踊るセラピー(2)|恋愛ドクターの遺産第4話

「で、おまえは、どうしたいの?」早速「基本方針」の確認をしてくる幸雄。しかし、会社の事業計画じゃあるまいし、こんな突き放した言い方をされて、まともな答えが言えるわけがない。
(あぁ、やっぱり今まで通り。そもそも「話し合い」のやり方自体が、関係を悪くしている気がする)ゆり子はそう思ったが、それを言ったらさらにこじれそうで言えなかった。
「私は、もっと、通じ合って、安心できる関係ができたらな、って思うんだけど。」
「オレに、何をしろ、と言っているのか、ハッキリ言ってくれ。」
(はぁ・・・またこの展開・・・)ゆり子はさらに暗い気分になってきた。
「あのね、私の気持ちを分かってもらえない、といつも感じていて、それをあなたは、自分は悪くないみたいに言うから、ますます言えなくなって・・・」
「あのさあ、オレの質問に対して、ちゃんと答えてないよね? 『何をしてほしいか』の質問の答えは、『何々をしてほしい』でしょうが。おまえこそ、オレの話をちゃんと分かっていないんじゃないか? こっちのセリフだよ。『分かってもらえない』てのは。」
「あのね、そういうことじゃなくて・・・」
幸雄がイライラしているように、ゆり子には見えた。そして、それ以上何も言えなくなってしまった。

結局その日の「話し合い」は、幸雄の「お前は結局離婚したいのか?」という質問責めに対して、ゆり子がかろうじて「結論を保留する」ことで終わった。
帰りの電車の中で、精神的な疲労なのか、ゆり子は、全身が震えて止まらなかった。
・・・

帰宅後、ゆり子は、また例のノート「恋愛ドクターの遺産」に頼ってみることにした。これまで何度も、このノートが、友達に相談するよりも、本を読むよりも、良いアドバイスをくれた。ゆり子の父が言った「適当に一冊選ぶんだ。すると、なぜか、その時に一番必要なアドバイスが書いてある。」という言葉を、ゆり子も信じるようになっていた。

「えいっ」ノートは、段ボール箱に入っている。その中から一冊を、ランダムに抜き出した。そして、またノートを開いて読み始めた。

・・・

第二幕 沈黙のセラピー

もう5分ぐらい沈黙が続いている。ドクターは落ち着いた表情でじっと待っている。相談者の女性も、考え込んだふうで、黙ったまま時間だけが過ぎていく。

「はぁ。」女性がため息をついた。「うーん、うまく言葉にできません。」

今日の相談者は小宮山英子。彼氏との関係が息苦しい、と相談に来た。

(別に皮肉を言うわけじゃないけど、彼氏との関係より、このセッションの方が息苦しい)なつをはそんなことを思った。とにかく、このセッションは沈黙が重たいのだ。先生がいつも通り、大事なポイントを掘り起こす質問を投げると、いつも通りクライアントが何か大事な答えを返す、のではなく、沈黙したまま場が固まってしまう。ずっとその繰り返しだ。

「なんだか、うまく言葉に出来ないようですね。」ドクターが言った。
「はい。すみません。」英子が答えた。
「いや、気にすることはありません。すんなり答えられるようなら、それほど大きな悩みではないということですから。『答えに詰まる』というのも、ひとつのヒントです。こちらはそうやって受け取っていますので、私に気を使う必要は、全くありませんよ。」
「ありがとうございます。」英子はそう言ったが、恐縮、いやむしろ、いくぶん萎縮しているようにも見えた。

「でも、もう一度質問してみますね。『今の彼との関係を、どう感じていますか?』」
英子は視線を下に落として考えている・・・考えている・・・のだろうか? ただ黙ったまま、静かに時間が過ぎていく。

一分ほどたって、ようやく彼女が口を開いた。「苦しいです。」

苦しいのは今の気持ちだろうか、それとも、彼との関係が苦しいと言ったのだろうか、なつをは思った。しかし、先生はそんなことお構いなしのようだ。

「苦しいのですね。」
「はい。」

「では、その関係が、どうなったらいいと思いますか?」

再び場の空気が重くなる。英子は視線を下に落とし、再び沈黙し始めた。十秒、二十秒、三十秒・・・一分、こんどは一分ほど経っても、返答はなかった。
ドクターが何か言おうとするようなそぶりで息を吸ったとき、ようやく英子が口を開いたのだが、その言葉は「うまく言えません。」だった。

「なるほど。やっぱりなかなか言葉に出来ないようですね。」ドクターは言った。
「すみません。」

なつをは、この展開にやきもきし、口を挟みたくて仕方がなくなった。先生の質問にクライアントがうまく答えられない、もどかしさ。にもかかわらず、質問を引っ込めない先生。まるで意地の張り合いみたいだ。なつをはこういう展開が苦手だ。
(ああ、先生もうやめて!)心の中でなつをは叫んでいた。でも、この重苦しい沈黙を、自らが声を上げて破る勇気もまた、なかった。

(つづく)

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