっ、失礼しました。」

ドクターはトイレのドアを開けて、便座が見えた状態にして、持ってきた椅子をドアの前に置いた。「こちらに座って下さい。」

「はい。」ユミコは90度より少し開いたトイレのドアの外側で、トイレの方に向いて椅子に座った。

「では、そのトイレに、あの頃の・・・つまり、トイレトレーニングを頑張っていた頃のユミコちゃんが座っているとイメージしてみて下さい。まだうまくできない日もありました。」

ユミコは少し焦点が定まらないような目で、トイレの中を見ている。

「どんな服を着ていますか?」

「ピンクの、長袖のニットに、スカートです。あ、いまは、スカートを脱いでます。」

「髪は長いですか?短いですか?」

「ショートです。おかっぱですね。」

「そして、どんな表情をしていますか。」

「なんか、不安そうです。」

「ほかに、こうしてイメージしていて、気づいたことはありますか?」

「はい。あの『膜』は、そのトイレに座っている子供の私の周りを覆っています。」

「なるほど、あの『膜』がこの頃のユミコちゃんをすでに、覆っていた感じなのですね?」

「はい。」

 

(来た!さすがだ!今日も先生は見事に根っこにたどり着いた!)なつをはそう思った。こうして過去の自分をイメージしたときに出てきた感覚が(ユミコさんの場合は「生々しい」と表現した感覚だったが)現在悩まされている感覚と似ているときは、大抵その過去の出来事が現在悩まされている悩みの根っこのことが多いのだ。ユミコさんはきっと、トイレトレーニングがつらかったのだろう。ダメ出しをいっぱいされて、自信を失ったのかもしれない。それでも頑張った。その感覚が生々しさをはらんだ『膜』の感じとして、今も心の中に未解決のまま残っているのだ。おそらく。

 

 

「では次に、」ドクターは続けた。「子供のユミコちゃんを覆っている『膜』になってみましょう。」

「はい。・・・でもどうやって・・・?」

「なつを君、先ほどのコートを。」

なつをが先ほどの黒いコートを持ってくると、ドクターはそれを広げて、一旦トイレに入り、ちょうど便座に座っているユミコちゃんの頭上あたりに掲げてこう言った。「今は、その『膜』はここにあります。」

「はい。」

「その『膜』を、一旦こっちに持ってきて、」そう言いながらドクターはトイレから出てきて、今度はコートをユミコに着せるように持った。「ユミコさん、あなたがこの『膜』になってみてください。」

ユミコは、先ほどのワークで『膜』になってみたときよりも、いくぶん抵抗があるような素振りを見せながら、その『膜』(実際にはなつをのコートだが)を着た。

「さあ、あなたは今、その『膜』になりました。」ドクターが誘導していく。「どんな感じがしますか?」

「ええと・・・完全に『膜』になりきれてない気もするんですが・・・『膜』として『ちゃんとやりなさい、ユミコ!』と言いたい気持ちと、そんな風に抑えつけたり厳しくしたりするのは何だか可哀想と思う気持ちと、半々です。」

「なるほどそうですか。では、抑えつける方の気持ちから表現していきましょう。そちらの、」ドクターはそう言いながらトイレの便座を指し示した。「便座に子供の頃のユミコちゃんが座っているとイメージして下さい。そして、『膜』として、きちんとトイレでおしっこをすることをしつけるような言葉を言ってみて下さい。」

「ユミコ、お漏らししちゃ、ダメでしょ!きちんとトイレでしなさい、って何度言ったら分かるの!」ユミコ『膜』になりきって、そう言いながらも、目に涙を浮かべ始めた。

 

「ではユミコさん、今度は、」ドクターはそう言いながら、ユミコからコートを脱がせて続けた。「先ほど、『膜』になって子供のユミコさんを抑えつけたらなんだか可哀想と感じたのでしたよね?今度は、そちらの気持ちになってみて下さい。」

「はい。」

「そちらにいる」そう言いながら便座を指し示した。「子供のユミコさんに、何か言ってあげたいことはありますか?」

「ユミコ、ごめんね。ごめんね。ユミコは悪くないよ!」そう言いながらユミコは便座に駆け寄り、子供のユミコを抱きしめた(実際にはそこにはフタが閉まった便座があるだけなのだが、ワークの中では、子供の頃のユミコが座っている設定だ。ワークに入り込んでいるユミコには、本当に子供の頃の自分が見えているのだろう)。そして、大粒の涙をぽろぽろっとこぼした。

 

このあと、少し先生による質問があり、いくつかやりとりがあったが、ほどなくしてその日のセッションは終わった。私なつをは、これで解決なのかと思ったが、先生はもう少し何か気になることがあるらしかった。

 

「ユミコさん、今回のセッションで、かなりいい線まで行ったと、私は考えていますが、そもそもの悩みは、彼との関係、でしたね?」

「はい。」

「そのあたりのことも含めて、もう一回お話ししましょう。」

「はい、お願いします。」

 

「では、今日はここまでとしたいと思います。お疲れさまでした。」

「ありがとうございました。」

(つづく)

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霞の向こうの神セッション(9)|恋愛ドクターの遺産第7話

第四幕 ユミコの幼児決断

 

それから2週間ほど経って、ふたたびユミコのセッションの日がやってきた。
「先生、今日はユミコさんのセッションがある日です。」
「ああ、そうでしたね。なつを君、ありがとう。」
「あれから何か変化、あるんですかね?」
「さあ、どうでしょう。」ドクターは柔らかい調子で答えたが、なつをには、どこかはぐらかしているようにも聞こえた。

ノックの音がして、ユミコが入ってきた。
「先生、こんにちは。」
「ああ、ユミコさん、こんにちは。」

しばらく、事務的な確認事項などを話したのち、核心に迫る話を切り出したのはユミコの方だった。
「先生、実は、気づいたことがあるんです。」
「はい、何に気づいたのですか?」
「それが・・・実は・・・前回の『膜』ありましたよね?」
「ええ。」
「その感覚を思い出しながら生活していたら、実は、トイレに入っているときの感覚に何か似ていることに気づきました。」
「へーぇ。トイレに入ったときの感覚と、あの『膜』が似ていると。」
「はい。あの『膜』には生々しい感じがあるというのを言ったと思うのですが、」ユミコはかなり自信のありそうな口調で言った。
「ああ、確かに、おっしゃってましたね。」
「トイレで用を足す時の感じと、何か似ている気がしたんです。というより、トイレに入っているときに『ふっ』と『膜』のことが思い出されたというか・・・」
「なるほど・・・ちょっと立ち入った質問になりますが、排泄をするときって、何か暖かい感じがあったり、出して気持ちいいという感じがあったりすると思うんですが、たとえばおしっことか。その感じと、『膜』の感じが、何か共通しているということなんですか?」
「はい。あぁ、今言われて分かったんですけど、おしっこをしているときの感じ・・・」そこまで言って、ユミコは急に黙り込んだ。

(あ、何か思い出したみたいだ)なつをは思った。先生はこういうとき、クライアントが次の言葉を発するまで邪魔せずに待つ。私は以前、ここでつい待ちきれずに発言して先生に後で叱られたことがある。相手が言葉を熟成させている間、黙って待てるのもカウンセラーの大事な資質なのだ。

「その感じが?」ドクターはそっと質問を投げて、続きを促した。
「あ、あの・・・その感じが、おしっこをしているときの感じに似ていて、しかも、なぜか子供の頃におもらしをしたときの感じにも似ている気がするんです。」
「へえぇ・・・おもらしをしたときの感じに似ていると・・・覚えているかどうか分かりませんがユミコさんのお母さんは、トイレトレーニングが厳しかった、とか、そんなことはありますか?」
「あ、はい。あると思います。」
「なるほど・・・即答ですね。」
「えと、あの、実際に私がトイレトレーニングをしていた頃のことは、ほとんど記憶にないんですけど、後からきいた話で、幼稚園で恥をかかないように、ということで、早めからトイレトレーニングをキッチリやったという話は聞きました。」

「なるほどね・・・そこが根っこになっていたという可能性は、十分ありますね。」
「そうなんですね!まさかそんなことが・・・」
「いや、まだ結論づけるのは早計です。少し確かめるためのワークをしてみたいのですが。」
「はい、お願いします。」

「では、」そう言ってドクターは席を立った。「せっかくですから、リアリティーのあるやり方で行きましょうか。実際にトイレを使ってワークをしてみましょう。」
「えっ!先生、まさか先生の前でおしっこさせるとかじゃないですよね?」私なつをはつい余計なことを訊いてしまった。
「まさか。それに、それは必要ないと思います。」

(つづく)

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一夜城

今日は運動日。小田原の一夜城散策です。

写真は東海道新幹線の海側の席に座ると、小田原→名古屋方面なら、トンネルに入る直前の一瞬だけ拝めるという観音様です。

東善院の魚籃観音といいます。

一夜城(石垣山)です。


秀吉が小田原攻めをした時の拠点。なんとなく北条氏側に立って見てしまいますね…

で、鎧塚ファームのパンを買って(写真なし)、入生田の地球博物館(休館日)のところに降りて来ました。

霞の向こうの神セッション(8)|恋愛ドクターの遺産第7話

「あなたを包み込んでいた感じを、今から表現してみます。」そう言ってドクターは、コートを手に持って広げ、ユミコの頭の上に広がるようにかざした。
「近いかもしれません。こんな感じでした。」ユミコが言った。
「では、」ドクターはそのコートを手際よくたたみ、先ほど差し示した椅子にそっと載せて続けた。「その黒い膜が、いま、話しかけやすいように、こうやって椅子の上に載ったとイメージしてみて下さい。」
「はい。」
「そちらの椅子に座っているユミコさんからは、この膜は、どんな印象がしますか?」
「ええと、何か、生暖かくて、生々しい感じがします。包まれていると安心な感じも少しありますけど、緊張もします。私に何かを迫ってくる感じがあります。」
「夢の中で決断を迫ったような?」
「はい、そんな感じです。」
「この膜に、何か言いたいことはありますか?」
「私、ちゃんとやっているよ、と言いたいです。」
「では、私にではなく」ドクターは胸に右手の手のひらを置いて、自分を指し示しながらそう言い、今度はその手を椅子の上の「膜」(実際はコートだが)を示しながら続けた「こちらの膜に向かって、言って下さい。」
「私、ちゃんとやっているよ。」
「では、今度は、ユミコさん、こちらの椅子に座って、膜そのものになってみて下さい。なった、と想像しながら座れば、それで大丈夫です。」
「はい。」ユミコは席を立ち、向かい側の椅子まできた。そして「先生、このコートを着てもいいですか?」そう尋ねた。
「その方が『膜になった』という感じがするのですか?」
「はい。」
ドクターはなつをの方をちらっと見た。なつをは小さくうなずいた。そもそもなつをのコートである。他人に着せても良いのか、という確認だった。
「では、着てみて下さい。」
ユミコは無言でコートを着て、そして、先ほどまでコートが置いてあったその椅子に座った。
「膜になってみて、どんな感じがしていますか?」
「きちんとやろう。自分のことは自分でしよう。そんな感じです。」
「良い感じですか?やな感じですか?」
「うーん。きちんとしている、という意味では良い感じですし、少し安心感もあります。でも、ちょっと、堅苦しい感じもしますし、疲れる感じもあります。」
「膜の目から世界を見ると、どんな風に見えますか?」
「ええと・・・いいかげんな人間が多いな、と感じます。少しイライラします。」
「膜の目からユミコさんを見ると、」ドクターはそう言いながら向かいの椅子を手のひらで指し示した。「どんな風に見えますか?」
「他の多くの人みたいな、いいかげんでイライラする感じはありません。まあまあ、きちんとやっていると思います。」

(私のコートが、完全にユミコさんの「膜」になっている)なつをは思った。心理セラピーでは、心の内面にある何らかの要素に姿形を与え、それをたとえば今のように椅子の上に座らせて具現化させて(といっても、本当に実体を持つわけではないが)、話しかけてみたり、あるいは今ちょうどやっているように、そのものになってみたとイメージして、どんな感覚があるのか、世界をどんな風に見ているのかを感じてみる、というワークをすることがある。そうやって、心の中の要素に姿を与え、声を与え、どんな動機を持っているのか、どんな意図を持っているのかを読み解いていくのだ。
詳しくは先生の分析と、ユミコさん本人の解釈に委ねていくことになるが、今のところその「膜」は、ユミコさんに、「きちんと行動」させるような意図、動機を持っているように見える。
(黒い、というのがちょっと気になるけどなぁ。なんとなくネガティブな感じがして・・・)根拠はあまりないが、なつをは漠然とそう思った。

「では、」ドクターは続けた。「こちらの中立の位置に立ってみて下さい。」ユミコさんが座っていた椅子と、「膜」が座っている椅子(今現在は「膜」に見立てたコートをユミコが着て座っているが)の中間の位置、ちょうど椅子と合わせて正三角形になるような位置に自ら立って、今度はそこにユミコが来るように促した。
「はい。このコートは・・・」
「もちろん、その「膜」の椅子に置いてきて下さい。」
ユミコはコートを脱ぐと、軽くたたんで始めのように椅子の上に置き、そして、ドクターが先ほどまで立っていた中立の位置まで移動してきた。
「こうして全体を眺めていると、どんな風に感じますか?」ドクターが質問した。
「ええと。先生と優等生、親と子供、みたいな感じかな。」
「なるほど・・・ここから見ていて、そちらの椅子に座っている、ユミコさんに、何か言ってあげたいことはありますか?」ドクターはユミコが座っていた方の椅子を手のひらで指し示しながら言った。
「ちゃんと出来てるよ。」と言ってあげたいです。
「では、もう一度、実際にユミコさんに話しかけると思って、それを言ってあげてください。」
「ユミコ、ちゃんと出来ているよ。」ユミコの椅子(いまは空椅子だが)に向かって、優しく話しかけるような調子で、ユミコは言った。
「今度は、こちらの『膜』に何か言ってあげたいこと、言いたいことがあれば、言ってみて下さい。」
しばらく沈黙があって、ようやくユミコが口を開いた。
「ええと。よく分かりません。」

少し目線を天井に向けて、考えている様子だったが、しばらくしてドクターが言った。「では、今日は、ここまでにしましょうか。」
「はい。」
「ただ、その『膜』については、まだ消化不良の部分が残っている気がします。」
「私もそんな気がします。」
「ですので、今日のセッションの感覚、特にその『膜』になったときの感覚を、ときどき、思い出すようにして生活してみて下さい。何か気づくことがあるかもしれませんので。」
「はい、分かりました。」
「今日はここまでにしましょう。お疲れさまでした。」
「ありがとうございました。」

(つづく)

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霞の向こうの神セッション(7)|恋愛ドクターの遺産第7話

「そう言えば。」ドクターは切り出した。
「はい。」
「彼との関係を切る方向に進もうと思いながらも、それを切り出して、なおかつ、しばらくはこの家に置いてくれ、と彼に頼むことに対して、良心の呵責を感じているような話が、夢の中に出てきた私のせりふとして、あったみたいですが。」
「そうなんです!夢の中で先生が、このポイントを明確にしてくださったんです。ありがとうございます。」
「いえいえ。私はいびきをかいて寝ていただけですから。」

「先生、いびきをおかきになるんですか?」あ、しまった。私なつをはついまた、余計なところで口を挟んでしまった。
「なつを君、それはどっちでもいいことでしょう。よく寝ていた、ということを例えて言っただけですから。もう少し大事なところに食いついてほしいなぁ。」
「すみません。」先生の言うとおりだった。

「失礼しました。」ドクターは、ユミコの方に向き直って言った。「せっかくですから、夢の続きを見てみませんか?」
「えっ?」
「いや、失礼。実は心理セラピーには、夢判断のワークがあるんですよ。今回の場合、かなりリアリティーのある夢を、覚えていらっしゃる。しかも、明らかに、今の悩みと関係ある内容の夢ですよね?」
「そうですね・・・それで・・・?」
「夢判断というと、フロイト流の、縦に屹立しているものはペニスの象徴で、それが出てくるということは性的エネルギーの抑圧で・・・みたいな、型にはめた分析が有名ではありますが、私が大事にしているのはそれとは違うやり方のものです。」
「違うやり方・・・ですか?」
「夢の中に出てきた要素、つまり人物、場合によっては場面・・・部屋そのものとか・・・になってみるんですね。なってみて、どんな感じがするか、どんな言葉を言いたくなるか、登場する要素を擬人化してみて、セリフを言わせてみる・・・というか、自分でそれになるわけですから、セリフを『言ってみる』の方が正確かな・・・というわけです。」
「それで、何が分かるのでしょうか?」
「何が分かるかは、やってみるまで分かりません。ただ一般的に、色々気づきがあることが多いものなんです。これは、ゲシュタルト療法というセラピーの分野では、基本的な技法として知られています。」
「へぇ・・・」まだ半信半疑のユミコに対して、ドクターはもう、そのワークをやると完全に決め込んでいるようだった。

「まあその前に、方針の確認をさせて下さい。夢の中でそう決めた、というお話は伺ったわけですが、本当に夢の中で決めた方針通りで良いのか、やっぱりしらふの時に確認した方がいいですよね。」
「はい。」
「しらふ、ってのもヘンな言い方ですけどね。」
ドクターとユミコはクスッと笑った。
そのあと、ドクターは、ユミコが夢の中で決めた方針、つまり、(1)コウジとは別れる方向で検討する、(2)確かに今気になっているのは職場の上司だが、不倫になるような関係は選ばない、結果しばらく「恋愛を休む」方向で考える (3)コウジと同棲を解消するには少し準備が必要で時間がかかりそうなので、できればしばらく別れた後も同居するという方向が可能ならそうしたいが、色々微妙な要素をはらむ選択ではあるので、その部分こそ、このセッションの中でしっかり考えて結論を出す。まあそんな方針を確認した。

「まあ、夢の中で決めたことは、割と合理的でしたね。今考えても、結論がほとんど変わらないようですね。」
「はい、そうみたいです。」

「ではいよいよ、先ほどお伝えした、夢判断のワークに入っていきたいと思いますが・・・ユミコさんの三日間の夢の中で、一番印象に残っている要素は、何でしょうか?」
「ええと・・・三日とも、先生が最後に私に決断を迫りましたよね?なんか、それがとても印象に残っています。」
「そうですね。そうおっしゃると思いました。」

(やっぱり。)私なつをも、そう思った。夢の中の「先生」は、実在の先生と比べて押しが強く、決断を迫ったり、どこか違和感があった。もちろん、夢の中の人物は、ユミコさんの心の一部が形を持って具現化したものである。だから、実在の先生と違っていて当たり前なのだが。そして、私も、そこが気になった。その「押しの強い先生」は、ユミコさんの心の中の、何が現れたものなのだろう。
また、こんな感じで、自分の世界に浸って考え事をしているうちに、セッションが進んでいく。

「それを、こちらの椅子の上に載せてみてほしいのですが、夢の中の印象をなるべくそのまま表現するとしたら、どんな姿形で、ここに載せるとぴったりする気がしますか?」
「ええと、その椅子じゃなくて、もっと、この部屋全体というか、大きいもののような感じがします。私を包み込んでいる黒い膜・・・コウモリの羽根のような黒い膜状のもの・・・という感じです。」
「なるほど。」ドクターはそう言って、なつをの方を向いた。「なつを君、キミのコートを借りたいのですが。」
「え、あっ、はい。」なつをは部屋を出て、黒いコートを持って戻ってきた。
「ありがとう。」ドクターはコートを受け取って、ユミコの方に向き直った。「このコートを、その、夢の中に出てきた黒い膜だと思って下さい。」
「はい。」
「あなたを包み込んでいた感じを、今から表現してみます。」そう言ってドクターは、コートを手に持って広げ、ユミコの頭の上に広がるようにかざした。
「近いかもしれません。こんな感じでした。」ユミコが言った。
「では、」ドクターはそのコートを手際よくたたみ、先ほど差し示した椅子にそっと載せて続けた。「その黒い膜が、いま、話しかけやすいように、こうやって椅子の上に載ったとイメージしてみて下さい。」
「はい。」
「そちらの椅子に座っているユミコさんからは、この膜は、どんな印象がしますか?」
「ええと、何か、生暖かくて、生々しい感じがします。包まれていると安心な感じも少しありますけど、緊張もします。私に何かを迫ってくる感じがあります。」

(つづく)

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