呪い(4)|恋愛ドクターの遺産第9話

「えー。恐ろしい。」
「えー。怖いー。」
合宿の参加者から口々に感想が漏れた。ドクターはしかし、構わずに話を続けた。
「さらに、彼が恐ろしいのは、相手の罪悪感を刺激することで、ますますその相手の行動を縛ってしまうことでした。彼がどうやって知ったのか分かりませんが、たとえばK子は子供の頃に共感的に話を聞いてもらった経験が少なく、そのためにやや堅苦しく、こうあるべき、あああるべき、という『べき』の話が多い大人に育ったんですね。交流分析で言うとNPを受け取った経験が少ないため、CPが目立つようになっている、という感じです。そこで、A子の夫はK子に対して、『人は、弱い心に負けてしまうと、なれ合ってしまう。なれ合いは腐敗を生む。親しき仲にも礼儀あり。仲良しでも、言うべき事をきちんと言える関係が大事。私はK子さんがそういうことの出来る立派な方だと信じています。』まあこんな風に言って、『やっぱりA子が可哀想だから、言うのはやめた。』という行動の選択肢を予め封じてしまうのです。K子も、若干の違和感を感じつつも、自分の大事にしている日頃の信念に沿ったことを言われているので、ついつい彼の言葉を信用してしまうのです。」

「うわー。」
「それ苦しい・・・」
また口々に感想が漏れた。ドクターは構わずに話を続けていく。次第に語り口調に熱がこもってきた。
「つまり彼は、見ようによっては相手を洗脳して支配している、とも見える行動を平然とやってのける人間なのですが、そのやり方が非常に利口で、相手の中にある動機を上手に利用してコントロールしていく、そんなやり口なのです。」
「先生それって、防ぐ方法はないんですか?」なつをが質問した。
「それは、彼の被害を、社会的に止める方法、という意味ですか?それとも、自分が被害に遭わないためにはどうしたらよいか、という意味ですか?」ドクターは質問に質問で返した。
「あっ」なつをは思わず声が出た。相変わらず先生の指摘は鋭い。自分が彼に支配されないためにどうすれば良いのか、まずはそちらが大事なはずだ。ただ、社会的に彼のやり口を止める、封じる方法、出来ることなら知りたいとは思った。
「あの・・・まずは、自分がその被害に遭わない、自分が彼のような人にコントロールされないためにはどうしたら良いかが知りたいです。ただ・・・」そこまで言いかけたとき、ドクターがかぶせて言った。
「なるほど。まずはそうですよね。ただ、被害が広がっているときに、彼を止める有効な手立てはないのか、と考えたくなる気持ちもまあ、分かります。」しばらく沈黙があって、ドクターが口を開いた。「では、ここからは、彼とどうやって対峙していったのか、彼の支配をどうやって抜け出していったのか。その話をしたいと思います。」

「お願いします!」私なつをはつい声が大きくなっていた。

「そうですね。まず基本ですが、ここにいる皆さんは、彼の支配はあまり受けないだろうと思います。これだけ猛威を振るっていた彼ではありますが、誰に対してでも、その支配力を発揮できるわけではないのです。実際、彼が勤めていた会社では、どちらかというと『扱いづらい奴』扱いを受けていましたし、出世もしていませんでした。それは、会社の上層部には、ルールを決めて、人を動かしていくことに長けた人間が多く存在していて、ある意味、彼の能力以上の人たちだからです。彼の浅い支配戦略など簡単に見抜かれてしまっていた、ということなのだと思います。また、A子さんの親友の智子さんは、彼の戦略を早くに見抜いてA子さんに話をしていましたね。彼女も、彼の支配を受けないだろうと思われる人間です。」

「彼は智子さんにも近づいたんですか?」なつをが訊いた。
「いや、実際には智子さんには近づいてこなかったそうです。自分が支配できないだろうと思われる人間は、彼は巧みに見分けて避けているんですね。」
「見分けられるんですか?」
「ええ、それほど難しくはないと思います。ではこれから、支配されやすい人と、支配されにくい人の違いについてお話ししようと思います。」ノッて来たのか、ドクターは缶ビールを一気に飲み干した。

(つづく)

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呪い(4)|恋愛ドクターの遺産第9話」への2件のフィードバック

  1. Magical Eye

    あづま先生
    いつも奥深いストーリーと解説に心底感銘をうけております。
    今の私にもA子さんのように、自分の考えや感情にもっと意識をむけて決断しなければならない状況があります。実は8か月前に結婚したのですが、どうも騙されていたようで、夫には仕事のことや、女性関係でたくさんの秘密や隠し事があることが判明してきました。結婚直後に、夫が自分の事業がうまくいかなくて倒産したこと、裁判で訴えられたことなどの説明を受け、それらの話を全て信じて支えになりたいと思っていました。でもこれらの状況を今になって友人に話したところ、絶対におかしいと言われ、自分でも少し疑いだしてこっそり調べたところ、嘘が出てきたという感じです。今離婚を考え始めておりますが、これについても色々と友人から意見を聞くにつけ、自分の中の考えや感情がどこにあるのかも分からなくなってしまうというような状況です。出てくる気持ちは、ただ自責の念と、周囲に心配をかけて申し訳ないという気持ちです。今後のトレーニングでこういった自分が改善されるのか?今後の人生のためにも真剣に考えております。

    返信
    1. あづま 投稿作成者

      Magical Eyeさん
      コメントありがとうございます。
      カウンセリング経験を通じて、他人に支配されやすい人と、そうでない人の違いは何か? ずっと考えて来ました。まだ最終結論というわけではありませんが、自分の感情・自分の価値観をしっかりと持ち、相手が目の前にいても、自分の内側のもの(感情・価値観)を感じることが出来る。そういう人は、支配されにくいようだということが分かってきました。
      他人が心の中、頭の中で何をしているのか、ということは、ほとんどのぞき込む機会がないので、こういう形で、ヒントになればと思って、色々書いています。
      こうやって、受け取って下さって嬉しく思います。

      状況は大変だと思いますが、内面を変えて、現実も変えていく。そうやって、解決していけるといいですね。応援しています。

      返信

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