霞の向こうの神セッション(9)|恋愛ドクターの遺産第7話

第四幕 ユミコの幼児決断

 

それから2週間ほど経って、ふたたびユミコのセッションの日がやってきた。
「先生、今日はユミコさんのセッションがある日です。」
「ああ、そうでしたね。なつを君、ありがとう。」
「あれから何か変化、あるんですかね?」
「さあ、どうでしょう。」ドクターは柔らかい調子で答えたが、なつをには、どこかはぐらかしているようにも聞こえた。

ノックの音がして、ユミコが入ってきた。
「先生、こんにちは。」
「ああ、ユミコさん、こんにちは。」

しばらく、事務的な確認事項などを話したのち、核心に迫る話を切り出したのはユミコの方だった。
「先生、実は、気づいたことがあるんです。」
「はい、何に気づいたのですか?」
「それが・・・実は・・・前回の『膜』ありましたよね?」
「ええ。」
「その感覚を思い出しながら生活していたら、実は、トイレに入っているときの感覚に何か似ていることに気づきました。」
「へーぇ。トイレに入ったときの感覚と、あの『膜』が似ていると。」
「はい。あの『膜』には生々しい感じがあるというのを言ったと思うのですが、」ユミコはかなり自信のありそうな口調で言った。
「ああ、確かに、おっしゃってましたね。」
「トイレで用を足す時の感じと、何か似ている気がしたんです。というより、トイレに入っているときに『ふっ』と『膜』のことが思い出されたというか・・・」
「なるほど・・・ちょっと立ち入った質問になりますが、排泄をするときって、何か暖かい感じがあったり、出して気持ちいいという感じがあったりすると思うんですが、たとえばおしっことか。その感じと、『膜』の感じが、何か共通しているということなんですか?」
「はい。あぁ、今言われて分かったんですけど、おしっこをしているときの感じ・・・」そこまで言って、ユミコは急に黙り込んだ。

(あ、何か思い出したみたいだ)なつをは思った。先生はこういうとき、クライアントが次の言葉を発するまで邪魔せずに待つ。私は以前、ここでつい待ちきれずに発言して先生に後で叱られたことがある。相手が言葉を熟成させている間、黙って待てるのもカウンセラーの大事な資質なのだ。

「その感じが?」ドクターはそっと質問を投げて、続きを促した。
「あ、あの・・・その感じが、おしっこをしているときの感じに似ていて、しかも、なぜか子供の頃におもらしをしたときの感じにも似ている気がするんです。」
「へえぇ・・・おもらしをしたときの感じに似ていると・・・覚えているかどうか分かりませんがユミコさんのお母さんは、トイレトレーニングが厳しかった、とか、そんなことはありますか?」
「あ、はい。あると思います。」
「なるほど・・・即答ですね。」
「えと、あの、実際に私がトイレトレーニングをしていた頃のことは、ほとんど記憶にないんですけど、後からきいた話で、幼稚園で恥をかかないように、ということで、早めからトイレトレーニングをキッチリやったという話は聞きました。」

「なるほどね・・・そこが根っこになっていたという可能性は、十分ありますね。」
「そうなんですね!まさかそんなことが・・・」
「いや、まだ結論づけるのは早計です。少し確かめるためのワークをしてみたいのですが。」
「はい、お願いします。」

「では、」そう言ってドクターは席を立った。「せっかくですから、リアリティーのあるやり方で行きましょうか。実際にトイレを使ってワークをしてみましょう。」
「えっ!先生、まさか先生の前でおしっこさせるとかじゃないですよね?」私なつをはつい余計なことを訊いてしまった。
「まさか。それに、それは必要ないと思います。」

(つづく)

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