恋愛ドクターの遺産 第一話 第一幕 「ノート」
「ゆり、このノートをあげるよ。」
ゆり子は、父が差し出した黄ばんだノートを受け取り、表紙を、そして裏返して裏表紙を眺めた。(埃っぽいな)ゆり子は思った。表紙には「A」とだけ書いてある。そのときちょうど「ボーン・ボーン・・・」柱時計の音が鳴った。文字通りそれはおじいちゃんの時計だ。もちろんゆり子自身はそんな時計を家には置かないが、実家は物持ちがいい方で、両親はその時計をいまだに手入れして使っている。
「お父さん、これって・・・」
「ああ、おじいちゃんのノートだよ。」
曰く、ゆり子の祖父(つまりゆり子の父親の父親だ)はカウンセラーをやっていたそうで、頭脳明晰、当時「恋愛ドクター」の異名を取っていたのだとか。一度親戚が集まったときにそんな噂を聞いたことがあったが、父も末っ子、ゆり子も父親が40過ぎで生まれた子なので、物心ついた頃には祖父は他界していて、ゆり子は直接話した記憶はない。赤ん坊の頃に抱っこされた写真だけが、唯一、祖父との関係を示す証拠だった。
「おじいちゃんのノート・・・これを・・・」
ゆり子がどう受け取っていいのか戸惑っていると、父が言った。
「ああ、ゆり子のおじいちゃんは、恋愛ドクターと言われていたんだよ。恋愛とか結婚生活の悩みに、鋭く切り込んだアドバイスをしていて、評判だった。それと、その傍ら、どこまで本当の話なのか、どこまでフィクションなのか分からないノートを残していたんだ。」
「それがこのノート・・・?」
「そう。恋愛ドクターの遺産(レガシー)だ。お父さんは勝手にそう呼んでる。お父さんも若い頃、恋愛で悩んだときに、おじいちゃんのこのノートをこっそり見て、色々勉強させてもらったんだ。役に立ったこともあったし、的外れのこともあったけど、このノートがあって良かった。今はそう思う。」
ゆり子はノートを開いて、ぱらぱらとめくった。丁寧な文字でびっしりと書き込まれている。
「ありがとう。お父さん。」
昨夜、メルマガが届き見てみたら鳥肌が立ち居ても立ってもいられませんでした。夫婦間のやり取りが上手くいかず、私の言葉、態度が妻を深く傷付けてしまいました。このストーリーの夫と妻に私達夫婦が重なって見えました。私は非常に激しい後悔と妻を幸せにしたい、なって貰いたい気持ち、今まで聞かなかった閉ざしてしまった心の声を受けとりたいんです。これまで以上の夫婦になりたくて。このストーリーには夫婦の救い、希望がありますか?知りたいです。
コメントありがとうございます。
・・・この物語はあくまで私がつむぐ物語。私はいい話だと思って書くわけですが、当然、幸せな話も苦しい話も出てきます。そこに希望があるかどうかは、お読みになってご判断ください。
そしてなによりも、あなた自身の人生という物語は、私が紡ぐものではなく、あなた自身が生きて紡ぐものではないでしょうか。救いは、私の書く話の中などにはありません。あなた自身がどう生きるか、の中にこそある。そういうことではないでしょうか。
あづま先生、返信ありがとうございます。昨夜は取り乱してしまいましたが、ココヘルの先生のセラピーを自身に問うて見えて来た思いもあります。自身の罪悪感の元を認められる様になり、妻への想いも今までの恥ずかしさで隠さず、伝えられる様になりました。ただ妻へはまだ伝わっていないようです。妻の心を想い、今私が共感を受けているココヘルを見て見たらどうかな?と伝えて見ました。