淑恵はその言葉を聞いて、ぱあっと表情が明るくなった。「あ!先生!分かりました。相手も、私に合わせようとしてくれていると、心地よい会話になるのだと思います!」
「はい。かなりいい線行きました。それで90点ぐらいです。もうちょっと説明しましょうかね。」
「はい、お願いします。」
「合わせようとしているかどうかは、本質ではないのですが、結果的に、会話をしている二人の頭の中に同じ事柄があるかどうか、ということが本質だと私は考えています。」
「ふたりが・・・同じことを考えている、ということですか?」
「まあ、大体そんな感じです。考え方や意見は違うことはあると思いますが、少なくとも、『同じことについて』考えている、ということですね。」
「ああなるほど、それで分かりました。話していて疲れる相手というのは、こちらが話していることを全然受け取ってくれず、自分の話したいことばかり話す人で、こちらからとにかく、相手の話題に合わせ続けていかなければいけない相手です。」
「そうですね。淑恵さんの頭の中に何があるか、そんなことお構いなしに、どんどん自分のペースで話す人。そういう人といると疲れるわけです。」
「でも、つき合ってしまうのは、そういうタイプの人が多いんです。前の彼とは趣味が同じだったので、趣味の話をしているときは心地よく話せたかな、と思うんですが、そういうのはダメなんですか?」
「ええと、少し整理しましょう。まず、淑恵さんにとって、どんな人が心地いいのか、という話と、相手の男性にとって、淑恵さんとの会話は心地いいのか、という話に分けましょう。」
「はい。」
「これ、このパターンではよくあるのですが、淑恵さんは相手のことを特になんとも思っていなかったり、あるいはむしろ面倒臭い人だと思っていたりするのに、相手から好かれてしまったり、相手が淑恵さんとの時間を心地よいと思ってしまう、ということが、結構あったのではありませんか?」
「はい。本当に、そういうことばかりです。」
「なるほど・・・やはりそうですよね。つまり、相手にとっては淑恵さんとの時間は心地よいものなんです。でもそれは淑恵さんの不快感という犠牲の上に成り立っているわけです。」
「私が不快に思っていることを、相手は分からないのでしょうか?」
「そう、そこがポイントです。基本、オレサマタイプの人は、分からないと考えた方がいいと思います。」
「そうなんですね。」
「そうなんです。自分の快・不快のみで行動しているわけです。」
「それで、社会でやっていけるのでしょうか?」
「微妙ですよね。確かに。だから、多くの女性からは白い目で見られたり、要注意人物扱いされて、距離を取られたりと、冷たいあしらいを受けているものなのです。」
「・・・はい。」
「そんな状況の中、淑恵さんのように、彼に合わせてくれる女性に出会ったら、どう感じると思いますか?『お前だけがオレのことを分かってくれる!素晴らしい女性だ!』って思うわけですよ。」
「実際それ、言われました。」
ドクターは数回深くうなずいてから静かに言った。「というわけなのです。」
(つづく)
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