霞の向こうの神セッション(11)|恋愛ドクターの遺産第7話

第五幕 「理想人間」対「感情人間」

 

「こんにちは、先生。」
「こんにちは、ユミコさん。」

今日はユミコのセッションの日だ。前回はGパンに洗いざらしのシャツ、といったラフな格好で来たユミコだったが、今回はどういうわけか、黒いスーツに身を包んでやってきた。
(今は午前中だ。時間から言って、午後に仕事があるのだろうか。)私なつをはそんなことを考えていた。

ドクターとユミコの二人が着席して、始めに言葉を発したのはドクターの方だった。
「ええと・・・ユミコさん。今日は、前回と雰囲気が違う、というか、服装が全然違うんですね。スーツ姿もお似合いですよ。」
(やっぱり。先生も服装のことを言った)私なつをはそう思った。
「ありがとうございます。よく『似合う』って言っていただけるんですけど、実は以前は、こういう格好があまり好きではなかったんです。でも、前回のセッションで、あの黒い『膜』を扱って頂いてから、どことなく息苦しい感じがなくなって、それで、今日はこの格好で行ってみよう、って思ったんです。」
「なるほどそうですか。お仕事があるとか、そういうわけではないんですね?」
「はい。今日はお仕事はありません。」
「そういう理由で、わざわざ着てきて下さったんですね。それはそれは、ありがとうございます。」
「いえ・・・私も着たかったので。」

今日も、先生の直感は冴えている。以前先生は、第一印象で感じたことは、何かとても大事な要素を含んでいることがあるから、軽く扱ってはいけない、そんなことを言っていた。確かに先生のセッションを見ていると、クライアントの言葉にまだ出てきていないが、先生が印象として感じたことなどを投げてみて、それがきっかけになって話が先に進むことが結構ある。今日もそうだ。前回とかなり雰囲気が違う服装になっていた、そのことを先生が挨拶でさらっと言ったことで、一気に話が進んだ。始まってからまだ1、2分といったところだ。こんな短時間で、前回のセッションの効果を聞き出し終わっている。相変わらずテンポが良い。

「ところで、前回扱った『膜』が黒い色をしていたことと、苦手だったスーツが黒い色をしていることは、何か関係がありそうな気がしたのですが・・・」ドクターが質問した。
「あ、はい。私もそう思いました。以前は、このスーツを着ていると、とにかくきちんとしていなければいけない、という気持ちが強くて、よく同僚にも『ユミコはきちんとしてる』って言われてましたし、自分でも時々、そこまでやらなくてもいいのに、って思うことが結構ありました。」
「なるほどね。それが、今は、何か違う感覚なのですか?」
「はい。会社にはこんな感じの服装で行っているんですが、以前より『ほどほど』でいいか、という、妥協・・・というか現実的な判断がうまくできるようになりました。」
「そうですか。それは、確かに、前回のセッションからの効果、という感じがしますね。」
「はい!本当に楽になりました。」ユミコは笑顔で答えた。笑顔になると本当に可愛らしい。

「さて今回は、少し、人間関係に関する話をしていきたいと思います。」
「はい、お願いします。」
「そもそも、ユミコさんのご相談は、彼氏さんとギクシャクするということから始まったわけですよね・・・いや、始まってないか。そういうお申し込みを頂いて、その後夢の中のセッションのお話をして下さって、それで、私との実際のセッションではいきなり夢のワークから入りましたよね。だから、そもそものお悩みについてお話しするのは、今日が始めて、ということになるわけですね。」
「そうですね!」ユミコは嬉しそうに答えた。
「かなりのイレギュラーな展開ですけどね。」
「そうなんですね。」

「それで、彼氏さんとは、いまどういう感じなんですか?」
「あの・・・実は、少し自分でも、どうして彼にイライラするのか、分かってきた気がするんですけど・・・それをお話ししても・・・」
「お、自己分析ですね。ええ、そういう話は大好きです。あ、いや、とても有用だと思いますので、ぜひ、その話をお願いします。」
「あの・・・彼は、私から見ると、いい加減で、適当で、ゆるい、というか、きちんと詰めるべきときに、手を抜くところがダメだと思ってきました。」
「なるほどなるほど。」
「でも、先日のセッションで、私の基準が、厳しすぎるのかもしれない、と思うようになりました。」
「あぁなるほど、だから彼の『いい加減』なところが、余計イラつくと、そういうわけですね?」
「はい。」
「確かに、人は一般的に、自分に許可していないことを、相手にも許可しない、そういう傾向があります。」
「はい、よく分かります。」
「ユミコさんが、ご自身に、適当に妥協するとか、現実的な判断で、理想をちょっと手放すとか、そういうことを許可していないから、彼氏さんにイライラしてしまう。そういう側面は、確かにあると思いますよ。」
「はい、前回のセッションで、気づきました。」

「ただ・・・」ここまでテンポよく話して来たが、ここでドクターは話し方がゆっくりになった。慎重に言葉を選んでいるような様子で、目線を上に向けて、何かを言いたげに口を開いたり、そこからまた小さなため息(のようになつをには見えた)をついたりして、ようやく次の言葉を発した。「このまま、ユミコさんが、完璧主義を捨てれば、彼との問題がスッキリ解決する、ということになるかどうかは、分からないと思います。もっと言うと、ユミコさんが自分の考えを変えても、問題が完全には解決しない気がする、ということです。」
「はい!そう、そうなんです!」ユミコの表情がぱぁっと明るくなった。「良かった!先生には分かってもらえそうで! そうなんです。冷静に考えてみたけれど、やっぱり彼のいい加減なところは、受け入れられないような気がしています。」
「そうですね。そう単純な話ではないと、私も思います。そして、だからといって、バッサリ切り捨てて別れる、というのも、なんとなく違うと感じていらっしゃるのでは?」
「はい、そうなんです。」

(つづく)

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