「先生、これで治るんですかね?」
「今日のセッションだけでも、随分軽くなるはずです。でも、これだけだとまだ十分じゃないと思っています。」
「はい。」
「まず、あと、残りの時間で、『ゆるしのワーク」をやりましょう。」
「はい。」
ドクターは、なつをに椅子を持ってこさせると、ゆるしのワークを始めた。
「悪くないんだよ」
「よく頑張ったね」
「優しい子だね」
の三つのゆるしの言葉を、過去の自分にかけてあげるワークだ。
まいくんは、あの、小学生の時の衝撃的な体験をした、過去の自分に、何度も何度も、ゆるしの言葉をかけていた。
「先生、随分軽くなりました。こういう根っこを抱えていない方って、こんな風に軽い気持ちで毎日生きているものなんでしょうか?」
「私も、全ての人の感覚が分かるわけではないですし、他の人の感覚って、知るのが難しいですから、何とも言えませんが、たぶん、そうだと思います。」
「これで、治りますかね?」
「そうですね、これで、随分良くなると思いますが、次回、もう少し仕上げをしたいと考えていますので、今日やった『ゆるしのワーク』はご自宅で、何度か見よう見まねでいいですから、やっておいて下さいね。」
「次回は、何をするんですか?」まいくんが尋ねた。
「そうですね。説明すると長くなりそうなんですが・・・今回は、ほくろに向かっていくときのネガティブな感情を癒すワークをしました。次回は、まいくん、ワークが終わった今でも、ほくろを見ると、何か興奮というか快感というか、プラスの感情を感じて、そこに向かっていきたくなる感じ、持っていますよね?」
「あ、確かに持ってます。以前より『得体の知れない感じ』はなくなりましたけど、でも、やっぱり、何かそこに向かっていきたくなる、というか、そうですね、純粋に興奮するとか求めたくなるとか、そういう感じはまだあります。これは、家で先ほどのワークを繰り返したら消えて行くもんなんですか?」
「いえ、おそらくそれは、消えないと思います。プラスの感情というか衝動・欲求、ですよね。人間は一度快感を感じたものは、もう一度やりたくなるわけです。そこに負の感情をフタしている、というような要素が加わると、さきほどの『得体の知れない感じ』などが現れたり、現実的には依存症になったりするわけです。」
「はい。」
「ネガティブな感情を癒す方は、ですから、大事なんですが、それだけではなくて、どんな女性に『女』を感じて興奮するか、みたいな性的嗜好の部分は、これまでに、どんな女性と楽しい想いを共有してきたか、どんな女性といいセックスをしてきたか、みたいな経験も含めた、プラスの経験が関係しています。」
「それを消すと。」
「まあ、それは次回のお楽しみ、ということで。消したらもったいないでしょう? せっかく楽しい思い出があるのに。」
「なんだか、楽しみになってきました。」
「では次回。おたのしみに。」
「はい、では次回。おたのしみにしてます。」
まいくんは、わざと「お」を付けて言い、ドクターと二人で笑って、そして部屋を出て行った。
(つづく)