正しいだけでは解決しない(10)|恋愛ドクターの遺産第6話

「さて、」ドクターはさらに続けて話し始めた。「三番目のキャラに行く前に、少し名前をつけておこうかと思います。」
「え!?はい。名前ですか。」
「それぞれの役に、ぴったりの名前は何かありますか?思いつかなければ、こちらでお手伝いしてつけてもいいですけど。」
「ええと、名前は思いつかないんですけど、一番目のキャラクターは、少しお母さんに似ている気がします。」
「なるほどね。それは分かります。実は、周りの人の言動や、周りの人が持っている価値観などを取り込んで自分のものにする働きが人間にはあって、それを交流分析ではペアレントのP(ぴー)と呼びます。Pをとってピーさん、なんてのはいかがでしょう?」
「はい、なんかしっくりきます。」
「では次に、」ドクターは続けた。「二番目のキャラクターにも名前を付けたいと思うんですが、たえちゃん、などはいかがですか?」
「たえちゃん・・・私、ですよね?」
「まあそうですね。親しみを込めて。」
「なんかしっくりきません。」
「そうですか、私は結構良いと思ったんですがね・・・まあとりあえず、一旦保留にしておきますか。」
「はい・・・」
「三番目のキャラクターは・・・」ドクターが言いかけたとき、妙子がかぶせるように答えた。今度は早かった。
「妙子さん、でお願いします。」
「なるほど、『妙子さん』ね。」ドクターはメモを取りながら聴いている。

なつをは直感的に思った。きっと妙子さんは、自分の名前があまり好きではないのだろう、と。そして、自分の素直な感情を表す、一番大事なキャラクターに、たえちゃん、などという、自分の愛称を付けることを、良しとしないのだろう、と。おそらく先生もそれを察しているに違いない。
そして、先回りして三番目のキャラクターに「妙子さん」と自分の名前を使ってしまうことで、二番目に「たえちゃん」と付けられることを、無意識に避けようとしているのだろう。しかしそれは、無駄な努力というもの。おそらく先生は、「妙子さん」が使用済みでも、平気で「たえちゃん」の名前を付けようとするだろう。今までも、「妙子さん」のようにかしこまった名前と、「たえちゃん」のようにくだけた、親しみを込めた名前を使い分けて、それぞれを別人格として扱ったセッションを、何度も見てきた。しかし今は、無理してたえちゃんの名前を付けたりしないようだ。二番目のキャラクターには、とりあえず名前は付けずに先に進むつもりらしい。

「では。」ドクターは椅子から立ち上がりながら言った。「ちょっとこちらへ来ていただいて、」いくつか椅子が置いてあるエリアに移動しながらそう言った。「この椅子たちに、先ほどの三人のキャラクターが座っていると想像して、ワークを行っていきたいと思います。」
「はい。」妙子も席を立って移動してきた。
「では、まず、ひとり目のキャラ『Pさん』は、どの椅子にしますか? ・・・あ、全部同じ椅子ですが、この場所に置くとしっくりくる、みたいな感覚を大事にして、好きな場所に置いてみてください。」
「はい。」妙子は、そのエリアの真ん中に「どん」と椅子を置いた。
「なるほど、ここでいいですか?」ドクターは質問した。
「はい、良いと思います。」
「では次に、二人目のキャラ・・・名前はあとで考えるとして・・・を椅子に乗せてみるとしたら、どの椅子でどこでしょう?」
「ええと・・・」妙子はそう言いながら、ひとつの椅子を持ち上げて、部屋の隅の方に行った。そして、壁の方を向けて、椅子を置いた。
「はあ、なるほど・・・そこですか。寂しい感じの場所ですね。そこでいいですか?」
妙子は、少しそわそわした様子で、目が若干泳いでいる。それでも「はい、こういう感じがしますから。」そう言い切った。
「なるほど、では、そこに置いておきましょう。」ドクターは言った。「そして、三番目のキャラクター『妙子さん』は、これも好きな場所に置いていいんですが、一応、オススメがあります。客観的に見ていたわけですから、この状況を、」・・・そう言いながら手で、椅子を並べているこのエリアを指し示した・・・「客観的に見ている、そんな感じのする場所に、置いてみることをオススメします。」
「はい。」妙子はそう言って、ドクターが今立っている場所のすぐ隣、そう、この全体を見渡せる位置に、三番目の椅子を置いた。
「なるほど。この場所でいいですか?」ドクターがきいた。
「はい。」

「では、まずは、順番に座ってみましょう。一番目の椅子に座り『Pさん』になったと想像してみて下さい。」
「はい。」妙子は真ん中に置いた「Pさん」の椅子に座った。この椅子はちょうど二番目の椅子の方を向いている。こちらは、相手の方を向いているが、相手(つまり二番目の椅子だ)は、こちらに背中を向けている格好だ。

(なんだか、Pさんがたえちゃん・・・私は心の中ではそう呼んでしまうことにした・・・に睨みを利かせている感じがするなぁ)なつをはそう思った。

(つづく)

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