第二幕 なつをの夏 つづき
「さて。」ドクターが言った。「なつをさん。今回のご相談は、ついに気になる男性と少しお近づきになれて、ここからどうしたらよいか、というお話でしたよね?」
「はい。おかげさまで、今度こそは長く付き合えそうな、いい人を見つけたと思ってます。でも、何だかそこから進展しなくて、それで思い切って相談に来ました。」
「なるほど。このタイミングで相談・・・こじれたり問題が大きくなったりしていない段階、という意味ですが・・・これはいい心がけです。今なら色々な手を打てると思いますので。」ドクターが自信ありげに微笑みながら、そう言った。
「では、最近どういう感じのことが起きているのか、ざっくばらんに、思い出した順で構いませんので、お話ししてもらえますか?」ドクターが訊いた。
「はい。実は、彼とは半年前に共通の友人を通じて知り合って、初めて会ったのは飲み会だったんですが、たまたま席が近くて、色々話しているうちに、科学の話や、心理学の話、それから好きなテレビ番組の話など、色々お話しして、それが、結構趣味が合うというか興味の方向が似ていて、話がとても盛り上がったんですよね。そこから、連絡先を交換して、よく会うようになりました。」
「なるほど。出だしは順調な感じですね。」
「はい。おかげさまで・・・でも、そのあと、全然進展しないんですよ。」
「全然進展しない、とは、どんな感じなのですか?もう少し具体的に『こんなことが起きました』的に説明して頂けますか?」
「先日、こんなことがありました。彼からお誘いがあって、一緒に横浜にお出かけすることになったんです。いわゆるデートコース、みたいな感じだったんですが、私たち、終始科学の話や、心理学の話、好きなテレビ番組の話などをしていて、確かにそれはそれで楽しかったんですけど、周りを見るとカップルがたくさんいて、みんな手をつないでいたり、腕を組んでいたり、もっとくっついていました。私たちは、肩と肩の距離が50センチ以内には近づかない感じで、どことなく距離感がありました。」
「なるほどそうですか。お互いに遠慮している感じ、なのかな?」ドクターが質問した。
「はい。そういう感じがします。でも、遊びにはどちらからも誘うんです。私から誘ったこともありますし、彼からもお誘いがあって、出かけたことは何度もあります。だから、消極的、という感じもしないんですけど、でも、このままずっと行ってしまうと、友達止まりのまま、自然消滅してしまったりしたら残念だなぁ、と思うんです。」なつをはしょんぼりした雰囲気でそう言った。
「そうですね・・・確かに、気の合う同士のようですし、進展したらいいですね。このまま消滅したらもったいないですね・・・」ドクターは少し考え込むような素振りを見せて、やがて言った。「具体的な話をもう少し聞きたいのですが、ほかに、どんなことがありましたか?」
「ええと・・・デートしていたときに、どこでお昼にしようか、という話になって、良さそうなお店が、和食と、中華と、イタリアンっぽい感じの洋食と、あったんですね。それで私が彼に『どこがいい?』って聞いたら、彼は『なつをさんが好きなお店で良いですよ』って。お互いにゆずり合いすぎているんですかね?」なつをが答えた。
それを聞いて、ドクターは何か分かったかのように深くうなずいた。「なるほど、そうですか。譲り合いすぎている、それはあるように思いますね。」
「それが原因、ということですか?」
「まあ、焦らないでください。もう少し問題をしっかり定義しましょう。」
「あ、はい。お願いします。」
「譲り合いすぎている、と私は今確かに言いましたが、もう少し違う気がしています。気を遣い合っている、というか、相手の出方をお互いにうかがっている、というか、そのあたりです。」
「あ、それ、ぴったりです。お互いの出方をお互いにうかがっている、という感じです。」なつをが先ほどより大きい声で答えた。
ドクターは、無言で数回、深くうなずいた。
(つづく)
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