「そこが、もうひとつの罠、なのです。」
「もう何を言われても驚きません。」少し苦笑しながら、かおりは言った。「先生、続けて下さい。」
「実は、美人問題というのは、あなたの印象を何倍にも増幅するという性質があります。」
「印象、ですか・・・」
「そうです。ここに、もうひとつの『できる人』問題がくっつきました。女性でここまでやっている人は、まだまだ少ないですから、当然、目立つわけです。」
「はい、確かにそう思います。」
「そこに、『美人』がつくと、印象が何倍にも増幅されるわけです。」
「ものすごくできる人、に見える、ということですか?」なつをが割って入った。
「そういうこと。なつを君、ここに、二人の女性がいたとして、一人は普通の顔立ちの司法書士、もう一人はこの、美人司法書士。もし『片方はものすごく敏腕なんですよ』と言われたら、どっちの人だと思いやすいですか?」
「確かに、ぱっと思い浮かべるのは、美人さんの方です。」
「そう、こんな風に、顔の印象がハッキリしていると、そのほかの部分の印象を、何倍にも増幅する効果があるのです。」
「言われて・・・納得です。」
「つまり、かおりさんは、美人であるがゆえに、そして、司法書士という、固くて、仕事をキッチリやりそうな感じのする肩書きを持っているがゆえに、ものすごく仕事ができて、お堅い性格の人なんじゃないか、そういう先入観で見られる立場に、常に置かれている、ということなんです。」
「言われて、少しほっとした部分と、でも、これって自分の問題というわけでもなさそうなので、一体どうしたらいいのか、という不安と、混ざった気持ちになりました。」
「そうですね。ですが、この問題の解決は、ポイントさえ分かってしまえば、意外と簡単です。」
「そうなんですね! あぁ、今日は来てよかった!」
「解決策を一緒に考える前に、質問票の件で、もうひとつだけコメントしておきます。確か、頼りない男性が寄ってくることが多い、というお話でしたね?」
「はい、学生時代からよく、年下から好かれることが多くて、なんか『頼りがいがある』とか言われることが多かったんですが、私はむしろ、頼りがいがあって守ってくれる男性が良かったので、そうやって近寄ってこられるのは、むしろうんざりしていました。」
「これも、『できる人』問題を持っている女性に特有の、恋愛上の症状です。」
「そうなんですね。これって、解決可能なのでしょうか?」
「できますよ・・・というよりも、すでに半分ほど解決しています。」
「どうすればいいんですか?教えて下さい!」
「おっと、今日はもう時間ですね。焦らすみたいになってごめんなさい。次回、そのあたりの解決策についてしっかりお話ししようと思います。」
「はい、待ち遠しいです。」
「今回は、とりあえず、男性に頼み事をしてみる、という課題をやってみて下さい。」
「はい。何でもいいんですか?」
「そうですね。レベル1:男性がやった方がいいと思えることを頼む。重いものを持ってもらうとか。レベル2:男性がやっても自分がやっても大差ないことを頼む。ある意味少し甘えるために頼むわけです。レベル3:どう考えても自分でやった方が早いことを頼む。靴下をはかせてもらう、食べ物を『あーん』してもらう、などが典型です。まずはレベル1でいいんじゃないでしょうか。できそうなら、レベル2かも、と思うことを頼んでみて下さい。」
「分かりました。ちょっと楽しそうです。」
「そうそう、そういう気持ちで行って下さい。きっと未来は拓けますよ。」
「ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
(つづく)