月別アーカイブ: 2017年9月

呪い(9)|恋愛ドクターの遺産第9話

「おばさま。庭木の件ですけど、母から伝言で、多少クチナシの木が傷ついても、しっかり草取りをする方を優先したらいいのではないか、とのことでした。」こういうことを伝えるのも、もちろんある程度は気疲れするのだが、「庭の手入れ」など、具体的な課題についての伝言は、母と伯母の当てこすり合戦を仲介するよりも、よほど気が楽だ。
日によっては、このあたりで症状が出始める。例の左上の方から渦巻き状にやってくる、あの、紫色の呪いだ。伯母の家は何か新興宗教的な(伯母は「宗教ではない」と言っていたが)ものに加入していて、その祭壇らしきものがある。独特のお香の匂いがする。
元々、のりこは呪いなど信じるたちではなかったのだが、伯母は人間の好き嫌いが激しく・・・「好き嫌い」といっても自分の言いなりにならない人は大抵嫌いなのだが・・・特に気に入らない人がいると「呪いの儀式」を行うのだ。のりこも一度見たことがあるし、それが「呪いの儀式」であることは、伯母の口から直接聞いたので間違いない。
のりこは、おそらく、伯母には気に入られているので、呪いの儀式で直接呪いをかけられたりはしていない・・・と思う。ただ、貴重な使いっ走りである私に、立ち直れないほどの強力な呪いはかけないまでも、ときどき伯母の期待に100パーセント応えていないときがあるので、そんなときに腹いせに何かされているのではないかと、いつも気が気ではない。この日は、伯母の家に居るときに症状が出始めた。左上の方からぎゅーっと絞るような感じで渦を巻いた紫色の「呪い」が近づいてきた。
「おばさま。今日はこれで失礼します。」のりこは呪いの症状が強くなる前にその場を立ち去ろうとした。呪いに縛られて、心身のコントロールが利かなくなってしまえば、そのあと何をされるか分からない。きっと伯母は「休んで行きなさい」と言うだろう。しかし、伯母の家で「休ん」だ場合、無事に帰宅できる保証はない。
帰り道で、徐々にその「呪い」の症状が強くなってきた。伯母はのりこが早々に立ち去ろうとしたことが気に入らなかったのだろうか。きっと気に入らないだろう。まるで伯母を避けているかのように退散したのだから。まるで、と言ったが、実際避けたいのだから仕方ない。伯母に何かされたのだろうか。家に居たときには、何か儀式的なことをされたようには見えなかったけれど。
帰宅して、ベッドに仰向けになったら、天井の辺りから、極めて大きな紫色の渦が襲ってきた。のりこの顔の真上よりも少し左、そしてちょっと上・・・天井なので「上」というのは少し変だが、のりこの身体を基準にしたときに、頭を上、足を下と言うなら、「上」だ。そう、呪いは、不思議なことに、のりこの身体を基準にして、毎回同じ方向からやってくるのだ。
呪いの渦巻きが大きくなってきて、のりこは怖くなってしまった。ベッドからがばっと起き出して、友達に電話をかけた。ひとり目・・・出ない。ふたり目・・・出ない。三人目・・・四人目・・・ようやく五人目で電話に出てくれる友達がいた。何を話したのか全く覚えていない。とにかく呪いの恐怖に呑み込まれそうで、必死だった。必死にもがいていた。

 

・・・再びカウンセリングルームにて・・・
「先生、こんな風になるんです。呪いはあると思います。」
「なるほど・・・私自身は、呪いについてはまだ半信半疑なのですが、伯母さまから何らかの影響を受けていることは、確かなようですね。」
「解決できますか?」
「ええ、何とかしてみせます。」
(先生、大丈夫だろうか)湯水ちゃん(湯川みずほ・・・当時のドクターの助手)は思った。だって、呪いなんて解く力は、先生にはないはずで、そもそも、呪いかどうかも分からなくて、そんな、原因不明の症状を「何とかする」なんて、私なら怖くてとても言えない、そう思った。

(つづく)

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呪い(8)|恋愛ドクターの遺産第9話

「なるほど・・・おばさまが何か関係しているのは、間違いなさそうですね。」
「そう思います。先生!伯母の呪いなのでしょうか?解決できますよね!」
「ええ、もちろんまだ原因がつかみ切れていないですが、きっと糸口は見つかる。私はいつもそう信じて事に当たっています。」
「お願いします!」

 

・・・ある日のこと・・・
のりこの、お使いはこんな感じなのだった。
「ねぇ、のりこ、おばさん家に、これ届けてほしいんだけど。あ、それと、この間、実家の草取りの件で庭の隅のクチナシの木をどうするかってことがあったと思うんだけど、多少木を傷つけてもしっかり草取りしてもらう方向で、と伝えて。それからこの服は気に入ってると伝えて。デザイン古くないし。あと、この前のおばさんのチェックのスカート、ちょっとデザインが古いと思うから、もう少し今風なのにした方がいいと思う、とも伝えて。」
「あのさぁ、お母さん。そういうことは自分で直接言いなよ。これは届けるけど、あと、庭の話までは一応伝えるけどぉ。それ以外は、言いたければ自分で言ってよ。」
「だって、私が言うと角が立つじゃない?のりこが伝えた方がスムーズに行くのよねぇ。」
(はぁ・・・そうやって相手に余計なお節介をするから角が立つのに・・・それを言うとまた「角が立つ」から言わないけど・・・はぁ・・・お母さんもおばさんも面倒くさい・・・)のりこはそう思いながらも、お使いには出かけるのだった。
伯母の家までは電車で一駅で、近所と言えば近所だ。駅を降りて・・・かなり田舎なので、住宅も結構あるが、田んぼもたくさん見える、そんな場所だ。川沿いの道を歩いて、見慣れたねずみ色の殺風景な橋をわたり、どことなく場違いな消費者金融の看板がついている電柱のある角を右に曲がると、だんだんあの感覚が近づいてくるのが分かる。
あの感覚というのは、呪いに襲われる、あの感覚だ。左上の方から渦を巻いてやってくる、あの、呪いの感覚が近づいてくるのだ。
ただ、本格的に呪いに襲われるのは決まって、伯母の家に入ったあとか、用事が済んで帰るとき、あるいは用事が済んで家に着いてからだ。行きに激しい呪いに襲われたことはない。ただ、その予兆がするだけだ。伯母か、伯母の家に呪いがかかっているので、それと触れてしまうと、あとから症状が出るのだと、のりこは今までそう考えて来た。
伯母の家に向かっていくときには、呪いの感覚は、おぼろげで、なんとなくそんな感じがする、というようなレベルなのだ。でも同じ感覚であることは、本人の感覚では、明らかだ。
他人には分かってもらえないのでもどかしいのだが。
伯母の家に行くと、のりこは用事をなるべく早く済まそうとする。一方の伯母は引き留めてのりこに、そう、帰りの伝言を色々託すのだ。それもまた気疲れするのだが。この間のお使いは、こんな感じだった。
「おばさま。母から言付かってきました。」のりこは母から預かった品を伯母に渡した。
「ああ、のりちゃん、ありがとう。」今日は伯母は上機嫌だ。
上機嫌だからといって、問題がないわけではない。誰かが「悪気がない人の方が厄介だ」と言った言葉を思い出した。本当にその通りだと思った。
「この間の、お洋服の件、伝えてくれたかしら。」
(来た、面倒なのが)のりこは思った。相手へのダメ出しを仲立ちして伝言する立場なんて、本当に勘弁してほしい。母も伯母も、両方がそうやってのりこに、小言やアドバイス(それも、のりこの目から見たら言わない方がいいことばかり)をのりこに託すのだ。
「えっと、なんとなく言ったんですけど、私口べたなので、なんかあんまりうまく伝わらなかったみたいです。おばさまから直接伝えて頂いた方が、正確に伝わるかな、なんて思います・・・」のりこはこうやっていつも、必死にごまかすのだが、毎回とても疲労する。

(つづく)

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呪い(7)|恋愛ドクターの遺産第9話

「では、具体的にその『呪い』はどんな症状として表れるのか、それを教えて頂きたいのですが。」
「はい、大体こっちの方から」そういいながらのりこは自分の左手を自分の左前、水平より少し上に掲げた。「呪いはやってくるんです。」
「いつも、左前方、ちょい上の方からやってくるんですか?」
「そうです。渦を巻いています。ギューッと巻いているんです。」
「ほうほうなるほど・・・ギューッと渦を巻いていると」メモを取りながらドクターは聞いている。
「その渦には色などはあるのですか?」
「黒っぽい紫色みたいな色をしています。とても怖い色です。渦のすき間に黄色い光が見えます。」
「なるほど・・・ところでその渦巻きを絵に描いてもらっていいですかね?」ドクターが紙を差し出しながら言った。
「はい。」のりこはペンを手に取り、さっさっと短くゆるい曲線を描き始めた。その短い曲線が多数集まっていくと、次第に渦巻きの感じが出てきた。
「ああなるほど、こんな感じの質感なのですね。この線で描いたところが紫色なのですか?」
「はい。絵が下手ですみません。」
「いえいえ。これだけ描いて頂ければ十分です。そして、線と線の間に黄色い光が見えると?」
「そんな感じです。黄色い光は中心部が強いです。」
「なるほどね・・・」

ここで少し沈黙があった。ドクターも、メモを取りながら考えを整理しているようだ。しばらく沈黙があったあと、ドクターが口を開いた。「なぜそれが、呪いだと考えたのですか?」
「その渦巻きに襲われた後、頭痛がして、吐き気もすることが多いのです。とても激しい呪いです。」
「ええと・・・頭痛と吐き気がするなら普通は医者に行くと思うんですが、どうしてそれが、呪いだと考えたのでしょうか。」
「えと・・・あっ、すいません、つい。あの・・・伯母です。私の伯母がなにやら怪しげな呪術にハマっていて、そして、母とも折り合いが悪いのですが・・・それで、伯母は私たち家族に嫉妬しているし、何かと文句を言ってくるし、一度伯母の口から『呪いをかけている』と本当に聞いたことがあります。」
「そうなんですね。困ったおばさまですね。」
「そうなんです。困った、なんて可愛いものじゃありません。本当に居なくなってほしいです。」
「それで、そのおばさまが?」
「あ、そう、母と折り合いが悪いので、私が伝言役をすることがあるのですが、母に頼まれて。伯母の家に行って話をして帰ってくると、大抵呪いの症状が出ます。」
「ああなるほど、おばさまと会う時間があって、そのあとにその呪いの症状が出ることが多いと。」
「はい。ほぼそうだと思います。」
「おばさまと会ったとき以外で、その紫のぐるぐるが出てくることは、今までありましたか?」
「ええと・・・ずっと昔にあったような気がします。でも、一回あったかどうか・・・あまり覚えていないです。」
「ちなみにそれは、いつ頃でしたか?」
「小学生・・・5、6年の頃だったかもしれません。」
「なるほど。それ以来、その症状は出ていなかった。ということですね?」
「はい。」
「そして・・・おばさまとよく会うようになって、最近頻発していると。」
「そうです。」
「ちなみに、最近おばさまのところにお使いで行くようになったのは、いつ頃からですか?」
「母と伯母の折り合いは以前から悪かったのですが、それが一年前ぐらいから本当に最悪になって、その頃から頼まれて行くようになりました。」
「症状が出るようになったのは・・・」
「はい、その頃からです。」
「なるほど・・・おばさまが何か関係しているのは、間違いなさそうですね。」
「そう思います。先生!伯母の呪いなのでしょうか?解決できますよね!」
「ええ、もちろんまだ原因がつかみ切れていないですが、きっと糸口は見つかる。私はいつもそう信じて事に当たっています。」
「お願いします!」

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呪い(6)|恋愛ドクターの遺産第9話

第三幕 呪いを解いて下さい

翌朝。
「おはようございます。」溌剌とした笑顔で、ドクターがみんなに挨拶した。
「おはようございます。」溌剌とした顔もあり、眠そうな顔もあり、といった感じだったが、みんな揃って、二日目のカリキュラムが始まった。
「少し遅れましたが、てっちゃんが参加します。」ドクターが紹介した。てっちゃんの本名は清水哲男。カウンセラーではないが、ドクターの教えを受けて、仕事に活かしている経営コンサルタントだ。
「清水哲男です。てっちゃんと呼んで下さい。よろしくお願いします。」てっちゃんが挨拶した。てっちゃんは溌剌としているグループだ。
「さて、昨日話に出た『呪い』について少しお話ししようと思います。これからお話しする内容は、本物の呪いについての話ではありません。私は本物の呪いがあるのかどうか、判断する材料は持ち合わせていません。ただ、当事者に『呪い』と見える現象について、心理学的に説明可能なものもある、というお話をしたいと思います。言い換えると、心理学的に解決できる『呪いもどき』が存在する、というお話です。」
「『呪いもどき』面白い表現ですね。」ナタリーが楽しそうに言った。ナタリーはどちらかというと呪いを信じていそうなタイプだが(占い師だし)、意外にもドクターの科学的な姿勢は好きらしい。

「湯水ちゃんは知っていますよね。」ドクターが訊いた。
「はい。あのときはどうなることかと・・・心配になりました。」
そう、先代の助手、湯水ちゃんがまだ先生のオフィスにいた頃、「呪われたので解いてほしい」というクライアントが来たのだった。

 

・・・遡ること5年。当時のオフィスにて・・・
ノックの音がして、クライアントが入ってきた。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
ドクターも今日のクライアントののりこも、二人とも着席した。湯水ちゃんも、先生にいつも言われているとおり、クライアントに合わせて着席した。

「さて、今日のご相談というのは、『呪い』だとか。」ドクターが不思議そうな顔をしながらそう聞いた。
「はい。先生!お願いします!私、呪いをかけられたんです。いや、こんなこと非科学的だと分かってます。でも、呪いじゃなければ何なのか、もう分からないんです。とにかく、呪いとしか思えない何かをされました。これを何とか解決して頂きたいのです!」のりこは切羽詰まった様子でドクターに訴えた。
「分かりました。私は実は呪いそのものはあまり信じていないのですが、心理学的に解決できる道があれば、何か解決の糸口ぐらいは見つけられるかもしれません。」ドクターはあくまで冷静に応えている。
のりこは不安そうだ。
そこでドクターは付け加えた。「以前、呪いとか、憑依とか、そういう霊的なことについて、まあ専門ではないのですが、周辺知識として学んだことがあります。そこで知ったことは、心理的に不安定だと入り込まれやすい、と考えられていることでした。つまり逆に言えば、心理的に安定する方向を目指せば、『呪い』の影響を受けにくくなる、ということでもあります。」
「先生、ぜひお願いします。」のりこは先生に今にもすがりつきそうな様子でそう言った。

「では、具体的にその『呪い』はどんな症状として表れるのか、それを教えて頂きたいのですが。」
「はい、大体こっちの方から」そういいながらのりこは自分の左手を自分の左前、水平より少し上に掲げた。「呪いはやってくるんです。」
「いつも、左前方、ちょい上の方からやってくるんですか?」
「そうです。渦を巻いています。ギューッと巻いているんです。」
「ほうほうなるほど・・・ギューッと渦を巻いていると」メモを取りながらドクターは聞いている。

 
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低糖質のタルト


グレフル載せた、タルトを作りました。

明日の、あづまやすしの心理セラピー&人間関係コンサルティング講座(セラ☆コン)のおやつ用です。

果たして味は…(まだ食べてない)

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