なつをの夏の物語(22)|恋愛ドクターの遺産第10話

あのときゆり子が感じた息苦しさは、いま、ドクターの、上質な質問を体験したあとだからよく分かる。幸雄の質問はなぜ苦しかったのか。それは、答えてよい答えの幅が狭いのだ。「幸雄が気に入る答え」という、きわめて狭い選択肢の中から、ゆり子が自分の答えを見つけなければならないのだ。当然、ゆり子にとって適切な選択肢がない場合も多い。だから、とても答えにくく、答える場合にもひどく神経を使う。
ふとゆり子は思った。自分も、つい感情的になったときは相手に選択肢を与えないような質問をしているかもしれない、あるいは、そこまでじゃなくても、答えてよい選択肢がきわめて狭い質問をしているかもしれない、と。おじいちゃんの、あの、相手に全幅の信頼を置き、相手が本当はどんな想いを持っているのか、純粋で誠実な関心を寄せる、あのような素晴らしく上質な質問は、多分できていないだろうと思った。
さらに一方、幸雄についてもこう思った。分かっていてやっているのか、無自覚にやっているのかは知らないけれど、とにかく質問を使って相手を自分に都合の良い方向に操作しようとしている。そのような意図、方向を持った質問を繰り出してくることがこれまで多かった、と。仕事をする上ではそのようなコミュニケーションの傾向は、トラブルを生む原因ともなるが、一方、成果を挙げたり、さまざまな意向を持っている人をひとつの方向に束ねていくときにはプラスに働くことも、きっと多いだろう。ただ、夫婦関係がこじれかけたときには、あんな質問しかできないのでは、あとは破たんへの道を歩むしかない。

「質問する、って、自分の『あり方』がすべからく反映されてしまうものなのだなぁ・・・」ゆり子はつぶやいた。
この日はもう夜も遅くなっていたので、ノートの続きを読むことも、ノートから学んだことについて考えることもおしまいにして、ゆり子は眠りに就いた。

・・・

翌日、ゆり子はまた、ひとりの時間に、「恋愛ドクターの遺産」ノートの昨日開いた部分を読み返していた。
そして、ひとり考えていた。「やっぱり、恋愛ドクターに質問されたいなぁ。おじいちゃん、まだ生きていてくれていたらよかったのに。あと、なつをさんにも会えたらいいのに・・・」
そして、父親に電話をした。「お父さん。あのね、あのノート、とても役に立ってるよ。でも、ノートを読むだけではなくて、実際におじいちゃんのカウンセリングを受けてみたくなったの。でももう亡くなってるし・・・あの・・・もし、なつをさんがまだお仕事をなさっているなら、一度お会いしたいなぁ。」
「ああ、なつをさんね。数年前まで現役でカウンセラーをされていたと聞いていますよ。でも最近引退されたようです。ただ、なつをさんの専門分野は恋愛や夫婦関係ではなかったように記憶していたけどなぁ・・・」父親は答えた。結構よく知っているようで、続いてこう言った。「なつをさんが主催しているカウンセリングオフィスは今も継続していて、あとを継いだカウンセラーたちが、今も相談を受けているはずだから・・・ちょっと連絡を取ってみるよ。」
「お父さん、ありがとう。」

その後、ゆり子は父親に、ドクター(つまり祖父)の質問がとても素晴らしいと思ったこと、それを理解したら、夫である幸雄の質問が途端に「詰問」に感じられて、とても狭い範囲でしか答えられない息苦しさを、ようやく自覚したことなどを話した。
ゆり子が「残念だけれど、離婚の方向で進むことになるのかなぁ。」と、ぼそっとつぶやいたら、
父が言った。「ゆり子はここまで一生懸命考えたのだから、どんな結論を出したとしても、お父さんはゆり子の決めたことを応援するよ。」
「ありがとう。お父さん。」

ノートにはまだ続きがあって、まだ丁寧な字でびっしりと何かが書かれている。ここまで心に響く内容だったので、ゆり子はこのノートを最後まで読むことにした。

(つづく)

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