なつをの夏の物語(7)|恋愛ドクターの遺産第10話

「では、なつをさん、こちらの椅子におかけになってください。」ドクターは左手で片方の椅子を示した。
「はい。」なつをは返事をすると、示された椅子に腰かけた。どことなく不安げな様子だ。
「では湯水ちゃんは、こちらの椅子でお願いします。」今度は右手で、なつをの向かいの椅子を示した。
「はい、先生。」湯水ちゃんは笑顔で、その椅子に座った。
「さて。」ドクターは改まった調子で言った。「これから、なつをさんは、何か自分の好きなものの話を湯水ちゃんにしてください。終わったあとに、私から、ある質問をしますので・・・といってもそんなに難しいことではないので大丈夫です・・・話している最中のことを思い出して、質問に答えてください。」
「・・・はい。」やはりなつをは少し不安げな様子だ。
「大丈夫大丈夫。簡単なワークだし。本当に話をするだけですから。」湯水ちゃんはなつをに親しげに話しかけた。いつもこうやって相談者をなごませているのだ。

なつをが少し落ち着くまで待って、ワークがスタートした。このワークは、なつをが好きなものを、湯水ちゃんに色々説明したり、どんな風に好きかを、熱く語ったりする、というもの。なつをは今川焼きが好き、という話をネタとして選んだようだ。時々話に詰まることがあり、たびたび沈黙があったが、今川焼きを自分はどのように好きか、というテーマについて頑張って話し終えた。
「はい、ここで一旦止めましょう。」5分ぐらい話をしたところで、ドクターがストップをかけた。「ではここで、本題を発表します。なつをさんは、今の会話をしているときに、自分の意識がどこに向いていたかを思いだして答えてみてください。意識が向いているものというのは、たとえば、過去に食べた今川焼きのことをありありと思い出していたなら、過去の記憶に意識が向いていたことになりますし、一方、話している最中の湯水ちゃんの反応が気になっていたのなら、湯水ちゃんの反応に意識が向いていたということになります。どこに、意識が向いていましたか?」
「ええと・・・」なつをは天井の方に視線を向けながら、思い出している様子だ。「一番は、湯水ちゃんの反応でした。ちゃんと伝わっているかな?湯水ちゃんは今川焼き好きなのかなぁ?私の話をつまらないと思ってないかな?どう感じてるのかな? ・・・そんなことを考えていました。」

「なるほど、相手の反応や相手の受け取り方が気になっていて、そこに一番意識が向いていた、ということでいいんですかね?」ドクターが確認した。
「はい、そういうことだったと思います。」
「ひょっとして途中で詰まったときは、話の内容を思い出すよりも、湯水ちゃんの反応に意識が向きすぎて、次何をいえばいいか分からなくなってしまったから、ですか?」
「えっ? あ、確かにそうですね。詰まったときは、湯水ちゃんの反応がとても気になって、それで、次に何を話せばいいか分からなくなってしまいました。」
「なるほどね・・・なつをさんはやはり、自分の話をしていても、相手の反応の方に、意識が偏っている感じですね。」
「それって、ダメなんですか? やっぱり。」
「いい、ダメ、という話ではないのですが、わりと、自己中心的な人を周りに居着かせやすいタイプではあります。」
「え、それ、嫌です〜。」とても悲しい寂しい調子で、なつをが嘆いた。

(つづく)

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