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自分を好きになる心理学 愛と陽子の物語

今日は、ワークショップの内容に関連して、
愛ちゃんと、陽子さんに登場してもらいましょう・・・

 

陽子さんの物語・・・

「ケイたん、インナーチャイルドって知ってる?」
「あぁ、なんか、家庭環境がひどいと、心の中の小さな子供が
傷ついたままになってしまう、っていうあれのこと?」
「そうそう。それでね、こないだ、カウンセラーのK先生の
ところに行ってきたんだ。」
「えっ?そうなの?陽子、何か悩んでたんだ?」
「そうなの。実は、彼とのことで悩んでいて・・・ひどい人なんだよね・・・」

・・・(彼との悩みの詳細は今はナイショ)・・・

「えー、それはつらいね・・・」

「それで、そのことでK先生のところに相談に行ってきたんだ。」
「うんうん、それで?」
「そうしたら、私はインナーチャイルドが傷ついていて、
アダルトチルドレンだって言われたの。」
「へー。そうなんだ。」

「それで、機能不全家族で育ったんでしょ、って言われたの。」
「えっ!? だって、陽子のご両親、すごくいい人だよね?」

「私もそう思うんだけど、K先生は
『みんなそうやって否認するんだ』って・・・」
「・・・なんか怪しくない?その先生。」
「そう思うよね?で、そのあとの話は適当に聞いて帰ってきたんだけど、
妙に気になってしまってね・・・」
「そっか。気にしなくていいのに、そんなこと。」
「うん・・・でもね、感情があまり出ない、って言われたことが、
気になってしまって・・・」
「ああ、確かに陽子は感情的な方じゃないよね。」
「うん。それは前から自覚していたけれど、
それがアダルトチルドレンの典型的な症状だ、って言われたの。」
「えっ?そうなんだ。」
「うん・・・それで、何か私に問題があるのかな・・・って。」
「うーん・・・私には分からないな・・・あ、でも、恋愛ドクターっていう
カウンセラーが、枠に囚われないカウンセリングをするっていう噂を
聞いたことがある。そっちの先生のところに行ってみたら?」
「そっか。そうだね。何か分かるかもしれないし・・・」

 

愛ちゃんの物語・・・

「ねぇねぇケイたん、インナーチャイルドって知ってる?」
「えっ!?(なんか昨日も聞いたような・・・) うん、まぁ。」
「私、インナーチャイルドが傷ついているように見える?」
「えっ!?突然言われても
・・・もしかしてどこかのカウンセラーに言われたとか?」
「何で分かったの?ケイたんすごい!」
「いや・・・この前も別の人から似たような話を聞いたものだから・・・」
「そうなんだ。カウンセラーのK先生。」
「・・・あ、やっぱり。」
「そうなんだ!あの先生、結構決めつけるんだよね。」
「そうみたいだね。何を決めつけられたの?
というか、愛は何か相談に行ったんだ?」
「そう、実は彼とのこと・・・というか私自身の恋愛傾向のことで
悩んでいて、それで相談に行ったんだけど・・・」

・・・(相談内容は今はヒミツ)・・・

「うんうん、それで?」
「あなたは、アダルトチルドレンで、だから恋愛依存症になっているんだ、
って言われちゃったの。」
「そうなんだ。それで、もしかして、
家庭環境がひどかったとか言われた・・・?」
「えっ?もしかしてそれもお決まりなの? そう!そうなの!家庭環境が
ひどくて、そこで傷ついて育ったアダルトチルドレンだから、
恋愛依存になるんだ、って言われたの。」
(やっぱり・・・誰にでも言うんだ・・・)「もしかして、アダルト
チルドレンの人はそうやって否認するんだよね、とかも言われた?」
「えっ?それもお決まりなの?」
「どうやらそうみたいだね・・・」
「あー、なんか色々心配して損しちゃった。誰にでも同じこと言う人
だったんだ、なんかガッカリしちゃった。」
「恋愛ドクターって知ってる?」
「えっ?いや、初めて聞いたけど。誰それ?恋愛のお医者さん?」
「そう、そんな感じ。実際に会ったことはないんだけど、一人一人を
ちゃんと見て、解決策を決めてくれるカウンセラーの人みたいだよ。
愛も行ってみたら?」
「そっか。考えてみる。」
「行ったらどんなだったか、あとで教えて!」
「うん、分かった。」

 

・・・もしかしたら一部差し替えるかもしれませんが、
自分を好きになる心理学 ミニワークショップでお話しする、
ふたりの女性の物語です。

感情があまり出ない、理性的すぎる陽子と、
感情があふれてしまう、感情豊かすぎる愛。

ふたりの物語を対比しながら、

個性とは何か。
そして、
アダルトチルドレン原因説の問題点

などを学んでいきます。

 

★8/27(日)「自分を好きになる心理学」ミニWS。
テーマは個性問題です。自分の個性、好きですか?
第一部 恋愛ドクターの遺産 番外編(新作)
「感情豊かすぎる 愛ちゃんの物語」
「理性的すぎる 陽子さんの物語」
第二部 第一部の物語に出てきたワークの実習等
第三部 オープンカウンセリング

お申し込みはこちらから。
http://bit.ly/2wtLfLs

 

自分を好きになる心理学 ミニWS

こんにちは。あづまです。

インナーチャイルド、癒してますか?
あ、いやいや、今日はその話じゃありませんでした。

むしろ、インナーチャイルドの課題かと思っていろいろ取り組んでいるけれど、解決しないアナタに、それ、直そうとすると余計こじれるかもよ? というお話をしようと思ったのでした。

個性の問題。

生まれつき、自分がそうである、という話。

その場合、幼少期の家庭環境で傷ついて育ったからそれを癒して【治して】良くなろう、というアプローチとは、ほぼ、真逆のアプローチが必要になります。

なぜなら、個性を「治そうとする」というのは、むしろ自分を殺すことだからです。

個性を活かすとはどういうことか。自分を好きになるとはどういうことか。それを体験的に理解して頂けるワークショップを開催いたします。少し具体例を交えて説明しているページがこちらです。

興味のある方はぜひどうぞ。
ではまた!

婚難(10)|恋愛ドクターの遺産第3話

第六幕

「なつを君、かおりさんからメールが来ていますよ。」
「えっ!? 何ておっしゃっているんですか?」
「恋人候補が現れたそうです。」
「えーっ!すごい!どんな人なんですか?」
「読んでみてください。」

なつをは文面を読んだ。かなり長く、詳しく書いてある。
曰く、あのあと、ラフな服装で、気楽な居酒屋飲み会に参加するということを数回行ったのだそうだ。飲みものも食事も安いお店での飲み会なので、参加する男性も、今まで出会うタイプとはだいぶ違う人が混ざっていた。その中に、イラストレーターをしている、という男性がいた。収入の波があるので、良いときはいいが、底の時が大変だと。だから自分の仕事に必要なものにはお金を掛けるが、飲み会も含め、生活は質素にしている、と。
正直、彼以外の参加者男性には興味が湧かなかった。彼は自分の意思で居酒屋を選んでいるが、他の男性たちは、言葉は悪いが、仕方なくそのランクのお店に行っている感じだった。もう少し別の言葉で言うと、彼は自分の仕事に誇りを持っていた。私は彼のそういうところに惹かれた、ということだった。
まだ、交際には至っていないそうだ。ただ、出会いの流れが良くなったのは確かなようだ。かおりさんが、その彼と結ばれるのか、それとも、また別のご縁を引き寄せるのか、それはまだ分からない。でも、いずれにしても、幸せに向かいそうな雰囲気がすごく感じられた。

「先生、すごいですね!」
「何が?」
「何が、って、先生のセッションの効果ですよ!」
「あぁ、まあ、かおりさんがちゃんと行動した結果ですよ。」
「そうですけど・・・今までずっと恋人ができなかったのに、一気に可能性が拓けた感じですよ?」
「そうですね。こういう展開は面白いですね。」

でた!「面白い」発言。先生がよく言う言葉だ。先生の言う「面白い」には明確な定義がある。会話で使う言葉に、定義があるというのもヘンな言い方だが、とにかく、定義があるのだ。それで、その「面白い」の定義だが、それは(1)問題が目の前にある (2)それを解決する力(や環境)がある この(1)(2)の両方が揃っていることを「面白い」と言うのだそうだ。
(1)が足りない場合は、解決力はあるのに問題がなくて「退屈」になるし、(2)が足りない場合は、問題があるのに解決力がなくて「苦しい」となる。目の前に問題があり、その問題をちょうど解決できるほどの、問題解決力、問題への対応力を持っている。それが先生の言う「面白い」の定義だそうだ。確かに、かおりさんなら、この問題もじきに解決してしまうだろう。
・・・

ゆり子はノートを閉じた。
はぁ、とため息が出た。
(私は、幸雄さんとの問題を解決する「解決力」が足りないのかな・・・今目の前に横たわっている問題が解決できなくて「苦しい」もの・・・)

ゆり子は考えていた。私は本当に、相手のコックピットに座るように、相手の体験を想像できていただろうか、と。私は結局なつをさんのように、相手の「立場」には立ったが、自分の感じ方で理解したつもりになっていたのではないか。
「でも、幸雄さんを理解することなんて、できるのかな・・・」

セットしていたアラームが鳴った。ぐるぐる思考タイムに、ゴングが鳴って終了、といった感じにはなったが、そのまま続けていても生産的ではなかっただろうから、丁度良かった。幼稚園のお迎え、夕食の支度など、忙しく過ごすうちに、ノートのことはゆり子の意識の端に追いやられていった。
・・・

(あ、この人、過剰に相手のコックピットに座ってしまう人なんだ)ゆり子はそう思った。テレビを見ていたら、匿名で、姿も隠してDV経験者という女性がインタビューに答えていたのだが、それを何気なく眺めていたら、そんな風に思ったのだ。
相手が暴力を振るうときの、その相手の苦しい気持ちに共感してしまうので「やめて」「つらい」という、自分の側の気持ちと一緒に居られなかったのだと、その女性は語っていた。解説役の心理カウンセラーが「ここまで自分の気持ちや、自分の傾向を客観的に語ることができるようになったからこそ、彼女はDVを抜け出せたのです。渦中にいるときは相手の気持ちしか考えず、自分の気持ちを感じることができなかった」と説明していた。

彼女の話を聴きながら、ゆり子はぼんやりと、幸雄のことを思い出していた。共感力のない会話、そしてときに「キレる」とも言える言葉。確かにゆり子にとっては辛いことばかりだったが、そのときに幸雄はどんな気持ち、どんな感覚でいたのだろう?とゆり子は想像していた。

(・・・なんだか、苦しそう・・・)ゆり子は思った。思い出してみると、声を荒げたり、無視するような冷たい態度を取るときの幸雄は大抵、苦虫をかみつぶしたような、渋い顔をしていることが多かった。おまけに・・・これは考えすぎかもしれないが・・・長年そういう心を持ち続けて生きてきたために、渋い顔をするときの、顔のしわが、顔に刻まれて消えなくなっているようにも思えた。
そんな幸雄の、心のコックピットに座るように想像してみると、自分が何かすると、妻(つまりゆり子だ)からダメ出しをされ、本当は愛されたいのに、そして愛したいのに、どうしていいか分からない。自分なりに工夫をしてみると、裏目に出る。その無力感、悔しさ、寂しさ、悲しみが、自分事のようにありありと感じられた。

(あぁ、これが、相手のコックピットに座る、ということなのね)ゆり子は思った。相手の立場に自分を置いてみただけだったら、「私ならそういう行動はしない」と思うだけで終わりだっただろう。事実、ゆり子は共感力のある方だし、滅多に声を荒げたりしない。ゆり子の思考回路・行動パターンからすれば、幸雄は「理解不能」だったのだ。いま初めて、幸雄の気持ちの中に入れた気がした。理解不能な夫が、少し理解できた・・・気がした。

「でもやっぱり、一緒にやっていく自信はないなぁ・・・」
ゆり子はつぶやいた。
(つづく)

この物語はまぐまぐから配信の無料メールマガジン「女と男の心のヘルスー癒しの心理学」で(少し)先行して配信しています。また独自配信(無料)の「ココヘル+」では物語の裏側、心理学的側面を解説しています。合わせて御覧頂くと、より理解が深まります。登録はいずれもこちらのページから行えます。(無料メルマガですので、すでにお支払いになっている、インターネット接続料金・通信料以外の料金は一切かかりません。)

女と男の心のヘルス(ココヘル)
心のコンサルタント|恋愛セラピスト あづまやすしの
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婚難(9)|恋愛ドクターの遺産第3話

第五幕

セッションが終わって、なつをはひとりで、セッションを振り返っていた。
(先生は、かおりさんと、あっという間に打ち解けていた。先生がかおりさんに無理して合わせたという感じはなかった。私は少し無理して合わせていたのに・・・)なつをは、そんな風に振り返っていた。

そして、以前先生が言っていた「他人のコックピットに座る」という話を思い出していた。かおりさんはきっと、先生が自分の立場に立って一緒に考えてくれているという安心感を感じていたに違いない。その大事な秘訣が、他人のコックピットに座る、ということなのだ。

以前のセッションで、こんなことがあった。
その相談者は、変わった性癖の持ち主だったので、なぜそこにそれほど執着するのか、自分の感覚を基準に考えたら、なつをにはまったく分からなかった。しかし、先生は、その相談者に寄り添い、相談者の感覚を少しずつ理解していった。

セッションが終わったあと、なつをは先生に質問した。
「そんなものに執着しても、男女関係が面倒になるだけですよね? なぜ、そんなにこだわるのでしょうか?」
「なつを君、君は、自分の感覚を基準に相談者を見ていませんか?」

「えっ?」なつをは、何を言われているのか、よく分からなかった。「先生、私は彼の立場に立って見て、そして、自分だったらどう考えるか、想像してみたのですが、それではダメだということでしょうか?」

「では少し、基本から説明しましょう。」先生はそう言って、基本から教えてくれたのだった。「まず、彼の立場に立たずに、『奥さんがいるのに、そこに興奮するからと言って、別の女性に手を出したらダメでしょう。』なんて言うようでは、これは、カウンセラーとして完全にアウト。これでは、相談者はお金を払って、自分のことを全く分かってくれない人に話をしに来てしまった、こんなところに来るんじゃなかった、と思って、もう、セッションの信頼関係はおしまいです。」
「それは分かります。」
「次の段階として、彼の立場に立ってみる、というのがあります。私も、このポジションから話をすることは、よくあります。だから、彼の立場に立ってみて『私だったら、そこに執着しても、男女関係が面倒になるだけ、と感じました。』と発言してみるのは、これは、カウンセリングとして、アリだと思います。」
「なるほど。先ほどの私の意見は、アリなんですね?」

先生は少し天井を見るように目を動かして、それからこう言った。「但し、その場合、あくまで『私は』という言葉を入れて、私の感じ方、私の価値観で言えば、ということを明確にすることが前提です。なつを君がもし、私は、という言葉を入れずに『そこに執着しても、男女関係が面倒になるだけですよね。』と言えば、それは、一般論として、という意味になります。相談者よりも偉いカウンセラーの私が、世界を代表してものを言います、というニュアンスになる危険性があるのです。」
「そうなんですか?」
「それはそうでしょう。だって、ご本人だって、どこか、その性癖を恥じていらっしゃったりして、そこに傷口に塩を塗られるように否定されたら、どう思うのか、想像すれば分かるじゃないですか。」
「あぁ、そうか。そうですね。」でも私は、まだ釈然としないものを感じていた。
それを察したのか、先生は、続けて次のことを言った。
「もしここに、繊細なA子さんと、剛胆なB男君が居たとします。ふたりは道を歩いていました。目の前に、ちょっと気持ち悪い何かの動物の死骸があったとします。それはちょうどA子さんの真ん前にありました。で、A子さんは『ぎゃっ』といって飛び退くわけです。」
「・・・はあ、なるほど。」
「それに対して、B男君が、『A子さんの立場に立って』『自分のことのように』想像してみたとします。B男君、ちょっと頑張りました。」
「はい。」
「しかし、B男君は、A子さんほど敏感でも繊細でもないので、そんなに驚かないわけです。『あ、ちょっとびっくりするよね。』ぐらいの感じでしょうか。」
「そうでしょうね。」
「では、これで、B男君は、A子さんの体験を理解したことになるでしょうか?」
「あぁ、A子さんの身に起きた『出来事』は理解したことになると思います。」
「そうですね。A子さんの身に起きた、外側の出来事は、理解しました。でも、A子さんの内側で起きた反応、ものすごくびっくりした感情の動きなどは、B男さんは体験していないことになります。」
「それは、仕方ないことなんじゃないですか?」
「もちろん、その相手に、完全になることは無理ですから、仕方ないと言えば仕方ないことです。でも、『立場に立つ』だけでは、不十分だということは、分かりますか?」
「・・・分かります。でも、では、どうやって・・・」
「それが、私が言っている『相手のコックピットに座る』想像をする、ということなのです。相手がどんなところで反応し、どんなことを喜び、どんなことに恐怖し、何を不満に思うのか。そういうことを色々聞いていくうちに、ある程度までは、相手の感情的な反応まで、想像することが可能になります。」
「そんなものですか・・・」
「たとえば、剛胆なB男君も、あるとき、自動車を運転していて『あわや大惨事』という場面に遭遇して肝を冷やした経験があった、とします。さすがのB男君も、ちょっと怖かったわけです。」
「・・・はい・・・?」
「そういう経験を思い出してみて、『あぁ、A子さんは、動物の死骸を見ただけでも、自分が事故のニアミスを経験したときぐらいの衝撃を受けるのかもしれないな。』と想像することは、できるはずです。自分より何倍も感情の振れ幅が大きいと想定すればいいわけですから。」
「あぁ!なるほど!じゃあ、私の場合、剛胆な人の『コックピットに座る』場合、自分より何分の一しか、感情が振れないと想像してみればいいわけですね?」
「そういうこと。」

そう、先生は、こんな風に、相手の内面で起きている事も含めて、できるだけ理解するように努めることが大事、ということをいつも教えてくれた。
そしてそれを「他人のコックピットに座る」と表現していた。
それをなぜか、私なつをは思い出していた。きっと、私にとって、感じ方や考え方がずいぶん違うと感じる、かおりさんのセッションを理解するに当たって、「かおりさんのコックピットに座る」想像が必要だったからだろう。ほんと、カウンセリングは脳味噌フル回転だなあ、なつをはいつもながら、そう思った。

(つづく)
この物語はまぐまぐから配信の無料メールマガジン「女と男の心のヘルスー癒しの心理学」で(少し)先行して配信しています。また独自配信(無料)の「ココヘル+」では物語の裏側、心理学的側面を解説しています。合わせて御覧頂くと、より理解が深まります。登録はいずれもこちらのページから行えます。(無料メルマガですので、すでにお支払いになっている、インターネット接続料金・通信料以外の料金は一切かかりません。)

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婚難(8)|恋愛ドクターの遺産第3話

「それから。」ドクターは続けた。「美人問題があると、自然体の自分で居るかどうか、という条件が、より厳しくなります。」
「そうなんですね? 美人って、それほど得していないような・・・」苦笑しながらかおりは言った。
「まあ、苦労もありますよね。ただ、うまく舵取りできれば、印象が何倍にもなる、という特性は、人によっては喉から手が出るほどほしい「素質」になると思います。」
「そうなんですね。私はいままでうまく舵取りできていなかった、ということなんですか?」
「恋愛に関しては、そうだと思います。」
「先生、はっきりおっしゃって下さるところがイイです。」
「はは。ありがとうございます。思っていないことは言えないタチなので。」

ドクターは少しの間黙っていて、そして、もうひとつ質問した。
「ところで、オッサンぽいところは、家に居るときも発揮されていますか?」
「それが、自分ではよく分からないんですが、友達に言わせると、家では意外なほど女性っぽいらしいです。」
「へぇ。それはどんなところを見て、お友達はそうおっしゃるのですか?」
「忙しいときはできないんですが、料理をしたり、家の中をキレイに片付けていたり。豪快な飲みっぷりとは裏腹に部屋が女っぽい、と友達に言われました。」そう言ってかおりはくすっと笑った。
「それも、何かの機会に表現するといいですよ。」ドクターは言って、しばらく考えた後、さらに続けて聞いた。「そう、部屋汚す人、いやでしょ?」
「あぁ、まあ、使えば汚れるものですけど、極端に部屋が汚い人は嫌ですね。自分で使ったものぐらいは自分でゴミ箱に入れられるぐらいでないと・・・」
「そういうことも、話題に出すといいですよ。」
「・・・どんな風に?」
「たとえば、居酒屋でデート、あるいはその前の段階で、何人かで集まって飲み会をしたとしますね。そのときに、『部屋をきれいにするのが趣味で』『趣味の合う人がいい』って言ってみるわけです。」

「私、以前、男の人の部屋を見ないと信用できないとか思って、何かと口実を作って部屋に上がり込んで観察する、ということをしてみたことがあるんですが・・・」
「それ、結構煙たがられたんじゃ?」
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婚難(7)|恋愛ドクターの遺産第3話

セッションは進み、終了時刻が迫ってきた。そろそろ今日の行動課題を出して、まとめる段階だ。

「では、行動課題を考えましょう。」ドクターが言った。
「はい。」

「かおりさん、あなたの『オッサン』的な部分を、『恋人と出会う可能性のある場所で』積極的に出してみよう、というのが、今回の課題です。」
「少し抵抗ありますね。」かおりが苦笑しながら言った。
「ところで、『オッサン』ぽい、とは、たとえばどんなことでしょう?」
「えぇと、たとえば、おしゃれなフレンチレストランよりも居酒屋で日本酒にスルメ、みたいな飲み方が好き、とかですかね。」
「なるほど。居酒屋好き、と。ほかにはどんなところがありますか?」
「服装や、小物、文房具などを選ぶときに、周りの女性は「カワイイ」という基準で選んだりするみたいですが、私は機能重視。カワイイは二の次、という基準ですね。服装は最近は少し女性らしいのを選ぶようにしていますが、他は相変わらずです。女性と文房具を買いに行ったりすると、選ぶ基準の違いにびっくりします。」
「なるほど。カワイイ、という選択基準があまりない、と。もうひとつぐらい行ってみましょう。」
「あの・・・これは、ちょっとヘンな言い方かもしれませんが、私、体を触られることにあまり抵抗がないんです。」
「ほう、なるほど。触られることにあまり抵抗がないと。」
「はい。同僚の女性が、飲み会の席でひざ、というかももに手を置かれて、とても嫌がっていました。実は私も、そういうことがあったのですが、意外にも平気だったんですよね。同僚として普通に仲良くしているぐらいの男性だったら、そんなに気にならないというか。かといって、その人と深い仲になろうと思うわけではないんですけど。」
「確かに、感覚的には、男性っぽい感じがしますね。」

ドクターは続けた。
「さて、色々な点を挙げてくださいましたが、今おっしゃった中で、一番気になっているところ、一番自分の『オッサンぽさ』を際立たせているところはどれか、と考えてみると、どれですか?」
「やっぱり居酒屋にスルメ、ですかね。」
「なるほど。それですか。なら、行動課題は、それをオープンにする、ということですね。」
「オープンに・・・みんなに言う、ということですか? それならもう、職場中に知れ渡っていますけど・・・」

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婚難(6)|恋愛ドクターの遺産第3話

第四幕

次のセッションの日は、すぐにやってきた。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
「最近どうですか。」ドクターは尋ねた。
「えーと、まぁいつも通りですが、前回ご相談させていただいたおかげか、気持は少し楽になりました。」
ドクターが何かいいかけたところ、遮るようにかおりが言った。
「そう、前回の課題ですけど、男性って、頼み事をすると結構助けてくださるんですね。なんだか少し申し訳ないような気持ちもしますが、ちょっと嬉しかったりもします。」
「いいですね。そうやって出来事を味わって過ごすことは、とても大切です。すでに、いい流れを作ってるんじゃないかな。」
「ありがとうございます。それで、先生、どうしたら解決するのでしょうか?」

ドクターは腕組みをしながら話を聞いていたが、小さく深呼吸をした。そして腕をほどいて、身振りを交えて説明をし始めた。
「かおりさんの課題について、前回『美人問題』と『出来る人問題』だとお伝えしました。」
「はい。」
「そのせいで、出会いの質が悪くなっているとも、申し上げました。」
「はい、そう理解しています。」
「まず、少し、その本質についてご説明いたします。」
「お願いします。」
「アッパークラス問題というのは・・・」ドクターが説明を始めた。

そう、アッパークラス問題というのは、前回「美人」「できる人」「セレブリティー(有名人)」をまとめて「アッパークラス問題」と呼んだのだった。なつをは思い出していた。普通に考えると、いい思いをたくさんしていそうで、他人からうらやましがられる存在なのだが、アッパークラスにはアッパークラス特有の悩みがあるし、陥りやすい課題もある、先生の話は、そんな話だった。

「つまるところ、相手がファンタジーを持ってこちらのことを見てしまう問題、と言い換えることが出来ます。」
「ファンタジー、ですか。」
「つまり、平たくいえば誤解されやすいということです。」
「あぁ、それ、よく分かります。私、ずっと、本当の私を見てもらえていない、と感じていました。相手が、自分の憧れを私に重ねていたり、何か、見る人にとって都合のいい部分だけを見ているんだな、という風に、感じることが多かったです。」

「でも先生、それって、誰でもそうなんじゃないですか?」なつをが口を挟んだ。
あ、しまった! なつをは思った。またあとで先生に叱られるパターンだ。余計な口を挟んでしまった。

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婚難(5)|恋愛ドクターの遺産第3話

「そこが、もうひとつの罠、なのです。」
「もう何を言われても驚きません。」少し苦笑しながら、かおりは言った。「先生、続けて下さい。」
「実は、美人問題というのは、あなたの印象を何倍にも増幅するという性質があります。」
「印象、ですか・・・」
「そうです。ここに、もうひとつの『できる人』問題がくっつきました。女性でここまでやっている人は、まだまだ少ないですから、当然、目立つわけです。」
「はい、確かにそう思います。」
「そこに、『美人』がつくと、印象が何倍にも増幅されるわけです。」

「ものすごくできる人、に見える、ということですか?」なつをが割って入った。
「そういうこと。なつを君、ここに、二人の女性がいたとして、一人は普通の顔立ちの司法書士、もう一人はこの、美人司法書士。もし『片方はものすごく敏腕なんですよ』と言われたら、どっちの人だと思いやすいですか?」
「確かに、ぱっと思い浮かべるのは、美人さんの方です。」
「そう、こんな風に、顔の印象がハッキリしていると、そのほかの部分の印象を、何倍にも増幅する効果があるのです。」

「言われて・・・納得です。」
「つまり、かおりさんは、美人であるがゆえに、そして、司法書士という、固くて、仕事をキッチリやりそうな感じのする肩書きを持っているがゆえに、ものすごく仕事ができて、お堅い性格の人なんじゃないか、そういう先入観で見られる立場に、常に置かれている、ということなんです。」
「言われて、少しほっとした部分と、でも、これって自分の問題というわけでもなさそうなので、一体どうしたらいいのか、という不安と、混ざった気持ちになりました。」

「そうですね。ですが、この問題の解決は、ポイントさえ分かってしまえば、意外と簡単です。」

「そうなんですね! あぁ、今日は来てよかった!」

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婚難(4)|恋愛ドクターの遺産第3話

「あともうひとつぐらい、大事な理由がありそうです。」ドクターは続けた。
「かおりさんは、自分のことを『男っぽい』と思いますか?」
「え、はい。結構『オッサン』だと思います。」
「なるほど、やっぱり。」

先生、言うことが失礼じゃないか、となつをは思った。クライアントに対して、オッサンだというのが「やっぱり」だとか、そんなこと言っていいのか、なつをが思った瞬間、かおりの反応は意外だった。

「やっぱり先生、見抜いていらしたんですね。そうですよね。私もこの『オッサン』な性格は問題じゃないかと、うすうす思っていたんです。」

ドクターは少し考えている様子で、言葉を選びながら話し始めた。
「確かに、女の中の女、女子の中の女子、みたいな女性の方が、男性から好かれ、選ばれるチャンスの数が多いのは事実です。かおりさんは、おそらく10代から、もしかすると20代前半ぐらいまでは、結構男性が寄ってきてモテたのではないかと思うんですが。」
「はい、自分で言うのもアレなんですが、結構モテました。」
「ですよね。若いときは割と男女共に、ですが、相手を見た目で選ぶ傾向があるのです。」
「わかります。でも、自分に合う人はなかなか居なかったです。」
「以前、私のところに、もう40代ぐらいでしたが、今でもお綺麗な方が相談に見えたことがあります。その人に、若い頃はモテましたよね。でも、自分に合わない人まで来て大変じゃありませんでしたか、と質問したのですが、その答えが面白くて。」
「なんとおっしゃっていたんですか?その方は。」
「『無駄モテって呼んでいました。』と。」
「なるほど、私の場合も、私に合わない人がいっぱい来ていたのは『無駄モテ』だったんですね。」かおりはそう言って笑った。
「そうですね。全然男性が寄ってこない女性から見たら、『無駄モテ』なんて、憤慨したくなる言葉でしょうけどね。」
「そうですね。」そう言いながら、かおりは何だか嬉しそうだ。
「モテる側の悩み、というのもあるんですよ。でも、大体、モテる側は少数派ですから、孤独だし、この悩みを分かってくれる人は、なかなか居ないんです。」
「そう!そうなんですよ!」かおりはひときわ大きい声を出した。

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婚難(3)|恋愛ドクターの遺産第3話

第三幕

「失礼します。」そういってドクターが入ってきた。髪は短めにさっぱりとまとめているが、それほどおしゃれではない。白衣を着て、眼鏡を掛けている。眼鏡は縁の細いおしゃれな眼鏡だ。

「遅れてしまって申し訳ない。どうしても外せない用事がありまして。先に色々質問をしてもらってたんです。」ドクターが言った。
「いえ。なつをさんと楽しくお話しさせて頂きました。」かおりが答えた。
ドクターはなつをの方を見た。
「いえ、ふつうに質問票にある質問をしていただけです。わたしのとちりキャラが面白かったみたいで・・・」少し焦りながらなつをは言った。
「そうですか。楽しんで頂けたようでなによりです。」少しニヤニヤしながら、ドクターはかおりに向かってそう言った。

そして、急に真剣な顔になって、ドクターはなつをの記録した質問票を手に取った。「なるほど。」

「美人なのはいつからですか?」
「へっ?」
「あぁ、唐突な質問、失礼しました。でもこれは、まじめな質問です。おそらく、顔立ちからして、子供の頃から整った顔をしていらっしゃったのだと思うのですが。」
「・・・はい。わりと『綺麗だ』とか『美人だ』と言われることは多かったと思います。私自身は親しみやすい『可愛らしい』顔に生まれたかったのですが。」
ドクターは、分かる分かる、といった風に、ゆっくりと何度かうなずいた。
「なるほど。やはり子供の頃からですか。」やはり美人顔がいつからなのか、それは気になるらしい。

「先生、それ、彼女の問題と何か関係あるんですか?」
「ありますよ。おそらく。まだ聞きたいことがあるので、なつを君は少し静かにしてもらえますか?」
「すいません。」

ドクターは再びかおりの方を向くと、質問を続けた。
「えぇと、肩書きというか職業が『司法書士』さんだと言うことですが・・・」
「はい、以前からお世話になっていた経営コンサルタントの方のオフィスで、会社設立の登記などの法律業務を担当させて頂いています。」
「なるほど。ちなみに資格を取られたのはいつ頃ですか?」
「ちょうど7年前ぐらいです。」そう言ってかおりはハッとした表情になった。
「7年前は、色々ありました。彼と別れたのもその頃でしたし、資格試験で大変だったのも、その頃でした。」
「色々大変だったんですね。そして、7年前というのは、何か重要な転換点にはなっていたようですね。」
「はい、そう思います。」
「なかなか彼氏ができない理由。まずひとつは見つかりました。」
「はい。それは何でしょうか?」
「かおりさんが美人だからです。」

「えっ?」
「えっ?」
なつをとかおりが同時に声を上げた。

なぜ、美人だと彼氏ができないのだろう。不細工だと出来ない、というのなら、失礼な話ではあるが、話は分かる。なつをは思った。でも、いま、先生は明確に「美人だから」と言った。それにかおりさんは実際に美人だ。それが彼氏ができない理由とは・・・先生は時々私に理解できないことを言うが、今回もそうだ。

(つづく)