「おばさま。庭木の件ですけど、母から伝言で、多少クチナシの木が傷ついても、しっかり草取りをする方を優先したらいいのではないか、とのことでした。」こういうことを伝えるのも、もちろんある程度は気疲れするのだが、「庭の手入れ」など、具体的な課題についての伝言は、母と伯母の当てこすり合戦を仲介するよりも、よほど気が楽だ。
日によっては、このあたりで症状が出始める。例の左上の方から渦巻き状にやってくる、あの、紫色の呪いだ。伯母の家は何か新興宗教的な(伯母は「宗教ではない」と言っていたが)ものに加入していて、その祭壇らしきものがある。独特のお香の匂いがする。
元々、のりこは呪いなど信じるたちではなかったのだが、伯母は人間の好き嫌いが激しく・・・「好き嫌い」といっても自分の言いなりにならない人は大抵嫌いなのだが・・・特に気に入らない人がいると「呪いの儀式」を行うのだ。のりこも一度見たことがあるし、それが「呪いの儀式」であることは、伯母の口から直接聞いたので間違いない。
のりこは、おそらく、伯母には気に入られているので、呪いの儀式で直接呪いをかけられたりはしていない・・・と思う。ただ、貴重な使いっ走りである私に、立ち直れないほどの強力な呪いはかけないまでも、ときどき伯母の期待に100パーセント応えていないときがあるので、そんなときに腹いせに何かされているのではないかと、いつも気が気ではない。この日は、伯母の家に居るときに症状が出始めた。左上の方からぎゅーっと絞るような感じで渦を巻いた紫色の「呪い」が近づいてきた。
「おばさま。今日はこれで失礼します。」のりこは呪いの症状が強くなる前にその場を立ち去ろうとした。呪いに縛られて、心身のコントロールが利かなくなってしまえば、そのあと何をされるか分からない。きっと伯母は「休んで行きなさい」と言うだろう。しかし、伯母の家で「休ん」だ場合、無事に帰宅できる保証はない。
帰り道で、徐々にその「呪い」の症状が強くなってきた。伯母はのりこが早々に立ち去ろうとしたことが気に入らなかったのだろうか。きっと気に入らないだろう。まるで伯母を避けているかのように退散したのだから。まるで、と言ったが、実際避けたいのだから仕方ない。伯母に何かされたのだろうか。家に居たときには、何か儀式的なことをされたようには見えなかったけれど。
帰宅して、ベッドに仰向けになったら、天井の辺りから、極めて大きな紫色の渦が襲ってきた。のりこの顔の真上よりも少し左、そしてちょっと上・・・天井なので「上」というのは少し変だが、のりこの身体を基準にしたときに、頭を上、足を下と言うなら、「上」だ。そう、呪いは、不思議なことに、のりこの身体を基準にして、毎回同じ方向からやってくるのだ。
呪いの渦巻きが大きくなってきて、のりこは怖くなってしまった。ベッドからがばっと起き出して、友達に電話をかけた。ひとり目・・・出ない。ふたり目・・・出ない。三人目・・・四人目・・・ようやく五人目で電話に出てくれる友達がいた。何を話したのか全く覚えていない。とにかく呪いの恐怖に呑み込まれそうで、必死だった。必死にもがいていた。
・・・再びカウンセリングルームにて・・・
「先生、こんな風になるんです。呪いはあると思います。」
「なるほど・・・私自身は、呪いについてはまだ半信半疑なのですが、伯母さまから何らかの影響を受けていることは、確かなようですね。」
「解決できますか?」
「ええ、何とかしてみせます。」
(先生、大丈夫だろうか)湯水ちゃん(湯川みずほ・・・当時のドクターの助手)は思った。だって、呪いなんて解く力は、先生にはないはずで、そもそも、呪いかどうかも分からなくて、そんな、原因不明の症状を「何とかする」なんて、私なら怖くてとても言えない、そう思った。
(つづく)
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