「そんな状況の中、淑恵さんのように、彼に合わせてくれる女性に出会ったら、どう感じると思いますか?『お前だけがオレのことを分かってくれる!素晴らしい女性だ!』って思うわけですよ。」
「ああっ!実際それ、言われました。」
ドクターは数回深くうなずいてから静かに言った。「というわけなのです。」
言われたことをしばらく咀嚼(そしゃく)している様子に見えたが、やがて淑恵は口を開いた。「ということは、相手の望むように振る舞うことが、必ずしもプラスになるという訳ではないのですね?」
「そうですね。残念ながら、そういう結論になります。」
少し沈黙があった。
沈黙を破ったのはドクターだった。「相手が望むように振る舞う、淑恵さんの側は良いとして、淑恵さんに不快な思いをさせ続けている、その相手、オレサマの側には、問題がありますよね? でも、本人が気づかないのなら、その状況は変わりようもない。だから、淑恵さんの側から働きかけることも大事なことなのです。」
「働きかけるって、どういうことなのでしょう?」
「働きかけるといっても、まず始めにやるべきことは、きちんと自分の望みや自分の感情に意識を向ける、という内面的な作業になります。」
「ああそれ、私が苦手な部分ですね。」
「そうですね。少し一緒に練習してみましょう。では・・・そうですね。淑恵さんと私が友達同士だったとしましょう。今日は休日。一緒に遅い朝食、というかブランチを取ることになっていたとします。淑恵さんは今日は行きたいカフェがあるとします。そして私の方は、なんと朝から焼肉を食べたい、という設定で行きますね。あ、そうそう、私のことは、このロールプレイでは『あっくん』と呼んで下さい。」
「はい。」
「あのさ、淑恵ちゃん、今日のブランチ、ちょっとお腹空いていて、焼肉を食べに行きたいんだけど。」
「え?焼肉?そ、そうだね。今日はお腹空いているの?」
「はい、ストーップ。」ドクターが急に会話を止めた。そして続けて言った。「いま、何を考えていましたか?」
「えと、焼肉食べたいのかな?お腹空いているのかな?って。」
「そうだと思っていました。もう一度、今のロールプレイを最初からやってみます。でも、今度は、次の点を努力してみて下さい。私が意見を言ったあと、自分の体の感覚を感じるようにしてみてください。『あっくんは焼肉食べたいのかな?』とか考えてもOKですから、そのあとに、『一方自分は、どう感じているのかな?』と、体に意識を向けて、自分の感情を探ってみてください。」
「はい。頑張ってみます。」
「では、テイク2(笑)行きましょう。」
「あのさ、淑恵ちゃん、今日のブランチ、ちょっとお腹空いていて、焼肉を食べに行きたいんだけど。」
「え?焼肉?そ、そうだね。今日はお腹空いているの?」
ここでドクターは目で合図して、うなずいて、(今自分の体の感覚を探るんだよ)という無言のサインを送った。
「あの・・・」
ドクターは、淑恵が先を続けるのを待っている。
「あの・・・私、本当はカフェでおしゃれにブランチするのを楽しみにしていて、だから焼肉って聞いてちょっとがっかりしています。」
「はい、ここで一旦止めましょう。」ドクターが再度会話を止めた。
「さて、今度は、体に意識を向けて、感情を探ることにチャレンジしてもらったわけですが、先ほどと、何がどう違いましたか?」
「ええと、先ほどは、先生・・・いやあっくん・・・」そう言いかけたところでドクターが「いや、どちらでもいいですよ」と笑って言った。
「あの・・・先生が『焼肉』とおっしゃったので、もう『ああ焼肉を食べたいんだな』『お腹が空いているのかな』と、目の前の相手の考えにしか、意識が向かなくなっていました。二回目の方は、先生が目で合図して下さったのもあって、そのときに、自分の胸のあたりがすごく悲しくてきゅーんって感じでしぼむような感じになっていたことに気づきました。」
(つづく)
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