シングルを卒業(2)|恋愛ドクターの遺産第5話

第二幕 恋愛哲学

ゆり子は「恋愛ドクターの遺産(レガシー)」ノートを開いた。このノート、元々はゆり子の祖父の手記である。ノートは父から受け継いだのだが、今は受け継いだまま、段ボール一杯に入っている。いつも、悩んだときはそのうちの一冊を「えいやっ」と抜いて、開くのだった。このやり方も、父から受け継いだ。すると、今悩んでいることと、不思議なぐらい符合する内容が書いてあるのだった。
今回選び出したノートは、他のノートよりいくぶん厚いようだった。「まあいっか。流れに任せるのがこのノートの使い方だったっけ。」ゆり子はつぶやいて、早速ノートを読み始めた。
・・・

「先生、やっぱり頭の悪い女性は嫌いだ、ということなんですか?」なつをが恋愛ドクターに、食ってかかるような調子で質問をしている。もうありふれた日常だ。
「まあ、良い悪いは置いておいて、私は自分が色々考えたことを話して、それが通じるような相手でないと、一緒にいてもがっかりの連続になってしまう。だから、私にとっては知的な女性である、という要素は、はずせないものなんです。」
「なるほどねー、才色兼備な人が良いってことですねー。」なつをはメモを取っている。
「なつを君、そこのメモは必要なんですか?」
「もちろん、大事です。」
「べつになつを君が、私とつき合うわけではないのだから、私の好みを把握しても役に立たないと思いますが。」
「うーん。うまく言えないけど、大事なんです。」

いま、二人は、恋愛談義の真っ最中だ。といっても、議論というよりは、なつをが一方的に恋愛ドクターA(ゆり子の祖父)に、恋愛哲学・・・というよりもっと実用的なもの・・・即ち、長続きするパートナーシップの秘訣を聞いているところだ。なつをの質問責めに対して、ドクターが堂々と持論を展開する、という、おなじみの光景だ。

「先生は、奥さまのどこが気に入って結婚されたんですか?」
「・・・いきなり直球ですね。いろいろありますよ。・・・でも、一番は自己肯定感があって・・・これはつまり、本人が自分を好き、っていう感覚をしっかり持っているということですが・・・基本的にポジティブ、というところだと思いますね。そういう人は、一緒にいて安心感がありますから。」
「なるほど。」
「そこはメモを取っても良いところだと思いますよ。」
「あっ」なつをは慌ててメモを取った。「でも、自己肯定感があってポジティブだったら、誰でも良い、というわけではないと思うんですよね。外見とか、趣味が合うとか、そういう面は関係ないんですか?」
「あぁ、関係あると思いますよ。外見は、人それぞれ好みがあるから、一般化するのは難しいですが、女性は概して、外見に凝り過ぎだとは思います。最新のファッション雑誌に載っているような微妙なニュアンスの差が分かる男性はあまりいません。それこそ10年前のファッション雑誌に載っているような、ちょっと古い、というかトラディショナル、というんでしょうかね、そのぐらいの外見をした方が、男性には通じることが多いと思うんですよね。」
「先生もそうですか?」
「私は、そうですね。ファッションには割と疎い方なので。」
「外見はあまり凝らない方がいい、と。」メモを取りながらなつをはつぶやいた。
「なつを君は、もう少し凝っても大丈夫だと思います。」少しニヤッと笑ったような表情を浮かべながら、ドクターが言った。
「えっ!? あぁ確かに、私、あんまり化粧っ気ないですしね。」なつをはそう言いながら少し頬が赤くなった。そして、ドクターが何か言おうとするのを遮るように質問をかぶせた。「先生、奥さまはわりと可愛らしい雰囲気の方ですが、美人系と可愛い系では可愛い方が好みなんですか?」
やれやれ、といった表情でドクターが答えた。「それを知っても、なつを君の恋愛には役立たないと思いますが・・・どちらの顔立ちのタイプともつき合ったことはあります。基本的に、内面的には気持ちが明るく、見た目的には健康的な美しさがあることは大事かな、とは思いますが、美人系か可愛い系かと言われると・・・そんなに好みに偏りはないですよ。」今度はドクターがみさおの次の質問を封じるかのように、持論をさらに話し始めた。
「基本的に、自分が好き、自分は可愛い、って思っていたら、そのセルフイメージにふさわしくあろうとするものです。無理はせず、自然な感じで可愛らしくするし、必要に応じてお化粧やファッションを活用するはず。逆に、今の自分が嫌い、自信がない、可愛くない、というセルフイメージがあると、自分を塗りつぶして消すためのお化粧をしてしまったり、自分を隠すための服を着てしまったりすると思います。」
「あ、なるほど。分かります。」
「お化粧をするのがいい、しないのがいい、という話ではなくて、自分は可愛いから、その可愛い自分にふさわしい外見で出かけよう、と思うのか、自分は可愛くないから、素の自分を塗りつぶしたり、隠したりして、別の外見を作ろうとしているのか、その違いは大きいと思いますよ。」
「あぁ、なるほど、だから、先生の話の最初に、自己肯定感の話をされたんですね。」
「そういうことです。同じようなメイクやファッションをしていたとしても、自分はこれでいい、という前提を持っているのか、自分はそのままでは全然ダメ、という前提を持っているのかで、違いが出てくると思いますよ。まあ、若い男性などは、最初は外見に騙されますけどね。」
「騙される・・・?」
「そうですね。内面は、確かににじみ出るものですが、ただ、内面的には自己否定が強くても、美しくメイクをしていれば、それを見抜けない男性もいる、ということですね。ちょっと言葉が悪かったかな。」
「先生、私と話していると時々、相談者さんには言わない毒舌、言われますよね?」
「まあそれは、時と場合をわきまえた発言をしている、ということで。」ニヤニヤしながらドクターが言った。

会話はこのあと、少し毒のある雑談の応酬になったが、ほどなくして、なつをが口調を真面目に戻して、言った。
「先生、今日の相談者さんは、みさおさん36歳、恋人が出来ない悩みだそうです。」
「そうですか。」
「そういえば先日、美人なので恋人が出来ない、という方がいらっしゃいましたが、また同じようなお悩みなんでしょうかねぇ・・・」
「それは分かりません。恋人が出来ないという悩みの原因は、本当に千差万別なので、よくよく話を聞いてみるまでは、勝手な判断は禁物です。」
「はい、そうでした。」
「ところで、彼女の『恋人がいない期間』はどのぐらいですか?」
「えぇと、相談申込の時に頂いた情報によると、これまでの人生で一回も恋人ができたことがないそうです。」
「そうですか。これは結構骨が折れる話になるかもしれませんね。」
「えっ? そうなんですね。」

(つづく)

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