踊るセラピー(4)|恋愛ドクターの遺産第4話

「なるほどね。では、ちょっとセッションのやり方を変えてみましょう。」
「はい・・・」
「私は、先ほどと同じ質問をします。でも、英子さん、あなたは、言葉で答える代わりに、答えを体の動きで表現してください。」
「えっ!? あ、はい、分かりました。」

「では行きますよ。今の彼との関係を、どう感じていますか? 体の動きで表現してください。」
「はい。」
英子は椅子から立ち上がり、直立不動、かなり力の入った「気をつけ」の姿勢になった。
「ああなるほど、こうね。」ドクターも、着席したままだったが、「気をつけ」の真似をして体に力を入れた。「なんか、とても緊張して、苦しい感じが伝わってきますね。」
「そう!そうです!緊張するんです!」英子は今日一番大きな声を出してそう答えた。声も先ほどよりずいぶん明るい。

「では、彼との関係が、どうなったらいいと思いますか? また、体の動きで表現してください。」
「はい。こんな感じに。」
今度は、英子は体の力を抜き、腕をだらんと下げ、そして体を左右にぐにゃりぐにゃりと曲げた。
「なるほど、ナイスなたこ踊りだ。」ドクターは笑いながらそう言い、今度は椅子から立ち上がって、自らも同じ「たこ踊り」を踊った。
「あははは、そう、そういう感じです!」
「あはははは、こういう感じですね!よく分かりますよ!」
なつをもつられて笑ってしまった。

「もう一回やってみましょう。こんな感じ!」ドクターは、今度は自らたこ踊りを踊った。
「あははははは、こんな感じです!」英子も踊った。
「あははははは」なつをもつられて、大笑いしてしまった。

「はい、では、なつをさんもやってください!こうです!」ドクターは今度は、なつをにもたこ踊りをやるよう指示した。
「はい。」なつをは少し遠慮がちに体を左右に揺すった。
「いや、まだまだです。こうです!」ドクターはさらに大げさに体を左右に揺すって、ぐにゃりぐにゃりとたこ踊りを踊った。
「えーっ!」そう言いながらも、なつをは今度は思い切って、ぐにゃりぐにゃりと体をくねらせて、今日一番のたこ踊りを踊った。
「わははははは。」
「わははははは。」
「わははははは。」
三人とも、腹の底から笑った。

「さて。」少し落ち着いてきて、着席しながらドクターが言った。「つまり、力が抜けて、自然体の自分で居られるようになりたい、そういうことですね?」
「はい!そう、そうなんです!その言葉が出てきませんでした。私、英語の先生なのに、うまく言葉が出てこないんですよ。」
「そうなんですね。楽しい先生ですね。」
「えっ?そうですか?」
「いいじゃないですか。体で表現すれば。生徒もついてきますって。」
「あ、そうですね。そういえば、それ、よくやっています。」
「でしょう? では、本題に戻りますが、さっきやった、こんな感じ」そう言いながら、ドクターは少し体を左右に揺すって、続けた「その感じになるには、具体的には、彼との関係で、何が出来たらいいですか? あるいはどうなったらいいですか?」

「そうですね・・・思っていること、言いたいことが言えたらいいな、と思います。」
「あぁなるほどね。もしかして、今日この場で起きたみたいな、言えなくて沈黙、みたいなことが、彼との間でも起こることがある、ということですか?」
「そう!そうなんです!」

「じゃあ簡単だ。彼にも、踊って伝えればいいんですよ。」
英子となつをは同時に吹き出してしまった。

その後、このセッションでは、英子が彼に自分の気持ちを伝える際、踊って伝えてみるという行動課題が設定され、とくに、今日話した「今の二人の関係は息苦しい」「自然体になりたい」というポイントを(もちろん踊って)伝えることにチャレンジする、という重点課題も決まった。

「重点課題を決める」と言いながら、完全に楽しそうに作戦会議をしている英子とドクターを見て、なつをも一緒に楽しい気分になった。そして、自分が学んだ「カウンセリングの基礎」などの真面目な方法論が、カウンセリングのほんの入口に過ぎないことを改めて痛感したのだった。

(奥が深いなぁ)なつをは心の中でそう言った。

・・・

例によって控え室では、なつをがまた、ドクターを質問責めにしていた。
「先生、なんでセッションの時間に、踊るみたいなことを始めたんですか?」
「え? まあ、それで先に進んだじゃないですか。何か問題でも?」

「いや、先に進んだという点では、異論はありませんけど・・・でも、そんなの、カウンセリングの教科書にも書いてないし、あまりに変じゃないですか?」
「あぁ、確かに『あまりに変』ですね。」ドクターはニヤニヤしながら答えている。「でも、『あまりに変』なやりかたが、結果的に停滞していたセッションを動かしたのですから、結果オーライじゃないですかね?」

なつをは、自分の「常識」からあまりにかけ離れたセッションで「うまくやった」ドクターに対して、何と説明していいか分からない、混乱した気持ちを持っていた。だから、質問も的を射ていない。

「なつを君、なぜ踊ってもらったか、それは分かりますか?」
「えっ!? そこに目的というか、意図なんてあったんですか?」
「ありますよ。もちろん。」
「お願いします。教えてください。」

やはり、先生には意図があったのだ。踊るという方向に持っていった意図が。なつをはまた、自分と先生の経験の深さに、あまりに大きな隔たりがあることを感じ、愕然としていた。

そんななつをの様子にはお構いなしに、ドクターは語り始めた。
(つづく)

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