脱オレサマを目指す女子(7)|恋愛ドクターの遺産第8話

「相手をよく観察するのは、意味があると思います。」ドクターはハッキリとした調子でそう言った。

「そうなんですね!」淑恵は一瞬嬉しそうな声で返答したが、すぐに元の調子に戻って言った。「でも実際解決していないので、だめですよね・・・」

「ええと。そうなんです。相手をよく見るだけでは、引き寄せの改善には不十分なんですね。でも、意味はありますから、そこは大事にしてくださいね。やめる必要はありません。」

「はい・・・」

「こうやって、解決のために試行錯誤するという姿勢は、とても素晴らしいと思います。今まで、よく頑張って来ましたね。」

「ありがとうございます。」そう言ったとき、心なしか、淑恵の、相手に向けている集中力がゆるんだような気がした。

 

「ところで淑恵さんは、」ドクターは話題を変えるらしい。

「はい。」淑恵はとにかくレスポンスが早い。相手が何かを言い出したら、すぐに反応する。しかも、相手に合わせているから、相手の話の邪魔は一切しない。

「会社では、上司や・・・あるいはもっと上の、社長さんとか、そういう人から気に入られることが多いですか?」ドクターが意外なことを聞き始めた。

「えっ!? あ、はい。そうですね。確かに、社長さんに気に入ってもらったり、目上の人から可愛がられることは割と多かったと思います。」

「なるほどね・・・」ドクターは、何か、分かったぞ、という表情をしながら何度かうなずいた。

 

ドクターはしばらく天井を見上げるようなしぐさをして考えていたが、やがて提案した。

「では、少し、あるワークをやりたいと思います。ネタバレすると意味がないので、意図は言いません。まあとにかく、ある会話をみんなでしてみましょう。」

「ある会話・・・?」淑恵が尋ねた。

「会話のテーマには特に意味がないのですが・・・たとえば、『街で見かけたマナーの悪い食べ方』なんてのはいかがでしょうか。」

「はぁ・・・」

「なつを君も、入ってくださいね。」

「えっ!? は、はい。」

「では私から行きますね。先日居酒屋に行って皆で呑んでいたとき、少し離れた席のお客さんの一団が、結構賑やかだったんですね。いや、賑やかと言うより怒鳴り声も聞こえたりしていたんですが・・・まあそれは、人間関係色々あるでしょうからまあいいんですが、そのお客さんの二人ぐらいが、立て膝をして、その膝がテーブル・・・というか座卓ですが・・・の上に見えていたんですよね。あれれー、いい大人がそんな初歩的なことを、と思ったのをよく覚えていますね。はい、では、次、なつを君!」

「えっ!? は、はい!」私は急に話を振られてあたふたしてしまった。

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