第四幕 熱い議論
「先生!あんな風に、呪いを軽く扱っていいんですか!」湯水ちゃんは先生に食ってかかっている。呪いで悩んでいるクライアントを、のらりくらりかわしつつ、しまいには「けのろい」・・・つまり呪いにかかったフリをしろ、などという、本気で呪いを信じているひとからしたら「けしからん(あるいは罰当たりな)」解決策まで提案したのだから、納得できないし、混乱してもいるのだ。
「軽くなんて扱ってませんよ。ただ、使えるものは何でも使う、それが私のポリシーですから。そもそも、彼女は既に呪いを方便に使って、お母様のお使いを断ったことがあったわけです。それをもう一度やりましょう、という、ただそれだけの話ですよ。」ドクターはあくまで、あっさりと答えた。
「でも!なんだか罰当たりな方針です。」
「湯水ちゃんは、呪いを信じているのですか?」
「えっ!いや・・・そういう訳では・・・ありませんけど・・・でも、呪い・・・と言っているその症状を軽くしてほしいと言っているクライアントに、『けのろい』を使えなんて、呪いにかかったフリをするなんて、逆行しているじゃないですか!」湯水ちゃんはそこが気に入らないらしく、ドクターに、さらに食ってかかった。
「そうですか?」ドクターは湯水ちゃんの真剣さなんて全く意に介さないといった様子だ。「だって、よく考えてみて下さい。確かに「けのろい」を使ったら、はた目から見た彼女は、呪いに襲われているように見えるかもしれない。でもそのおかげで、おばさまの家に行く回数を減らせるとしたら、彼女が本当にその症状に襲われる回数は、減らせるはずですよね?本当の原因が今後分からなくて、本質的な解決策が打てなくても、少なくとも、呪いに襲われる頻度を下げる、ということは実現できるわけですよ。」
「先生はそれでいいんですか?」
「いや、何とか解決はしたいですよ。根本的にね。でも、別に私は、私がヒーローになるために仕事をしているわけじゃないですから。なんだかちょっと情けない解決策しか提案できなかったとしても、クライアントの苦痛が減ったのなら、それはそれで、いいじゃないですか。」
「でも・・・でも・・・」湯水ちゃんはまだ何か納得できない様子だ。
「湯水ちゃんは、どこが問題だと思うんですか?」ドクターが訊いた。
改めてそう問われてみると、即答できない。なんだろう。どこが問題なのだろう。何かモヤモヤする。湯水ちゃんは考えてみた・・・自分がその立場だったらどう感じるのだろう・・・あ、そうだ、仮病・・・じゃなくて『けのろい』を使って母親を騙すことに後ろめたさを感じるのだ、ということに気がついた。
「先生、母親を騙すことに、後ろめたさを感じます。」
「なるほどね。騙すこと・・・ですか。湯水ちゃんは、お母様との関係は良好ですか?」
「はい。・・・でも、それが何か・・・?」
「お母様はおそらく、湯水ちゃんが言ったことは、真っ直ぐ信じるのでしょうね。」
「そうだと思います。」
「そういう中で、湯水ちゃんがウソをついてお母様を騙したら、後ろめたいですよね。」
「はい。」そう答えながらも湯水ちゃんは、何を言われているのかよく分からなかった。
「でも、先ほどのクライアントの、のりこさんの場合は、もう散々『呪いだ』『呪いだ』と騒いで、オオカミ少年のように、母親にはおそらく『またか』と思われているんですよ。」
「何だか、切ないです。悲しいです。」
「そうですね。だから、私たちがカウンセリングの時に、のりこさんが『呪いだ』と主張したことを、頭ごなしに否定せず『どうしてそう思ったのですか?』と丁寧に訊いていったとき、のりこさん、嬉しそうでしたよね?」
「確かに、そうでした。何だか初めて、自分の主張にちゃんと耳を傾けてくれる人がいた、という感じに、嬉しそうでした。」
(つづく)
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