正しいだけでは解決しない(2)|恋愛ドクターの遺産第6話

「では折角なので、実例に即して、なつを君にも考えてもらいましょう。なつを君なら、彼女に対して、どんな解決策、どんな方針を提示しますか?」
「えっ?」

そうなのだ。カウンセラーは評論家ではいられない。その日のセッションの中で、何かひとつでも、現実が前に進むための提案をしなければならないのだった。(そういうことをしない、ただ受け身のカウンセラーもいるが、先生の価値観では、そういう仕事の仕方は「職業倫理に反する」のだ)
私は焦った。先生の質問を受けて、いざ自分がどういう方針を立てるのか考えてみると、思考停止してしまう。
「ではなつを君、有紀さんが、つらいのに社長との不倫をやめられない原因は何だと思いますか?」
「依存しているから・・・ですか?」
「うーん。それでは、説明になっていません。『依存』とは何でしょう?」
「なぜ、説明になっていないんですか?」なつをはかなり困惑した表情で聞き返した。
「それは、問題解決をする場合、これが『原因だ』と原因推定をしたときに、ではその原因を取り除きましょう、というアクションが容易に取れるようでなければ、本当の意味で原因が分かったとは言えないからです。なつを君は、『依存』が原因だ、と言いましたね。では『依存』を取り除きましょう。さあ、どうすればいいか、分かりましたか?」
「・・・」なつをは黙ってしまった。
「そうです。ほぼ、『不倫をやめましょう』と同義語です。これでは、原因を掘り下げたことにならないし、解決するためのポイントも見えていないのです。原因を推定したと言えるためには、『ではそれを取り除きましょう』と言ったときに、何をすればよいか、明確になっている必要があるのです。」
「はあ・・・おっしゃるとおりです。」なつをは、自分の分析の浅さに自らがっかりした。
「では、もう少し考えてみましょう。」どうやらドクターは、ここでやめる気はないらしい。なつをがこの件について、きちんと考えられるところまで、食いついて離さないようだ。「なつを君、依存についてもう少し掘り下げてみましょう。有紀さんの『依存』とは、彼女が何を渇望していて、社長に依存しているということだと思いますか?」
「ええと・・・彼女の話からすると、子供の頃に、父親が家で暴言を吐く人で、父親からの愛情が足りないのではないでしょうか。」
ドクターは、うなずきながらも、少し頭を横に振った。
「先生、まだダメ、ですか・・・?」
「先ほどよりは、随分良くなりましたよ。」
「・・・」なつをは少し黙っていた。するとドクターは続けて言った。
「なつを君の仮説に基づくと、彼女は『父親からの愛情が足りない状態』にある。だから『父親からの愛情が足りない状態』を取り除くことが解決策。ということですよね?では、何をすることが、その原因を取り除くことになりますか?」
「えっ!?」なつをは固まってしまった。そうなのだ。父親からの愛情が足りない、と問題を定義したなら、父親からの愛情を得る、がシンプルに考えた解決策になる。でもそれができない、それをしてくれない父親だから、今の状態があるわけで、このように問題を定義してしまうと、解決不能になってしまう。
「父親からの愛情、とは心理学的に説明すると何でしょうか?」
「えっ? ええと・・・お父さんが愛してくれること、ですか?」
ドクターは少し困った表情をして、さらに質問を重ねた。「ここでの『愛してくれる』は、具体的には何をしてくれることなのですか?あるいはどんな状態のことなのですか?」
「え、それは・・・」なつをは言葉に詰まった。しかしドクターは続けて質問をしてくる。
「べつに、普遍的哲学的答えを言え、と言っているのではなくて、なつを君がどういう意味を込めて『愛してくれる』という言葉を使ったのか、それを聞いているのです。何かあるでしょう?」
「それは・・・『好きでいてくれること』が大きいと思います。」
「なるほど、つまりなつを君の言う『父親からの愛情不足』というのは、『お父さんが自分のことを好きでいてくれた、という経験が足りない』と、こう言い換えられるわけですね。」
「ああ、そういうことです。」
「その要素は、あると思いますね。私も。」
「そうなんですね!」なつをはドクターが同意してくれたので、嬉しくてつい声が大きくなった。
「しかし、では今から、お父さんに頼んで、『私のことを好きでいてください』ってお願いしますか? これは相手次第になってしまいますから、難しい解決策ですね。」
「・・・そうですね。」なつをは喜んだ気持ちが急にしぼんでしまうのを感じた。
「まあそれでも、先ほどの『依存しているから、依存をやめる』という問題の定義よりは、ずいぶん中身が分かってきているとは言えますね。」ドクターは穏やかな表情でそう言った。
「ありがとうございます。」なつをはそう言ったが、どこかぎこちなかった。
「まあ、ここから、どうやったら、その欠けている経験を補っていけるのか、それはかなり創意工夫が必要な作業になりますから、一意にぱっと決まる、という訳ではないですけどね。」
「そうなんですね。」

(つづく)

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