シングルを卒業(15)|恋愛ドクターの遺産第5話

第七幕 私にとって相性とは

ゆり子はノートを閉じた。
そもそも、順子(よりこ)のところは夫婦仲がよく、ケンカもしないがお互いの意見を聞き合うことが出来ていて、一方香澄のところは、仲の良さはちょっと微妙だが、お互いケンカしてでも意見を言い合うことが大事、ぶつかり合うことこそが夫婦の証と信じている。そんな友達とのランチのひとときに、自分の夫婦の現状をぽろっと話してしまったことから、夫婦とはどうあるべきかの議論になったのだった。あの日のランチでは、香澄と順子の意見は延々平行線のまま、あまり嬉しくない雰囲気になってしまった。ゆり子はそれに疲れて、友達に相談するのをやめて「恋愛ドクターの遺産」ノートを開くことにしたのだった。

「はぁ。」ノートを閉じた今、やはりため息が出た。自分は本当に「相性」についてきちんと考えた上で結婚相手を選んだのだろうか。いや、考えるまでもない。その答えはNOだった。幸雄とは共通の趣味もないし、あまり味覚も合うとは言えない。ではなぜ好きになったのか。思い返してみると、大学時代に仲間から攻撃されそうになっていたゆり子を、冷静で客観的な物の見方で幸雄が守ってくれたのがきっかけだった。
集団ヒステリーと呼ぶのだと後で知った。確証はないが、状況証拠とみんなの思い込みで誰かを犯人に仕立て上げてしまうような集団心理のことだ。実際、ゆり子にとってはぬれぎぬだったのだが、自分の主張を言えば言うほど焦っている感じが出てしまって、どうにもならなかった。何日も悔しくて涙を流したのだった。それを「確証もないのに彼女を犯人にして、もし違ったらお前ら責任取れるのか?」そう言ってかばってくれたのが幸雄だった。
当時、誰も味方をしてくれない中、唯一この人だけは味方でいてくれるんだ、そう感じて本当にほっとした。今こうして思い出してもまだ涙が出る。

ただ、ゆり子は幸雄について少し捉え違いをしていたところもあった。結婚生活を続けてきて徐々に分かってきたことは、そのとき幸雄は本当に文字通り「確証がない」と言ったのだろう、ということだ。結果的にはゆり子の味方をすることにはなったが、ゆり子の味方をするという動機でそうしたわけではなく、純粋に合理的に考えて「確証がない」と判断しただけだった。
その一件に関して言えば、幸雄の合理的な行動は、他のメンバーを集団ヒステリーから冷静な状態に引き戻す役割を果たしたし、結果的にゆり子の味方をした格好にもなった。幸雄の行動は、その時本当に必要な行動だったと、今でもゆり子は思っているし、今でも感謝している。ゆり子はその後数ヶ月気分が落ち込む日々が続いたのだが、不幸中の幸いと言えた。幸雄の援護がなければ、もっと傷つくことになっただろうし、もしかしたら何年も引きずることになったかもしれない。

幸雄と、同じサークルの仲間、という関係だけで終わっていれば「結果オーライ」と考えることも出来たと思う。実際、ゆり子の親友(サークルは違っていたが)は、今でもそう解釈しているようだ。しかし、行動がOKなら全てOK、とは単純に行かないのが人間関係の難しいところだと、今では、ゆり子はそう思っている。動機の違いは、その後交際、結婚へと進んだ生活の中で、ゆり子に、期待通りではない現実を突き付ける結果につながった。幸雄にとって、ゆり子の味方をすることは一番の動機ではないのだ。だから、合理的に考えてゆり子が間違っていると幸雄が考えるときには、ゆり子に対しても容赦がない。もちろん、多くの経験の中には、あのときと同じように幸雄が結果的にゆり子の味方をしてくれた出来事もあった。でも、幸雄の動機はあくまで「合理的に行動すること」であって、「ゆり子という特別な存在に対して、いつも味方であること」ではないのだった。

(つづく)

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