正しいだけでは解決しない(9)|恋愛ドクターの遺産第6話

しばらく沈黙があって、先に口を開いたのはドクターだった。
「いま、三人のプレイヤーが登場したことに、気づいていますか?」
「えっ!? 三人の・・・なんですか?」
「プレイヤーと、一応言いましたが、「役割」「役」みたいなものです。」
「三人の役・・・どこに登場したのですか?」
「もちろん、妙子さんの中にです。」
「私の中に三人の役・・・どういうことでしょうか?」
「まず、ひとり目のプレイヤーはお母様の意向を汲んで、結婚に向かおうという意思を持った役ですね。この役が一応主人格・・・つまり日頃前面に出ていることが多い人格ですよね?」
「あ、確かにそうだと思います。」
「そして、二人目のプレイヤーは、結婚に向かおうとすると反発する、結婚したくないという意思を持った役ですね。この役は日頃あまり表に出てこないことが多いのではないかと推察しますが・・・結婚、のような自分の人生がかかった決断になると、出て来ざるを得ないというか、さすがにひとり目の人格の決定に任せてはおけない、という感じで出てきて、そして今、葛藤を起こしていますね。」
「はい、葛藤しています。なんで出てくるんですかね?」
「なんで出てくるか。それは、ちゃんと意味があるからです。それを、これからしっかり見つめて、見つけていこうとしているんですよ。」
「ぱっと消したり出来ないんですか?」
「それが無理なんですよ。それに、あとになると分かりますが、消したりしちゃいけないものだと、思いますよ。きっと。」
「どうしてなんですか?」
「私が答えても、きっと納得しないと思います。ご自分の中から見つけていきましょう。私はそのお手伝い役ですから。」
「はぁ・・・」妙子は釈然としない表情だ。
「そして、三人目のプレイヤーは、」ドクターは構わず話を進めていく。「こうして葛藤を起こしている自分を批判する、もうひとりの自分というか、少し客観的に自分を見ている役、です。先ほどご自分のことを『ワガママ』と言っていたのは、この三人目の意思のように思えました。」
「なるほど。確かに三人いる、と考えることができるかもしれません。」
「ひとり目のキャラの性格の一部を、ちょっと理解しました。何でも親や先生といった、上の立場の人に聞いて決める、というところがありますね。」
妙子は一瞬はっとした表情をして、それから言った。「でもそれって、普通じゃないんでしょうか?カウンセラーの先生のところに来たら、きちんと助言をもらうのは当然というか・・・」
ドクターはにやっと笑って、私(なつを)の方を向いて言った。「この、なつを君なんて、私にいつも食ってかかってる、ちょっと困ったヤツなんです。今は助手をしていますけどね、以前私のところに相談に来たときだって、私の意見そっちのけで持論を滔々と述べ始める、みたいなセッションになりましたから。」
さすがに言われすぎている気がしたので、つい言葉を挟んでしまった。「ちょっと、先生、それは言いすぎじゃないですか?確かに私は、先生の意見を、お伺いを立てる、みたいなところは皆無でしたし、自分の気持ちをしゃべってばかりでした。今日の妙子さんとは、全然違うセッションだったのは認めますけど、いきなり初対面から食ってかかったりは、していません!」
ついムキになって先生に「食ってかかって」しまった。
それを見ていた妙子さんは、くすっと笑った。
(ああ、またやってしまった)私は思った。先生とのやりとりだと、ついムキになってしまう。
「ああなるほど。確かに、その人の性格というか、違うんですね。」妙子は言った。
「そうなんです。」そう言いながら先生は私の方を見て「どうだ!」というようにも取れる、いたずらっぽい表情をした。

確かに、私が余計なひと言を・・・いや、ひと言ではなかったが・・・差し挟んだおかげで、セッションが少し前に進んだ。結果オーライだ。先生もそのことを言いたかったに違いない。セッション中だし、クライアントもいる前だから、言わなかったけれど。

「二人目のキャラは、なかなか出て来ないですよね。ふだん。いま、なつをくんと私のやりとりを見て、ちらっと出てきてくれたような気もしますけど。」
「え、あ、つい気がゆるんだ、っていうか・・・」
「へえぇ、気がゆるむと出てくるんだ。」

先生は珍しく、メモを取りながら話している。きっと大事なところだと思っているのだろう。私にはどこが大事で、どこがそうでもないのか分からないことが多い。経験の差は大きいなぁ、今日もそう思った。

「さて、」ドクターはさらに続けて話し始めた。「三番目のキャラに行く前に、少し名前をつけておこうかと思います。」
「え!?はい。名前ですか。」
「それぞれの役に、ぴったりの名前は何かありますか?思いつかなければ、こちらでお手伝いしてつけてもいいですけど。」

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