「温度や感触はありますか?」
「えぇと・・・生暖かい感じで、なんか、エロいというか、独特の感じがします。」
「なるほど。では、右手の上のエネルギーは、そのまま少し持っていてください。」
「はい。」
「では次に、今度は、奥様と一緒にいるときの感覚を想像してみてください。」
「はい・・・えっと、今度は、落ち着いていて、少し温かい感じですかね。」
「その時に感じる感情のエネルギーを、今度は左手の上に載せたとイメージしてみてください。」ドクターはそう言いながら、左手も、手のひらを上にして目の前に出した。
「はい。」まいくんもそれに倣って、左手を出した。そしてまた、その上にエネルギーを乗せたところをイメージしているようだった。
「今度は、そのエネルギーに色や形があるとしたら、どんな色や形をしていますか?」
「はい。白くて、丸くて、輝いています。あ、少しだけ黄色っぽいというか、暖かい感じの色です。」
「温度や感触はありますか?」
「えぇと、暖かくて、柔らかくて、フワフワしています。」
ドクターはここで、ふぅ、と軽くため息をついた。
「では、両方の手の上のエネルギーをもう一度しっかりとイメージして」そう言いながらドクターは自分の右手、左手、と順番に視線を送った。
まいくんも、ドクターに倣って、順に、自分の両手を見た。
「こんな風に、二つのエネルギーを近づけて、ひとつに統合してみてください。」そう言いながらドクターは、それまでそれぞれ別々に「エネルギーを持っていた」自分の両方の手を、両手で水をすくうような形に寄り添わせた。
まいくんも、ドクターに倣って、両方の手を、次第に近づけていき、水をすくうような形に寄り添わせた。そのとき、まいくんの顔に軽い驚きの表情が現れた。
「いま、何が起きていますか?」ドクターは尋ねた。
「えと、あの、うーん。」しばらく考えてから、まいくんは言った。「うまく説明できないんですが、なにか、混ざったというか、入っていった感じです。」
ドクターは、なるほど、というように、ゆっくりと三回うなずいた。
・・・
セッションは静かに終わり、まいくんは帰っていった。
(鎖骨にほくろのある女性に感じる「生暖かくてエロいエネルギー」と、奥さんから感じる「落ち着いて温かいエネルギー」を統合してしまうなんて・・・)なつをはセッションを振り返って考えていた。衝撃だった。
何が衝撃だったのか、言葉に出来ない。ただ、まいくんの表情を見れば、本人にとって喜ばしい変化が起きたことは明らかだった。セッションの結果に疑念はない。ただ、そんなやり方アリなのか、という驚きが大きすぎた。
その日、なつをは家に帰っても寝付けなかった。それほど、衝撃的な体験だったのだ。夜になって、少しずつ自分の中で、言葉にならない感覚が、意識化、言語化できてきた。眠れないふとんの中で、なつをは今日のセッションを振り返っていた。
(そうか、私は「性」を神聖なものと考えるあまり、あんな風に「軽く扱って」はいけないと思っていたのだ。先生がパッパッと指示を出し、セッションがテンポ良く進んで、軽ーく解決したように見えたから、なんと言うか、簡単にキレイになるからといって仏像に掃除機を掛けるような安易さを感じたのだ。)
セッションからもう何時間も経っているのに、まだなつをは体が熱かった。
考えるのに疲れて、いつの間にか眠りに落ちていった。
(つづく)
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