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なつをの夏の物語(4)|恋愛ドクターの遺産第10話

「お友達にはひょっとして『高望みしすぎなんじゃない?』みたいなことを言われたりしましたか?」ドクターが優しく尋ねた。
「あ、はい、言われました。でも、私がお断りしたような自己中心的な方と、平然と付き合える人っているのかな?と思いました。たぶん、私に『高望み』と言った、私の友人も、その、自己中心的な男性を見たら、断ると思います。」なつをはドクターにも「高望み」と言われることを警戒しているのだ。だからつい、自分の判断は当然だ、という主張をするような言い方になってしまう。
「なるほどね。でも、安心して下さい。私は、なつをさんが高望みだから恋人が出来ないのではなくて、そもそもその人とは、大抵の女性はやっていけない、と想定しています。詳しくはお話を伺いながら考えていきます。一緒に解決策を考えていきましょう。」ドクターは丁寧な調子で受け答えしている。

なつをはこのとき、こう思った。ああ、この人は私の立場をちゃんと分かってくれる人だ、と。人は自分の見ている世界から、他人のことを判断しがちだ。たとえば、自己中心的な男性があまり寄ってこない女性は、男性とは、色々お願いしたらそれを聞いてくれるものだ、と思っていたりする。一方で私のように、自己中心的な男性が寄ってきてしまうと、断るのも気疲れするし、かといって熱心に口説いてくれるからといってお付き合いすれば、それもまた本当に疲れることになる。そして、そういう悩みを、自己中心的な男性に悩まされていない女友達に相談すると、ほぼ、分かってもらえない。高望みなんじゃないの? みたいに言われることもある。
出会いの質や量は、本人の意識的な努力ではどうにもならない部分もあって、そもそも不公平に出来ている。私は不公平の、残念な側に属していると思う。
ただ、この先生は、そういうことを分かってくれる人だと思った。私のワガママだとか、高望みと決めつけず、話を聞いて、真実に迫ろうとしてくれている。その安心感が、本当にありがたかった。今日は来てよかった。

ここで湯水ちゃんがなぜか突然咳き込んだ。
「大丈夫ですか?」なつをが声をかけた。
「あ、(ごほんごほん)、だ、大丈夫です。お気遣いなく。なぜか(ごほんごほん)突然むせてしまって。」
「なつをさん、大丈夫ですよ。お気遣いなく。」ドクターも言った。「湯水ちゃん、外してもいいですよ。」
湯水ちゃんが一旦席を外した。壁の向こうから咳き込む声が聞こえる。

「ところでなつをさん、こういう風に、自己中心的な人が寄ってきて、恋愛の始まりが難しい、というケースの場合、さらにさかのぼると、オレサマ的、自己中心的な人と交際してしまって、本当にしんどい恋愛をした、という経験をお持ちの場合が多いのですが、どうでしたか?」
なつをは図星を指されて少し驚いた表情になって、それから言った。「はい。おっしゃるとおりです。ここ一年半ぐらいは恋人がいない状態が続いているのですが、その前は、何もかも自分の思い通りにしないと怒鳴ったり、怒鳴らないときもとても怖い目でこちらを見ながら、理路整然と私の間違いを指摘し続ける、というようなことをしてくる彼氏で、交際が続くにつれてどんどん生気が無くなっていく私を見るに見かねて、友達が何人か介入してきて、それで別れることになったんです。私も始めは、辛くて苦しいのに更に別れが来るのが怖くて、友達にも抗議したのですが、今となっては、強制的に別れさせてもらって、感謝しています。あそこで別れたことはとても辛かったけれど、続けていたらもっと傷は深かったと思います。」

ここで湯水ちゃんが戻ってきた。
「大丈夫ですか?」なつをがやはり声をかけた。
「いえいえ、失礼しました。大丈夫ですよ。本当にお気遣いなく。」と湯水ちゃん。

 

そもそも、なつをが恋愛ドクターのことを知ったのは、友人から教えてもらったからなのだった。

・・・

なつをが恋愛ドクターのことを知るきっかけになったのが、この一件だった。暴君のような彼氏との交際で、日々心労が溜まり、どんどん生気が失われていくなつをを心配してくれた友達に、つい実情を話してしまったのだ。

「あのね、恭子」
「うん」
「私ね、彼に会うのが怖い。」
「どうしたの?なつを。」
「・・・・・怖い。」
なつをはただ涙をぽろぽろこぼすだけで、言葉が出て来なかった。

なつをの夏の物語(3)|恋愛ドクターの遺産第10話

「譲り合いすぎている、と私は今確かに言いましたが、もう少し違う気がしています。気を遣い合っている、というか、相手の出方をお互いにうかがっている、というか、そのあたりです。」
「あ、それ、ぴったりです。お互いの出方をお互いにうかがっている、という感じです。」なつをが先ほどより大きい声で答えた。
ドクターは、無言で数回、深くうなずいた。
「結局その時は、中華料理になったんですが、セットメニューにするか、好きな単品料理を頼んでシェアするか、という方針が決まるまでに10分ぐらいかかりました。」言いながらなつをは苦笑した。「私が『セットメニューにしますか?それとも、単品料理をいくつか頼みますか?』って聞いたら、彼は『なつをさんはどうしたいですか?』って逆に聞いてきて、食べたいもの次第かなぁ、みたいなことを色々言っているうちに、かなり時間が経ってしまったんですよね・・・」
「そうですか、ここでも、お互いの出方をうかがっている、という表現がピッタリですか?」ドクターはどんな話でも、極めて真面目に聞く。友達なら「早く頼めよ!」のひと言で終わりかもしれない話だが、こんな些細な出来事からも、二人を特徴付ける行動パターンを見つけられるかどうか、考えているのだ。
「はい。お互いの出方をうかがっている、という感じです。」なつをが答えた。
「なつをさんは、現在の、二人のこの距離感に対して、どう感じていますか?」
「ええと・・・なんかまどろっこしいというか、もやもやするというか、早く進んでほしいって思います。」
「そうですか。なつをさんとしては、先に進みたいという気持ちなのですね?」
「えと・・・基本、そうなのですが、いざ、自分から彼の・・・たとえば手を・・・握ってみようとか・・・考えたことはあるんですけど・・・」そう言いながらなつをは顔が真っ赤になった。「なんだか恥ずかしいというか、ちょっとためらってしまって、先に進めないのは自分の問題でもあるのかな、と思っているんです。」
「なるほどそういうことですか。確かに、一歩踏み出さない、踏み込まないのは、彼もそうだし、なつをさんもそうみたいですね。今回のご相談の中で、なつをさんの踏み込み問題については、扱った方が良いと思いました。」
「はい、お願いします。」

その後も、なつをと新しく知り合ったその彼との関係を色々ドクターは質問し、なつをは最近の出来事を答える、という形でしばらく話が続いた。

やがて、ドクターがひと言つぶやいた。「以前はもっと警戒心強かったよね。」
「えっ?」なつをは驚いた声を出した。
「確かに、お互いに踏み込みができず、足踏み状態になっているという様子ではありますし、そこは解決すべき課題だと思います。でも、昔は、そもそもなつをさんから気になる男性をデートに誘ったりすることさえ、なかったですよね。」
「ああ、そう言われてみれば、そうだったかもしれません。」

 

第三幕 オレサマとの過去

・・・
遡ること二年ほど・・・ドクターとなつをの初めての出会いは、こんな感じだった。

ノックの音がして、ドアが開いた。
「先生・・・あの・・・よろしくお願いします。」どこかおどおどした様子の女性が入ってきた。
「よろしくお願いいたします。」こんなとき、ドクターは必ず丁寧に応対する。以前、持論を語っていたことがある。「挨拶やマナーは、お互いに緊張感を持っていたり、警戒心を持っているときほど、安心感、つまりお互いに攻撃し合わないだろうという良い期待を作り出す効果があるものです。打ち解けてきたら丁寧すぎる必要はありませんが、最初は丁寧すぎるぐらいから始めて丁度良いものです。」と。

もう一人、ここには助手の湯川みずほ(通称「湯水ちゃん」)がいる。相談者が入ってきたときにドクターと共に起立して待ち受けていたが、挨拶が終わって、皆と同時に着席した。
着席して、セッションは静かに始まった。始めに口を開いたのはドクターだった。「さて、なつをさん・・・でしたね。今日はご相談ありがとうございます。出会いがあまりないということでお悩みだそうですね。」
「はい。でも、出会いが全くないというわけではないのですが、オレサマ系と言いますか、自己中心的な人が寄ってくることが多くて、もちろんそのような方はお断りしているのですが、そうすると今度は、恋人が出来ない、ということになってしまっています。」
「お友達にはひょっとして『高望みしすぎなんじゃない?』みたいなことを言われたりしましたか?」ドクターが優しく尋ねた。

(つづく)

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なつをの夏の物語(2)|恋愛ドクターの遺産第10話

第二幕 なつをの夏 つづき

「さて。」ドクターが言った。「なつをさん。今回のご相談は、ついに気になる男性と少しお近づきになれて、ここからどうしたらよいか、というお話でしたよね?」
「はい。おかげさまで、今度こそは長く付き合えそうな、いい人を見つけたと思ってます。でも、何だかそこから進展しなくて、それで思い切って相談に来ました。」
「なるほど。このタイミングで相談・・・こじれたり問題が大きくなったりしていない段階、という意味ですが・・・これはいい心がけです。今なら色々な手を打てると思いますので。」ドクターが自信ありげに微笑みながら、そう言った。
「では、最近どういう感じのことが起きているのか、ざっくばらんに、思い出した順で構いませんので、お話ししてもらえますか?」ドクターが訊いた。
「はい。実は、彼とは半年前に共通の友人を通じて知り合って、初めて会ったのは飲み会だったんですが、たまたま席が近くて、色々話しているうちに、科学の話や、心理学の話、それから好きなテレビ番組の話など、色々お話しして、それが、結構趣味が合うというか興味の方向が似ていて、話がとても盛り上がったんですよね。そこから、連絡先を交換して、よく会うようになりました。」
「なるほど。出だしは順調な感じですね。」
「はい。おかげさまで・・・でも、そのあと、全然進展しないんですよ。」
「全然進展しない、とは、どんな感じなのですか?もう少し具体的に『こんなことが起きました』的に説明して頂けますか?」
「先日、こんなことがありました。彼からお誘いがあって、一緒に横浜にお出かけすることになったんです。いわゆるデートコース、みたいな感じだったんですが、私たち、終始科学の話や、心理学の話、好きなテレビ番組の話などをしていて、確かにそれはそれで楽しかったんですけど、周りを見るとカップルがたくさんいて、みんな手をつないでいたり、腕を組んでいたり、もっとくっついていました。私たちは、肩と肩の距離が50センチ以内には近づかない感じで、どことなく距離感がありました。」

「なるほどそうですか。お互いに遠慮している感じ、なのかな?」ドクターが質問した。
「はい。そういう感じがします。でも、遊びにはどちらからも誘うんです。私から誘ったこともありますし、彼からもお誘いがあって、出かけたことは何度もあります。だから、消極的、という感じもしないんですけど、でも、このままずっと行ってしまうと、友達止まりのまま、自然消滅してしまったりしたら残念だなぁ、と思うんです。」なつをはしょんぼりした雰囲気でそう言った。
「そうですね・・・確かに、気の合う同士のようですし、進展したらいいですね。このまま消滅したらもったいないですね・・・」ドクターは少し考え込むような素振りを見せて、やがて言った。「具体的な話をもう少し聞きたいのですが、ほかに、どんなことがありましたか?」
「ええと・・・デートしていたときに、どこでお昼にしようか、という話になって、良さそうなお店が、和食と、中華と、イタリアンっぽい感じの洋食と、あったんですね。それで私が彼に『どこがいい?』って聞いたら、彼は『なつをさんが好きなお店で良いですよ』って。お互いにゆずり合いすぎているんですかね?」なつをが答えた。
それを聞いて、ドクターは何か分かったかのように深くうなずいた。「なるほど、そうですか。譲り合いすぎている、それはあるように思いますね。」
「それが原因、ということですか?」
「まあ、焦らないでください。もう少し問題をしっかり定義しましょう。」
「あ、はい。お願いします。」
「譲り合いすぎている、と私は今確かに言いましたが、もう少し違う気がしています。気を遣い合っている、というか、相手の出方をお互いにうかがっている、というか、そのあたりです。」
「あ、それ、ぴったりです。お互いの出方をお互いにうかがっている、という感じです。」なつをが先ほどより大きい声で答えた。
ドクターは、無言で数回、深くうなずいた。

(つづく)

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なつをの夏の物語(1)|恋愛ドクターの遺産第10話

第一幕 別れる前に婚活!?

「ゆり子さぁ、どうせなら今から婚活始めれば?」香澄が言った。
香澄はゆり子の友人だが、いつもハッキリとものを言う。相変わらず物事に囚われない自由な発言だ。
「それいいね。」割と慎重派の順子も、その案には同調した。
「えっ・・・それって・・・いけないことなんじゃ・・・」ゆり子は大胆な提案に、さすがに及び腰だ。そのまま、はいそうですか、じゃあやります、とはとても言えなかった。
いつもの面々で、いつものようにランチをしているところだ。ゆり子は既に、夫婦関係が冷え切っていることを言ってしまったので、こうして一緒に食事をしているときの話題に、ゆり子の夫婦関係のことや、今後のことがよく出てくる。始めは夫婦問題をカミングアウトしてしまったことに後悔していたが、最近では、ひとりで抱え込むよりも、この方が気が紛れていいのかも、と思うようになった。それに、香澄も放言しているように見えて、面白半分ではなく、結構ゆり子のことを考えて言ってくれているのだ。
それにしても、まだ離婚も成立していないのに次の相手を探すなんて、節操がないと思った。その昔「別れても〜好きな人〜」の替え歌で「別れたら〜次の人〜」というシニカルな歌詞があったけれど、それを地で行くみたいじゃないか、とゆり子は思った。
「まだ、離婚の話も進んでるわけじゃないし、気持ちも決まっていないのに、婚活って・・・」ゆり子はそう答えるのが精一杯だった。
「あ、いや、今すぐ相手を決めよう、って言うんじゃないんだけどね、ゆり子、結構美人だし、そういうところに出て行ってみたら、男性から交際を申し込まれたりして、自信がつくって言うか、少し夫婦関係の狭い部屋から出て、広い視点でものを見るようになるんじゃないかな、って思って。その上で、やっぱり旦那さんが大事って思ったら、戻ればいいわけだし。」香澄は軽い調子でそう言った。ハッキリとものを言うように見えて、ゆり子を傷つけないよう気を使っているのがよく分かる。こんな友達がいてくれてありがたいと思った。
「そうね・・・」順子も今回は同意見だ。「決して、離婚の準備のひとつとして次の相手を見つけておこう、というわけじゃないんだけど・・・なんて言うのかな・・・別れた後も、色々明るい未来がある、とか、そこで終わりじゃない、って思えると、いいと思うんだよね、色々な意味で。」
「そうそう、それが言いたかったの。」香澄が言った。
「そうね・・・でも、今すぐに始める気には、なれないのよね。」ゆり子は言った。
「まあ、ゆり子の人生だから、無理強いはしないけど。」と香澄。

そんな話をして、時間はあっという間に過ぎてしまった。
さくらのお迎えの時間が近づいてきた。それで、このランチもお開きになった。
娘のさくらを迎えに行って、そのあとはいつものルーティーンが待っている。バタバタと家事をこなし、さくらを寝かしつけて、一息ついたときはもう夜になっていた。

「また、ノートを開いてみるかな・・・」ゆり子はひとりごとを言った。

恋愛ドクターの遺産・・・父から譲り受けたたくさんのノート。古ぼけた段ボールにどさっと入っている。元々は恋愛ドクターと異名を取っていた祖父の手記だ。祖父から父に渡り、そして父から受け継いで今はゆり子が持っている。中は手記だけれど記録というよりは、小説風に書いてある。悩んだらランダムにノートを一冊取り出して開くと、不思議と今の悩みにピッタリの内容が書いてある。その使い方も父から受け継いだのだが、ゆり子は今もその方法を守っている。

今日もゆり子は、目をつぶって、ノートを一冊つかんで抜き出した。手に取った瞬間に「あっ」と声を上げてしまった。なんだか、その一冊だけ他のノートと比べても、ひときわ古い感じがしたのだ。一瞬、このノートでいいのか、戻してやり直そうかと考えたが、それではランダムに選び出している意味がないと思って、その、ひときわ古いノートを、今回は読んでみることにした。

 

第二幕 なつをの夏

コンコン。ノックをして、なつをが先生の部屋に入った。
「先生、ご無沙汰しております。その節はお世話になりました。今日もよろしくお願いいたします。」
「おお、なつをさん、お久しぶり。あの頃より、ずいぶん元気そうに見えますよ。」
「ありがとうございます。おかげさまで、色々進んでいます。」

そう、今回のクライアントは、なつをだ。
「えと・・・こんにちは・・・湯川さん・・・みずほさんでしたっけ?」なつをが助手の女性に向かって挨拶をした。
「はい、こんにちはなつをさん。湯川みずほです。湯水ちゃんでいいですよ。」助手の湯水ちゃんが答えた。「外は暑かったでしょう。ここに来るだけで、お疲れさまです。」
「はい、実はとても暑かったです。ここに入って、生き返りました。」
「まあお茶でもどうぞ。」ドクターが言って、冷たいお茶を勧めた。
「ありがとうございます。」そう言ってなつをはひと口飲んだ。
今はちょうど真夏。今日はカンカン照りの晴れ。外は猛暑だ。この部屋は空調が利いていて涼しい。ドクターたちは、なつをと軽い雑談をしながら、なつをの汗が引くのを待ってくれた。

(つづく)

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婚難(10)|恋愛ドクターの遺産第3話

第六幕

「なつを君、かおりさんからメールが来ていますよ。」
「えっ!? 何ておっしゃっているんですか?」
「恋人候補が現れたそうです。」
「えーっ!すごい!どんな人なんですか?」
「読んでみてください。」

なつをは文面を読んだ。かなり長く、詳しく書いてある。
曰く、あのあと、ラフな服装で、気楽な居酒屋飲み会に参加するということを数回行ったのだそうだ。飲みものも食事も安いお店での飲み会なので、参加する男性も、今まで出会うタイプとはだいぶ違う人が混ざっていた。その中に、イラストレーターをしている、という男性がいた。収入の波があるので、良いときはいいが、底の時が大変だと。だから自分の仕事に必要なものにはお金を掛けるが、飲み会も含め、生活は質素にしている、と。
正直、彼以外の参加者男性には興味が湧かなかった。彼は自分の意思で居酒屋を選んでいるが、他の男性たちは、言葉は悪いが、仕方なくそのランクのお店に行っている感じだった。もう少し別の言葉で言うと、彼は自分の仕事に誇りを持っていた。私は彼のそういうところに惹かれた、ということだった。
まだ、交際には至っていないそうだ。ただ、出会いの流れが良くなったのは確かなようだ。かおりさんが、その彼と結ばれるのか、それとも、また別のご縁を引き寄せるのか、それはまだ分からない。でも、いずれにしても、幸せに向かいそうな雰囲気がすごく感じられた。

「先生、すごいですね!」
「何が?」
「何が、って、先生のセッションの効果ですよ!」
「あぁ、まあ、かおりさんがちゃんと行動した結果ですよ。」
「そうですけど・・・今までずっと恋人ができなかったのに、一気に可能性が拓けた感じですよ?」
「そうですね。こういう展開は面白いですね。」

でた!「面白い」発言。先生がよく言う言葉だ。先生の言う「面白い」には明確な定義がある。会話で使う言葉に、定義があるというのもヘンな言い方だが、とにかく、定義があるのだ。それで、その「面白い」の定義だが、それは(1)問題が目の前にある (2)それを解決する力(や環境)がある この(1)(2)の両方が揃っていることを「面白い」と言うのだそうだ。
(1)が足りない場合は、解決力はあるのに問題がなくて「退屈」になるし、(2)が足りない場合は、問題があるのに解決力がなくて「苦しい」となる。目の前に問題があり、その問題をちょうど解決できるほどの、問題解決力、問題への対応力を持っている。それが先生の言う「面白い」の定義だそうだ。確かに、かおりさんなら、この問題もじきに解決してしまうだろう。
・・・

ゆり子はノートを閉じた。
はぁ、とため息が出た。
(私は、幸雄さんとの問題を解決する「解決力」が足りないのかな・・・今目の前に横たわっている問題が解決できなくて「苦しい」もの・・・)

ゆり子は考えていた。私は本当に、相手のコックピットに座るように、相手の体験を想像できていただろうか、と。私は結局なつをさんのように、相手の「立場」には立ったが、自分の感じ方で理解したつもりになっていたのではないか。
「でも、幸雄さんを理解することなんて、できるのかな・・・」

セットしていたアラームが鳴った。ぐるぐる思考タイムに、ゴングが鳴って終了、といった感じにはなったが、そのまま続けていても生産的ではなかっただろうから、丁度良かった。幼稚園のお迎え、夕食の支度など、忙しく過ごすうちに、ノートのことはゆり子の意識の端に追いやられていった。
・・・

(あ、この人、過剰に相手のコックピットに座ってしまう人なんだ)ゆり子はそう思った。テレビを見ていたら、匿名で、姿も隠してDV経験者という女性がインタビューに答えていたのだが、それを何気なく眺めていたら、そんな風に思ったのだ。
相手が暴力を振るうときの、その相手の苦しい気持ちに共感してしまうので「やめて」「つらい」という、自分の側の気持ちと一緒に居られなかったのだと、その女性は語っていた。解説役の心理カウンセラーが「ここまで自分の気持ちや、自分の傾向を客観的に語ることができるようになったからこそ、彼女はDVを抜け出せたのです。渦中にいるときは相手の気持ちしか考えず、自分の気持ちを感じることができなかった」と説明していた。

彼女の話を聴きながら、ゆり子はぼんやりと、幸雄のことを思い出していた。共感力のない会話、そしてときに「キレる」とも言える言葉。確かにゆり子にとっては辛いことばかりだったが、そのときに幸雄はどんな気持ち、どんな感覚でいたのだろう?とゆり子は想像していた。

(・・・なんだか、苦しそう・・・)ゆり子は思った。思い出してみると、声を荒げたり、無視するような冷たい態度を取るときの幸雄は大抵、苦虫をかみつぶしたような、渋い顔をしていることが多かった。おまけに・・・これは考えすぎかもしれないが・・・長年そういう心を持ち続けて生きてきたために、渋い顔をするときの、顔のしわが、顔に刻まれて消えなくなっているようにも思えた。
そんな幸雄の、心のコックピットに座るように想像してみると、自分が何かすると、妻(つまりゆり子だ)からダメ出しをされ、本当は愛されたいのに、そして愛したいのに、どうしていいか分からない。自分なりに工夫をしてみると、裏目に出る。その無力感、悔しさ、寂しさ、悲しみが、自分事のようにありありと感じられた。

(あぁ、これが、相手のコックピットに座る、ということなのね)ゆり子は思った。相手の立場に自分を置いてみただけだったら、「私ならそういう行動はしない」と思うだけで終わりだっただろう。事実、ゆり子は共感力のある方だし、滅多に声を荒げたりしない。ゆり子の思考回路・行動パターンからすれば、幸雄は「理解不能」だったのだ。いま初めて、幸雄の気持ちの中に入れた気がした。理解不能な夫が、少し理解できた・・・気がした。

「でもやっぱり、一緒にやっていく自信はないなぁ・・・」
ゆり子はつぶやいた。
(つづく)

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婚難(8)|恋愛ドクターの遺産第3話

「それから。」ドクターは続けた。「美人問題があると、自然体の自分で居るかどうか、という条件が、より厳しくなります。」
「そうなんですね? 美人って、それほど得していないような・・・」苦笑しながらかおりは言った。
「まあ、苦労もありますよね。ただ、うまく舵取りできれば、印象が何倍にもなる、という特性は、人によっては喉から手が出るほどほしい「素質」になると思います。」
「そうなんですね。私はいままでうまく舵取りできていなかった、ということなんですか?」
「恋愛に関しては、そうだと思います。」
「先生、はっきりおっしゃって下さるところがイイです。」
「はは。ありがとうございます。思っていないことは言えないタチなので。」

ドクターは少しの間黙っていて、そして、もうひとつ質問した。
「ところで、オッサンぽいところは、家に居るときも発揮されていますか?」
「それが、自分ではよく分からないんですが、友達に言わせると、家では意外なほど女性っぽいらしいです。」
「へぇ。それはどんなところを見て、お友達はそうおっしゃるのですか?」
「忙しいときはできないんですが、料理をしたり、家の中をキレイに片付けていたり。豪快な飲みっぷりとは裏腹に部屋が女っぽい、と友達に言われました。」そう言ってかおりはくすっと笑った。
「それも、何かの機会に表現するといいですよ。」ドクターは言って、しばらく考えた後、さらに続けて聞いた。「そう、部屋汚す人、いやでしょ?」
「あぁ、まあ、使えば汚れるものですけど、極端に部屋が汚い人は嫌ですね。自分で使ったものぐらいは自分でゴミ箱に入れられるぐらいでないと・・・」
「そういうことも、話題に出すといいですよ。」
「・・・どんな風に?」
「たとえば、居酒屋でデート、あるいはその前の段階で、何人かで集まって飲み会をしたとしますね。そのときに、『部屋をきれいにするのが趣味で』『趣味の合う人がいい』って言ってみるわけです。」

「私、以前、男の人の部屋を見ないと信用できないとか思って、何かと口実を作って部屋に上がり込んで観察する、ということをしてみたことがあるんですが・・・」
「それ、結構煙たがられたんじゃ?」
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私は「優しい嘘」は言いません。

あづまです。こんにちは。

ここ最近、小説を書いているので、こうした意見や考えをノベル・・・いや述べる記事は少なめでしたが、今日はちょっと書いてみます。

優しい嘘はつきません。

数日前に降ってきた言葉です。

私も、前職の研究者仲間も、現職のカウンセラー仲間も、真実に直面する、真実は何かをちゃんと見る、といった姿勢がきちんと出来ている人ばかりだと思います。これは、ありがたいことです。

ただ、世の中には、そういう、きちんと目の前の現実に直面して生きよう、ということの、できていない人、あるいは直面しない人ばかりの人間関係の中で生きている人、などが結構いるのですね。

私わりと、そっちの世界とは縁遠かったもので、あんまり分からなかったわけです。
(まあそれはそれで、幸せなことですが)

闇金ウシジマ君を読んでいると、現実と直面することを避けて、いかに優しい嘘の中に逃げ込んで生きるか、みたいになっている人々が描かれています。

私の記事をしっかり読んで、相談してくれる方の中には、優しい嘘を期待している、つまり現実と直面しないで済むような対応を望んでいる人は、基本、ほぼいないのですが、

私の記事を読んで、というルートではない、別のルートで相談を受けると、話が通じない人、たまにいらっしゃるんですよね。で、なんで通じないのかなぁ、と思っていたんですが、優しい嘘を言ってほしかったんだろうな、ということで腑に落ちたんです。

ですが、今後も、私は、優しい嘘は言いません!

真実と直面しなくていいように、優しい嘘をつくのが美徳、だと思っている人も世の中にはいるようなのですが、私は、そうは思いません。もちろん、状況次第だとは思いますが、何年かに一度、ここ一番というときに言う、という程度なら、まあそれもあるかな、と思いますが、年に何度もあるようだったら、現実と直面しない生き方そのものを、改めた方がいいと思います。

そして、私自身が、そういう、真実と分かっていることを、あえて言わない、というのが極めて苦手なものですから、ほんと、お願いだから、優しい嘘を言ってほしい人は、相談に来ないで下さいね。他を当たって下さい。

逆に、本当に問題になっていることは何なのか、本当に解決するための糸口は何なのか、そこを真剣に見つけて、解決に向かいたい、という方のお力には、なれると思います。

向き不向きがありますんで。

優しくてもね、嘘は苦手です。私はね。

では。

いま、なぜ、美なのか〜内側から輝く秘訣(第5回目公開)

こんにちは。

心のコンサルタント|恋愛セラピスト あづまです。

何歳からでも美しくなれる! 目覚めよ!内なる輝き講座
開講記念、無料動画講座。
期間限定なので(講座終了後、動画公開も終了)
早めに見てね♪

(現在、パート1からパート4まで公開)

第1回目は、なぜ今「美」なのか〜内なる闘いを終わらせる までをテーマに語っています。

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フォトエッセイ集:成立:ご支援ありがとうございます。

azuma-face200あづまです。こんにちは。

昨日、珠帆美汐フォトエッセイ集「Sleeping Eros」制作のクラウドファンディングプロジェクトが、めでたく成立、となりました。(プロジェクトのページはこちら

ここまでのご支援、まずは感謝申し上げます。

ここから、つながり写真を集めて編集したりと、まだまだ本編も制作過程にありますので、色々やることはあるのですが、ともあれ、ひとつの仕事として成立したので、嬉しく思っています。

少し、今の時点での思いを書いておこうと思います。

まず、ほっとした、というのはあります。
それから、理解して支援してくださる方がいて、よかったという想い。

でも、誤解を怖れずに正直に言うと、自分の中でも「よくこんなものが成立したな」という想いも、まだまだあるんです。

「こんなもの」というのは、こんな価値のないもの、という意味では、もちろんありません。

企画段階から、訴えたい思いは明確でしたし、いや、企画前から、私と珠帆美汐さんが、わりとずっと、共通して持っていた人生のテーマ、世に訴えたい想い、みたいなところから始まっていますから、企画のための打ち合わせが始まる前から、ある意味、理念・理想は明確でした。

手段が、写真集(フォトエッセイ集)というところは、直感を開いてアイデア出しをして、そこにたどりついたものの、正直自分たちにやりきれるかどうか、確信はありませんでした。

やれるだけやろう、ということで、事前にかなり撮影方法や光の当て方などの検討をし、本気で写真撮影に臨みました。その結果、自分でも思った以上にきれいな写真がバンバン撮れて、「あれ、意外とやるじゃないの自分」と思ったのは事実です。

そして、珠帆美汐さんに文章を書いてもらったら、これ、ご存知の方は当然と思われるでしょうが、やはりさすがの名文で、迫力のある言葉たちになっていました。

このあたりまで来たときに、出来上がる物のクオリティーについては、何とかなるだろうと思い始めました。

でも。

ふつう、写真集と言えば、グラビアアイドルの水着写真集とか、ヌード写真集とか、そういうのが商業的には大きなかさを占めているものです。

心理的なテーマを扱ったフォトエッセイ集など、あまり、前例がないですし、手本もありません。
どれだけ「ちゃんと出来ているはずだ」と自分に言い聞かせても、「伝わるのか?」「理解されるのか?」という疑問は、ずーーーーーーっと消えませんでした。

いや、プロジェクトが成立した今でも、その感覚が、まだあります。

 

しばらく、この感覚とは、じっくりお付き合いすることになりそうです。

 

ただ、支援してくださった皆さんを、疑っているわけではないので、それだけはお伝えしておきます。これまでも、私自身よりも先に、私の価値に気がついてくださった方に導かれて進んできた経験が、たくさんあります。

今回のことも、そういう話かもしれない、と思いながら、
でも、完全に消化し切れていない自分もいる、というのが、正直なところなのです。

 

まずは、成立までのご支援を頂きましたので、ここからは、完成まで、仕事の中身に没頭して、本気でいい物を作り上げたいと思います。

ありがとうございました。
そして、
完成まで見守っていてください。
よろしくお願いいたします。

怖れを乗りこえ、自分の輝きを認めることー珠帆美汐さん写真集。

あづまです。
先日から何回か書いていますが、いま写真集の制作をしています。

自分が、醜いと思っていた。
そこから、
自分を開いて、勇気を出して、美しいと認める。
積極的に、自分のエネルギーを解放する。

そのことで、現在は、若い頃よりも「美しい」「妖艶だ」「きれいだ」と言われるようになった珠帆美汐さん(実際、そうだと思います)。

face_for_readyfor
表紙に採用予定の1カットです。

そんな生き方を、メッセージとして伝えるフォトエッセイ集を制作し、
いままだ、眠れるエネルギーを、起こしていない方に、
「私も目覚めよう」「私も自分のエネルギーを使おう」と思ってもらいたい。

自分の本当の素晴らしさを認めて、前に進んでほしい。
そう思って、この、写真集を作り、世に訴えようと考えました。

こんなヘンな格好をして、写真を撮ったりしています。

makingatgarden

でも、撮ってみると、なかなかいい写真撮るんですよ。私。

introduction

↑これは、1ページ目の候補です。言葉はいま練っているところですので、差し替わる可能性がありますが・・・

もしも、興味を持ってくださったら、
クラウドファンディングのREADYFOR? のページにいらっしゃってください。

ではまた!