正しいだけでは解決しない(14)|恋愛ドクターの遺産第6話

「聞きたいです。」妙子となつをが同時に言った。
「それは、始めのうちは、うまく行っていたからです。」
「えっ?」
「きっと、お母様の機嫌を取る、すると、機嫌がよくなる、すると、妙子さんもしばらくはネガティブにつき合わされなくて済むので楽になる、という、成功体験、とあえて表現しましょうか、それが、始めのうちは、あったはずなのです。」
「確かに!そうです!だから、いつの間にか、やるようになってしまったんですね。機嫌取りを。」
「ところが、このパターンが固定化してくると、今度は、お母様は、嫌なことがあると、妙子さんをはけ口にすればいいや、と、相手に当てにされるようになるわけです。」
「ほんと、その通りです!」
「相手が当てにしてくる、期待してくる・・・これは、言い換えると、依存されているということなんです。」
「そう!母は私に依存しています!」
「短期的には、効果があった方法が、長期的に見ると、逆効果を生んでいます。」
「・・・確かに、そうですね。」
「そして、人間は、短期的にはプラス、長期的にはマイナス、の行動と、逆に、短期的には少しマイナス、長期的にはプラスの行動があったときに、残念ながら、短期的にプラスで長期的にはマイナスの行動の方が習慣化されやすいのです。」
「?」なつをも妙子も、ちょっとすぐには理解できず、首をかしげていると、ドクターはさらに説明を続けてくれた。
「つまり、たとえば、ダイエットして健康になるという、長期的なプラスよりも、甘いものを食べて、血糖値も上がり、直後は幸せ感を感じるという短期的なプラスの方が、勝つ、ということです。」
「ああ、なるほど!それ分かります!」
「意識していないと、ついつい、短期的なプラス感情がある方の行動が、習慣化されやすいのです。」
「よく分かりました。」妙子が言った。

「というわけで、」ドクターが言った。「お母様からのマイナスの影響を、できるだけ小さくする、ということをまずは目標にして、お母様には、暗い話担当をしてもらって、明るい話担当の友達など、別の相手を見つける。そうやって、まずは心のエネルギー補給をしっかりやっていき、ゆくゆくは、実家を出るとか、仕事でチャレンジをするとか、そういった大きな行動が出来るような、自分の状態を作っていく。そんな方向で、取り組んでいきましょう。」
「はい!分かりました。やってみます!」

(しかし、先生がまさか「幸せでいてはいけない」という類のネガティブな指令を出すとは驚きだった。彼女の母親のように、他人が幸せだと無自覚にエネルギーを吸い取りに来る人のことを、エナジーバンパイヤというらしいが、そのエナジーバンパイヤから身を守るために「幸せでいてはいけない(但し母親の前だけ)」という指令を出した。確かに言われてみれば納得の方針だが、聞いた瞬間は耳を疑った。本来は、幸せになりましょうと言うのがセラピストの仕事だろう。)セッションが終わったとき、なつをはそんなことを考えていた。

・・・

ゆり子は、ノートを閉じた。
「おじいちゃん・・・やっぱり枠に囚われなくて、すごいなぁ。」
ゆり子が相談を受けていたら、たぶん「不倫はダメ」と説教してしまうか、説教の言葉がのど元まで出かかっているのを無理やり抑えて話すことになるだろうと思った。それでは相手は責められていると感じてしまうだろう。後半の、妙子さんのセッションも、お母さんの気持ちも、分かってあげましょう、みたいに言ってしまうだろうと思った。それでは、妙子さんはますます、貴重な心のエネルギーを、他人のために消耗してしまうのだ。

「おじいちゃん・・・」祖父の面影を思い出しながらゆり子はつぶやいた。ゆり子の覚えている祖父は、ノートの中に出てくる恋愛ドクターのような切れ者ではなく、優しくて、楽しくて、暖かい存在だった。一緒に遊んでもらったことをよく覚えている。そんなおじいちゃんが、ノートの中では頭脳明晰、人間関係の問題を次々と解決していく。大好きだったおじいちゃんが実はそんな別の一面を持っていたなんて・・・もちろん悪い気はしないけれど、不思議な気持ちだった。

「でも、私なんて、まだまだだなぁ。」ゆり子はつぶやいた。おじいちゃんのすごいところは、「正しいことを言うだけでは解決しない」という言葉の意味を、最高に分かっているところだ。「正しいことを言うだけではダメ」ということを言う人の多くは、「正しいことをあきらめている」か「正しいことを半分あきらめて妥協している」かのどちらかだろう。言うなれば「正しいことを言うだけでは、どうせ、解決しない。」と言っているのだ。それに対しておじいちゃんは「正しいことを言うだけでは、うまく、解決しない。」と言っているのだ。似ているようだけど、全く違う。前者は「だから適当にやっておけ」または「だから妥協せよ」という結論につながるのに対し、おじいちゃんの取っている後者の立場は「だから、最高に有効な解決策を考えるべき」という結論につながっている。事実、祖父は最高に有効な解決策を、いつも、希求している。

こんな、頼りがいのある人と一緒に仕事しているなつをがうらやましいと、ゆり子は思った。
「なつをさん、いいなぁ。もし会えたら、おじいちゃんのこと、色々聞いてみたいなぁ。」

(第6話おわり。第7話につづく)

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