月別アーカイブ: 2017年9月

呪い(17)|恋愛ドクターの遺産第9話

・・・そして5分後・・・
最初に戻ってきたのはナタリーだ。なんだか目が輝いている。続いててっちゃん、そして、重苦しい空気をまとって最後に戻ってきたのがなつをだ。
「あのね、あのね、やっぱり頭痛だと思うの。」ナタリーが興奮気味の声で言った。
「何が分かったの?」てっちゃんが訊いた。
「まず、緊張が高まって、それが少しゆるんだときに、偏頭痛が出やすいらしいのね。偏頭痛は脳の血流が増えることによって起こるらしいので、緊張がゆるんで、血管が拡張して、それで起きることは多いらしいの。」
それを訊いて私なつをはほっとした。やっと原因が分かった、と。やっぱり頭痛なんだ。
「へぇー。で、紫色のぐるぐるはどう説明するの?」てっちゃんが訊いた。
あ、そうだ、それは説明できていないじゃない。なつをはまた不安になった。
「えーとねー。メモしてきたんだけど、『閃輝暗点(せんきあんてん)』という症状があるらしいのね。偏頭痛の前兆みたいな症状で、光の点などが見えたりするらしいの。紫色のぐるぐるとして表れるのは彼女の特徴だと思うけど、伯母さん家に行くとストレスがかかって、その頃から閃輝暗点が出て、緊張が解ける頃に、頭痛と吐き気が襲ってくる、と考えると、わりと説明が付くと思うんだけど。」
最も感覚派だと思っていたナタリーが、最も論理的に症状を説明したのが意外だったが、完全に辻褄が合っているし、それで、私なつをもてっちゃんも、深く感心して、しばらく言葉が出なかった。
「どうやら、頭痛説で全部説明が付きそうだね。」てっちゃんが言った。
「正確には、偏頭痛ね。閃輝暗点付きの。」ナタリーが得意げに付け加えた。

「コーヒー入ったよ。」ドクターと湯水ちゃんが戻ってきた。
議論に使った紙を一瞥してドクターが言った。「お、何か結論が出たみたいですね。発表はコーヒーでも飲みながら聞きましょうかね。」
セラピストチームの三人は、閃輝暗点が出て、そのあとに頭痛と吐き気がするという、偏頭痛の症状で全て説明が付くこと、その症状が伯母の家に行くというストレスが引き金になって起きていること、緊張のピークの少し後、少しゆるんだときに症状が出る点もよく合っていることなどを説明した。
「では、頭痛薬が効かなかったことは、どう説明するのでしょうか?」ドクターが訊いた。
私なつをは、はっとした。まだ見落としていたのか・・・
「ええと、偏頭痛の場合、前兆の段階で薬を飲んだ方が効くことが多いんです。私も以前頭痛持ちで、薬を飲んでいたことがあったんですが、頭痛が激しくなってからだと、効きが悪いんですよね。」ナタリーが言った。今回ナタリーが最も原因究明に力を発揮した。
「なるほど、うまく説明できていますね。」ドクターはゆっくりと数回うなずいた。「では、どういう解決策を提示しますか?そして、推定原因と合わせて、クライアントののりこさんに、なんと言って説明しますか?湯水ちゃんを前にして、どう伝えるのか、それを実践してみましょう。相談タイムを20分差し上げます。」

「あたしなら、『あたしも頭痛持ちだったから、ほんと、おんなじ症状が出たことあるよ』ってストレートに言っちゃうかな。それで・・・早めに頭痛薬を飲むように言うのと、やっぱり伯母様の家にはなるべく行かなくて済むように作戦を考えるかな・・・えっと、先生が使われていた『けのろい』を使い続けるとか。」ナタリーが言った。ナタリーは正直で率直だ。
一方、クライアントに正直に言いすぎて契約を切られた経験があるコンサルタントのてっちゃんは、真実を告げることに対して慎重だ。「ただ、彼女の場合それが『呪い』だと信じているわけですよね。頭痛薬もあまり効かなくて、だから『一般的な頭痛ではない』と信じている。彼女の信念を覆して、頭痛だと説得しなければいけないのは、やりづらいですね。」
「なつをちゃんは、どう思うのさ。」ナタリーが訊いた。
「ええと・・・私は・・・その・・・真実を告げるべきだとは思うんですが、ちゃんと受け止めてくれるかどうか分からないし、また地雷を踏むことになるかもしれないし・・・その・・・」なつをはしどろもどろになってしまった。
「いいじゃん、言えば。そんなこと気にしてたら、何も言えないよ?」ナタリーはあくまで思ったことは言う、を貫く方針らしい。
ここでチーム外から湯水ちゃんが横やりを入れた。「ナタリーはさ、占い師じゃん?結構叱ってほしい女子、よく来るでしょ?ズバッと言ってほしい、という人が多いんだよね。占い師の先生のところって。ナタリーもビシッと言ってくれる先生、てことで定評を得ているしさ。だから、ナタリーが、いつもの感じで、占い師としてこの問題に関わったら、そのままストレートに言う、が正解だよね。一方、コンサルタントの場合、割と信念を持ったら中々曲げないような頑固な社長さんも相手にして仕事をするから、真実を告げるというよりは、少しずつ情報提供して、クライアントに気づいてもらう、クライアントに結論を出してもらう方がソフトでスムーズですよね。だから、てっちゃんの慎重に言う、もコンサルタントとしては正解だよね。で、なつをは、どういう姿勢でクライアントに向き合うの?自分の姿勢を決めないと、方針決めれないよ?」
その時ドクターは「その通り」と言うかのように、深く数回うなずいた。

(つづく)

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呪い(16)|恋愛ドクターの遺産第9話

「バラバラに生じているのではなくて、人間が起こす問題の場合、何か一貫した傾向があるはずだ、と考えることが大事です。」ドクターが念を押すように言った。
「でも、分かっても解決は簡単ではないですよね。だって、自己否定傾向が直ったとしても、夫や姑の性格は簡単には変わらないですよね。職場での仕事の引き受け方は変わってきそうですけど・・・」なつをが言った。
「そうですね。原因を推定するときは、解決の容易さを一旦脇に置いて考えることが大事だと思います。但し、本質的な原因が分かったら、それは、後々ずっと役に立つのです。たとえば、自己否定を治して、夫が変わるわけではない、としても、今まで責任転嫁型の夫や姑に合わせてきたから、彼女は苦しいけれどなんとか関係を保ってきたわけですね。でもそれをやめるということは、すぐには解決に至らないとは思いますし、いろいろ波風が立って大変な時期を経験するかもしれませんが、結果的にはいつか離婚になるでしょう。そして次に誰か大切な人を見つける・・・かどうかは彼女次第ですが・・・もし見つけるとしたら、そのときは、以前夫を引き寄せた自分とは違う傾向を持った人間として、相手を引き寄せるわけですから、少なくとも未来の夫の責任転嫁の度合いは、今の夫よりは少ないでしょう。今よりいい人を引き寄せられる可能性は高くなりますよね。逆にここでもしも、手をつけやすい解決策ばっかり考えたら、たとえば夫に色々要求してみようとか、断ることを覚えましょうとか、ですが・・・彼女は自己否定傾向をずっと抱えたまま、無理をしてその行動をすることになります。これでは中々解決しないでしょう。根本的なことを考えずに、やれそうなことだけやる・・・これ、ダメ社員の典型みたいな感じですが・・・それでは、長い目で見たときに、クライアントが救われないのです。」
「はぁ・・・」私なつをは深くため息をついた。その通りなのだ。やれそうなことを、何か提案しなくては、何か、何か、何か、と焦って、深く考えることを避けてしまう。そういうことが、今までも結構あったので、反省させられた。

「はい、では、ひとつの共通した根っこを見つける、という方向で、のりこさんのケースの原因を推定して下さい。セラピストチームの皆さん、20分差し上げますので、その時間内で、チームとしての結論をまとめて下さい。」ドクターはしっかりした調子でそう言ったあと、「では湯水ちゃん、私たちはコーヒーでも淹れてきましょうか。」そう言って、湯水ちゃんと二人で部屋を出て行った。

「20分で原因が分かる気がしない・・・」なつをがいきなり弱気な発言をした。
「まあ、やれるだけやってみましょう。」てっちゃんは達観している様子だ。
「頭痛だと思うけどねー。」ナタリーはマイペースだ。

5分ほどあれこれ議論になったが、結局結論は出そうになかった。
そこで、てっちゃんが提案した。「少し、何が起きているか、パターンを整理してみませんか?」コンサルタントだけあって、こういう難解なテーマを整理するのは得意なようだ。
みんなで意見を出し合い、結局まとまったのはこういうことだった。
・伯母の家に行くことが症状の引き金になっている
・緊張が最も高まるのはどうやら伯母の家に行く直前〜伯母の機嫌が判明するまで
・症状が出るのは、むしろ緊張のピークの後(帰宅後のこともある)
・症状は前兆の「紫のぐるぐる」+その後の「頭痛」「吐き気」がセットになっている
・頭痛薬は飲んだがあまり効かなくてやめた

「これらの症状を、うまく説明できる、単一の原因を探すことにしよう。」てっちゃんは言った。
実はこの合宿所には、心理学関係の本や、医学関係の本が色々置いてあったりして、調べ物をするには十分な環境だ。
「では、5分後に集合で。」てっちゃんが言った。
「5分か〜自信ないし〜」なつをが泣きそうな調子で言った。
「私は頭痛を調べるからね!」ナタリーはマイペースだが、一貫して頭痛を主張している。

(つづく)

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呪い(15)|恋愛ドクターの遺産第9話

迷走気味の議論を見て、ドクターが割って入った。「ええと、ある症状が発生している場合、あるいは複数の症状が同時期に発生している場合、その根本原因は、まずは一個と考える、というのが問題解決の基本です。」

「一個、なのですか?」なつをが訊いた。
「なつを君は、答えを聞こうとしているのですか?」
「あ、いやいや、そうじゃなくて、一個と考えるのが基本、ということを確認したかったのですが。」
「ええ、基本は一個と考えます。そして、一個で説明が付かないときに初めて、二個であると考えて推論します。」

私なつをは混乱した。幻覚を見ている、そして、頭痛に襲われる。吐き気がする。原因が一個だ、と言われると、分からなくなってしまった。

「ここで少し、考え方の基本を整理しておきたいと思います。」ドクターが言った。「彼女の症状に似ている例を使うとネタバレ、というか答えが分かってしまうかもしれないので、全然違う例を挙げて説明しますね。ある女性が、(1)やらなければいけない仕事が多すぎる。(2)家に帰っても非協力的な夫や高圧的な姑がいる(3)毎日がもうイヤになって死にたくなる、というみっつの症状・・・人間関係の問題も含めて「症状」・・・に悩まされているとします。それぞれの症状に対してバラバラに原因を考えるのではなく、同じひとつの根っこから、一見バラバラに見える複数の症状が現れているとしたら、根本は何だろう、と考える、ということを、まず最初にやるべきだ、と言っているのです。」

「つい、それぞれについて、ありそうな原因を考えてしまいますね。」なつをがつぶやいた。
「そうですね。でも、始めにすべきことは、共通の根っこが何かあるのではないか、と考えることなのです。ちなみにこのケースは架空のケースですが、この女性が『自己否定的な考え方をしている』というのが根っこになります。」
「自己否定的だと、どうしてそうなるのですか?」なつをが訊いた。
「まず、死にたくなる、という症状が出る場合には、大抵自己否定があります。問題が起きた時に他人のせいにしている場合は、余計な行動をとって周りを混乱させることはあっても、自分を消そう、そこしか逃げ場がない、という風にはなりにくいものです。やらなければいけない仕事、というのも、職場で『断れない』あるいは『誰もやろうとしないが、誰かがやらなければいけない仕事を自らやってしまう』などの形で、無意識に引き受けている仕事が多いんですね。責任感が強い人に多いのですが、責任感は罪悪感の裏返しです。罪悪感は、そう、ある種の自己否定ですよね。また、このような自己否定的な思考の人は割と、他者否定、つまり他人に責任転嫁して、仕事を押しつけるようなタイプの人とカップルになりやすいのですが、こうして非協力的な夫を引き寄せた可能性は非常に高いですね。」
「なるほどー。」ナタリーが一段と高い声で言った。

(つづく)

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人間関係の引き寄せを変える

あづまです。こんにちは。

あなたは、望む人間関係を引き寄せてますか〜?

まあ、私も、出来ているときと、中々思い通りにならないときと、色々ありますが(^_^;)

とは言え、不健全な人間関係がずーっと続いて困り果てているとか、まあそういうことはないですね。ありがたいことに。

人は、無意識に、
このタイプの会話には参加しやすい、とか、
このタイプの会話には参加しにくい、とか、

誰かと面と向かったときに、
自分の気持ちを感じる方に意識が向く、とか、
相手の気持ちを察する方に意識が向く、とか、

意識の使い方に、クセがあるものなんです。
そして、そのクセが、引き合う人間、引き合わない人間を決めていたりします。
(講座ではあえて「噛み合う」「噛み合わない」と表現しています)

もう少し根深いテーマになりますと、
心の底に抱えた怒りですね。
案外、誰でも結構持っていたりするものなんですよ。男女差もないですし。

それが、人下関係に悪さをするパターンなんかもあります。

一番有名なのは「投影」というやつですよね。フロイトの時代から知られているメカニズムです。
自分が相手を嫌っている(相手に怒りを抱えている)のに、それをフタすると、相手が自分を嫌っているように見えてくる。対人恐怖の一類型です。

これは、自分が怒りを抱えていて、相手にそれを投影しているパターンですが、ちょっと違う「投影」もあります。ジャイアン型と言いますか。自分は弱っちいキャラを前面に出していて、相手は心の底で弱っちい自分が嫌い、なんですね。かあちゃんに対して敵わないジャイアン、みたいな。そういう情けなく弱っちい自分は、嫌いなんですね、ジャイアンは。のび太は、その、ジャイアンが嫌っているキャラを前面に出して生きている。だからジャイアンのせりふは「のび太、お前を見てるとムシャクシャするんだ」なんですね。ひどい話ですが。

相手が、自分に対して投影を起こしているパターンですね。

他にもいくつか、パートBSでは、抑圧した怒りが起こす問題について学びます。

こんな風に、人間関係の引き寄せ(意図せず、誰かと近づいてしまったり、誰かと遠ざかってしまったり)について、もちろん完璧ではないですが、ある程度理解出来て、それに対する対策も立てられる。それが、

幸せな恋愛・結婚・人間関係の深い秘訣が分かる!
あづまやすしの心理セラピー&人間関係コンサルティング講座
パートBSです。

http://www.556health.com/sp/r_therapist_ws/

呪い(14)|恋愛ドクターの遺産第9話

「ええと・・・呪いが原因とのことですから、あくまで対症療法になりますが、頭が痛くなったとき、頭痛薬をお飲みになったことはありますか?」
模擬セッションが再びスタートした。
「はい。呪いに襲われた後、どうしても辛くて頭痛薬を飲んだことはあります。なんとなく頭がぼうっとする感じがして、少しは痛みが軽くなる気がしたのですが、治ったとは言えないような感じでした。量を増やしたりするのも怖かったので、何度か飲んでみた後、やめて、それ以後は呪いを解く方法を探したり、そういうことをしてくれる先生を探したりしていました。」
「もうひとつ教えてほしいのですが。」さきほど地雷を踏んだからか、慎重な調子でなつをが質問した。
「はい。」
「おばさまの家に行ったとき、呪いの症状が強く出たり、あまり出なかったり、などの違いはありましたか?」
「はい。伯母の家に居るときからあの渦巻きに襲われることもあれば、そういうことはなくて、全て終わって家のベッドに横になったときに呪いがやってくることもありました。」
なつをは焦った。うまく質問できない。本当は、何が原因でその違いが生まれるのですか、と訊きたいのだ。だが、それが分からないから相談に来ているのであって、分からないことを訊いても何にもならない。
と、ここでてっちゃんが助け船を出した。「おばさまの家に行く日に、こういうことがあると、呪いの症状が強く出る、あるいは、こういうことがあると症状が弱い、など、呪いに影響しそうな要因で、何か気づいたことはありますか?」
そう、そう言いたかったのだ。なつをは思った。すらすらと言葉が出て来ない自分がもどかしい。
「あの・・・役に立つか分かりませんが、伯母の機嫌が悪いときの方が、あとで呪いの症状が強く出るように思います。ただ、不機嫌な伯母に会っても、帰宅後小さい渦が見えて、軽い頭痛だけだったこともありましたし、ハッキリとは分かりません。」
「呪いが強く出るときは、お母様に頼まれたお使いの内容が大変、とか、そういうことはありますか? あとそれと、お使いに行くときの気分と、呪いが出てくるときの気分を教えて下さい。」ナタリーが質問した。ナタリーはロジカルと言うより感覚派だ。
「ええと・・・母にお使いを頼まれたときの気分は、なんか、重い感じ。胸の辺りがずーんと重たい感じです。重いときの方が呪いの症状は強く出るような気もしますが、大抵いつも重いので、正直よく分かりません。呪いが出てくるときには、この重い感じは、なくなってる気がします。あ、でも、伯母の家に近づいて、呪いの前兆みたいなのを感じるときには、あります。この胸の重い感じは。」

こんな風にして、しばらく湯水ちゃん扮するのりこ役に対して、三人のセラピストが次々質問をする展開になった。ある程度質問が出尽くしたところで、ドクターが次の指示を出した。

「では、そうですね。そろそろ原因を考えるのに十分な情報が出たと思いますので、ここで三人で相談して、何が原因だと思うか、それをまとめて下さい。」

クライアント役をするのは神経を使う。あまりに意地悪をして真実を隠してしまうと模擬セッションが迷走してしまうし、逆に答えをばーっとぶちまけてしまうほどのバカ正直さでは、学びにならない。不注意から余計なことを言ってしまっても、ケーススタディーを台無しにしてしまう危険性があるし、かと言ってあまりに神経質になると、その緊張が前面に出てしまって、セラピストがクライアントの感情を読み取る部分に、かなりの悪影響が出る。
お役目が終わって、ほっとした表情の湯水ちゃん。一息ついているドクター。
そして、これから難題に取り組もうとしている、重苦しい空気のセラピスト担当の三人、と明らかに明暗が分かれた。

「私ね、やっぱり頭痛だと思うの。」ナタリーが言った。「私もストレスで頭痛が出ることがあるし、彼女相当のストレス下におかれているでしょう?頭痛ぐらい出ると思うのよね。」
「でも、頭痛薬はあまり効かなかったみたいですけど。」なつをが言った。
「そうなんだよね・・・僕も始めは偏頭痛とか、そういう生理的なものかな、と思ったけど。ストレスから頭痛が出てもおかしくはないと思うから。でも頭痛薬、効かなかったんだよね。」と、てっちゃん。
「でも、あの『呪いの症状』と言っていた、紫色の渦は、何なんでしょうかね?幻覚が見えたとか?幻覚なら、統合失調症があるとか、何か説明が必要ですよね?」なつをの表情は固い。
「統合失調症で、頭痛持ち、か。大変よね、彼女。」ナタリーはどんなときも脱力系の話し方だ。
「ちょっと待って、そう決めつけてはいけないんじゃないの?」てっちゃんが諫めた。

迷走気味の議論を見て、ドクターが割って入った。「ええと、ある症状が発生している場合、あるいは複数の症状が同時期に発生している場合、その根本原因は、まずは一個と考える、というのが問題解決の基本です。」

(つづく)

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呪い(13)|恋愛ドクターの遺産第9話

「ほう、なつを君、積極的ですね。では他のお二方も、協力してこの課題に取り組んで下さい。」

ここまでで、担当と課題がこう決まった。

担当
恋愛ドクターA 司会進行役 (事情を知っている)
湯川みずほ(湯水ちゃん) クライアント役 (事情を知っている)

なつを メインセラピスト (事情は知らない)
ナタリー サポートセラピスト (事情は知らない)
清水哲男(てっちゃん) サポートセラピスト (事情は知らない)

課題
「呪われている」という相談 5年ほど前の事例
本当のクライアント のりこ(この場には来ていない。湯水ちゃんが代役)

 

「では、始めて下さい。」ドクターが形式張った調子でそう言って、課題が開始された。

「あの・・・頭痛や吐き気が出るということですから、頭痛薬を飲まれたことはありますか?」なつをが質問した。
「はい。呪いに襲われた後、どうしても辛くて頭痛薬を飲んだことはあります。なんとなく頭がぼうっとする感じがして、少しは痛みが軽くなる気がしたのですが、治ったとは言えないような感じでした。量を増やしたりするのも怖かったので、何度か飲んでみた後、やめて、それ以後は呪いを解く方法を探したり、そういうことをしてくれる先生を探したりしていました・・・あの先生、先生も私の『思い込み』とか言うんじゃないでしょうね!」湯水ちゃん扮するのりこはリアリティーたっぷりの名演技だ。
「えと・・・あの・・・決してそういうわけでは・・・」なつをは開始早々しどろもどろになってしまった。

ここでドクターが、ストップをかけた。ドクターストップだ。「さてなつを君、いきなりクライアントの神経を逆なでしたようですね。何がいけなかったと思いますか?」
こんな短い時間なのに、体中にイヤな汗をたくさんかいた。汗を拭きながらなつをは答えた。「ええと、呪いという訴えを疑ってかかったこと、でしょうか。」
「サポート役の皆さんのご意見は?」
「私も同意見です。」てっちゃんが言った。「私は仕事柄、粉飾決算をしていたり、横領ギリギリの線で会社のお金を私物化していたりという社長がクライアント、みたいなこともあるのですが、いきなり問題点の指摘ばかりすると『お前は税務署の回し者か』とか言われて契約を切られてしまうこともあり得ます。実際先輩からそういうことがあったと聞かされました。だから、社長が『売上が上がらなくて苦しい』と訴えていたら、たとえ本心では『アンタの使い込みのせいでしょ』と思っても、まずは売上が上がらなくて苦しい、という話にも、真実があるという前提で話を伺うようにしています。」
「では、どう訊いたら良かったと思いますか?」ドクターはあくまで冷静に進めていく。
「そうですね。たとえば・・・」てっちゃんはそう言ってから目線を天井の方に向けて考え始めた。そして言った。「『呪いが原因とのことですから、これはあくまで対症療法ということにはなりますが、頭が痛くなったとき、頭痛薬をお飲みになったことはありますか?』みたいに訊けば、クライアントの考えを踏みつぶすことはないと思います。」
「そうですね。あくまで本質的解決策ではない、対症療法だけれど、頭痛薬はどうか、というロジックで行く、これは大事だと思います。そして、てっちゃん、『呪いが原因ですから』ではなくて『呪いが原因とのことですから』という言い方も、素晴らしいですね。」
「どう・・・違うのですか?」なつをは少し混乱してきた。
「なつを君、もうちょっと頑張りましょう。『呪いが原因ですから』という言い方は、【呪いがこの症状の原因】という意味と【その解釈に私も同意している】というニュアンスを含みます。一方『呪いが原因とのことですから』という言い方は、【呪いがこの症状の原因】という意味は同じですが【その解釈はあなたのものであって、私が同意しているとまでは言っていない】というニュアンスが込められています。『とのこと』というたったの四文字を入れるだけなのに、相手の考えは尊重しつつ、自分の軸はぶれない。健全な境界線を引くような言い方になっていますね。」
「えっ?」なつをはすぐには理解できなかった。しばらく考えているうちに、だんだんふたつの言い方の違いが分かってきた。「先生、私がよく、他人の地雷を踏むのは、こういうニュアンス・・・でしたっけ・・・の違いをうまく使いこなせていないからなのですか?」
「まあ、それも多分にあるでしょうね。カウンセラーをする場合、このあたりの表現力をしっかり身につけることは、大事だと思いますよ。」
すこしうつむいたように見えるなつを一瞥したあと、みんなの方を向いてドクターは続けた。「では、続けていきましょう。」

(つづく)

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セラピー&人間関係コンサルティング講座


こんにちは。心のコンサルタント|恋愛セラピスト あづまです。
今期も、練りに練った内容の講座を、自信を持ってお届けいたします。

幸せな恋愛・結婚・人間関係の深い秘訣が分かる!
あづまやすしの心理セラピー&人間関係コンサルティング講座

長いので、略して「セラ☆コン」


今期の募集を開始しました。

全体構成は、こうなっています。
パートA  心のエネルギー補給法 & エネルギー流出防止
パートBS 人間関係の引き寄せ改善 望む関係を得る方法
パートC  問題解決法。心の問題の根っこを確実に見つける

↓↓↓お申し込みは↓↓↓
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■パートAは、心のエネルギー補給法です。

第一日目のテーマは、傾聴・その他。

なぜ人は、話を聴いてもらうと元気が出るのでしょうか。
未だに私は、不思議に思います。

でもそれを解明する講座ではなくて、
まあ、理由はともあれ、体験してみましょう、という内容。

 

第二日目のテーマは、フォーカシングとアンカーリング

フォーカシングは、感情を整えるために使える
セルフセラピーの優れた方法です。

アンカーリングは、感情の貯金みたいなもの。
プラスの感情を貯金して、どんどん足していく。

マイナスの感情はうまく中和して、減らしていく。
(借金は早いところ返済、ということですね)

この原則が分かると、自分の状態をケアするコツが、
つかめます。いま感情的に不安定になりやすい人も、
このあたりから、安定させるコツをつかめると思います。

 

私の講座で学ぶメリットは、
ここで、アンカーの「足し算」と「引き算」を体験する
ことですね。アンカーリングは一般的なスキルで、教えている
講座は多いですが、アンカーを足したり引いたりするやり方は、
あまり他所では教えているのを見たことがないのですが、

実践的には、足し算と引き算を覚えると、
本当に使えるスキルになります。

 

まとめると、初日と二日目は、心のエネルギーを
心に補充していくための取り組みについて学びます。

バスタブに水をためることに例えると、
ちゃんと水を出す、とはどういうことか、というお話です。

バスタブの水の場合、出し忘れと言うことは、
それほどないと思うのですが、
(あったとしてもすぐ気づくと思いますが)

心のバスタブの場合、
自分は心にエネルギーを入れていなかった
(たとえば、楽しいことを全然していなかったとか)
ということが、多々あります。

水の出し忘れですね。
それを、改めてよく考える機会になると思います。

 

一日目、二日目が「水を出す」ことに相当するなら、

三日目は、バスタブに水をためることに例えると
「フタが取ってあるか確認する」
ということです。

本物のバスタブの場合、水を出して、でも、
フタがしてあったら、すぐ気づくと思いますが、

心のバスタブの場合、気づきにくいのです。
詳しい説明は明日のメルマガで。

 

四日目のテーマは、水を入れる方じゃなくて、
「バスタブの栓が抜けて、一気に水が抜けてしまった」
という事態を、どうやったら防げるか、というお話。

これは、一日目から三日目までの取り組みがあって、
ようやくこの日に、身につけることが出来る、
少しだけ、高度な話です。

他人の心ないひとことに「グサッ」ときて、
心のエネルギーがダダ漏れになってしまう。

みたいなこと、ありませんか?
それが「栓が抜ける」ということです。

これをうまく防ぐコツを皆で学びます。

 

四日分の内容を活かせば、
今は感情的に不安定な人も、
今までより、ずっと安定させることができます。

自分で自分をセラピーできるようになるわけです。

気持ちが安定すれば、

人間関係も良くなります

仕事のパフォーマンスも上がります

勉強も頭に入ります

子供など、周りの人にもプラスの影響が及びます

 

いいことばっかりです。

 

ぜひ、ご検討下さいね!

 

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熱い議論|呪い(12)|恋愛ドクターの遺産第9話

「でも、先ほどのクライアントの、のりこさんの場合は、もう散々『呪いだ』『呪いだ』と騒いで、オオカミ少年のように、母親にはおそらく『またか』と思われているんですよ。」
「何だか、切ないです。悲しいです。」
「そうですね。だから、私たちがカウンセリングの時に、のりこさんが『呪いだ』と主張したことを、頭ごなしに否定せず『どうしてそう思ったのですか?』と丁寧に訊いていったとき、のりこさん、嬉しそうでしたよね?」
「確かに、そうでした。何だか初めて、自分の主張にちゃんと耳を傾けてくれる人がいた、という感じに、嬉しそうでした。」
「それで、話を戻すと、お母様からは、どうせ既に『またか』と思われているんですよ。そもそも、仮病の一種ぐらいに、今までも思われてきたのでしょう。だとしたら、おばさまの家に行く前に『呪いの症状が出た』と騒ぎ始めても、それほど違和感はないでしょう。」

「それは・・・そうですけど・・・」
「お母様から見て、今までののりこさんと、大きくは変わらないけれど、ちょっとだけ変わって、お使いに行く前に『呪いの症状だ』と言うようになった。これは、違和感が少ないですね。そして、のりこさんの立場からすれば、結果的におばさまの家に行く頻度を下げることが出来る、という実益があります。ほら、一番無理なく、クライアントの心理的ストレスを減らす道になっているじゃないですか!」

湯水ちゃんは、しばらく何も言えなかった。そうなのだ。考えてみればみるほど、先生の提案が合理的に思えてきたのだ。言い方が軽かったから、適当な提案を言ったように感じていたが、先生はもっともスムーズに無理なく、クライアントの負担を減らす道を考えて、あのような提案をしたのだった。
こういう柔軟さがない自分に嫌気が差したし、先生と自分の差があまりに大きいことに愕然としてもいた。

 

・・・場面は戻って、合宿・・・

「というわけで、かつて湯水ちゃんが私の助手を務めていた頃に相談があった『呪いを解いてほしい』というテーマについて、当時のことを説明させて頂きました。」ドクターが、合宿のメンバーに、当時の相談内容を説明したあと、そう付け加えた。
ドクターと一緒に説明を終えた湯水ちゃんが、ペコリと一礼した。

「では今から、この相談事例を教材として、どんな風に進めるべきなのか、そして本当の原因は何だと思うか。みんなで考えていきたいと思います。」ドクターは司会進行役を務めている。

合宿二日目のテーマは、「呪い」という、到底合理的には信じられない原因を信じて相談に来たクライアントに対して、どう接するのが良いのか、という課題だ。この合宿に参加しているのは皆、すでに自分のお客を持っているプロのカウンセラーたちだ(一部コンサルタントなど、少し別の職業も混じっているが)。だから、取り組む課題も超S級の難題だ。

「先生、本当に呪いなのですか?」なつをが質問した。
皆がどっと笑った。それを考えていくのが課題なのに、いきなり答えを聞くような質問をしたので、ドクターも少し困っている。
「なつを君、キミにはナイスボケ賞を差し上げます。」苦笑しながらドクターが言った。そして真面目な調子に戻って「何かそれをどうしても訊きたい理由でもあるのですか?」と改めて訊いた。
「えと・・・失礼しました。でも、この問題を呪いと捉えるのか、呪いではなくてクライアントが思い込んでいるのだ、と捉えるのかで、取り組みの方針が全く変わってくると思いまして・・・今日はどちらの方針で進めることを、先生は意図されているのかな、と思いまして・・・言葉足らずですみませんでした。」なつをはぺこりと頭を下げた。どことなく、湯水ちゃんのしぐさと似ている。
「なるほど。そういうことですか。まさにその点を考えてほしいのです。私の意図に沿ってほしいのではありません。この課題に取り組む皆さんが、どういう方針を打ち出すのか、それを自分たちで決めてほしいと思っています。なお、事情を既に知っている湯水ちゃんはクライアント役として、当時ののりこさんに成り代わって、色々な質問に答えます。」

少し沈黙があったあと、ドクターが提案した。
「では、主担当を決めましょう。司会役の私、クライアント役の湯水ちゃんを除いて、全員でチームとなって、このケーススタディーに取り組むわけですが、クライアントの前に座って、セッションをリードしていく主担当、メインセラピストを誰か決めましょう。やってみようと思う人!」
そこで手を挙げたのは、なつをだった。
「ほう、なつを君、積極的ですね。では他のお二方も、協力してこの課題に取り組んで下さい。」

(つづく)

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熱い議論|呪い(11)|恋愛ドクターの遺産第9話

第四幕 熱い議論

「先生!あんな風に、呪いを軽く扱っていいんですか!」湯水ちゃんは先生に食ってかかっている。呪いで悩んでいるクライアントを、のらりくらりかわしつつ、しまいには「けのろい」・・・つまり呪いにかかったフリをしろ、などという、本気で呪いを信じているひとからしたら「けしからん(あるいは罰当たりな)」解決策まで提案したのだから、納得できないし、混乱してもいるのだ。
「軽くなんて扱ってませんよ。ただ、使えるものは何でも使う、それが私のポリシーですから。そもそも、彼女は既に呪いを方便に使って、お母様のお使いを断ったことがあったわけです。それをもう一度やりましょう、という、ただそれだけの話ですよ。」ドクターはあくまで、あっさりと答えた。
「でも!なんだか罰当たりな方針です。」
「湯水ちゃんは、呪いを信じているのですか?」
「えっ!いや・・・そういう訳では・・・ありませんけど・・・でも、呪い・・・と言っているその症状を軽くしてほしいと言っているクライアントに、『けのろい』を使えなんて、呪いにかかったフリをするなんて、逆行しているじゃないですか!」湯水ちゃんはそこが気に入らないらしく、ドクターに、さらに食ってかかった。
「そうですか?」ドクターは湯水ちゃんの真剣さなんて全く意に介さないといった様子だ。「だって、よく考えてみて下さい。確かに「けのろい」を使ったら、はた目から見た彼女は、呪いに襲われているように見えるかもしれない。でもそのおかげで、おばさまの家に行く回数を減らせるとしたら、彼女が本当にその症状に襲われる回数は、減らせるはずですよね?本当の原因が今後分からなくて、本質的な解決策が打てなくても、少なくとも、呪いに襲われる頻度を下げる、ということは実現できるわけですよ。」
「先生はそれでいいんですか?」
「いや、何とか解決はしたいですよ。根本的にね。でも、別に私は、私がヒーローになるために仕事をしているわけじゃないですから。なんだかちょっと情けない解決策しか提案できなかったとしても、クライアントの苦痛が減ったのなら、それはそれで、いいじゃないですか。」

「でも・・・でも・・・」湯水ちゃんはまだ何か納得できない様子だ。
「湯水ちゃんは、どこが問題だと思うんですか?」ドクターが訊いた。

改めてそう問われてみると、即答できない。なんだろう。どこが問題なのだろう。何かモヤモヤする。湯水ちゃんは考えてみた・・・自分がその立場だったらどう感じるのだろう・・・あ、そうだ、仮病・・・じゃなくて『けのろい』を使って母親を騙すことに後ろめたさを感じるのだ、ということに気がついた。

「先生、母親を騙すことに、後ろめたさを感じます。」
「なるほどね。騙すこと・・・ですか。湯水ちゃんは、お母様との関係は良好ですか?」
「はい。・・・でも、それが何か・・・?」
「お母様はおそらく、湯水ちゃんが言ったことは、真っ直ぐ信じるのでしょうね。」
「そうだと思います。」
「そういう中で、湯水ちゃんがウソをついてお母様を騙したら、後ろめたいですよね。」
「はい。」そう答えながらも湯水ちゃんは、何を言われているのかよく分からなかった。
「でも、先ほどのクライアントの、のりこさんの場合は、もう散々『呪いだ』『呪いだ』と騒いで、オオカミ少年のように、母親にはおそらく『またか』と思われているんですよ。」
「何だか、切ないです。悲しいです。」
「そうですね。だから、私たちがカウンセリングの時に、のりこさんが『呪いだ』と主張したことを、頭ごなしに否定せず『どうしてそう思ったのですか?』と丁寧に訊いていったとき、のりこさん、嬉しそうでしたよね?」
「確かに、そうでした。何だか初めて、自分の主張にちゃんと耳を傾けてくれる人がいた、という感じに、嬉しそうでした。」

(つづく)

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仮呪い|呪い(10)|恋愛ドクターの遺産第9話

・・・再びカウンセリングルームにて・・・
「先生、こんな風になるんです。呪いはあると思います。」
「なるほど・・・私自身は、呪いについてはまだ半信半疑なのですが、伯母さまから何らかの影響を受けていることは、確かなようですね。」
「解決できますか?」
「ええ、何とかしてみせます。」
(先生、大丈夫だろうか)湯水ちゃん(湯川みずほ・・・当時のドクターの助手)は思った。だって、呪いなんて解く力は、先生にはないはずで、そもそも、呪いかどうかも分からなくて、そんな、原因不明の症状を「何とかする」なんて、私なら怖くてとても言えない、そう思った。

「先生、よろしくお願いします。」のりこは期待を込めた目でドクターを見た。
「はい。私の方で少し、効果的な解決策が何かあるかどうか、調べておきます。本格的な解決のための対策は、次回以降、準備万端整えて行いたいと思います。」
「はい、お願いします。」のりこはすがるような目をしている。
「それで、今回はまず、おばさまに近づかなくて済むような作戦を考えましょう。つまり、根本対策ではなくて、対症療法的なのですが、まずは、近づかないようにする、という作戦です。」
「今でも、なるべく行かなくて済むようにしているのですが。」
「そうですよね。ところで、お母様はその『呪い』のことはご存知なのですか?」
「はい。母は呪いではないと考えているのですが、私がそういう症状に襲われることは知っています。」
「なら話は早い。仮病ならぬ仮呪い(けのろい)を使ってみたらいいと思いますよ。」
「けのろい・・・って一体どんな・・・」のりこはあまりに意外な提案を受けて、何を言われたのか分からなかった。
「ああ、『けのろい』というのは私が今作った言葉なのですが」ドクターは笑いながら言った。「呪いにかかったフリをする、ということです。」
「えぇっ!?・・・それで、フリをして、どうするのですか?」
「たとえばこんな感じです。お母様からお使いを頼まれて、準備を始めます。ハナから行く気はないわけですけれども、行く準備を始めるわけです。そして、玄関先でその呪いの症状に襲われるわけです。もちろん『けのろい』です。行きたいけれど、今日はおばさまの呪いが強くて行けない、ということにするわけです。」
「でも、母から『本当に呪いなの?』とか、割といつも言われるのですが。」
「そのとき、どう言っているのですか?」
「『お母さんは本当に呪いを受けたことがないから分からないのよ。』と言っています。もちろん母は呪いを信じていませんけど。」
「なら簡単ですよね。いつも通り、呪いだと言い張ればいい。そしてこう付け加えればいいんです。『お母さんは、呪いなんてないない、と言うけど、全然自分でおばさまの家に行こうとしない。本当は自分が呪いにかかりたくないから行かないんでしょう? 呪いなんて平気、というなら、お母さんがおばさまの家に行けばいいじゃない。』とね。」
「それ、一度言ったことがあります。」
「そのときは、どうなりましたか?」
「母は、しぶしぶ自分で伯母の家に行きました。」
「まあ、解決までの間、このセッションを続けていく間は、その作戦で行きましょうよ。よく、手術の前に『患者の容態が安定するのを待って、手術をしましょう』なんてこと、言いますよね。ドラマでしか知りませんけど。それと同じように、本当の解決策を実践する前に、のりこさんの『心の容態』を安定させないといけないわけです。しばらくは、そうやって、自分に負担を、なるべくかけないようにする、ということを、やってみませんか?」
「そうですね。それならできそうです。」
「では、今日はここまで、ということで。次回また、本腰を入れて解決するための作戦を、話し合いましょう。」
「はい、ありがとうございました。」
「ありがとうございました。お大事に。」

(つづく)

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