霞の向こうの神セッション(2)|恋愛ドクターの遺産第7話

「私のところに相談に来たときには、九割方決心が決まっていた感じでしたよね?」
「そうでしたね。おかげで、そのあとの問題解決は早かったなー。」
「ほんとびっくりしましたよ。」
私と先生は、わはは、と大声で笑った。
「なつを君、そういうのを、治療前変化、というのです。」
「はい、よく分かりました。だから、申込の時点の状態を前提にしてはいけない、ということなんですね。私も結構・・・というか激しく変化してから当日を迎えたわけですからね。こういう人、結構いらっしゃるわけですよね。」
「ええ、まあ、激しく変化している人は、10人にひとりぐらいですけどね。半分ぐらいの人は、ほぼ変化なし。あとは、気持ちが少し楽になったとか、セッションで訊かれそうなことを準備してきたとか、これまでの経緯を自分で紙に書いて整理してみたとか、まあそんな感じで、マイルドな変化、という感じです。」
「なるほどー。参考になります。それで、『治療前変化を問う』というのは・・・?」
「ああ、だから、『お申し込みになってから、本日までで、何か変化はありましたか?』といった主旨のことを訊く、ということです。」
「なるほど、単純なんですね。」
「うちの場合、改めて、相談内容を書いてもらったりしていますけどね。」
「そういえば、相談内容、お申し込みの時点で頂いているのに、どうしてもう一度書いてもらうのかなぁ、と、いつも不思議に思っていました。」
「あれは、とりあえず落ち着いて、それからセッションを始めていくという、ある種の儀式的なものでもありますし、もうひとつの重要な意味が、お申し込みの時に頂いた相談内容と、当日書いて下さった内容が同じかどうか見る、というものなんですね。」
「そうなんですね。なんだか、刑事ドラマの取調室で、刑事さんが同じ質問を何度もして、何度聞いても同じ答えになるかどうか確認する、みたいな感じに似ていますね。」
「そうかなぁ。別に疑っているわけではないから・・・似ているのかなぁ。」ドクターは苦笑しながらそう答えた。
「いやー、昨日も刑事ドラマを見ていたので、つい思い出してしまいました。あ、でも、もし、そうやって申込の時からの変化を確認しているのだとすると、家で書いてきたメモを見て記入する方の場合、古い情報を書き込んでいるかもしれない、ということですか?」
「そうなんですよ。できればやめてほしいと思っているんですけどね。」
「だから先生、用紙に記入してもらうときに『今のご気分で』なんて訊かれてますよね?」
「なつを君、よく見ていますね。そうなんですよ。なるべく、今の自分が書く、というのをお願いしたいところではあります。」
「そういうルールにはしないんですか?」
「まあ、メモを持ってくる人の場合、間違えちゃいけない、とか、じっくり考えないと、何か大事なことを落としているかもしれなくて不安、とか、色々考えることがあるわけですよね、きっと。そういうことを心配してメモを持ってきた、というのも、その人の個性を表していて、大事なヒントになりますよね。」
「あ、なるほど。メモを持ってきて、間違いなく書こうとする、ということも、大事な情報なんですね。」
「そういうことです。だから、メモを出した人の場合、そのことが大事な情報です。どうせ過去の気持ちを書き写しているわけですから、書いている内容はほぼ読みません。むしろ、『ああこの人はメモを書き写す人なんだなぁ』という情報の方が、この場合、大事ですね。」
「読まないんですね。」
「だって、申込の時に作ったメモを出して、紙に書き写したら、新しい情報は何も無いじゃないですか。」
「そうですよね・・・その割り切り方が気持ちいいです・・・でも、先生、本当に、色々なことを観察するんですね。」
「当然でしょう。そのぐらい本気で、その人のことを知ろうとしなければ、カウンセリングは成り立ちません。」
「・・・精進します。」
「そして、話を少し戻しますが、メモを出して来て、それを見ながら用紙に記入した人の場合、今の自分の気持ちを書いているのではなくて、メモを作成したときの自分の気持ちを、用紙に書き写している、わけですから、当然、情報が古いだろう、ということを念頭に置いて、セッションを始めます。」
「はー。色々大変なんですね。」
「ちょっと、頼みますよ。私が老いぼれる頃には、なつを君、キミがこのカウンセリングオフィスのエースになっていないと、困るわけですからね。」
「はーい。」
「そのような、メモを書き写すクライアントさんの場合、セッションの中で、『今はどう感じていますか?』などの、今どう感じているか、今どう考えているか、という現在の状態を問う質問を少し増やして、治療前変化がどの程度起こっているのか、見積もりながら進めていきます。」
「なるほどー。治療前変化、結構奥が深いですね。」
「そうですよ。奥が深いのですよ。」
「先生、今までで一番、激しく変化した、治療前変化というのは、私のセッションですか?」
「いや、なつを君、キミのはまあまあ大きな変化ではあったけれど、一番じゃありません。もっとスゴイのがありましたよ。」
「どんなのだったんですか?」

・・・

「ママ、ママ!」娘のさくらが起きてきた。
恋愛ドクターの遺産ノートを読んでいたゆり子は、ノートを一旦閉じて、さくらの方を向いた。
「さくら、どうしたの?」

(つづく)

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