霞の向こうの神セッション(13)|恋愛ドクターの遺産第7話

「彼は、おおらかで、小さなことにもキリキリしてしまっていたユミコさんを優しく包んでくれたんですね。」
「はい、当時、そう感じていました。」
「そのおかげで、ユミコさん自身も、少し自分をゆるめることが出来るようになった・・・のですか? あ、勝手に推測してしまいましたが。」
「え、あ、はい。その通りです。彼がいてくれるおかげで、何でもきちんとやり過ぎず、『まいっか』みたいな心を持てるようになったと思います。」
「彼のおかげで、自分をゆるめることを覚えた。これは、実は必要な成長の段階なので・・・」
「そうなんですか?」ユミコはちょっと驚いたような調子で言った。
「ええ。そうです。」相変わらずドクターは、いつも通りの調子で応えている。「子供時代から、学童期まで、とにかく、もっと、もっと、と毎日、毎週、毎月、毎年、以前よりも成長した自分を作っていきます。まあこれは、人間として必然的なことです。でもどこかで、成長のアクセルをゆるめるときが来るのです。そのタイミングが来ているのに若い頃と同じようにずっとアクセルを踏み続けると、おかしくなってしまうんですね。」
「私、おかしくなりかけてました。」
「そのときに、ゆるめてもいい、ゆっくりしてもいい、『もっともっと』と頑張らなくてもいい、と、自分をゆるめることができるというのが、逆説的ですが、この段階での成長なのです。」
「なるほど・・・成長期とは違うのですね。」
「そうなんです。そういう意味で、ユミコさんの場合、彼と出会ったことが、いい成長のきっかけになったのだな、という風に、私には見えました。」
「ああなるほど。そう考えると、私と彼の出会いも、意味があった気がします・・・でも・・・」ユミコはまだ少しばかり腑に落ちないといった表情をしている。
「でも・・・?」
「彼が、同じように成長の段階を踏んで、自分をゆるめることが出来るようになった、とは思えません。」
「ははは。なるほど。なかなか厳しいですね。」
「あ、すいません。」
「いやいや、男性を甘やかさない女性、歓迎ですよ。そうあるべきです。」
ユミコは少し照れた様子で黙っていた。

ふう、と一息ついて、ドクターが口を開いた。「そうですね。確かに彼が、今のまま、もっとゆるんでしまったら、社会生活を送る上で必要な能力が足りないまま、『まいっか』『これでいっか』となってしまいそうですね。」
「そうなんです。それって、そのままではダメですよね?」ユミコは少し不安そうな調子で訊いた。
「ここは、なかなか難しいところです。上から目線で『いい』『ダメ』と判断するような権利は誰にもないと思うんですが、実際、生活を共に送ることを考えると、ちょっと無理、という相手はいると思います。こちらに十分なゆとりがあれば、彼のゆっくりペースの成長につき合ってあげることも可能かもしれませんが、仕事もあるし、子供も欲しい、その中で自分自身の楽しみも必要だし、将来に向けての学びも必要だし、貯蓄も・・・と考えていくと、『あなたとはムリです』という結論を出すことも、立派な決断だと思いますよ。」

「そうですよね・・・」ユミコは納得しているようだったが、それでも何か、まだ少し引っかかるものがあるようだ。

「ところで、今私が考えた用語ですが『理想人間』と『感情人間』という考え方を、ちょっと持ってみませんか?」
「『理想人間』と『感情人間』ですか?」ドクターがヘンな表現をしたので、ユミコはちょっとクスッと笑った。
「ええ。何かを決めるときに、自分の感情・・・まあ簡単に言えば『快』『不快』で決めるのが感情人間。それに対して『筋が通っている』『価値観に合う』『道徳的』『そうあるべき』といった、理想を掲げて、それに沿っているかどうかで決めるのが『理想人間』です。」
「あっなるほど。彼は感情人間、私は理想人間の方だと思います。」
「そうですよね。そして、お互いに、自分の持っていない要素ですから、相手に惹かれるわけです。」
「ああなるほど。そうかもしれません。私、自分の感情をあまり感じていなかったから、感情豊かな彼に惹かれたのかもしれません。」
「そうですね。そして、お別れするときのポイントですが・・・」
「はい!ぜひお願いします。」
「相手に期待していた要素を、ある程度、自分のものとして身につけることが大事です。このように、自分が持っていない要素を相手に求めて始まった恋愛の場合、相手の持っている要素を自分のものに出来たとき、依存や執着をせずに、相手との関係を終わらせることが出来ます。」
「はーーーー・・・・」ユミコは、わかったーという顔をして、しばらく「はー」と言い続けた。そして、続けた。「そっか、それで私は、彼と離れることに、何だか抵抗があったんですね。まだ、自分ひとりで、感情を大切にしたり、理想ばかり追求せずに自分の気持ちベースで『まいっか』と判断したりする自信が、ないんだと思います。」
「だから、イライラしながらも、彼をそばに置いておこうとしてしまう、と。」
「そうです。」
「それなら、彼がいなくても、自分の中に、感情を大切にして物事を判断する基準というか、人格というかが育ってくれば、彼を手放しても大丈夫、という気持ちになれると思いますよ。」
「そうなんですね!まだ実感はないですけど、その方向でやってみたいです。」

「あの・・・横から口を挟んですみません。」私なつをはどうしても気になることがあって、つい口を挟んでしまった。「確か、夢の中のセッションでは、彼氏さんとは別れる方向で考えているけれど、何か踏ん切りが付かなくて、その理由が、完全に別居するまで居候させてもらうのが気が引けるとか、そんな感じでしたよね?」余計なことを言って先生に突っ込まれるかとドキドキしながら先生の方を見たら、先生は納得した様子でうなずいていた。

「ああ、なつを君、良いポイントですね。いつそのことを訊こうかと考えていました。そう、確か、夢の中では、彼氏とは別れるけれど、何ヶ月か住まわせてもらうことに対して、良心がとがめる的な動機だったんですよ。こうして話していてたどり着いた動機と違っているので、どっちが本当なんでしょうね、という話をしたいと思っていました。」
「ああ・・・なるほど・・・両方ある気がします。ただ、自分の中に『感情人間』の要素が少なくて、彼を失うと、それを失ってしまうことが抵抗があったんだな、という、今先生が話して下さった原因の方が大きいと思います。」

「そういうことですか。なるほど、納得です。」ドクターはそう言ってなつをの方をちらっと見た。
「あ、はい。私も納得しました。話の筋は通っているし、これで進めていいと思います。」先生に意見を言うのはいつも緊張する。
先生も今回は納得したようで、私の言葉をうなずいて聴いてくれた。

(つづく)

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