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シングルを卒業(16)|恋愛ドクターの遺産第5話

でも、幸雄の動機はあくまで「合理的に行動すること」であって、「ゆり子という特別な存在に対して、いつも味方であること」ではないのだった。

たとえば、結婚してすぐの頃、こんなことがあった。当時はまだ、二人とも働いていて、ゆり子も事務職だったが、忙しく働く毎日だった。仕事の内容は資料作りなど得意な内容がメインで、好きだったのだが、職場の空気を乱す同僚Fがいて、どうにもその人が苦手だった。
それまではなんとか、うまく受け流しながらやってきていたのだったが、いよいよ、一緒のグループに入って仕事をすることになり、逃げられなくなってしまった。
Fを知らない人にその息苦しさを説明するのは、とても難しい。実際、Fの微妙な嫌がらせを全く意に介しない人もいる。だから、Fだけの一方的な問題というよりは、微妙な嫌がらせをするFと、それを敏感に感じ取る側との、合わせ技、相性の問題で起こるといった方が、客観的に見たら適切なのだろう。
Fの行動は、たとえば、こんな感じなのだ。ゆり子がコピー機を使いそうな気配を見せると、先回りしてコピー機を使う。Fはゆっくりコピーを取ったり、やり直したりして、待っているゆり子をイライラさせる。しかしその行動を単独で見たら、オフィスにおいて問題ありな行動とは言えない。ときどきは「ゆずってやろうか?」的なオファーがあることもあった。自分で先回りしておいてお恵みを与える、的な腹立たしい親切である。同僚も、同じような「嫌がらせ」をされていて、その場合の対応はふたつに分かれていた。心の中で「しょーもないやつだ」と思いながら「ああ、どうもありがとう。」と気持ちよく言って、実を取る現実主義の人と、ギロッとにらみつけたり、怒った声を出したりして不快感をあらわにしつつ「結構です」と断る、人間性重視の人。ゆり子はこの対応についてもどっちつかずだった。
まあそんなことが繰り返されていて、そのことを幸雄にこぼしたときのことだった。今となっては予想できる返答だったが、幸雄の答えはこうだった。基本、自分なら前者のような対応をする。わざわざ感情的なゲームを仕掛けてきているFにつき合っているほどヒマではない。しかし、実害も、業務の効率が下がるなど、わずかとは言え出ている。この行動が目に余ると思うなら、彼が嫌がらせを仕掛けている人数をざっと調べ(正確な調査はしていないが、毎日目にしている感じからすると大体7、8人だった)、ひとりあたりに仕掛けている嫌がらせの種類と頻度をざっと調べ、結果的に1人あたり平均してどのぐらい事務作業が遅滞するのかを見積もり、最後に人数を掛ければ、職場として潜在的にロスが生じている分が、金額で見積もることが出来る。時給をかけ算することを忘れずに。だいたいひとり一日多くて10分程度。平均すると5分程度邪魔されているような感じだったので、計算しやすいように時給2400円として、8人分で3200円。20日の出勤として毎月64000円の損失になっている、と、ここまでゆり子に聞き取って幸雄が見積もったのだが・・・これを上司に突き付け、それでも解決しないなら会社のコンプライアンス委員などに上申し、きちんと物事を動かす、そう動くべきだ。
まあ、幸雄らしいと言えば幸雄らしいが、そういう解決策を提示してきて、どっちつかずになっているのはおかしい、と言われた。ゆり子は「責められた」と感じた。
実は後日談で、そのFは、やはり職場の空気を乱し、業務効率を下げたという、ほぼ幸雄が主張していたような理由で、肩たたきに遭い、結局職場を去っていた。だから、幸雄の言うような行動を取った人が他に誰かいたということになるし、幸雄の言っていることは、やはりここでも、職場全体の秩序を保ち、効率よく働くという目的に照らして言えば、正しかったことになる。
しかし、しかしなのだ。この動機が、どうしても、ゆり子は受け入れられないのだった。

「私だけの味方でいてくれる、それって幻想なのかなぁ。」ゆり子はつぶやいた。

シングルを卒業(15)|恋愛ドクターの遺産第5話

第七幕 私にとって相性とは

ゆり子はノートを閉じた。
そもそも、順子(よりこ)のところは夫婦仲がよく、ケンカもしないがお互いの意見を聞き合うことが出来ていて、一方香澄のところは、仲の良さはちょっと微妙だが、お互いケンカしてでも意見を言い合うことが大事、ぶつかり合うことこそが夫婦の証と信じている。そんな友達とのランチのひとときに、自分の夫婦の現状をぽろっと話してしまったことから、夫婦とはどうあるべきかの議論になったのだった。あの日のランチでは、香澄と順子の意見は延々平行線のまま、あまり嬉しくない雰囲気になってしまった。ゆり子はそれに疲れて、友達に相談するのをやめて「恋愛ドクターの遺産」ノートを開くことにしたのだった。

「はぁ。」ノートを閉じた今、やはりため息が出た。自分は本当に「相性」についてきちんと考えた上で結婚相手を選んだのだろうか。いや、考えるまでもない。その答えはNOだった。幸雄とは共通の趣味もないし、あまり味覚も合うとは言えない。ではなぜ好きになったのか。思い返してみると、大学時代に仲間から攻撃されそうになっていたゆり子を、冷静で客観的な物の見方で幸雄が守ってくれたのがきっかけだった。
集団ヒステリーと呼ぶのだと後で知った。確証はないが、状況証拠とみんなの思い込みで誰かを犯人に仕立て上げてしまうような集団心理のことだ。実際、ゆり子にとってはぬれぎぬだったのだが、自分の主張を言えば言うほど焦っている感じが出てしまって、どうにもならなかった。何日も悔しくて涙を流したのだった。それを「確証もないのに彼女を犯人にして、もし違ったらお前ら責任取れるのか?」そう言ってかばってくれたのが幸雄だった。
当時、誰も味方をしてくれない中、唯一この人だけは味方でいてくれるんだ、そう感じて本当にほっとした。今こうして思い出してもまだ涙が出る。

ただ、ゆり子は幸雄について少し捉え違いをしていたところもあった。結婚生活を続けてきて徐々に分かってきたことは、そのとき幸雄は本当に文字通り「確証がない」と言ったのだろう、ということだ。結果的にはゆり子の味方をすることにはなったが、ゆり子の味方をするという動機でそうしたわけではなく、純粋に合理的に考えて「確証がない」と判断しただけだった。
その一件に関して言えば、幸雄の合理的な行動は、他のメンバーを集団ヒステリーから冷静な状態に引き戻す役割を果たしたし、結果的にゆり子の味方をした格好にもなった。幸雄の行動は、その時本当に必要な行動だったと、今でもゆり子は思っているし、今でも感謝している。ゆり子はその後数ヶ月気分が落ち込む日々が続いたのだが、不幸中の幸いと言えた。幸雄の援護がなければ、もっと傷つくことになっただろうし、もしかしたら何年も引きずることになったかもしれない。

幸雄と、同じサークルの仲間、という関係だけで終わっていれば「結果オーライ」と考えることも出来たと思う。実際、ゆり子の親友(サークルは違っていたが)は、今でもそう解釈しているようだ。しかし、行動がOKなら全てOK、とは単純に行かないのが人間関係の難しいところだと、今では、ゆり子はそう思っている。動機の違いは、その後交際、結婚へと進んだ生活の中で、ゆり子に、期待通りではない現実を突き付ける結果につながった。幸雄にとって、ゆり子の味方をすることは一番の動機ではないのだ。だから、合理的に考えてゆり子が間違っていると幸雄が考えるときには、ゆり子に対しても容赦がない。もちろん、多くの経験の中には、あのときと同じように幸雄が結果的にゆり子の味方をしてくれた出来事もあった。でも、幸雄の動機はあくまで「合理的に行動すること」であって、「ゆり子という特別な存在に対して、いつも味方であること」ではないのだった。

(つづく)

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シングルを卒業(14)下|恋愛ドクターの遺産第5話

セッションが終わったあと、なつをは課題設定したときのことを振り返っていた。今回は先生の采配も見事だったが、課題設定がスムーズに行った。これは大事なことだ。
実は、多くの人は自分の現在の状態を肯定できていないのだ。今の等身大の自分を肯定できていないから、「そのレベルであるべき」自分を基準に考える。別の言葉で言うと「自分の現状に見栄を張って」自分を見るのだ。たとえば、学校の勉強を考えればよく分かる。みんなは数学で因数分解がそれなりにできるようになった。自分はからっきしダメだ。そんなとき、因数分解の基礎の基礎から練習する本を買ってきて学ぶのは勇気がいる。みんなの平均ぐらいに合わせた本を買ってしまう。もっと悪いパターンだと、一発大逆転を狙って上級向けの本を買ってしまうことさえあるだろう。でもそれでは、かえってうまく行かないのだ。
たとえ劣等感を抱くようなレベルの自分であろうとも、たとえみんなから置いて行かれてビリの自分であろうとも、今現在の自分を肯定し、それを認めて、そこをスタート地点として、ちょっと背伸びをする課題に取り組む。これが成長のコツなのだ。多くの人は、自分に見栄を張りすぎている。思えば私なつを自身もそうだった。大学受験では第一志望は落ちている。ここのカウンセリングルームで働く際、先生から直接面接をしてもらって、その関係でその後も色々勉強のことを話す機会に恵まれた。
先生は小さい頃から勉強が出来たらしい。だからかえって、劣等感とは無縁の生き方をしていて、自分が苦手な教科は自分の出来る範囲に絞って勉強していたらしい。高校生でそこまで考えていたのは、さすがとしか言いようがないが・・・結局その結果として、苦手だった教科もそれなりに伸びたそうだ。そんな会話をしていた際、先生に言われたのは「なつを君、キミは今の自分自身ではなく、理想の自分しか見ていない。そのやり方だと返って失敗を招きますよ。」ということだった。厳しいひと言で、言われたときはショックであったが、今となっては、愛のある言葉だったと、感謝の気持ちが湧いてくる。
ここのカウンセリングルームでも、多くの「無理をしている」「背伸びどころかジャンプしても届かない課題に取り組みすぎて疲れ切っている」相談者をたくさん見てきた。そして、彼らに対して、先生は淡々と現状を客観的に見て、そして、今の現状から失敗なく踏み出せる小さな一歩を的確に提案する。他人だから客観的になれる部分もあるかもしれないが、高校生の頃の先生の勉強のエピソードを聞く限り、先生は自分を客観的に見る能力が非常に高いと思う。
無意味に自己卑下もしないし、逆に自分の能力に見栄も張らない。真っ直ぐに見ている。本当に素晴らしい客観視のお手本だ。でも、身近にいいお手本があるにもかかわらず、いつも自分のこととなると難しいなぁ。なつをはそう思った。

先生のお気に入りの質問は「スケーリングクエスチョン」と言う。つい先ほどみさおさんに対して使っていた。「どん底を0点、何もかもよくなった状態を100点としたとき、今何点ですか?」と聞くのだ。
次に、「何が『ある』からその点なのですか?」と尋ねる。そうやって加点法で考えるクセをつけてもらうという意図もありつつ・・・今日一番大事だったのは最後だ。「あと10点上がったら何がどうなっていると思いますか?」と聞くのだ。それで、小さな一歩を踏み出して、現状が少し変化したときの未来が想像できる。
人は、問題の渦中にいるとき、何もかもよくなった後の未來など現在とかけ離れすぎていて想像できないのだ。少なくとも私はそうだ。いや、中には創造力が豊かな人もいて、一度も体験したことがなく、かつ、現状の辛い状態からかけ離れているのに、幸せな未来が創造できて、いつかそれを実現させてしまうような、イメージ力の強い人もいるらしい。先生はそう言っていたが、なつをは自分も含めて、そのような人にはまだ会ったことがない。
だから、何もかもよくなった未來を想像させることを無理して一生懸命やるよりも、現状から一歩だけ進んで、ちょっとだけよくなった未来を想像してもらう方がスムーズに出来るのだ。
但し、想像したことはすぐに実現してしまう訳なので、このタイプの「近い未来」を想像するセッションを行う場合は、繰り返し繰り返し、少し進んだらまた未来をイメージし、また少し進んだら・・・とやっていくことが大事になる。カウンセラーの側も、根気強さが求められるのだ。
色々面倒ではあるし、効果も短期的に見たら地味だ。しかし、コツコツ積み上げていく結果を甘く見てはいけない。長い目で見ると、こうやって積み上げたことは、大きな違いとなってゆく。そうやって人生が大きく好転したクライアントを、なつをは何人も見てきた。きっと、みさおさんも、異性の友達を作るという課題で一歩踏み出したら、そこからまた、次の一歩を考えて、と、着実な歩みを進めていくことだろう。

「なつを君、そろそろ帰りますよ。」ドクターの呼ぶ声がした。
「あ、はーい。私も帰ります。」

今日はオフィスを最後に出るのが二人同時だった。最寄り駅まで雑談をして、そこで別々の方面の電車に乗って別れた。

(つづく)

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シングルを卒業(14)上|恋愛ドクターの遺産第5話

「ではみさおさん、みさおさんもステキだと思う男性から告白されてOKした。これを100点としましょう。彼氏ができるところからほど遠い、最も遠いところにいるのを0点としますね。いま、何点ぐらいのところにいますか?」
しばらく考えて、みさおはゆっくりと答えた。「そうですね。20点ぐらいだと思います。」
「なるほど。20点。それは、何があるから20点なのでしょうか。」
「何があるから・・・そうですね。先生のところに通って、だいぶ、世界に対する緊張感がなくなりましたし、ずいぶん楽になって、希望も出てきたことですね。でも、あんまり男友達もいないし、まだまだ先が長い、の20点です。」
「なるほど、分かりやすい説明ありがとうございます。では、その20点が、30点に上がったとします。今と何がどんな風に違っていたら、30点だと思いますか?複数回答可能です。」ドクターは最後の複数回答、のところだけ、少しおどけた調子で笑いながら言った。
「そうですね。男性の友達が出来たら、ですかね。」
「なるほど・・・」ドクターは少し考え込んだ様子になった。そしてゆっくりと質問をした。「男性の友達が出来たら、本当に30点ですか?」
「あ、いや、そうですよね。そこまで行ったら50点ぐらいかもしれません。」
「ですよね。ちょっと先走ったかな? では改めて、『30点』になったとしたら、どんな状態なのでしょうか。」ドクターは「30点」のところを強調して言った。
「ええと、親しい友達、というほどでなくても、たとえば、何かのサークルとか習い事で、男性とも一緒に食事に行ったり、連絡先を交換したり出来たら、30点ぐらいかな・・・」
「それは、今から『よしやるぞ』って思ったら、できそうなことですか?」ドクターは真顔でそう聞いた。
改めて質問されて、みさおはしばらく考え込んでいた。おそらく、実際にやれるかどうか頭の中でシミュレーションしてみているのだろう。そして、ようやく口を開いた。「いや、ちょっとハードルが高いかもしれません。」
少し暗い顔になって、みさおは言った。「すみません、先生。私、行動できないんですよね。だからダメなのかなぁ・・・」
「いま出来ることを課題として設定すれば良いんですよ。ただそれだけです。」ドクターは淡々と言った。
「いま出来ること・・・」
「たとえば、そうやって男性と知り合うチャンスがあるサークルの候補をみっつ見つけてみる、とか、今の職場で、今まで断っていた飲み会(ですよね?)に一時間だけでもいいから参加してみる、とか、最初の一歩は、本当に小さくて、簡単な課題を設定するのがコツなんですよ。」
「なるほど!あ、そういえば、先日4D(みさおが好きなロックバンドの略称だ)好きの集まりで、飲み会に誘われて、まだ返事をしていませんでした。いつもは、そういう会には参加しないですぐに帰ってしまっていました。今度参加してみようかな・・・」
「それは、やろうとしたら、できそうなことですか?」
しばらく想像してみて、みさおは笑顔になって答えた。「はい。そこなら知っている女性もいますし、男性の方も何回か顔を見ている人ばかりなので、今なら参加できそうな気がします。」
「お!いいですね。そうです。そうやって、今の自分に無理なく出来る背伸びをする。これが、物事をうまく行かせるコツなんです。」

ここで、助手のなつをが割って入った。「みさおさん、いま、うまく課題設定できましたよね。」
「はい。」
「いま、みさおさんがうまく課題設定できたのは、一旦課題を作ったあと、出来そうかどうか想像してみて、無理そうなら、少し課題を小さくして再設定する、ということをやったからです。」なつをは優しい調子でそう言った。
「ああ、なるほど。今までは、自分には無理な課題を設定して、いざやってみて、その場に行って『無理・・・』となって落ち込んで帰ってくる、みたいなことが多かった気がします。」
「課題設定がうまく出来た、今の感覚をしっかり覚えておいて下さいね!ここ、大事なところなんで!」今度は力強く、なつをは言った。

ドクターは「そうそう」とでも言いたげに、ゆっくりうなずいていた。
「では、今日はこの辺にしましょうか。いい課題も設定できたことですし。」
「はい、ありがとうございます。やってみます!」

(つづく)

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シングルを卒業(13)|恋愛ドクターの遺産第5話

第六幕 行動課題

今日は、再び、みさおさんのセッションのある日だ。
そろそろ時間だ。

ノックの音がして、みさおが入ってきた。
「こんにちは。よろしくお願いします。」
これまでより、表情が明るい。ずいぶんキラキラ輝いている。なつをは、人ってこんなにも変わるものかと驚いた。
「こんにちは。一段と美人になりましたね。」ドクターが開口一番そう言った。
みさおは少し照れた表情になった。「あ、ありがとうございます。でも最近自分でも、ちょっとキレイになった気がする、と思ったんです。でも、自意識過剰かな、なんて思っていたんですが・・・先生に言っていただけると、なんか自信になります。」
「そうですか。きっと表情が活き活きしてきたことが大きいのかな。土台は元から良いと思いますよ。表情が活き活きすると、やっぱりキレイに見えますよね。いい感じです。」ドクターはニコニコしている。「あ、失礼しました。立ち話ではナンですから、おかけ下さい。」
「そうでした。失礼します。」かなり元気な声でみさおが言った。

「今日もよろしくお願いいたします。」
「はい、先生、よろしくお願いします。」

「表情を見る限り、ずいぶん内面的な課題については、ほぐれてきた感じですね。」
「そうなんですよ先生! 最近、生きるのがこんなに楽なのか、と感じるようになったんです。今まで、本当に緊張して、怖い世界の中に自分を押し込めていたんだな、って、やっと気づきました。」
「そうですか。それは何よりです。」
「今まで、世界を怖いところと見て、すごく気を張って、気を張って、そうやって自分を守ろうとしていました。でも結果的には、それは自分の心をいじめているだけだったんだな、って気づきました。なんてかわいそうなことをしていたんだろうって。」そう言いながらみさおはぽろぽろっと大粒の涙をこぼした。
「そうですか。それはかわいそうなことをしてきましたね。でも、気づいたからには、これからはもっともっと、自分の心を大切に出来ますね。」
「はい、そうしたいです。」

しばらく沈黙があったあと、先に口を開いたのはみさおだった。
「先生、今日はどんな課題に取り組むのでしょうか。まだトラウマがあるかもしれませんし・・・」
「そうですね。インナーチャイルド課題は、先日までにお出しした課題を、引き続きやっていただくとして、新たな課題は特に設定しなくてもいいかな、と考えています。」
「えっ? そうなんですか?」みさおは少し驚いた表情になって言った。
「ええ。」
「では、今日は・・・?」
「そうですね。今日は、いよいよ、具体的な行動課題を設定して、取り組みを加速させていきたいと考えています・・・いや、本当のことを言うと、今日もまだインナーチャイルド課題に取り組むことになるかな、とセッションが始まる前は思っていたんですが、みさおさんのお顔を拝見した瞬間に、それはもういいか、って思い直したんです。」ドクターは笑いながら言った。
「そうなんですね。私の表情を見て、ということですか?」
「そうですね。まだしばらく取り組みは続けた方がいいと思いますが、今日積極的に扱うほどではなく、むしろ今日は、次のテーマに進んだ方が実りが多そうだと思いましたので。」
「分かりました。お願いします!」
「いいですね。その気合!元気!その調子です。」
「で、どんな課題なのでしょう。」
ドクターは、少し考えてから言った。「そうですね。今日は、実際に出会いを作るところに向けて、小さな一歩を踏み出す課題を作ってみたいと思います。」
「はい・・・でもそれは、かなり緊張します。」
「そうですね。安心して下さい。大丈夫ですから。」
「・・・はい。」

(もう出会いに向けて動くのか・・・展開が早いなぁ)みさおは思った。相変わらず先生は、問題解決のテンポが早い。ときどき自分でも「勇み足だったか」と言うことがあるけれど、少し背伸びをさせるぐらいの課題を出しても、結局相談者はその分成長していることが多い。課題の出し方の判断が・・・ちょっと勇み足傾向はあるとしても・・・的確なのだ。

「ではみさおさん、みさおさんもステキだと思う男性から告白されてOKした。これを100点としましょう。彼氏ができるところからほど遠い、最も遠いところにいるのを0点としますね。いま、何点ぐらいのところにいますか?」

(つづく)

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シングルを卒業(12)|恋愛ドクターの遺産第5話

「では、この緑色のひんやりずっしりて、モチモチしたエネルギーをこうして両手に持ったまま、」そう言いながらドクターは「その世界」の方へと近づいていき、さらに言った。「その世界に入っていったとイメージしてみてください。」
「はい。」意を決したような表情で、みさおも、そのエネルギーを両手に持って、さきほど「過去の世界」とドクターが示した方に近づいていく。イメージの中では本当に過去の世界に入っているのだろう。表情が少しだけこわばっている。しかし、一回目とは明らかに違う。目つきにも、表情にも、どこか強さがある。
「そして。」ドクターが言った。「このエネルギーを、過去のみさおちゃんに、こうしてあげてください。こんなふうにして、エネルギーをかぶせてあげます。」そう言いながら、手のひらに乗っているエネルギーを「ふわーっ」と広げて目の前にいる何かにやわらかくかぶせるようなしぐさをした。
「はい。」みさおも、真似をして手のひらに載っている「エネルギー」を「ふわーっ」とかぶせるしぐさをした。その瞬間、少し固かった表情が安心感にあふれ、涙が一筋流れた。
「過去のみさおちゃんに、何か言ってあげたいことや、やってあげたいことはありますか?」ドクターが質問をした。
「ええと・・・これが欲しかったものだと思います。この安心感をあげられたのが嬉しい・・・よかったです。」
「そうですか。では、その、安心感に包まれた子どものみさおちゃんがどんな風に感じているのか、いま実際になってみて、体験してみたいと思いますか?」
「ええと・・・すでに何だか体験したみたいな感じです。」
「なるほどそうですか。今から『みさおちゃんになってみる』というワークはとくに必要ない、ということですかね?」
「はい、大丈夫です。」
「では、元の世界に戻ってきてください。」そう言いながら、ドクターも、場所を移動して(いま『過去の世界』に近づいていたのだ)、元の自分の椅子に戻って座った。
「はい。」みさおも『過去の世界』から離れて、元の自分の椅子に戻って座った。
「おつかれさまでした。」
「はい、ありがとうございました。」
ふう。と一息ついてからドクターは最後の仕上げに入った。確認作業だ。「では、もういちど、過去の世界に近づいてみてください。」先ほどと同じようにのぞき込むようなしぐさをした。
「はい。」みさおも過去の世界に近づいた。
「どんな感じがしますか?さきほどは、とても緊張した、重苦しくて痛い世界でしたよね?」
「まだ、その感じは残っています。でも、始めと比べて、全然よくなりました。全然楽です。」
「それはよかった。取り組みを続けていけば、さらに良くなっていきますよ、きっと。」
「そうなんですね。」急に声が明るくなって、みさおは言った。

もう一度自身で深呼吸してからドクターは言った。「このワークは、じわじわ効くものです。まあ初回は大きく変化した感じがするかもしれませんが。」
「はい。びっくりしました。」
「できれば毎日、こうやって過去のみさおちゃんにエネルギーを届けてあげてほしいのです。」
「はい、やってみます。」
「毎回同じエネルギーだと、次第に変化が小さくなっていきますので、エネルギー源を探す方もやってみると、効果がさらに高まります。」
「どうやって探すのですか?」
「職場でもいいし、友達でもいいですから、人を大切にしていて公正さ、公平さを持っているような、そんな人をよく観察してください。そして、そのような人を見ているとどんな感じがするか、感情をしっかり感じて覚えておくこと。それが『エネルギー源の開拓』です。」
「なるほど・・・観察するのですね。」
「そうです。」
ドクターは椅子から立ち上がりながら言った。「では、今日はここまでとしたいと思います。ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」

(つづく)

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シングルを卒業(11)|恋愛ドクターの遺産第5話

「今度は、過去のことを質問します。今の感覚と同じ、あるいはとても似ている感覚を、過去に経験したことはありますか?なるべく古い経験を、頑張って思い出してみてください。」

みさおは一瞬体を「びくっ」とさせて、それからゆっくりと答えた。「あの・・・家に父がいて、機嫌が悪い時の感じに似ています。」
「なるほど。お父様がいらっしゃって、しかも機嫌が悪い、と。その時に・・・ええと、みさおさんは何歳ぐらいでしたか?」
「5歳ぐらいだと思います。」
「なるほど。5歳ぐらいのみさおさんが感じていた感覚と、仕事でプレッシャーがかかった時に感じる緊張感は、似ている、と。」
「はい。ほとんど同じ感じです。」
「そしてそれは、前回から扱ってきている『安全の感覚が足りない』というテーマに沿っている感じですかね?」
「はい、まさに、安全の感覚がないです。」
「どうやら、そのあたりがこの問題の根っこのようですね。」
「そうなんですね、やっぱり父のことだったんですね。」
「そうですね。お父様から受けた影響は、そういう意味では大きかったということです。」

「はぁ・・・やっぱりお父さんか・・・」みさおはため息をついた。もううんざりだという様子だ。

ドクターは、みさおのそんな様子にはおかまいなしに、質問を続けている。
「みさおさんは、お父様のような人の逆、つまり、場の安全を作り出してくれる人、公正さを大事にしていたり、人を大切にしていたり、そんな人を、ここしばらく観察してきましたね?」
「はい。職場にも何人かいますし、友達の中にも・・・女性ですけど・・・何人かいました。」

「では・・・」ドクターは少し間を取って、そして言った。「これから、過去の印象を変えるワークを行っていきます。一度深呼吸をしてみましょう。」そう言ったあとに深呼吸をした。
「はい。」みさおも深呼吸をした。
「それでは、こちらに」そう言いながら部屋の一角を手のひらで示した。「過去の世界があるとイメージして下さい。」
「はい。」
「こちらには、あの当時のみさおちゃん・・・でいいかな?」ドクターはそう言いながらみさおの方をチラッと見て、みさおがうなずくのを見て続けた。「みさおちゃんがいるとイメージして下さい。ここには、お父様もいます。」
「はい。」みさおの表情がこわばり始めた。
「ちょっとこの世界に近づいてみて・・・」そう言いながらドクターは、「過去の世界」への窓ガラス・・・実際には何もないが・・・に手を当てながら顔を近づけて向こうの世界をのぞくようなしぐさをした。「どんな感覚があるかを、感じてみて下さい。」
「はい。」みさおもドクターの真似をして、同じしぐさをした。「とても嫌な感じです。」
「そうですよね。この世界の明るさは、どうですか?」
「暗いです。」
「空気の温度は、暖かいですか、肌寒いですか?」
「寒いです。」
「空気の重さは、軽いですか、重いですか?」
「重くて、張り詰めた感じで、痛いです。」
「では、この世界から離れてください。」
「はい。」みさおは過去の辛い世界から離れられてほっとしたように見えた。
「お疲れさまでした。ちょっと一度深呼吸しましょう。」ドクターはそう言って自分も深呼吸をした。
「はぁーーーー」みさおは深呼吸ともため息ともつかない、大きな息を吐いた。
「続いていきます。今度は、あの世界に足りなかったもの、つまり、この場に安全、公正さ、公平さをきちんともたらそうという人のエネルギーをイメージしていきます。」
「はい・・・どうすれば・・・」
「職場の人でも良いですし、お友達の方でも良いです。そのような人を思い出してみてください。」
「はい。」みさおは目を閉じて思い出しているようだった。
「その人たちから、安心感、安全の感覚のエネルギーを受け取っているとイメージしてみましょう。」
「はい。」
「そのエネルギーに色があるとしたら、どんな色ですか?」
「落ち着いたグリーンです。」
「グリーンですね。では、その受け取ったエネルギーを、こうして、両手の上に載せてみたとイメージしてみてください。」そう言いながらドクター自分の両手を目の前に出し、水を汲むときのような形にした。
「はい。」みさおも倣って、両手を水を汲むような形にした。
「なにか、形のようなものはありますか?」
「ええと・・・丸い形をしています。」
「なるほど。触った感じ・・・質感や温度はありますか?」
「少しひんやりして気持ちいいです。わりとずっしりした感じで、弾力のあるおもちみたいな感じです。冷やしぜんざいに入っている白玉のようなもちもち感です。」
「なるほど・・・美味しそうな表現ありがとうございます。」ドクターはそう言ってくすっと笑った。
みさおもクスッと笑った。
「では、この緑色のひんやりずっしりて、モチモチしたエネルギーをこうして両手に持ったまま、」そう言いながらドクターは「その世界」の方へと近づいていき、さらに言った。「その世界に入っていったとイメージしてみてください。」
「はい。」意を決したような表情で、みさおも、そのエネルギーを両手に持って、さきほど「過去の世界」とドクターが示した方に近づいていく。イメージの中では本当に過去の世界に入っているのだろう。表情が少しだけこわばっている。しかし、一回目とは明らかに違う。目つきにも、表情にも、どこか強さがある。

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シングルを卒業(10)|恋愛ドクターの遺産第5話

第五幕 インナーチャイルドの課題

数週間後、今日は色々取り組んでいるみさおさんが、次のステップに進むための話をしに来る日だ。

「なつを君、今日は確か、みさおさんがいらっしゃる日だったと思いますが。」
「はい、先生。どうなっているか、楽しみですね。」
「そうですね、結構行動はしてくれている気がしますので、変化が楽しみです。」

ノックの音がして、みさおが入ってきた。
「先生こんにちは。」
「こんにちは、みさおさん。」ドクターはにこやかに応対している。
みさおが着席すると、ドクターは早速質問を始めた。前回の行動課題はやってみたかとか、やれなかった場合はどんな気持ちが邪魔をしてできなかったのかとか、細かく聞いている。

「それで、最近はどうですか?」
「どうって・・・何がですか?」
ドクターは、ああ、と少し苦笑いして言葉を足した。「前回は確か、安全の感覚が足りない、という話になったと思うのですが、色々取り組みをされたようですので、そこに変化があったのか、それとも、大して変わらない感じがするのか、率直なところが知りたいのです。」

「あ、はい・・・どのくらい変化があったのか、それは分かりませんけど・・・それほど時間も経っていないですし、出会いもまだないですから・・・ただ、自分がネガティブな出来事にばかり気を取られていたことに気づきました。」
「ほう、なるほど。ネガティブな出来事に気を取られていると。」
「はい。頂いた課題のように、平等で人間として尊敬できる人を観察しようとしてみたら、そうじゃない人、ズルをしたり、大声を出して脅しみたいなことを言ったり、そういう人のことばかり、日頃気にしていることに気がつきました。」みさおは少し暗い表情でそう言った。
「なるほど。それは大事な気づきですね。」対照的に、ドクターは明るい表情、そして明るい声でそう応じた。
「でも、それをやめられたかというと、難しいです。気になってしまうので。」
「そうでしょうね。すぐには変われなくても、それは気にしなくていいと思います。気づいただけでも大事な進歩ですよ。」ドクターは、一貫して明るい声、明るい表情でそう言った。
「そうなんですね!では、そう考えておくことにします。」みさおも影響されたのか、少しだけ明るい声になって、そう答えた。

「ところで・・・ネガティブな方に反応してしまうのは、人間の性みたいなものなので、どうしてもすぐには変わらないものなので、まあ、じっくり変えていければよいと思うのですが、平等で人間として尊敬できる人を観察する、つまり、ポジティブなことにも目を向ける、というのは、できていますか?」
「ええと・・・いつもではないですが、やるようにはしています。意識しているときはできていると思います。でも、ネガティブな方の人が近くに来ると、そっちに意識を持って行かれるというか、とにかく気になってしまって、うまくできません。」
「なるほど!そこまで出来ていれば、今日の時点ではかなりの上出来だと思いますよ。」
「えっ!?そうなんですか?全然うまく出来ていないと思っていました。」

今日も先生は絶好調だ、なつをはそう思った。先生は人の「できる部分」を見るのが得意だ。出来ていないことではなく、出来ていることに目を向ける。どうやら、これは意識していやっているのではないらしい。以前なつをと先生が話していたときに、こんな事を言っていた。「僕はね、人の能力を見る、人が『できる』という風に解釈する、そういうクセがあるみたいです。もちろん、他人のよいところを見る、長所をちゃんと見るというときには、良いことなんですが、ときどき、相手の能力を過大評価して『君ならここまでできるはずだ』と考えてしまい、相手にしてみれば過大なプレッシャーをかけられたと感じることがあるようなんです。」と。
私も身に覚えがある。先生が「じゃあなつを君、任せたから。」と言って、それほど丁寧に説明もせず、初めての仕事を「ぽんっ」と任された。そのときは先生のこのような性格をよく知らなかったから、締切間近になって大慌てになった。
このように、時々は相手にプレッシャーを掛けすぎてしまうという形で裏目に出ることもある先生の性格だが、基本的に、心理学では相手の能力を高く見積もることは「良いこと」とされている。
ピグマリオン効果、と言うのだが、人は相手から期待されているような行動をしたり、能力さえ、相手の期待通りになっていく、という効果のことだ。但し、あまりに本人の能力とかけ離れた期待を持ったり、客観的な実力が伴っていないのにほめちぎったりすると、逆効果になったり、悪影響が出たりするらしい。それに、語源となった「ピグマリオン」はギリシャ神話のピグマリオン王が女性の彫像に恋い焦がれて、人間になってほしいと願ったら、本当に人間になったという神話が由来となっている。その神話自体も、少しゆがんだ愛の形だなぁ、と私なつをは、実は思っている。ともあれ、相手に期待をかけ、ピグマリオン効果で相手を導く、というのは、さじ加減の難しい作業ではあるようだ。

なつをが勝手に回想しているのをよそに、セッションは進んでいた。

「みさおさん、今日は、もう少し踏み込んで、みさおさんの世界観を、少しずつでもポジティブにしていけるかどうか、そのチャレンジをしてみたいと思います。」
「はい、なんか怖いですけど。大丈夫ですかねぇ。」
「ええ、大丈夫ですよ。潜在意識は、本当に変われない、無理、という場合は、自ら先に進まないようにブレーキをかけるものですから。無理やり何かをしない限り、心配することはありません。必要な変化が、起きていきます。」
「はい。少し安心しました。」

「では・・・」そう言ってドクターは少し真剣な顔になった。「先日からテーマになっている『安全の感覚』についてですが、それが脅かされている、それが今はない、と感じるときは、特にどんな時ですか?」

「えぇと、仕事でプレッシャーがかかった時などは、そうだと思います。」
「なるほど。では、仕事でプレッシャーがかかった時のことを想像してみてください。」
「はい。」みさおの表情がみるみるこわばっていくのが分かる。
「その時の感覚・・・今の感覚でもありますが・・・それを、少し言葉にしてみましょう。」
「はい・・・なんだかものすごく緊張して、胸のあたりが『ギューッ』と締め付けられるような感じがあります。」
「なるほど。胸のあたりが『ギューッ』と締め付けられるような感じですね。」
「はい。」
「その感じを、しっかり覚えておいてください。」
「はい。」
「今度は、過去のことを質問します。今の感覚と同じ、あるいはとても似ている感覚を、過去に経験したことはありますか?なるべく古い経験を、頑張って思い出してみてください。」

みさおは一瞬体を「びくっ」とさせて、それからゆっくりと答えた。「あの・・・家に父がいて、機嫌が悪い時の感じに似ています。」

(つづく)

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シングルを卒業(9)|恋愛ドクターの遺産第5話

第四幕 恋人が出来ない問題〜ドクターとなつをの議論

「先生、みさおさんの『彼氏ができない問題』の原因は、彼女の生育歴にある、と、そういう解釈なのですね?」
「そうですね。今のところ私は、そう捉えています。」
控え室では、恒例の、恋愛ドクターと、助手のなつをの議論が始まっていた。今日の議題は、「彼氏ができない問題では、どのような場合に、原因がインナーチャイルド課題と考えるのか」というテーマだ。なつをにとっては、先日来訪した女性に対してはドクターはインナーチャイルド課題を一切取り扱わず、「美人問題」と言い切って対応した。それに対して、いま通ってくれているみさおさんについては、ドクターはインナーチャイルド課題と決め打ちして、対応しているように見える。
ドクターの中では確信を持っているであろう、この判断の分かれ目について、なつをはとても興味をそそられて、そして、例のごとく質問責めにしているのだった。

「先生、どうして先日の方はインナーチャイルド課題にほとんど触れずに、『美人問題』のような個性の問題を中心に扱うカウンセリングをして、みさおさんは逆に、迷わずインナーチャイルド課題だと分かったのですか? ほとんど試行錯誤もせずに、真っ直ぐに問題に向かっていった感じがしたのですが?それと、『暴言を吐かない人』『暴力を振るわない人』のような『卒業ポイント』ばかり多く出てくる人の場合、頭の中で『暴言を吐く人』『暴力を振るう人』をイメージしている、とのことでした。イメージするものを変えてみる、という方法ではダメなんですか?」なつをは息をつく暇もないぐらい次々と質問を投げかけた。
「ええと、質問は一度に一つにしてください。」ドクターは笑いながら答えた。
「はい、すみません。つい・・・」
「では、後者の方から答えますかね。ええと、卒業ポイントが多く出てくる人は、頭の中でネガティブな男性イメージを持っている。だから、イメージをポジティブに変えれば解決するのではないか。と、こういうことですね?」
「はい。」
「考え方としては、シンプルで良いと思います。何の経験もなく、何の事前知識もなかったら、一度は試してみたい考え方ですよね。」
「そうなんですね。」
「まあ、そうですね。ただ、経験上、あまりうまく行かないと思います。」
「それは、なぜなんですか?」
「よく『考え方を変える』『ビリーフを変える』などのセッションを行うセラピストがいますが、実は、これは、言うほど簡単なことではありません。」
「そうなんですね。」
「はい。そもそも、例えば彼女の場合、現状では、人一倍『怖い!』と感じるわけです。だから、男性を怖いものと見なして、自分が傷つかないために警戒しながら生きているわけです。ここで、無理やり『怖くない』ということにして、警戒心を解いたら、問題は解決するのでしょうか?」
「あ、そうか、良いときもあると思いますけど、もし本当に『暴言を吐く人』や『暴力を振るう人』に出会ってしまったら、気を許している分だけ、衝撃を受けるかもしれませんね。」
「そういうことです。つまり、人一倍『怖い!』と感じる、『感じ方』を直してから、そのあと、ネガティブな考え方の方を直していく、という順番が必要なんです。考え方を直したら簡単に解決する、なんてことは、そうそうありません。」
「なるほど。では、『感じ方』を直すにはどうしたらいいんですか?」なつをはさらに質問を重ねている。
「なつを君、自分で少し考え・・・」ドクターが少しあきれたという表情で言いかけたとき、なつをが言った。
「あ、そうですね。つまり、怖い感情は、幼児期の経験から来ているから、それを癒せば、怖さが薄れる。そうなれば、そのあとは考え方をポジティブに変えることも容易になる、と、そういうことなのですね。」
「そういうことです。そして、もうひとつの質問の方ですが、確か、なぜ一直線にインナーチャイルド課題だと決め打ちしたような方針で進んだか、というような質問でしたね?」
「はい。」
「なるほど、なつを君にはそう見えたのですね。これは『運命の相手メソッド』を数多く手がけてきた私にはほとんど直感的に分かることなのですが・・・メソッドの中で、相手に求めるものをリストアップしていきましたね。」
「はい。」
「その、個々の項目を見るのではなく、全体的にどんな傾向があるかを見ます。」
「はい・・・」
「みさおさんの場合、全体的に、男性が近づいてくることに対して警戒している感じがしました。」
「はい。」
「いや、『はい』じゃなくてなつを君はどう感じたのですか?」
「あ、はい、確かに、みさおさんが持っている男性のイメージがネガティブだな、と感じました。」
「その感覚が大事なんです。ある項目があった、とかなかった、とか、機械的に判定できるようなポイントがあるわけではないです。全体を眺めて、どんな傾向があるか、どんな印象を持つか。それを判断するのがカウンセラー・心理コンサルタントの大事な役割なのです。簡単なコンピュータプログラムで判定出来るような、機械的な判定基準ではなく、経験を積んだ人間が見るからこその、全体的な印象、全てを俯瞰した視点からの判断が大事になるのです。」
「・・・まだまだ私には難しいです。」
「精進してください。」
「・・・はい。」

「とは言え、いくつか判断のポイントはあります。たとえば、相手に求めている要素を聞いたとき、すぐに具体的な項目が出てきませんでした。」
「そういえばそうでした。」
「たとえば『優しさ』や『尊敬できる人』みたいな、あまりに一般的な、漠然とし過ぎている言い方をしていました。」
「そうでしたね。でもそれがインナーチャイルド課題があることの証拠になるんですか?」
「わりと、そうです。もちろん、そのことだけで、機械的に判断してはいけません。でも、今まで何度か恋愛をしてきて、どんな人が自分は好きなのか、逆にどんな人は嫌なのか、色々経験して、自分の頭で考えたことがある人なら、もっと具体的に答えられると思いませんか?」
「そうですね。」
「試しにひとつ聞いてみましょう。なつを君は、『あなたは【彼】に何を求めていますか?』と聞かれたら、たとえばどんなことが浮かんできますか?」
「私は、わりと、ひとりで落ち込んだりすることが多いので、そういうときに、いい距離感で話しかけてくれたり、話を聞いてくれたり、でも、私がそれ以上入ってきてほしくないときには、それを察して、根掘り葉掘り聞かないでそっとしておいてくれたり、そんな風に扱ってくれる人・・・ほかにもありますけど、これがとても大事な気がします。」
「ありがとう。一個あげただけで、みさおさんの挙げた項目と、具体性が格段に違うの、分かりますよね?」
「あっ!そうですね!私がいま言ったこと、すごく具体的です。ちょっと詳細すぎて元カレがどんな人だったのか詮索されそうで恥ずかしくなります。」なつをはそう言って少し顔を赤らめた。
「そういうことです。」
「なるほど・・・確かによく分かりました。」先生すごい、今の質問と説明でものすごくよく分かった、となつをは思った。そして深くうなずいた。
考えている様子で黙っていたが、一、二分たっただろうか。なつをはゆっくりと口を開いた。「そうやって考えてみると、具体性がない、ということよりも、具体性がない、ということは、今まで男性と近い距離で過ごしたことがない、ということは、男性と心の距離が遠いのではないか、という推測の方がピッタリくる感じがしてきました。」
「そう!そこなんですよ。こうして、相手がどんな人生を歩んできて、だから、どんな感じ方をしていて、だから、どういう発言をするのか。そこまで感じ取れるようになれば、機械的に判断するレベルを卒業して、全体感に基づいて直感で見抜くことが出来る領域に進歩できます。」
「いやいや・・・長い道のりです、まだまだ。」
「そうですかね。今の理解は、なかなかでしたよ。今後はもっと、クライアントのことを理解できるようになっていると思いますよ。」
「先生・・・ありがとうございます。」

「さて、今日はもう遅くなってきましたから、そろそろ帰りましょうか。」
「はい。」

「たまにはご飯でも食べて帰りますか?」
「先生、奥さまは大丈夫なのですか?」
「ははは。別になつを君とどうこうなろうという訳ではないですから、大丈夫ですよ。家内は、いちいち詮索することはしないし、私も公明正大、堂々といつ誰とどこに行く、と言っていますので。心配はご無用です。」

「では、お言葉に甘えて。」
「それでは、ちょっと待って下さい。家に電話入れておきますので。」

(つづく)

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シングルを卒業(8)|恋愛ドクターの遺産第5話

「というわけでの、今日の行動課題ですが、」
「お願いします。」

「まず、安全の感覚を育てるためには、誰かが『守ってくれる』という感覚を感じて味わうことが必要なのです。」
「そう感じることは、あまりありません。」
「そうですよね。小さい頃から『誰も私を守ってくれない』という思いの中で生きていると、自分の身は自分で、必死に守らなければならない、という感覚になるので、必死で守る→他人は頼らない→他人から守ってもらえた感覚はますます育たない、という風になりやすいのです。」
「まさにそんな感じです。」
「そこを、少しずつでも変えていく必要があります。」
「はい。」
「まず、職場の上司や同僚でも、友人知人のどなたかでもいいですから、人間を平等に見て、ズルをしたりだれかを踏みつけにしない人をピックアップしてください。」
「・・・・・」
「はじめは、そんな風に人を見ていないですから、なかなか見つからないように思うかもしれません。その場合は、じっくり探すところから始めましょう。」
「えぇと・・・女性でも良いんですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。但し、最終的には男性の中でもそのような人を見つけてくださいね。はじめは、女性でもOKです。」
「はい。」
「まずは、しばらくそのような人を観察するところから始めましょう。」
「観察・・・ですか。」
「はい。人間は、自分の意識が向いたものを体験して生きています。たとえば美味しい料理を食べていても、本を読みながらだったら、半分も体験していないことになるわけです。」
「はい、分かります。」
「身近に、人間を平等に見てくれる人・・・そのような人が場の安全を作り出せる人なのですが・・・そういう人がいたとしても、みさおさんが全く意識を向けず、むしろズルをする人とか声の大きい人にばかり意識を向けているとしたら、みさおさんの主観にとっては『この世界は安全ではない』という方の事実ばかりを体験していることになるわけです。」
「ああ、それ、やってますね、いつも。でも、やめられないんです。」
「そうですよね。だからまずは、『安全だ、という事実もある』という方にも意識を向ける努力をしてみましょう、という課題の方からやってみましょう。」
「ああなるほど、今までのように、大声を出す人などが気になってしまっても、それはそれでいいということなんですか?」
「そうそう。いつか気にするのをやめられたら、もちろん良いことだけれど、いま急に無理してやめようとしない。それが大事です。」
「分かりました。これなら、できそうな気がします。」

「はい。そして、もうひとつやってみてほしいことがあるのですが。」
「はい、それは何でしょう?」
「人間以外のものから、エネルギーを受け取るという取り組みですね。」
「・・・はい・・・?」

「具体的には、自然、動物、芸術、子供の頃に楽しかったこと、の4つのカテゴリーのうち、取り組みやすいものを見つけて、そこからエネルギーをもらう、ということをします。」
「ちょっとまだ分からないのですが。」
「たとえば自然なら、実は神社が好きです、みたいな。で、神社巡りをして、木々から感じる安心感、清浄な感じをしっかり味わう。こういうことも、安全の感覚が育っていない場合、とても大事なエネルギー源になります。」
「なるほど!神社巡りは好きです。いま先生がおっしゃったようなことも、やっている気がします。」
「そうですか。それなら話は早い。今までと同じように、ただ、少し意識したり、実際に神社に行く頻度を増やしたりして、心の中で体験する量を増やしてみて下さい。」
「はい、分かりました。」
「少し安全の感覚を『味わう』という課題をやってから、次のステップに進もうと思います。」

「はい。わかりました。」

「今日はありがとうございました。」
「先生、ありがとうございました。」

(つづく)

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