第三幕 ドクターとなつをの議論 機能不全家族は原因か?
結局ドクターは、予定が読めない、とは言っていたものの、淑恵の2回目のセッションの前日に帰ってきた。
「なつを君、留守を守ってくれてありがとう。お疲れさま。」
「はい。頑張りました・・・でも、なかなか先生みたいに華麗に組み立てられなくて、あたふたして、結構疲れてしまいました。」
「そう。頑張ったね。本当にお疲れさま。」
そう言ってドクターは、なつをの残したセッションの記録に目を通し始めた。ドクターは、時折うなずきながらセッションの記録に目を通していた。なつをにいくつか簡単な質問をし、なつをが答えると、目線を上にあげて、何か想像しているような様子で聞いていた。
「ありがとう。なつを君、初回のセッションとしては十分です。よくできていると思います。」
私なつをはほっと胸をなで下ろした。ひとりで担当するセッションは、いつも緊張する。ちゃんと出来ているかどうか、毎回不安なのだ。今回は、先生の目から見て、合格点のようだ。よかった。
「これは何ですか?」先生が尋ねてきた。指を指している部分を見ると、セッションの最後に、淑恵さんが語った生い立ちの部分だ。機能不全家族だったという話だ。その部分の記録を見て、質問をしてきたのだ。
「ええと。先生に言われた質問内容が終わったあと、何か気になることや言いたいことはあるかと尋ねたところ、機能不全家族で育って、という話になりまして・・・」
「なるほどそうですか。」先生はしばらく黙って記録を見返していたが、やがてこう言った。「アダルトチルドレンだから、オレサマを引き寄せている、という仮説は、違うように思いますけどね。」
「えっ? だってこの前・・・先生・・・」なつをは先日、別のクライアントだが、機能不全家族で育ち、心の土台が十分しっかりしていなくて、それで、オレサマタイプの人を引き寄せてしまっている、と(ドクター自身が)見立てたセッションを経験したばかりだ。そのことを思い出していた。
「淑恵さんは、アダルトチルドレン原因説とは違うと思いますけどね。」
「えっ? だって・・・でも・・・」混乱してしどろもどろになった。
「なつを君、君の印象はどうだったのですか?」
「えっ?」
「だから、淑恵さんと接してみて、どう感じたか、ということです。」
「お名前の通り、しとやかな女性、という印象でした。」
「FC(えふしー)、つまり自分の感情を出すことが出来ない、という感じの人でしたか?」
「ええと・・・」そう言いながらなつをは「オレサマ1号・2号」などと楽しそうに話す淑恵の姿を思い出していた。「いや、その記録にも書いたんですけど、元カレさんを『オレサマ1号・2号』などと呼んだりして、結構楽しそうに話されていました。」
「初回のセッションで、そこまで話が出来るのであれば、過去、もしかするとアダルトチルドレンであったことが影響して、オレサマを引き寄せた、という時期があったのかもしれませんが、カウンセリングルームに訪れた、現在の淑恵さんはと言えば、既にだいぶアダルトチルドレン状態を卒業していると考えるのが妥当だと思います。」
そうなのか・・・先生の見立ては全然違うようだ。
「でも、淑恵さんは、アダルトチルドレンで、機能不全家族の育ちだってことを、かなり強調されていました。」少し目に涙が浮かんできたのが自分で分かった。
「過去の話は、事実なのだと思いますよ。それを否定するつもりはないんです。ただ、そこから自分で色々取り組んだり、その『オレサマ1号・2号』の呼び名を考えたお友達の助けを得たりして、ずいぶん心のエネルギーを受け取り、成長して、今があるのでしょう、と言っているのです。」
(つづく)
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