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性癖を直す(6)|恋愛ドクターの遺産第2話

「先生、依存症は、マイナス感情を持っているのに、それにフタをして、強い刺激を求めることで生じる。これは、心理学の本にも書いてありましたし、先生もおっしゃってましたよね?」なつをは例によってドクターを質問責めにしていた。
「まあ、一般的にはそうです。」

「でも、まいくんの場合、マイナス感情を解消するだけではダメなんですか?」
「まあ、たぶん、放っておいても、ある程度は自然に解消していくんじゃないかとは思うんですけどね。念のため、です。ちゃんと取り扱ってあげた方が解決も早いし、トラブルも少なくなります。」

「はぁ・・・」

「この際だから、依存症の出来る仕組みについて、ちょっと覚えておいて下さい。依存症というのは、喜びを感じる『正しい』感覚、というか正しい仕組みが機能しなくなって、その代わりに、社会的、あるいは健康的に問題のある方法で喜びを得ようとしてしまう状態のことです。」ドクターは早口で説明をした。
「社会的に・・・なるほど・・・」なつをは先生の考えについていくのがやっとだった。
「たとえば私たちは、美味しいお寿司のお店に入ったとします。食べて美味しかった、楽しかった。そういう体験をすると、またそこに行きたいと思います。」
「そうですね。」
「これは、自然な反応です。」
「はい・・・」
「喜びがあると、またその方法で喜びを得ようとする、というのが、我々人間の本能です。」
「そうですね。」

「確かに、依存症の背景には、たとえば幼少期の愛情飢餓や、何らかの心理的ストレスなどがあって、そこに、強い喜び、強い刺激が入ってくることで、その刺激に依存してしまう、という構図があるのは事実です。ですが、シンプルに、美味しいお寿司をもう一回食べたい、というのと同じような『その喜びをもう一度得たい』という基本的な反応も、そこにあるのです。」

「なるほど。では、まいくんの場合、過去のマイナス感情や愛情飢餓とは別に、女性の鎖骨にほくろがあって、それで・・・何か性行為というか、そういう喜びを得た経験があるから、それをもう一度得たい、という欲求が生まれている、ということなんですね?」

「そういうことです。そちらの、喜びをもう一度得たい、という欲求の方も、ちゃんと取り扱ってあげることが大事なのです。」

「でも先生、それって、どうやって消すんですか?」

「消しませんよ。」

「えっ? では、どうやって・・・」

「もうすぐまいくんがいらっしゃいますから、まあ見ていてください。」

「はい!」
ドアをノックする音が聞こえた。まいくんが来たのだ。「どうぞ」ドクターが答えると、まいくんが入ってきた。前回のセッションの時よりも、ずいぶん表情が明るい。

「先生、こんにちは。よろしくお願いします。」
「こんにちは。まいくん。今日もよろしくお願いします。元気そうですね。」
「はい。おかげさまで。ずいぶん気持ちが軽くなりました。」

まいくんが着席すると、ドクターは質問を始めた。
「奥さまとはどうですか?」
「一度、してみたのですが、まだなんとなく、やっぱり・・・ほくろもないですし・・・」
「なるほど、やっぱりまだ、奥さまを女として見る感じには・・・」
「なっていないです。」

「今日は、そのあたりを解決していきたいと考えています。」
「はい。ぜひお願いします。」まいくんは、ぺこりと頭を下げた。

そのあと、いくつか状況の確認のための質問をしてから、ドクターは本題に入った。

「では、これから、統合のワークをしたいと思います。」
「はい・・・?」
「まあ、分からなくても大丈夫です。順に誘導していきますので。」
「お願いします。」
「まず、鎖骨のあたりにほくろがある女性を目の前にしたときの感覚を思い出してみてください。」

「えぇと・・・はい。」まいくんの頬や、首のあたりがほんのり赤くなった。
「右手をこのように出して、そのときに感じる感情のエネルギーを、その手の上に載せてみたとイメージしてみてください。」ドクターは右手の手のひらを上にして、自分の前に出して見せた。
まいくんも同じように右手を目の前に出した。そして・・・手の上には何もないのだが・・・その手の上にあるエネルギーを想像しているようだった。しばらくして言った。「はい。」
「そのエネルギーに色や形があるとしたら、どんな色や形ですか?」
「えぇと。明るい赤紫色、ですね。まるくて、でも少しドライアイスの煙みたいに、輪郭がモヤモヤしています。」
「なるほど、赤紫で、丸くて、輪郭がモヤモヤしている・・・」
「はい。」
「温度や感触はありますか?」
「えぇと・・・生暖かい感じで、なんか、エロいというか、独特の感じがします。」

(つづく)