結局私なつをが代表として、クライアントに方針を告げる役割をすることになった。しばらく三人で方針を打ち合わせた後、いざ、実践の時が来た。なんだか体中に変な汗をかいている。のりこ役の湯水ちゃんを目の前にして、いよいよ、方針の提案だ。
「あの、のりこさん。『呪い』とのことでしたが、こちらでよく調べて、検討した結果、やはりそれは偏頭痛ではないか、という結論になりました。偏頭痛はストレスがかかったときや、あるいは、そのストレスからの緊張がほぐれたときに症状として出やすいため、のりこさんのケースにはよく当てはまります。」
「はぁ・・・偏頭痛ですか・・・でも頭の全体が痛いのですが。それに吐き気もするし。」のりこ役の湯水ちゃんも名演技だ。説明の、論理の穴を見事に突いている。
「はい、確かに偏頭痛は頭の一部に痛みが出ることが多いため、そのような名前が付いていますが、定義としては、緊張がゆるんだりしたときに、脳の血管が拡張して起こる頭痛、なのです。だから、全体に起こることもあるのです。」一生懸命説明するのが、大変な緊張だ。実は間違えないように、紙を見ながら伝えている。
「あの・・・では、紫色の渦を巻いた、あれは何ですか?頭痛で説明できるんですか?まさか先生は、私の思い込みだとか言うんですか?」
「ええと、すみません。あの・・・もし気分を害したらごめんなさい。でも、偏頭痛の症状に『閃輝暗点』というものがありまして、頭痛の前兆として光の点が見えたりすることがあります。これも、偏頭痛の症状のひとつとして、説明可能なのです。」
「なるほど・・・そうなのですか。でも、頭痛薬は効かなかったのですが、頭痛だとしたらどうやって治すのですか?」のりこ役の湯水ちゃんは次第に演技に熱が入ってきた。なんだか、本当のクライアントが、自分で一旦否定した原因をカウンセラーから言われて、十分納得できなくてイライラしている、という様子がリアルに伝わってくる。
「あの、気分を害されたら本当にごめんなさい。でも、偏頭痛には頭痛薬が効きにくいことがあるのです。その場合でも、早めに飲むと、効果が出ることがあります。だから、その『呪いの症状』とおっしゃっている、紫色の渦が見えたときに、頭痛薬を飲むというのを、解決策として提案したいと思います。」全身に汗をびっしょりかきながら、ようやくこれだけのことを伝えることが出来た。
ここで、ドクターが終了の宣言をした。「良く頑張りました。セラピストチームの皆さん。そして、最後、なつを君、よく頑張りましたね。この課題はここまでにしたいと思います。お疲れさまでした。」
「お疲れさまでした。」湯水ちゃんも、演技を終えていつもの穏やかな笑顔に戻った。
「さて、ではここで、」改まった調子でドクターが言った。「本当のセッションでは、私はクライアントに推定原因として、何と伝えたかを発表したいと思います。それは・・・」
一同固唾を呑んで、発表を待った。
「それは、『呪い』です。」
「えっ?」
「えぇっ!?」
「ええええええええーーーーーーっ!?」
セラピストチームのメンバーはそれぞれに声を上げてしまった。最後に一番大きな声を上げたのはなつをだ。湯水ちゃんはおかしそうにクスクス笑っている。
(つづく)
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