霞の向こうの神セッション(10)|恋愛ドクターの遺産第7話

ドクターとなつを、そしてユミコの3人は、トイレの前まで移動した。オフィスではあるが小さなオフィスなので、家庭用のトイレのようなトイレだ。壁紙は実はなつをの趣味で淡い黄色。生花は管理が大変なので花の絵が置いてある。ドクターは椅子をひとつ持ってきた。トイレのドアを開けると、ユミコが中に入ろうとした。

「いや、始めはユミコさんは入らないでOKです。」

「あっ、失礼しました。」

ドクターはトイレのドアを開けて、便座が見えた状態にして、持ってきた椅子をドアの前に置いた。「こちらに座って下さい。」

「はい。」ユミコは90度より少し開いたトイレのドアの外側で、トイレの方に向いて椅子に座った。

「では、そのトイレに、あの頃の・・・つまり、トイレトレーニングを頑張っていた頃のユミコちゃんが座っているとイメージしてみて下さい。まだうまくできない日もありました。」

ユミコは少し焦点が定まらないような目で、トイレの中を見ている。

「どんな服を着ていますか?」

「ピンクの、長袖のニットに、スカートです。あ、いまは、スカートを脱いでます。」

「髪は長いですか?短いですか?」

「ショートです。おかっぱですね。」

「そして、どんな表情をしていますか。」

「なんか、不安そうです。」

「ほかに、こうしてイメージしていて、気づいたことはありますか?」

「はい。あの『膜』は、そのトイレに座っている子供の私の周りを覆っています。」

「なるほど、あの『膜』がこの頃のユミコちゃんをすでに、覆っていた感じなのですね?」

「はい。」

 

(来た!さすがだ!今日も先生は見事に根っこにたどり着いた!)なつをはそう思った。こうして過去の自分をイメージしたときに出てきた感覚が(ユミコさんの場合は「生々しい」と表現した感覚だったが)現在悩まされている感覚と似ているときは、大抵その過去の出来事が現在悩まされている悩みの根っこのことが多いのだ。ユミコさんはきっと、トイレトレーニングがつらかったのだろう。ダメ出しをいっぱいされて、自信を失ったのかもしれない。それでも頑張った。その感覚が生々しさをはらんだ『膜』の感じとして、今も心の中に未解決のまま残っているのだ。おそらく。

 

 

「では次に、」ドクターは続けた。「子供のユミコちゃんを覆っている『膜』になってみましょう。」

「はい。・・・でもどうやって・・・?」

「なつを君、先ほどのコートを。」

なつをが先ほどの黒いコートを持ってくると、ドクターはそれを広げて、一旦トイレに入り、ちょうど便座に座っているユミコちゃんの頭上あたりに掲げてこう言った。「今は、その『膜』はここにあります。」

「はい。」

「その『膜』を、一旦こっちに持ってきて、」そう言いながらドクターはトイレから出てきて、今度はコートをユミコに着せるように持った。「ユミコさん、あなたがこの『膜』になってみてください。」

ユミコは、先ほどのワークで『膜』になってみたときよりも、いくぶん抵抗があるような素振りを見せながら、その『膜』(実際にはなつをのコートだが)を着た。

「さあ、あなたは今、その『膜』になりました。」ドクターが誘導していく。「どんな感じがしますか?」

「ええと・・・完全に『膜』になりきれてない気もするんですが・・・『膜』として『ちゃんとやりなさい、ユミコ!』と言いたい気持ちと、そんな風に抑えつけたり厳しくしたりするのは何だか可哀想と思う気持ちと、半々です。」

「なるほどそうですか。では、抑えつける方の気持ちから表現していきましょう。そちらの、」ドクターはそう言いながらトイレの便座を指し示した。「便座に子供の頃のユミコちゃんが座っているとイメージして下さい。そして、『膜』として、きちんとトイレでおしっこをすることをしつけるような言葉を言ってみて下さい。」

「ユミコ、お漏らししちゃ、ダメでしょ!きちんとトイレでしなさい、って何度言ったら分かるの!」ユミコ『膜』になりきって、そう言いながらも、目に涙を浮かべ始めた。

 

「ではユミコさん、今度は、」ドクターはそう言いながら、ユミコからコートを脱がせて続けた。「先ほど、『膜』になって子供のユミコさんを抑えつけたらなんだか可哀想と感じたのでしたよね?今度は、そちらの気持ちになってみて下さい。」

「はい。」

「そちらにいる」そう言いながら便座を指し示した。「子供のユミコさんに、何か言ってあげたいことはありますか?」

「ユミコ、ごめんね。ごめんね。ユミコは悪くないよ!」そう言いながらユミコは便座に駆け寄り、子供のユミコを抱きしめた(実際にはそこにはフタが閉まった便座があるだけなのだが、ワークの中では、子供の頃のユミコが座っている設定だ。ワークに入り込んでいるユミコには、本当に子供の頃の自分が見えているのだろう)。そして、大粒の涙をぽろぽろっとこぼした。

 

このあと、少し先生による質問があり、いくつかやりとりがあったが、ほどなくしてその日のセッションは終わった。私なつをは、これで解決なのかと思ったが、先生はもう少し何か気になることがあるらしかった。

 

「ユミコさん、今回のセッションで、かなりいい線まで行ったと、私は考えていますが、そもそもの悩みは、彼との関係、でしたね?」

「はい。」

「そのあたりのことも含めて、もう一回お話ししましょう。」

「はい、お願いします。」

 

「では、今日はここまでとしたいと思います。お疲れさまでした。」

「ありがとうございました。」

(つづく)

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