恋愛ドクターの遺産(7)サンドバッグの結論3

「なるほど・・・奥さまも、感情的になるのを抑えられない自分自身を、自己嫌悪されていたのですね。」
「そのようでした。でも、そうやって話を聞いていたら、突然抱きつかれたんですわ。」

「おぉ!それはおめでとうございます。」

なんて脳天気なんだ、となつをは思った。奥さんが苦しんでるのに、抱きつかれておめでとう、って。
しかし、こばやんには響いたようだ。

「そうなんです!ありがとうございます!」

「それで、奥さまは何て?」
「泣きながら、『もう一度やり直したい。』て。」

「そうですか。それはよかったですね。」
ドクターは握手の形に、右手を差し出した。こばやんもその手を握り、ふたりで固く握手を交わした。
なんか、男同士のノリだな、となつをは思った。女性からすると、まだ完全に解決していないのに、ちょっと喜ぶのが早すぎるし、ノリが軽すぎると感じるが、一方で、うらやましくもあった。

「でも先生、これでスタートラインだと思っているんですが。」
「まあそうですね。希望の人生への、スタートラインですね。」
ふたりはわはは、と笑った。

「では、私の考える、この変化を確実なものにする、行動課題を発表します。」
「お願いします!」

なんだか、深刻な悩み相談のはずだったのに、盛り上がってきている。なつをは不思議な感覚で見ていた。以前先生から「別に暗くなれば解決するってものではないから、明るく解決できるのなら、それが一番いい。」と聞かされていたが、それにしても明るすぎる。こんなにわはは笑いをしているセッションは、他では見たことがない。

「奥さまに、謝ってみましょう。」
「わかりました。サンドバッグですね。」

「いや、それとはちょっと違います。もうサンドバッグみたいにされることは、そんなにないでしょうし。」
「そうかもしれないですね。」

「具体的な方法の前に、少し原理を説明します。まず、目的ですが、奥さまの過去の痛み・・・この場合は幼少期に愛されなかったという記憶・・・を解決する、和らげる、というのが目的です。」
「分かりました。」
「そして、癒しを起こす、原則を説明します。」

そこでドクターは、ホワイトボードに図を書き始めた。ドクターの説明はこうだ。人の心の中には、過去の自分がいる。その過去の自分は、その当時の痛みを、未だに持っていることがある。でも、人は日頃はそれにフタをしていて、気づかないようにしている。過去に「愛されなかった」体験をした人は、人一倍「愛されたい」と思ってしまったり、フタをしていても、ごまかしきることは出来ず、心の奥底の思いはじわじわとにじみ出てくるものだ。これを癒すためには、(1)当時の記憶を思い出す(2)同時にプラスのエネルギーを感じる、というふたつの要素が必須で、どちらが欠けてもだめだ。

「奥さまは、愛されたかったが、叶わなかったという幼少期を過ごされていたわけです。そこで、たとえばこんな風に言ってあげてください。
『キミがずっと愛情を求めていた、というのは、子供の頃の話を聞いて知っていたのに、さらに、寂しい思いをさせてごめん。これからは、とにかく、大事にする。』そんな感じで。」

こばやんは、メモを取りながら復唱していた。
「分かりました先生。これでカミサンの痛みが癒されるわけですか。」
「えぇ。少しだけ、過去のことに言及して、そうすると、過去の記憶を少し思い出します。どっぷりがっつり思い出すとコントロールが難しくなるので、そっと触れるぐらいがいいでしょう。そして、そこにこれからは大事にする、というプラスのエネルギー、承認のエネルギーをあげる。こういう関わりを、コツコツ、じわじわと実践していくと、奥さまの子供時代の愛情飢餓も、次第に埋まっていくと思います。」

「分かりました先生! 必ず実践します。」
「はい。信じてますよ。大丈夫です。」

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